実務家弁護士の法解釈のギモン

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契約を破る自由?(8)

2011-02-03 09:43:24 | その他の法律
 二重譲渡の現象を契約を破る自由で説明するかどうかは,単なる説明の違いにとどまらない可能性がある。売主が第一譲受人に対し目的物を引き渡そうとせず,第三者に売却しようとしている場合に,買主からの処分禁止の仮処分を認めるべきかどうかにかかわる。
 契約を破る自由を積極評価する立場からは,自由な二重譲渡を確保させるために,背信的悪意者に対し二重譲渡されることを防ぐような例外的な場合以外,買主からの処分禁止の仮処分はなるべく認めるべきではないという結論になりそうである。しかし,契約を破る自由を認めない立場からは,普通の意味で保全の必要性がありさえすれば,仮処分を認めてよいはずで,むしろ,売主が第三者に二重譲渡しようとしている場合は,保全の必要性が認められる一つの典型事例だと思われるのだが……。

 ただし,二重譲渡におけるパレート効率性は,裏返しの側面から考慮することができるかもしれない。どういうことかというと,第二譲渡の譲渡金額が,第一譲渡より低いような場合である。この場合は,売主自身自らがあえて第一譲渡より損をする契約をしているのであり,また,第二譲受人が第一譲渡の事実を知っていたとすれば,それにもかかわらず第一譲渡の金額より低い金額でしか購入しないというのは,第一譲受人より第二譲受人の方が当該商品を有効活用するという可能性が低いと考えざるを得ないからである。
 このように,第二譲渡の方がその代金が低い場合に第二譲渡を優先させると,売主自らの状態も悪化するし,第一譲受人の状態も悪化する可能性が高い。社会的損失を被るのである。そのため,第二譲渡の方がパレート効率性を満たす可能性はまずもってあり得ず,経済合理性に疑わしいのは確かである。
 したがって,第二譲渡の譲渡代金が第一譲渡の譲渡代金よりも低いような場合は,背信的悪意者であることが疑われる強い事情ということはできるかもしれない。
 このような考え方でパレート効率性を考慮することは,十分にあり得ることかもしれない。

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