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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

イカタコウイルス事件

2011-07-20 11:34:21 | 時事
 時事問題について一言。

 イカタコウイルスを作成し、パソコンのハードディスク(HD)に感染させた事件に関し、今日、懲役2年6月の実刑判決が言い渡されたらしい。
 器物損壊罪を適用したもので、公訴事実はHDの損壊と構成していたらしい。

 コンピュータウイルスを作成してパソコンに感染させる行為が当罰的なことはよくわかるが、決してHDの効用は害されていない。何となれば、HDそのものの効用とは、コンピュータプログラムを含めた電子データの保存や書換をすることであり、HDに保存されたデータが消去されたとしても、HDの効用そのものは何も影響を受けていないからである。
 私には、許されない刑罰法規の類推解釈をしているようにしか思えない。

 私も、あらゆる場面で電子データの消去が一切器物損壊罪の適用があり得ないとは考えていない。たとえば、ハイブリッド車はエンジンとバッテリーとの相互関係等をコンピュータ制御しているようで、トヨタ自動車のアメリカでの急加速問題はこのコンピュータのバグ等のせいではないかと疑われていたこと、最近その疑いが晴れたて安全な車であることが証明されたことは、記憶に新しいところであろう。
 もしこのハイブリッド車のコンピュータプログラムを消去した場合、その車の制御ができなくなり車の効用を害する結果になるので器物損壊罪が成立するといってよいと思う。

 では、ハイブリッド車の事案とイカタコウイルス事件とは何が違うか。それはユーザーによる任意のデータの書き換えが予定されているかどうかといえる。
 ハイブリッド車のコンピュータプログラムは、ユーザーによる書き換えは想定されていない。むしろ不用意な書き換えがされないようにすることこそが重要なはずで、ハード機器と一体となって機能しているといってよい。
 これに対し、パソコンのHDの場合、ユーザーによる任意のデータの書き換えが予定されており、HDの役割は、その任意の書き換えが可能なようにしておくことであり、これがまさにHDの効用なのである。そうだとすれば、イカタコウイルス事件はHDに対する器物損壊罪は成立しないとしか思えない。

 今後は、新設されたウイルス作成罪で処理されるのであろう。しかし、日本の刑事司法は立法の不備を無理な解釈で救いすぎである。

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