実務家弁護士の法解釈のギモン

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詐害行為取消権の相対効?(4)

2009-06-26 11:11:56 | 債権総論
つづき

 絶対効に対しては,取消の範囲が過分になるという批判があったかと思う。例えば,債務者所有の1000万円の不動産を受益者に詐害行為として譲渡した場合に,債務者に対して600万円の債権を有する債権者が詐害行為取消権を行使したような場合が想定されると思う。この場合に,不動産の価格と債権の額との差額である400万円分については,何らかの形で受益者に戻せるような法律構成として,相対効が説かれるのであり,相対効を採用するのは,ある意味ではこの点が最も重要な効果の一つといえよう。
 以上のような相対効の考え方は,なるべく詐害行為取消権の効果をその目的の範囲内で最小限にし,債務者の処分意思や受益者の利益を重視する点において,一面では十分に理解しうるところではある。
 しかしである。純粋に理論的に考えると,まず第1として,詐害行為取消権行使の効果は,他の全ての債権者にも及ぶ(民法425条・ちなみに,この民法425条は,取消の効果を取消権者と受益者・転得者との間の相対的効力しかないとする説からは,どのように説明するのであろうか。少なくとも,他の全ての債権者との関係では,絶対的に構成しない限り,民法425条を説明できないはずである。)。従って,余りの400万円分は,一次的には他の債権者の弁済に充てられるべきものである。しかも,債務者が無資力だからこそ,詐害行為として取り消されることを考慮すれば,他にも債権者がいる場面というのは,比較的事例としても多いことが予想される。
 次に,民法論だけを考えれば,相対効により,差額の400万円を受益者に戻すという考え方が仮に可能だとしても,民事執行法上このことを実現することは不可能といわざるを得ない。なぜなら,詐害行為として取り消した結果,受益者や転得者に逸失した財産は,債務者の名義に戻り,その債務者名義の財産に対して強制執行を行うことになるため,執行手続き上,受益者や転得者を執行当事者とすることはできず,仮に配当等の手続で余りがあったとしても,それは「債務者」に交付することになっている(民事執行法84条2項)からである。
 たとえ執行手続きが以上のとおりだとしても,受益者・転得者から債務者に対して金400万円分の不当利得返還請求権を行使する余地を残しておくためにも相対効としておいた方がよいという考えも当然あるとは思う。しかし,現金というのは補足しにくいものであり,執行手続き上,「債務者」に余りが交付された後,その現金を捕まえて強制執行するというのは,なかなか難しい。そのため,たとえ不当利得返還請求権を権利として認めたとしても,どれだけ実効性があるかは問題で,債務者に剰余金が交付される前に,その債務者の剰余金交付請求権を差押える等の手続きを取らないと,結局,不当利得返還請求権も画餅となってしまうと思う。
 受益者・転得者が剰余金交付請求権を差押さえる余地があることも考慮すれば,相対効と解釈することが,実効性の面でも全く無意味とは言わない。しかし,剰余金交付請求権を差押さえるまでの手続面も考慮すると,その期待度は,かなり小さいことが予想される。そうだとすると,相対効と解釈することによるその効果の実効性と,絶対効と解釈することによる実務的なわかりやすさ(及び担保責任の適用可能性)とを比較すると,私は絶対効を支持したい。

 続きは,立法論について。

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