実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

ストックオプションの付与と有利発行(3)

2009-08-09 18:44:29 | 会社法
 さて、ストックオプションとして新株予約権を発行する場合に問題なのは、通常、譲渡制限をかけて発行する場合が多いということである。私の手元に送られてきた株主総会招集通知に議案として記載されていたストックオプション無償付与に関する議案でも、譲渡制限のかかった新株予約権(いわゆる、譲渡制限新株予約権)の発行に関する議案であった。この議案も、無償付与であるために念のため有利発行となる疑念を避けるために、株主総会の特別決議にかけたのであろう。
 たしかに、オプション価格理論の存在を考えると、通常の場合新株予約権の無償付与は、有利発行になる場合が多いであろう。しかし、それはオプションそのものに客観的な価値があるためであるが、その価値を現金化する方法は、他人に譲渡することによって実現するのみである。つまり、新株予約権は、権利行使をして一定の払込価格を払い込んで株式を取得し、直後その株式を売却して現金化するよりも、他人に譲渡する方が高く売れるのである。上記の事例でいえば、500円を払い込んで500円の価値のある株式一株を取得してその株式を500円で市場で売却するよりも(儲けはゼロである)、新株予約権そのものを市場で売れば、ゼロ円以上で売れる。仮に、新株予約権発行後、株価が800円まで値上がった場合、その段階で新株予約権を行使すれば、儲けは一株当たり300円が見込まれるが、新株予約権そのものを売れば、300円以上で売れるのである。その理由は、まだ株価が値上がりするかもしれず、その分のリターンの可能性を上乗せして売れるからであり、別の言い方をすれば、新株予約権そのものに客観的的価値があり、その分のプレミアムを上乗せして売れるからである。
 ところが、譲渡制限新株予約権の場合、自由に売ることができない。もちろん、会社の承諾があれば売ることは可能であるが、こと、ストックオプションとしての新株予約権の場合、役員や従業員自らが権利行使をして利益を上げることのみを想定してると思われるので、おそらくストックオプションとして発行した新株予約権の譲渡を、会社が認めることはないものと思われる。そうだとすると、いくらオプション価格理論だと言い、新株予約権そのものに客観的価値があると言ってみても、新株予約権そのものの客観的価値を現金化することができないことになる。

 さらにつづく。

コメントを投稿