みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0071「瓢箪から駒?」

2017-09-14 19:37:11 | ブログ短編

「遅(おそ)かったじゃない。何やってたのよ」芳恵(よしえ)は玄関(げんかん)を見回(みまわ)している健太郎(けんたろう)にささやいた。
「お前の家、すごいなぁ。お嬢様(じょうさま)だとは聞いてたけど、こんな豪邸(ごうてい)に住んでたのかよ」
「そんなこといいから、早くあがって」
「いや。俺(おれ)は、これを返(かえ)しに来ただけだから。でも、何でネクタイ着用(ちゃくよう)なんだよ。仕事(しごと)じゃないんだから、こんな格好(かっこう)――」
「あのね、これから何があっても、私にあわせて。余計(よけい)なことはしゃべらないでよ」
 芳恵は健太郎に質問(しつもん)させる時間(じかん)を与(あた)えなかった。有無(うむ)を言わせず、健太郎を家の中に引っぱっりあげた。奥(おく)の部屋(へや)に通されると、そこには芳恵の父親がいかめしい顔で座(すわ)っていた。
「お父様。こちらが、岡部(おかべ)健太郎さんです」
 健太郎はいつもと違(ちが)う芳恵の振(ふ)る舞(まい)いに驚(おどろ)いた。ただ唖然(あぜん)とするばかり。
「こいつか」父親は健太郎の顔を睨(にら)みつけた。「こんな男のどこがいいんだ」
「お父様。健太郎さんは、とてもいい人です。私と結婚(けっこん)の約束(やくそく)をしてくれました」
 健太郎は目をみはって、芳恵の顔を見た。芳恵は目で合図(あいず)を送(おく)る。
「許(ゆる)さん。お前は、わしが決(き)めた相手(あいて)と結婚するんだ。今度(こんど)の見合(みあ)いはな、大切(たいせつ)な…」
「お父さん」突然(とつぜん)、健太郎が口を開(ひら)いた。「僕(ぼく)はまだまだ半人前(はんにんまえ)ですが、芳恵さんのことを誰(だれ)よりも愛しています。必(かなら)ず幸せにしてみせます。結婚を許して下さい!」
<つぶやき>突然のこととはいえ、この先どうなるのでしょう。本当に結婚するのかな?
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0070「失家族」

2017-09-10 19:33:56 | ブログ短編

 西暦(せいれき)三千八年。千年近く前の火山噴火(かざんふんか)で埋(う)もれてしまった町が発見(はっけん)された。何年もかけて発掘調査(はっくつちょうさ)が行われ、数々(かずかず)の遺物(いぶつ)が掘(ほ)り出された。そして、今も発掘作業(さぎょう)は続いている。
「教授(きょうじゅ)、これを見て下さい」研究員(けんきゅういん)が小さな箱(はこ)を持って駆(か)け込んできた。
「これは」教授は驚(おどろ)きの声をあげた。「よく無傷(むきず)で残(のこ)っていたな。これは奇跡(きせき)だ」
 発掘された箱は頑丈(がんじょう)な金庫(きんこ)に納(おさ)められていたので、当時(とうじ)の姿(すがた)をそのままとどめていた。
「驚かないで下さい。この中にとんでもないものが入っていたんです」
 研究員がそっと箱を開けると、中から数枚の写真(しゃしん)が出てきた。
「おお、千年前の人の姿が写(うつ)っているなんて…。これは、すばらしい発見だよ!」
「でも、教授。この人たちはどういう関係(かんけい)なんでしょう。男と女、それに子供(こども)が三人」
「うーん。これはおそらく、昔(むかし)の文献(ぶんけん)に書かれていた、家族(かぞく)という単位(たんい)じゃないのかな」
「家族? それは、どういう基準(きじゅん)で構成(こうせい)されているんでしょうか?」
「この頃(ころ)は、男と女は夫婦(ふうふ)という不安定(ふあんてい)な結(むす)びつきで暮(く)らしていたんだ。我々(われわれ)の時代(じだい)では無くなってしまった習慣(しゅうかん)だよ。おそらく、この男女から生まれたのがこの子供たちだろう」
「なるほど、今では考えられない暮らしをしていたんですね。だって、我々には親(おや)と呼(よ)ぶような人はいないし、まして子供を普通(ふつう)の人が育(そだ)てるなんて。あり得(え)ませんよ」
「でもね、私はいつも自問(じもん)するんだ。機械(きかい)で人口(じんこう)がコントロールされている我々よりも、この時代の人間の方が、エキサイティングな暮らしをしていたんじゃないかとね」
<つぶやき>核家族(かくかぞく)なんて言うけど、いつまでも家族というのは無くしたくないですね。
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0069「夢の約束」

2017-09-07 19:32:07 | ブログ短編

 綾乃(あやの)は変な夢(ゆめ)をみて目が覚(さ)めた。見知(みし)らぬ男性とキスをする夢。キスと言っても事故(じこ)のようなもので、男性とぶつかって倒(たお)れた拍子(ひょうし)に唇(くちびる)が触(ふ)れただけのこと。でも、その時のどきどき感が目が覚めても残っていた。綾乃はたまに予知夢(よちむ)をみることがあったので、その日は落ち着かない一日になってしまった。人とぶつからないように細心(さいしん)の注意(ちゅうい)を払(はら)い、職場(しょくば)から真っ直(す)ぐに家に帰った。家に着いたときには、ほとほと疲(つか)れ果(は)ててしまった。
 次の朝、綾乃はまた夢をみて目が覚めた。昨日と同じ男性が出てきて、なぜかとても仲良(なかよ)くなっていた。どこかの喫茶店(きっさてん)でお茶(ちゃ)をしながら、次のデートの約束(やくそく)をしていたのだ。綾乃はこれは夢なんだと、何度も自分に言いきかせた。
 ――今日も何ごともなく過ぎていった。人とぶつかることもなかったし、「きっと、あれはただの夢だったのよ」と、ほっと胸(むね)をなで下ろした。
 職場からの帰り道。駅(えき)に着いたとき、ふっと夢でした約束のことを思い出した。
 <駅の壁画前(へきがまえ)。午後六時>。綾乃は足を止めた。駅の壁画前に立っていたのだ。駅にある大時計(おおどけい)を見ると、ちょうど午後六時。「まさか…」綾乃は心の中でつぶやいて、辺りを見まわしてみた。でも、夢に出てきた男性は見当たらなかった。ほっとして歩き出したとき、後ろから肩(かた)を叩(たた)かれた。綾乃が驚(おどろ)いて振(ふ)り返ると、そこにはあの男性が…。
<つぶやき>夢と現実(げんじつ)の境界(きょうかい)が曖昧(あいまい)になったとき、不思議(ふしぎ)なことが起こるかもしれません。
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0068「我が道を行け」

2017-09-04 19:11:34 | ブログ短編

「ねえ、早苗(さなえ)は進路(しんろ)決めたの?」
「進路か~ぁ。何かね、ぴんとこないんだよねぇ」
「なに言ってるの。来年は三年だよ」
「綾(あや)は決めたの?」
「私は大学行って、考古学(こうこがく)を勉強(べんきょう)するんだ。将来(しょうらい)は、すっごいお宝(たから)を掘(ほ)り当てるわよ」
「なんか、綾らしいよね。私なんか、やりたいことなんて…」
「早苗は女優(じょゆう)になるんでしょ。演劇(えんげき)、がんばってるじゃない」
「そんなの、無理(むり)だよ。私には、才能(さいのう)なんてないんだから…」
「最初(さいしょ)からあきらめてどうするのよ。やってみなきゃ分かんないじゃない」
「分かるわよ。私なんて美人(びじん)でもないし、勉強だって苦手(にがて)だし…」
「そんなこと言ってたら何も出来ないわよ。私だって、先のことなんか分かんないけど…。後悔(こうかい)だけはしたくないの。だから、今やれることをやるだけよ」
「綾は、そういうところはしっかりしてるよね。羨(うらや)ましいわ」
「そういうところは、って何よ。まあ、いいわ。ゆっくり考えればいいんじゃない。ほんと、早苗はマイペースなんだから…。でも、そういうところ、私は嫌(きら)いじゃないよ」
「なんか、全然(ぜんぜん)ほめてないよね。もう、意地悪(いじわる)なんだから」
<つぶやき>先のことなんか誰にも分かんないよね。でも、可能性(かのうせい)は無限(むげん)にあるんじゃ…。
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0067「デザインする女たち」

2017-09-01 19:09:44 | ブログ短編

 居酒屋(いざかや)で職場(しょくば)の同僚(どうりょう)たちが、飲みながら日頃(ひごろ)のうさを晴(は)らしていた。
「鈴木(すずき)は最近(さいきん)、小洒落(こじゃれ)てきたよなぁ。そんな格好(かっこう)しなかったのに」
「そうだそうだ。それも、みんなあの奇麗(きれい)な奥(おく)さんが選(えら)んだのか?」
「まあ、そうですけど」鈴木は照(て)れながら、「えっ、そんなに似合(にあ)ってますかね?」
「なわけねえだろぉ」「似合ってねえよ」「そうだそうだ」
 同僚たちはいっせいにケチを付けたが、内心(ないしん)では羨(うらや)ましいと思っていたに違(ちが)いない。なにしろ、美人(びじん)でよく気がついて、それに優(やさ)しいときていてはケチの付けようがない。
「俺(おれ)なんか、小遣(こづか)い減(へ)らされてさ。昼飯(ひるめし)を選ぶにも、大変(たいへん)なんだよ」
「鈴木はいいよな。いつも、愛妻弁当(あいさいべんとう)で」
「でもな、それも今のうちだけだぞ。一年もしてみろ、弁当のおかずはゆうべの残り物になって…。そんでもって、いずれは俺みたいに、手抜(てぬ)きの…」
「いや、うちのやつはそんなことは…」
「甘(あま)いぞ、鈴木! いずれはな、飼(か)い慣(な)らされていく運命(うんめい)なんだよ。俺たちは」
「そうだぞ。その第一歩が、服(ふく)なんだ。そんで、妻(つま)の好(この)みにデザインされていくんだ」
 飲み会は深夜(しんや)まで続くはずもなく、終わりを告(つ)げた。短い時間でも、家族のために戦っている男たちにとって、これはささやかな楽しみなのだ。奪(うば)わないで欲(ほ)しいと叫(さけ)びたい。
<つぶやき>お父さんは、家族のために大変なんです。優しい言葉をかけてあげましょう。
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