彼女はどういうわけか冥府(めいふ)の入口(いりぐち)に迷(まよ)い込んでしまった。周(まわ)りを見渡(みわた)すと、もやが立ち込めて何とも不気味(ぶきみ)な気配(けはい)が漂(ただよ)っている。しかし、彼女はそれほど恐(おそ)れてはいなかった。
彼女が小さな橋(はし)のたもとまで来ると、橋の向こう側(がわ)から誰(だれ)かの足音(あしおと)が聞こえて来た。その音は彼女の方へ近づいて来て、人影(ひとかげ)がはっきりと見えた。それは、彼女の父親(ちちおや)だった。
父親は驚(おどろ)いた顔(かお)をして呟(つぶや)いた。「どうして、こんなところまで…」
「お父さんこそ、何でこんなところにいるのよ。ここは、どこなの?」
「どうやら、お前も道(みち)を決めるときが来たようだな。実(じつ)は、父さんは何百年も続く陰陽師(おんみょうじ)なんだよ。今まで話したことはなかったが、お前もその血筋(ちすじ)を引いているんだ」
「そ、そうなんだ…。へぇ、そんなの今でもあるなんて…信じられない」
「父さんと同じ陰陽師になるか、他の道へ進んでも構(かま)わない。自分で決めなさい」
「ほんとに決めてもいいの?――じゃあ、陰陽師になる。何か、カッコいいじゃん」
彼女はすごくあっさりと決めてしまった。父親はちょっと不安(ふあん)になったが、
「なら、今から修業(しゅぎょう)を始(はじ)めよう。当分(とうぶん)は遊(あそ)ぶ時間はないから覚悟(かくご)しておけ」
「えっ、そんな…。修業をしなきゃダメなの?」
「当たり前だ。血筋だけでは陰陽師にはなれないぞ。いくつもの掟(おきて)を守り、学(まな)ばなければならないことがたくさんあるんだ」
「まさか、恋愛禁止(れんあいきんし)の掟とかはないよね? もしあるんだったら――」
<つぶやき>時代(じだい)とともに、いろんなことが変化(へんか)していく。でも、大切(たいせつ)なものは同じです。
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