橋(はし)の欄干(らんかん)に手をついて川面(かわも)を見つめる男。何となく淋(さび)しげな表情(ひょうじょう)を浮(う)かべていた。そんな男のそばに、ゆっくりと近づく女。女は男に寄(よ)り添(そ)うように並(なら)び、優(やさ)しく声をかけた。
「何してるの? こんなとこで」
男は振(ふ)り向きもせず呟(つぶや)いた。「別に…。ちょっと、な…」
女は同じように川面を見つめながら、「彼女には会えたの?」
「いや…。今さら俺(おれ)が行ったって仕方(しかた)ないだろ。それに、彼女の夢(ゆめ)を壊(こわ)したくないし」
「強がり言っちゃって。好きだったんでしょ。さっさと告白(こくはく)すればよかったのよ」
「いいんだよ。――今頃(いまごろ)は、空の上か…。もう俺には何もできないんだなぁ」
「もう、あんたなんか、さっさと振られちゃえばよかったのよ。彼女、友達の一人としか思ってなかったんだから」
「分かってるよ、そんなこと。でもな…。何かなぁ――」
「まったく意気地(いくじ)がないんだから。そんなんだからね……。もう、いいわ」
「何だよ。なに怒(おこ)ってんだ? お前には関係(かんけい)ないだろ」
「別に怒ってなんか。もう、彼女のことなんか忘(わす)れてさ、次の恋人(こいびと)でも探したら? 案外(あんがい)、すぐ近くにいるかもしれないじゃない。あんたのこと…、思ってる人が…」
<つぶやき>好きなのに好きと言えない。そんな思いをしている人は、沢山(たくさん)いるのかも…。
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