孫崎氏のフォロワーとして彼の著書も何冊か読んでます。尖閣問題もなぜこの時期に突然出てきて騒がれているのか妙にうさん臭く感じていたので興味があり、小説という形態をとるこの本を手に取ってみました。
『アメリカ一辺倒と私益優先の外務官僚の体質を暴く! 日本がテロの標的となった今、外務省の路線が国民の命を脅かす!!』という帯の煽りの通り、暴露本的様相を呈している本です。小説という形を取っていますが、かなり事実に近いことを書いているという意味では、岩杉烈の「原発ホワイトアウト」などに通ずるものがあります。
色々とすっきりと納得のいく観点、すなわち『戦後史の正体』ですでにおなじみの「従米」か「自主路線」かの対立軸があり、尖閣問題再浮上は「従米」で、日米軍事同盟推進のための駒に過ぎないという位置づけで説明されており、理解しやすかったです。つまり、1972年の日中国交正常化の際に、周恩来・田中角栄間で合意された、及び1978年日中平和友好条約締結の際に園田直外相と小平副首相間でこの〈棚上げ〉が再度確認されたことについて、日本側の態度が急変し、〈棚上げ合意〉が否定されるのですが、それが日米軍事同盟推進派によるもので、日米の密接な軍事的結びつきの重要性を説くためには日中に緊張関係があった方がいい、ということです。
孫崎氏自身も作中に登場し、割と重要な役割を果たしているところなどは笑えますが、その辺は「ご愛敬」ということで許せる範囲だと思います。
ただ、ドキュメンタリーではなく、小説という形の良し悪しには議論の余地があると思います。外務省の異端児、左遷を怖れず自分の意見を述べる主人公西京寺大介というキャラは魅力的で、一種のカタルシスを読者に与えるのですが、純粋に小説としてみた場合、ストーリー展開は今一だと思うし、結末も中途半端な終わり方のように感じます。
次は孫崎氏の小説ではない方の本、「日本の国境問題―尖閣・竹島・北方領土」を読んで勉強したいと思います。