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ドイツの脱原発、核廃棄物の処理費用は結局納税者持ち~原子力委員会の提案

2016年04月27日 | 社会

ドイツ政府が2015年10月に核廃棄物処理のための資金調達方法を審議するために立ち上げた俗にいう『原子力委員会(Atomkommission)』は正式には『脱原子力資金調達審査のための委員会(Kommission zur Überprüfung der Finanzierung des Kernenergieausstiegs (KFK)』といい、元ハンブルク市長オレ・フォン・ボイスト(CDU)、元環境大臣ユルゲン・トリッティーン(緑の党)、元ブランデンブルク州首相マティアス・プラツェック(SPD)の三人を代表とし、その他16名の委員で構成されています。委員たちは様々な分野から集められており、ドイツ社会の利害や考え方をおおよそ網羅していると言われています。その委員会が本日、2016年4月27日、全会一致で一つの資金調達方法を採択しました。その提案というのは、ドイツ4大電力コンツェルンであるエーオン、ヴァッテンファル、RWE、EnBWがこれまでに積み立ててきた172億ユーロプラスリスクプレミアム上乗せ分61.4億ユーロ、合計233.4億ユーロを国の基金に振り込むというものです。それを超える核廃棄物の中間貯蔵及び最終処理場建設・稼働費用は全て納税者の負担となり、電気事業者は233億ユーロ以上のリスクは負わないこととなります。そのため、今回の結論は【電力会社の勝利】と見る向きも少なくありません。

電力会社は原発で過去30年以上にわたり数千億ユーロの利益を上げてきたため、たったの233億ユーロ余りでリスクの高い事業の責任から逃れられることに対して激しい批判の声が上がっています。核廃棄物の処理も自己負担で行うべきだという意見です。昨年9月にガブリエル環境相(SPD)が計画していた「永久責任法」がこの趣旨に沿ったものであったはずですが、その法案は10月に閣議決定されて以降進展がありません。このまま原子力委員会の提案が連邦議会で可決すれば、「永久責任法」は永遠に成立しないことになります。せっかく称賛に値するアイデアだと思っていたものが実現しないとなると非常に残念です。まだ決まったわけではありませんが、原子力委員会の意見はかなりの重要度を持っているらしいので、永久責任法の可能性はだいぶ低いと見てよいかもしれません。

環境保護団体は4大コンツェルンが基金に払うことになる金額では全く足りないと見ています。特に最終処理に関しては場所の選定もまだ行われておらず、技術的にも未知の部分が多いため、コストの膨張リスクが非常に高いと見られています。グリーンピースの見積もりでは最低440億ユーロ必要とされています。その場合、最低でも206.6億ユーロは納税者が負担することになるわけです。冗談じゃない、と納税者が思うのも無理ないことですよね。別に見積もりでは最低475億ユーロ必要となっています。因みにイギリス・セラフィールド廃炉コストは、BBCニュースによれば、廃炉開始時の50億ポンドから現在530億ポンドに10倍以上膨張しています。

原発で大儲けしてきた電力コンツェルンも、再生可能エネルギーへの転換期を逃してしまい、現在かなりの苦境に追い込まれています。10年、20年後に会社が存続していない可能性もあります。従って、単なる企業の内部留保として存在している脱原発のための積立金を今のうちに国の基金に吸収してしまうことはそれなりに理にかなっています。倒産してしまえば内部留保も何もありませんから。

委員会の示した金額233.4億ユーロは、電力会社側の提示額をわずか5億ユーロ上回っているだけなのですが、電力会社側は既に委員会提案を拒否する姿勢を示しています。廃炉費用や核廃棄物の運搬費用は当然事業者側の責任だが、廃棄物処理は国の行政責任だ、というのが彼らの言い分です。また、委員会の提示額が既に電力コンツェルン4社の資金力の限界を超えている、とも主張しています。これは真偽のほどは定かではありませんが。

委員会の報告書はひとまず政府預かりとなり、審査・審議後必要な措置を取る、とのことです。どう決着がつくのか注目すべきイシューです。

参照記事:

ターゲスシャウ、2016.04.27、「核廃棄物中間貯蔵及び最終処理費用:コンツェルンは233億ユーロを支払うべし
シュピーゲル、2016.04.27、「脱原発費用:原子力業界最後の勝利」 
ハフィングトンポスト・ドイツ、2016.04.27、「原発妥協への批判:費用は合意された総額の何倍にもなるだろう」 
ドイツ連邦経済エネルギー省プレスリリース、2016.04.27、「脱原子力資金調達審査のための委員会は推奨案を連邦政府に手渡した」 


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