廃炉と核廃棄物処理コスト
9月26日のブログ記事で言及した「永久責任法」、正式名称「原子力エネルギー部門における廃炉及び廃棄物処理コスト事後責任に関する法案(Gesetzentwurf zur Nachhaftung für Rückbau- und Entsorgungskosten im Kernenergiebereich)」が本日10月14日に閣議決定されました。概ねジグマー・ガブリエル経済・エネルギー相の計画通り議決されたようです。
この法律は、コンツェルンが組織改編、例えば原子力部門をアウトソースするなどで今後発生する数約億ユーロの脱原発コストから逃れることを不可能にします。また、子会社設立などで引当金が目減りするようなことも阻止します。
これにより≪エー・オン≫、≪RWE≫、≪EnBW≫、≪ファッテンファル≫の4大電力コンツェルンは所属する原発の停止および解体そして核廃棄物の最終処理が終了するまで経済的な責任を果たすことになります。原発事業の売却あるいは倒産の場合も、コンツェルン本体がその全財産をもって責任を負うことになります。また特別規則により、国及び自治体の財政、つまり納税者にとってのリスクを可能な限り小さくする予定です。
政府は同時に「脱原発のための資金調達審査委員会(Kommission zur Überprüfung der Finanzierung des Kernenergieausstiegs (KFK))」の設置を決定しました。委員会は最低でも475億ユーロ(約6兆4777億円)と見積もられる脱原発プロセスを集約的に管理サポートすることになります。委員会は元環境相ユルゲン・トリッティーン、元ブランデンブルク州首相マティアス・プラツェック、元ハンブルク市長オレ・フォン・ボイストらを始めとする19名で構成されるそうです。
連邦経済・エネルギー省の10月14日付のプレスリリースによれば、10月10日に公表された原子力エネルギー部門における引当金審査報告書(いわゆる「ストレステスト」)が脱原発のための資金調達審査委員会の最初の検討資料となるそうです。委員会は2016年1月末までに資金調達方法に関する提案をまとめることを目標としています。
法案原文はこちらからダウンロードできます (PDF: 335 KB) 。
原子力エネルギー部門における引当金審査報告書の欺瞞
10月10日に公表された原子力エネルギー部門における引当金審査報告書は補遺も含めて140ページの文書で、ありていに言えば、4大電力コンツェルン≪エー・オン≫、≪RWE≫、≪EnBW≫、≪ファッテンファル≫が原発廃炉及び核廃棄物最終処理のために積んでいる総額358億ユーロの引当金が十分であるとお墨付きを与えるものです。
もちろん、そのような結論はかなり楽観的なシナリオを前提にしていなければ出ません。例えば資産運用のベース税率が高めに設定されており、現在の超低金利政策が続かないことが前提となっていたり、電力取引市場EPEXで得られる電力販売価格がかなり高めに設定されていたり(このところ記録的な安値になっているにもかかわらず!)。
原発廃炉及び核廃棄物最終処理にかかるコストは最低でも475億ユーロと見積もられていますが、この見積もりも眉唾物です。原発の廃炉・解体コストくらいはそれなりに現実的な見積もりができそうですが、イギリスのセラフィールド核燃料再処理工場群の廃炉コストなどを鑑みると、銅も前以て正確に見積もることは難しそうです。因みにセラフィールド廃炉コストは、BBCニュースによれば、廃炉開始時の50億ポンドから現在530億ポンドに10倍以上膨張しています。
核廃棄物最終処理に関しては、最終処理場がどこにどのような形で建設されるのかすら明らかになっていないので、そのための建設コストの見積もりは空想の産物としか言いようがありません。もちろんフィンランドの最終処理場建設コストは参考になるでしょうが、地層の性質の違いや周辺住民への配慮として必要になる措置など不確定要素がたくさんあります。処理しなければならない核廃棄物の量もフィンランドとは規模が違うので、ドイツでの最終処理場建設は相当高額になりそうです。
最終的に納税者が原子力「平和利用」のツケを払うことになるのは確実な確定事項で、不確定要素はツケはどのくらいになるか、ということくらいでしょう。少なくとも金銭的には。
放射能汚染による健康被害等はまた別の大問題。全く、原子力ほど愚かしい人間の「文明の利器」はないのではないでしょうか?