徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:孫崎享著、『小説外務省2 陰謀渦巻く中東』(現代書館)

2016年04月17日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

このブログもなんだかだんだん書評がメインになってきてしまいました。ブログ開設当初は、FBでは過去記事が見つけづらいので、検索可能な備忘録もかねて自分が調べたりしたことをまとめた記事を書いていこうと思ってただけなのですが、次第に自分が読んだ本の記録も欲しいな、と思うようになりまして、現在に至っております。やはり、読んだ直後はともかく時間が経つとその内容や印象は薄れていきますし、読書量が多いため、他の本との混同も起こります。確認が必要になったとき、読書記録があれば便利です。

それはさておき、孫崎享の『小説外務省』第2弾『陰謀渦巻く中東』について。

『小説外務省』第1弾『尖閣問題の正体』において、尖閣問題には「日中の棚上げ合意」があるという真実を指摘して、イラン大使館に「左遷」された西京寺が今度はイランの核開発合意やISの日本人人質解放に向けて活躍。その中で、アメリカの事情(主に戦争やの思惑とそれに対抗する派閥)、イラン革命後にアメリカに亡命したイラン人たちの事情・心情、イランの事情、トルコの事情、サウジの事情、ロシアの事情などが、主に西京寺の情報収集活動として明らかにされていきます。最近の中東の動きのおさらい、更にその裏側を見ることが可能です。ISの日本人人質解放のために日本政府が何もしなかったのはアメリカやイギリスからそういう圧力がかかったから、ということが暴露されています。
イランの童話や詩なども紹介されており、興味深いです。きっと孫崎氏自身が駐イラン大使時代に学んだことの一部なのでしょう。

カバー装画は、戦前からニューヨークで活躍し、開戦後はアメリカの戦時情報局で対日プロパガンダを引き受け、日本とアメリカのはざまで生きることに苦悩した画家・国吉康雄の「ミスターエース」だそうです。仮面を半分外して観客に挨拶しているようですが、口元はともかく、目が笑っていません。アメリカで生き残るために仮面をかぶらざるを得なかった、そしてそのような努力をしてもアメリカに本当に受け入れられることはなかったという国吉氏本人の自画像らしいです。その苦悩は、イラン革命前にシャーの側近であったゆえに革命後にアメリカに亡命せざるを得なかったイラン人たちの苦悩にも繋がります。ビバリーヒルズに住む亡命イラン人たちはCIAとの繋がりも深く、だからこそ、イランがアメリカの軍産複合体、いわゆる【戦争屋】に敵視されることに苦悩しています。小説にはイラン系アメリカ人でCIAエージェントであるルクサナという女性が登場します。

「陰謀論」や「捏造」とこの作品を一蹴するのは簡単でしょうが、そういう方たちには、まずこのレベルのものを書いてみろ、と言いたいですね。限りなくノンフィクションに近い小説です。

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