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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:2015年度難民入国者数訂正

2016年10月01日 | 社会

(c)dpa

しばらく難民問題についてブログで書くのは止めていましたが、昨日9月30日、ドイツ内相トーマス・ドメジエールが去年の難民として入国した人の数を公式発表したので、そのことについて少し書いておこうと思います。

2016年1月時点では、2015年の難民入国者は110万人とのことでしたが、この度それが下方修正され、89万人と公式発表されました。修正の理由は、難民が大量に(1日あたり数千人から1万3千人)入国し始めたころ、入国者登録が一部無記名・匿名で行われたり、移動の度に各自治体で登録し直され、多重登録があったのが、EASY-System(イージーシステム)という難民登録プログラムの画一化・統合化で解消されたことが挙げられています。

EASYは「Erstverteilung von Asylbegehrenden(庇護権請求者の初期配分)」の略です。

「行政と政治の責任者の多大かつ類まれな努力によって、そして何よりボランティアたちの素晴らしい応援によって私たちはこの挑戦に何とか対処することができた。しかしこの去年の秋の状況が繰り返されてはならないことは、私たちが皆了解している」とドメジエール内相。30

だからこそ、国際的な措置を取って、難民の数を減らすべきだという。

ドメジエール内相は、「今年度は、9月21日現在で、21万人の難民がドイツに入国し、登録された」ということも発表しました。平均1日200人の入国者だそうです。

メルケル首相は去年の9月にオーストリアと共に、ハンガリーに流れ着いた難民たちを受け入れたことについて、何か月も前から批判の矢面に立たされており、つい先日、「一時的にコントロール喪失していた」と間違いを認めました。それが繰り返されてはならないというのは彼女も同意するところです。CSU党首のホルスト・ゼーホーファーは、姉妹政党にもかかわらず、メルケル批判の急先鋒で、未だに憤懣やるかたないという感じで、年間の難民受け入れ数20万人の上限を求めて気勢を上げています。既に来年の連邦議会選挙のための選挙戦が始まっていると見て間違いありません。あわよくば急躍進中のドイツのための選択肢(AfD)の票をCSUに引き付けようとしているのがありありと伺われます。 

 

参照記事:

シュピーゲルオンライン、2016.09.30、「2015年に89万人の難民がドイツへ入国
ZDFホイテ、2016.09.30、「ドイツは2015年度の難民数を訂正


EU難民申請数統計(2015):ハンガリーが人口比最大

ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計


ドイツ銀行危機~政府は緊急救済計画を策定中か?

2016年09月29日 | 社会

政府のドイツ銀行緊急救済計画を報じたのはツァイトで、具体的なソースは言及されていませんが、アメリカ政府が罰金140億ドルを一歩も譲らなければ、ドイツ銀行の財務は危機的状況に陥るとし、その場合は国がドイツ銀行株25%を取得し、部分国営化を実行する計画のようです。

本当のところは分かりません。ドイツ政府及びドイツ銀行が緊急救済計画をはなから否定しているからです。ドイツ政府は過去に何度も「ドイツ銀行救済のために税金を投入することはない」と主張してきました。しかし、ワーストケースシナリオとしてそのような救済計画が策定されていてもおかしくはないと思います。なんにでも「万一に備える」のがドイツです。冷戦時代は常に「第3次世界大戦シナリオ」を策定し、それに応じて準備・訓練などをしてきたのですから、現在、「テロシナリオ」や「金融危機シナリオ」が描かれ、その万一の時のための対策が練られているのはむしろ自明の理ではないかとも思います。ただ、それを公表して無用なパニックを起こさせたり、株式市場を不安にさせて余計に事態を悪化させるのは問題なので、公にはそれを否定する、ということでしょう。

ドイツ銀行総裁のジョン・クライアンも、アメリカ政府から科せられた罰金140億ドルがあったとしても、国の支援なしに困難を乗り切ることができると主張しています。「状況は外から見える印象ほど悪くはない」「去年より財務状況は改善された」とクライアン氏。

罰金140億ドルのインパクトは大きく、今週の初め、ドイツ銀行の株価は6%以上下落し、10.29ユーロとなりました。昨日(9月28日)は少し持ち直して、10.94ユーロでしたが、低迷が続いていることは確か。3年間で67.5%値崩れしました。

もっとも株価は往々にして実経済とは異なる次元で動くので、実際のところは株価から読み取れないわけですが。

ドイツ銀行の第三四半期報告書は10月27日に公表予定。

 

参照記事:
ツァイトオンライン、2016.09.28、「政府はドイツ銀行のための緊急計画を策定中」 
ツァイトオンライン、2016.09.27、「ドイツ銀行: 酷い二日酔い
シュピーゲルオンライン、2016.09.28、「ドイツ銀行危機:政府はドイツ銀行救済計画を否定」 


ドイツ銀行の危機についてー【ドイツ財政危機】ではありません


ドイツ:世論調査(2016年9月23日)~ドイツのための選択肢(AfD)全国的に支持率上昇

2016年09月24日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーターが9月23日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

まずはタイトルにあるように政党支持率から。

連邦議会選挙

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

DU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 33%(-2)
SPD(ドイツ社会民主党)  22% (変化なし)
Linke(左翼政党) 10%(+1)
Grüne(緑の党) 13%(変化なし)
FDP (自由民主党) 5%(-1)
AfD(ドイツのための選択肢) 13%(+2) 
その他 4% (変化なし)

メルケル首相率いるCDUの支持率が2%下がった分、AfDが支持率を伸ばしています。メクレンブルク・フォアポンメルン州、ベルリン州の選挙でかなりの得票率で議会入りしたAfDは、政策的な深みはともかく、得票率ではすでに古くからの「国民政党」とほぼ並んでいます。それに合わせるように、難民への暴力も増えており、経済界からはドイツのイメージがそのせいで悪くなり、経済的なダメージを受けるかもしれないという心配する声が出てきています。CDUの政治家たちの中にはAfDに票を奪われるのを恐れるためか、かなり右翼的な発言をツイッターなどで呟いて物議を醸しています。

 

AfDが連邦議会で発言権を得たとしたら、政治は…?

ずっと良くなる 1%
よくなる 8%
変わらない 13%
悪くなる 29%
ずっと悪くなる 41% 

AfDは支持率を伸ばしていても、それは既成政党への反発を表現しているに過ぎず、AfDに政治能力があるとは誰も思ってないことが、「(すごく)悪くなる」と回答した人が70%も占めている結果によく表れています。AfDの能力がないことが分かっているのに、投票する人たちはまるで反抗期の子どものようです。

 

連立モデルの評価:

CDU/CSU+緑の党

いい 38%
悪い 40% 

CDU/CSU+SPD

いい 37%
悪い 41%

SPD+左翼政党+緑の党

いい 33%
悪い 51% 

 

AfDとの協力は:

全解答者

ない方がいい 55%
あってもいい 41%

支持政党別「ない方がいい」

CDU/CSU 65%
SPD 71%
左翼政党 56%
緑の党 74%
FDP 51%
AfD 6% 

 

政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで)

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.2(+0.2)
  2. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、2.0 (-0.1)
  3. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.7(+0.1)
  4. アンゲラ・メルケル(首相)、1.1(+0.1)
  5. グレゴル・ギジー(左翼政党)、1.0(+0.1)
  6. トーマス・ドメジエール(内相)、0.7(-0.1)
  7. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.5(+0.1)
  8. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.3(-0.1)
  9. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.3(-0.4)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党)、0.2(+0.5)

 

メルケルとゼーホーファーの比較(スケールは+5から-5まで)

全回答者:

メルケル 1.1
ゼーホーファー 0.3

CDU/CSU支持者: 

メルケル 3.6
ゼーホーファー 1.0

AfD支持者:

メルケル -2.8
ゼーホーファー 1.6


CSU党首であるゼーホーファーが自政党支持者より、AfD支持者からの方が高評価を受けているのは注目に値します。彼は、CDUとCSUが姉妹政党であることが疑問に思われるくらい執拗にメルケル首相に嚙みついてます。決して建設的な批判とは思えないので、党内ではむしろ「調和を乱すもの」とちょっと白い目で見られているようですね。私はメルケル首相を無為無策の無能な政治家だと思ってますが、ゼーホーファーにキャンキャン噛みつかれても、おっとりと構えて「話し合いましょう」と態度を崩さない点では結構感心しています。

 

 首相候補はどちらがいい?

アンゲラ・メルケル: 全体 ― 54%、CDU/CSU支持者 ― 86%

ジグマー・ガブリエル:全体 ―41%、SPD支持者 ― 57%

ジグマー・ガブリエルは現経済・エネルギー相ですが、何かと反発の多いカナダとの自由貿易協定(CETA)を年内に締結する意向を公言しているので、CETAやTTIP(EU・アメリカ自由貿易協定)の反対者が多いSPD支持者から首相候補として支持されていないようです。

 

首相としてどちらが好ましい?


メルケル 56%
ガブリエル 30%
分からない 14% 

 

どちらが首相として好ましい?(支持政党別)

CDU/CSU支持者

メルケル 92%
ガブリエル 5%

SPD支持者

メルケル 36%
ガブリエル 57% 

メルケル首相はSPD支持者にも結構好かれているようです。対立候補のガブリエルが人気なさすぎるのかも知れませんが。

 

難民政策

バルカンルートが今年の3月に閉鎖されて、ドイツに来る難民は去年に比べてガクッと減りましたが、それでも難民ホットスポットのあるギリシャやイタリアの負担を軽くするために難民を一定数受け入れなければならないことは多くの人が承知しています。現在、年間20万人の上限を設けることが議論されています。どちらかと言えば賛成の人が多いようです。

年間20万人の上限には?

賛成 54%
反対 42%
分からない 4% 

 

EU難民政策における論争で、どちらが勝つ?

メルケル 54%
ゼーホーファー 38%
分からない 8% 


今日(9月24日)ウイーンで開催された難民サミットでは、不法入国ルートとしてのバルカンルートの閉鎖状態を今後も保持することが決議されました。同時にシェンゲン協定国外境界の強化及び不法入国斡旋業者撲滅のため、国境警備機関であるFrontexの増員も決議されました。しかし、EU内での難民配分に関しては合意に至らず、難民のための合法ルートについは議題にすらなっていないため、今後もたくさんの人たちが地中海の藻屑となってしまうことでしょう。

バルカンルートも完全には閉鎖されておらず、今でも少なくなったとはいえ、難民が流入してきていますが、セルビアから先には進めないようです。セルビアの国境警備強化は功を為さず、不法入国・滞在者が増える一方なので、サミットでEUの協力の必要性を訴えていました。

参照記事:ツァイトオンライン、2016.09.24、「難民サミット:難民は現在セルビアで難破

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.242人に対して2016年9月20日から22日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年10月16日ZDFで発表されます。


ドイツ・ベルリン州市議会選挙~東西差未だ歴然

2016年09月19日 | 社会

2016年9月18日はベルリン州の市議会選挙でした。ベルリン州はベルリン市一市のみからなる州です。そのため市議会イコール州議会となります。

選挙結果(全体)

さて、以下は選挙結果です。国民政党と呼ばれるSPD(社会民主党)とCDU(キリスト教民主同盟)の得票率が他政党とほとんど変わらないくらいまで下がっているのが特徴的です。CDUの得票率17.6%は史上最低レベルです。

AfD(ドイツのための選択肢)は今年州議会選挙のあった他州と比べると、得票率はそれほど伸びませんでした。投票率は66.8%で、前回(2011年)より改善されています。

SPD(ドイツ社会民主党)  21.6%
CDU(キリスト教民主同盟) 17.6%
Grüne(緑の党) 15.2%
Linke(左翼政党) 15.6%
海賊党 1.7%
FDP (ドイツ自由民主党) 6.7%
AfD(ドイツのための選択肢) 14.2%
その他 7.4% 


2011年の得票率との比較:

 
ベルリン市議会政党別議席獲得数(全160議席):
 

東ベルリンの結果(投票率66.6%、前回比+8.8%ポイント)
 
SPD(ドイツ社会民主党)  19.3%
CDU(キリスト教民主同盟) 13.1%
Grüne(緑の党) 12.6%
Linke(左翼政党) 23.4%
海賊党 1.9%
FDP (ドイツ自由民主党) 4.0%
AfD(ドイツのための選択肢) 17%
その他 8.6% 
 
 
 
政党ごとの得票率を東西ベルンに分けてみると、ベルリンは壁崩壊後27年経っても、未だに分断された都市であることが浮き彫りにされます。西ベルリンではSPDが最大政党であるのに対して、東ベルリンでは旧東独政権党の後継政党である左翼政党が最大政党となっています。また、AfDの得票率も東の方が約5%ポイント高くなってします。

西ベルリンの結果(投票率67.1%、前回比+5.1%ポイント)

SPD(ドイツ社会民主党)  23.2%
CDU(キリスト教民主同盟) 20.9%
Grüne(緑の党) 17.1%
Linke(左翼政党) 10.1%
海賊党 1.6%
FDP (ドイツ自由民主党) 8.6%
AfD(ドイツのための選択肢) 12.1%
その他 6.4% 

 
 
 
希望する連立政権:
SPD/左翼政党/緑の党 44%
SPD/CDU/緑の党 32%
SPD/CDU/FDP 28%
SPD/緑の党/FDP 21%
 
 
 
AfD(ドイツのための選択肢)投票者分析
 
AfD投票者を職業別にみると、労働者が25%で、最大グループとなっています。次に公務員16%、会社員12%、自営業12%。
 
年齢別にみると、45-59歳及び60歳以上のグループが多くなっています。
 
AfD投票者には高学歴者の割合が少なくなっています。
基幹学校卒 18%
中等教育終了(職業学校卒) 21%
大学入学資格 11%
大学卒 7% 
 
AfD投票者の2011年の投票先を見ると、半数近くの45%がその他または無投票だったことが分かります。
SPD(ドイツ社会民主党)  12%
CDU(キリスト教民主同盟) 22%
Grüne(緑の党) 2%
Linke(左翼政党) 7%
海賊党 10%
FDP (ドイツ自由民主党) 2%
その他または無投票 45%
 
 
投票先の決定により重要だったのは、ベルリン州政治39%に対して国政政治54%となっており、AfD投票者にとっては地元の政治より国政政治の方が重要だったことが浮き彫りになっています。
全投票者では、ベルリン州政治の方が重要と回答した人が63%で、国政が投票先決定に影響したという人は32%にとどまりました。各州の代表が連邦参議院において、内容によっては国政に参加するので、国政を投票先決定の基準にするのは必ずしも間違ってはいないのですが、AfD投票者たちの場合、ただ単にメルケル首相の難民政策への不満を表すためというのが主な動機になっているようです。
 
難民問題は投票先決定に重要?:
全体
はい 57%
いいえ 42%
 
AfD支持者
はい 98%
いいえ 2% 
 
98%というのは本当に圧倒的な数字です。AfD投票者たちは今回のベルリン市議会選挙で、難民問題という市議会では殆ど影響を及ぼすことができないことで投票先を選んだことになります。地方政治は関心が薄かったか、悪く言えば、視野狭窄が起こっていたと言えます。
 
重要な問題(全体)
難民/統合 44%
住宅市場/家賃 30%
学校/教育 23%
交通 14%
犯罪 13% 
 
 
 
東西ベルリンでは共通点と相違点のどちらが多い?
 
共通点 54%
相違点 42% 
 
今回初めて、「共通点の方が多い」という回答が「相違点の方が多い」という回答を上回りました。上の投票結果で見るとまだまだ東西の違いは顕著ですが、それでも「共通点の方が多い」と言えるだけ、東西ベルリンの風通しが良くなっているのかも知れません。
 
参照記事:ZDFホイテ、2016.09.19、「ベルリン選挙の分析

ドイツ:フレックス年金法案、本日(2016年9月14日)閣議決定

2016年09月14日 | 社会

ドイツの年金制度は、当然と言えば当然ですが、日本の制度とは大分違います。年金保険への加入は公務員を除く全労働者を対象に強制的に加入、となります。

月450ユーロまでのいわゆる「ミニジョブ」であっても、年金保険は強制加入です。ただし、保険料はこの場合、雇用主と労働者の折半ではなく、雇用主は給料の15%、労働者は3.5%を保険料として払うことになります。家事手伝いなどの雇用主が個人の過程である場合は、保険料の負担割合が逆転し、雇用主5%、被雇用者13.5%の負担となります。

ミニジョブ以上の月給がある労働の場合は、保険料負担は雇用主・被雇用者の折半で、給料の9.35%ずつです。これは派遣労働の場合でも同様に適用されます。派遣の場合の「雇用主」はもちろん「派遣元」の会社です。

失業した場合は、失業手当を受給している間、労働局が年金保険料を払います。本人が失業する前に保険に加入していたことが前提となります。

俗に「ハルツ4」と呼ばれる第2種失業手当(就労可能な人のための生活保護)を受給している場合は、労働局が年金保険料を払うことはなくなりました。この為、「ハルツ4」受給期間は、年金保険的に完全な空白期間となります。

自営業者の場合は、国の年金保険機構への加入は任意です。

この強制保険としての年金保険の他に、共済組合の運営する年金保険や、企業が独自に社員のための年金を積み立てる企業年金もあります。その他、国の助成を受けた民間の年金保険商品(リースター年金)などもあります。

基本的に、政府や国会で議論されるのはもちろん国の年金保険機構のことです。

年金受給開始年齢は、1946年までに生まれた人は65歳でしたが、1947年以降生まれの人の受給開始年齢は段階的に上昇し、1964年生まれで67歳となります。障害者の場合は1964年生まれで、65歳が受給開始年齢です。この法定年受給開始年齢よりも早くリタイアして、年金受給を開始する場合、1か月早めるごとに0.5%受給額が減額されます。ただし2014年7月1日から、長期保険加入者(45年間保険料の支払いをした人)は63歳で年金受給を減額なしに開始することができるようになりました。名目は、老年貧困を緩和するためということでしたが、お金がかかるうえに、対象者がごくわずかしかいない、と批判された改革です。

現在の年金受給額の平均は、被保険者の過去の平均収入の約47%ですが、年金受給開始年齢が65歳から67歳に段階的に引きあげられると同時に、受給額は2030年までに過去の平均収入の43%まで引き下げられることになっています。この為、1964年以降に生まれの平均的所得(月約2500ユーロ)のある人で、最長45年間保険料を払い続けた人ですら、生活保護レベルの年金しかもらえない計算となり、将来の老年貧困の問題は重要な政治課題となっています。

そんな中で、ドイツ連邦銀行が「69歳からの年金」の必要性を説いて、かなりの物議を醸しました。

背景説明が長くなってしまいましたが、本日閣議決定された「フレックス年金」は、問題だらけの年金保険制度のミニ改革のようなもので、フルタイム労働から退職・年金受給開始の移行を個人の健康状態やその他の事情に合わせることができるように、制度を流動化するものです。具体的には、パートタイム労働プラス部分年金受給を63~67歳の間に個人の事情に合わせて調整することができるようになります。

例えば、63歳で年金受給している人が月450ユーロ以上(年間5400ユーロ以上)の労働収入を得ると、現行法では、年金受給額の2/3がカットされてしまいますが、法改正後は、年間6300ユーロまでの収入は年金の減額なしに可能となり、6300ユーロを超える分の40%が年金受給額から減額されることになります。

また、パートタイム労働で年金保険料を払えば、その分年金受給額が増額されることになります。そして、失業保険料が免除されることになります。

連邦議会での審議は9月中に行われるとのことですが、議論はかなり紛糾しそうです。野党・緑の党からは流動化が可能になる年齢が63歳では遅すぎる、という批判が出ています。実際、肉体労働者の場合など、50代後半ですでにフルタイムで働くのが辛くなってしまうケースが多いので、それは的を得た批判と言えるでしょう。感覚的に55~67歳の間でフレックス年金制にするのが、様々な事情に対応できていいのではないかと思います。

参照記事:

ドイツ年金保険機構のサイト

ディー・ヴェルトの特集「年金受給開始年齢

ツァイトオンライン、2016.09.14、「ドイツ政府はフレックス年金を決定

シュピーゲルオンライン、2016.09.14、「フレックス年金は2017年初頭から導入


ドイツ:世論調査特別版(2016年9月9日)~ベルリン州、AfDは14%

2016年09月09日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーター特別版が9月9日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

ベルリン市州では9月18日に州議会選挙があります。日本の不在者投票に相当する郵便投票(Briefwahl)は既に始まっています。

もし次の日曜日が州議会選挙ならどの政党を選びますか?:

SPD(ドイツ社会民主党)  24%
CDU(キリスト教民主同盟) 19%
Linke(左翼政党) 14%
Grüne(緑の党) 15%
FDP (ドイツ自由民主党) 5%
AfD(ドイツのための選択肢) 14%
その他 9% 

 

今回の世論調査で出た政党支持率の分布は、州議会選挙での得票率と概ね一致していると見て間違いありません。そのため、右翼政党であるドイツのための選択肢(AfD)がメクレンブルク・フォァポンメルン州の21%ほどではないにせよ、14%の支持率を獲得しているのは心配の種です。一方現在ベルリン州議会に議席を持つ海賊党(Piraten)は今回見る影もありません。

 

市長には誰を希望しますか?:

ミヒャエル・ミュラー(Müller、SPD) 59%
フランク・ヘンケル(Henkel、CDU)19%

どちらでもない 11%
分からない 11% 

 

 現職のミヒャエル・ミュラーの支持率は非常に高いようです。

 

市長候補者の評価 (スケールは+5から-5):


ミュラー (SPD) +1.3
ヘンケル(CDU) -0.5 
ポップ(緑の党) +0.1
レーデラー(左翼政党) +0.3 

市長候補者の政党内評価(スケールは+5から-5):

ミュラー (SPD) +2.7
ヘンケル(CDU) +1.8
ポップ(緑の党) +1.7
レーデラー(左翼政党) +1.5


現職市長ミヒャエル・ミュラーの評価は党内外で比較的高いようです。

 

州政権と野党の評価(スケールは+5から-5):


政権

SPD +0.4
CDU -0.6

野党

緑の党 0.0
左翼政党 -0.3
海賊党 -1.9 

 

投票先は決まってますか?:

はい 57%
いいえ 43%

 

最も重要な問題は?: 

難民問題 40%
家賃・住宅市場 27%
学校・教育 21%
交通 13%
犯罪 12% 

 

メクレンブルク・フォアポンメルン州とは違い、ベルリンでは失業問題が重要とは見なされていないようです。2016年8月の失業者統計ではベルリンの失業率は9.7%で、全国第2位なのですが、重要課題として挙げられないのは不思議なことです。

 

どの政党が各分野での専門知識・能力があると思いますか?

教育:

SPD 23%
CDU 18%
緑の党 15%
左翼政党 2%

経済:

SPD 29%
CDU 21%
緑の党 3%
左翼政党 4%
AfD 1% 

 

難民問題:

SPD 20%
緑の党 19%
CDU 14%
左翼政党 10%
AfD 10%

社会正義:

SPD 33%
CDU 10%
緑の党 10%
左翼政党 24%
AfD 2% 

この政党別分野別の能力判断で分かることは、14%いるはずのAfD支持者たちが、特にAfDのの政策能力を買って支持しているわけではないということです。よく言われることですが、いわゆる「反抗政党(Protestpartei)」へ既成政党への反発を示すために投票する人たちによってAfDが得票率を伸ばしているわけです。

状況はメクレンブルク・フォアポンメルン州と同じです。


どの連立政権がいいと思いますか?

SPD/CDU: いい 37%、悪い43%

SPD/左翼政党/緑の党:いい 43%、悪い 40%

 

現在のベルリン市政府はSPDとCDUの連立政権です。上の政党評価でも明らかなように、特にCDUの評価が下がっています(-0.6)。そのため、SPDを残して、他の小政党2党との連立政権を望む声が大きくなっているようです。

 

難民数はベルリン市州にとって処理可能?

はい 62%
いいえ 33%
分からない 5% 

 

ベルリンはどちらかといえば国際都市としてオープンな土地柄のはずなんですが、それでも「処理できない」と思う人が33%もいるのが意外な感じです。これはもしかしたら、排他性によるものではなく、ベルリン市の管理・実務処理能力の低さを評価しているものと考えられるかもしれません。下のメルケル首相の難民政策の支持率が不支持を上回っていることも、「処理できない」の理由が排他性によるものではないことを裏付けているようです。

 

メルケルの難民政策について

いい 52%
悪い 43%
分からない 5% 

 

政党別メルケル首相の難民政策支持率:

SPD 60%
CDU 62%
緑の党 76%
左翼政党 53%
FDP 39%
AfD 4% 

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.334人に対して2016年9月6日から8日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年9月23日ZDFで発表されます。

 

参照記事:
ZDFポリートバロメーター、2016.09.09、「ポリートバロメーター特別版
Statista、2016年8月州別失業率統計


ドイツ銀行の危機についてー【ドイツ財政危機】ではありません

2016年08月28日 | 社会

ドイツ銀行はただのメガバンク

ドイツ銀行のスキャンダルや経営難はもう何年も前から話題になっていたので、最近のドイツ銀行に関するニュースも「まだ続いているのか」という程度にしか私は注目していませんでした。IMFがドイツ銀行を「そのシステム重要度と規模の大きさからして最も危険な銀行」と評しても、ドイツ銀行救済のために最悪「国有化もありうる」と聞いても、まだ何も確定していない推測に過ぎない内容なので、頭の隅に入れておく程度だったのです。

しかしながら、ドイツ連邦内務相のトーマス・ドメジエールが新民間防衛構想を8月21日に公表したことにより、無駄な危機感を一部煽ってしまい、それがドイツ銀行との危機とも結び付ける憶測を呼んでしまったようです。日本語ネットでも結構話題になっているようでしたが、ドイツ銀行の危機とドイツ財政危機を結びつけ考えていると見受けられる人たちがいたのには驚きました。私には全く思いもつかない連想ですが、その勘違いの原因は【ドイツ銀行≒日銀】のように考えていることにあるのかも知れません。

紛らわしいですが、ドイツ銀行(Deutsche Bank)は日銀のような中央銀行ではなく、ドイツ最大ではありますが単なる商業・投資銀行です。日本で言えば東京三菱UFJ銀行や三井住友銀行みたいなものです。そういう銀行が危機に瀕すれば、確かに経済的影響は大きいですが、国の財政云々と繋がっていく話ではないはずです。

日銀に相当するドイツの中央銀行はドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)で、ユーロ導入以降は欧州中央銀行のドイツ支店のような機能を果たしています。余談ですがドイツマルクの現金の保管もしており、今でもそこに行けばドイツマルク紙幣をユーロに両替してくれます。

ドイツ銀行の基本情報

創業:1870年

支店数:70カ国以上に2790店舗、うちドイツ国内1827店舗(2015年12月31日時点) 

CEO:ジョン・クライアン(英)

監査役会代表:パウル・アッハライトナー

株主構造:

大口株主

3.05% Supreme Universal Holdings Ltd., Cayman Islands(2015.08.20)
3.05% Paramount Services Holdings Ltd., British Virgin Islands(2015.08.20)
5.76% BlackRock, Inc., New York (2016.08.23) 

機関 vs.個人(2015年12月31日時点) 

銀行を含む機関投資家 81%
個人投資家 19% 

地域配分(2015年12月31日時点) 

ドイツ国内 56%
国外 44% 

株式総数:562,000(2015年12月31日時点) 

資本金における普通株資本の割合:19%(2015年12月31日時点) 

以上、ドイツ銀行ホームページ、投資家向け情報コーナーより。


ドイツ銀行のスキャンダル色々

ドイツ銀行は国際競争力を高めるために様々な国の銀行をM&Aで吸収したり、他銀行株を買うなどして肥え太ってきた銀行です。私の記憶に残っているのは、個人客部門を見直そうという目的で、ドイツ郵便(Deutsche Post)の子会社であるポストバンク(郵便銀行、Postbank)を2010年に買収したことです。なぜ覚えているかといえば、単に私がポストバンクの口座を持っているからです。現在ドイツ銀行はポストバンクも含めて、個人客・事業客部門の国内シェア15%を占めています。ポストバンクは、今再び売りに出されています。

そのようなメガバンクの常として、大抵の国際的なトレンド事業に積極的にかかわり、国内リーダー的な役割を果たしてきました。すなわちアメリカ不動産バブルの際、まるで1980年代後半のバブル期の日本のバンカーのように、怪しげな先にも「行け行けどんどん」で貸し出し、リーマンショック後に大量の不良債権を抱え込んだり、租税回避支援事業で特に外国投資家の節税を助けて大儲けし、国に税収数十億ユーロとも言われる損害を与えたり、LIBORとEURIBORの指標利率の操作をして不正な儲けを出したとか。ロシアでのマネーロンダリングについても現在係争中。様々な件で裁判沙汰になっています。過去数年、こうしたスキャンダルのせいで、裁判費用や罰金に120億ユーロ余りのコストがかかっており、更なる罰金等のために54億ユーロの引当金を積んでいるそうです(ウォールストリートオンライン、2016.05.24)。

 

ストレステストでワースト10入り

2016年7月29日に公表された欧州銀行監督局による51の銀行に行ったストレステストの結果で、ドイツ銀行はワースト10入り(51銀行中42位)し、波紋を広げました。同じくワースト10入りしたドイツの銀行はコメルツバンク(44位)でした。コメルツバンクはリーマンショック後に税金投入により救済された銀行の一つです。

下の表はストレステスト・ワースト10の銀行一覧です。ソースはディー・ヴェルトの2016.07.31の記事です。真ん中の数値はストレスシナリオにおける自己資本比率を示しています。ストレスを何とか自力で克服できる基準は5%。その基準に不合格だったのはアイルランドのAllied Irish BankとイタリアのMonte dei Paschi di Sienaの2行のみでした。

右端の数値は2015年初頭の起点との差を表しています。

このストレステストの結果が公表された後、イギリスのEU離脱国民投票の結果も影響して(ドイツ銀行の投資部門はロンドンが司令塔になってます)、既にダメージを受けていたドイツ銀行の株価は急降下し、30年来の最低値11.24ユーロを記録しました。ジョン・クライアンがCEOに就任してから、株価は58%も下がり、ドイツ銀行の帳簿上の価値の約27%になってしまいました。これは投資家たちがドイツ銀行の帳簿上の財産価値に疑いを持っているか、または収支決算自体に疑問を抱いていることを示しています(シュピーゲル、2016.07.29の記事)。

ドイツ銀行の株価暴落を受け、ドイツ銀行株はStoxx Europe 50(ヨーロッパ最大の50企業銘柄を集めた株式市場)から2016.08.08付けで外されることとなりました。

8月26日現在の株価は12.44ユーロで、若干の回復を見せていました。

しかしながら、極端な低金利時代で銀行が利ザヤで稼げなくなっている昨今、厳しい自己資本率基準は銀行の生き残り・立ち直りをより難しくしていると言えます。ただ、ドイツ銀行がここまで業績悪化したのは自業自得の部分がかなり大きいので、投資・融資ハイにバンカーの極端に高額なボーナスなど反省すべきところをきっちり反省すべきです。仮にドイツ銀行が破綻しても、ヨーロッパのベイルイン規定ではすぐに税金投入をして救済することは禁じられています。まずは大口預金者(10万ユーロ以上)などの債権者が損失を被り、それでも銀行の生き残りに足りない場合のみ、ESM(European Stability Mechanism、欧州安定メカニズム)を通じて税金が投入されることになるというのが建前です。まあでも納税者としてはドイツ銀行の税金での救済など納得できるものではありません。税金投入する前に何百万あるいは億単位でボーナスなどを受け取っていたヨゼフ・アッカーマンやアンシュー・ジェインなどの元CEOたちがお金返すべきだと思います。ヽ(`Д´)ノプンプン

 

リストラとトップマネージャーのボーナス

ドイツ銀行は、昨年公表した「2020年戦略」ではフルタイムポスト3000人分を削減するという計画でしたが、今年6月22日に労働者側の経営委員会との合意で2633人分の削減となりました。700以上ある支店のうち200店が閉鎖されるとのことです(南ドイツ新聞、2016.06.23の記事)。

2015年度に記録的な経常損益62億ユーロを出した後、特に大きな赤字を出した投資部門のボーナスを最大30%カットするという措置がなされましたが、相次ぐ罰金支払いの原因を作ったのは他でもない投資部門だったため、最大30%カット等甘すぎるとの批判を受けていました。投資部門のボーナスのための予算は27億ユーロもあったそうです(ハンデルスブラット、2015.10.03の記事)。

こうした厳しい状況の中、何人かのトップマネージャーたちは随分と欲の皮が突っ張ているようで、2014年から凍結されているボーナス(それぞれ100-200万ユーロ)の払い出しを求めて労働裁判所でドイツ銀行を訴えました。監査役会代表パウル・アッハライトナーは、今年度もボーナスの支払いがないことを該当者には知らせてあったという(ウォールストリートオンライン、2016.08.01の記事)。

日本とは違って、ドイツでは自分の(元)雇用者である会社を訴えるのはそれほど珍しいことではありません。特に不当解雇に関する裁判は結構な数に上ります。しかしながら、ただでさえ批判の多いトップマネージャーたちのボーナス。それを約2600人が解雇されるという中、払い出しを求めるとは、ドイツ的感覚でもかなり恥知らずです。株主も配当金なしで我慢しているのに、損失の原因を作ったと言っていい投資部門バンカーのボーナスなど認めるわけないかと思います。2016年度分も配当ゼロとのことですから(ドイツ銀行ホームページ)、ボーナスの支払いなど顰蹙もの以外の何物でもないですね。

 

おまけ:ドイツの財政

ドイツ経済が堅調なことと、低金利で金利コストが下がっていることで、2014年度は89億ユーロの財政黒字、2015年はその2倍以上の194億ユーロの財政黒字を計上し、ドイツ統一以降の最高記録を出しました。

下のグラフは南ドイツ新聞、2016.02.23の記事に掲載されたもので、ドイツの1991年から2015年までの財政状況を表しています。

 

そして2016年度は上半期だけで185億ユーロの財政黒字で、最高記録をさらに更新しました。これはGDPの1%に相当します(ディー・ヴェルト、2016.08.24の記事)。これを受けて、国は例えば高齢化社会への対応や福祉住居の建設などの投資を増やすべきだという声もあれば、減税を求める声も出ています。私も投資には賛成ですが、減税はすべきではないと思います。なぜなら、一度減税すると経済状況に応じてまた増税するということができないからです。景気後退期に増税すればそれこそ本格的な不況を招いてしまいます。

それに、財政黒字を出しているからと言って、国の借金が無くなったわけではないことも念頭に置かなければいけません。下の表は2003-2015年度のドイツの国・州・地方自治体などの負債総額を年度別に示したものです(ソースはStatista)。単位は10億ユーロ。2015年度の負債総額は20兆225.6億ユーロで、前年度より213.6億ユーロ減っていますが、2003年度に比べれば、6648.4億ユーロ多く、非常に高い水準にあります。従って、未来へ向けた投資は良しとしても、減税する余裕は本来なく、今こそ負債を減らすチャンスと言えるでしょう。

 
参照記事:
ウォールストリートオンライン、2016.05.24、「ドイツ銀行評価ランクダウン。Moody'sはドイツ銀行の評価ランクを下げた
ディー・ヴェルト、2016.07.30、「ストレステストはヨーロッパの銀行の弱点を容赦なく暴露」 
シュピーゲル、2016.07.29、「銀行ストレステスト:気になるドイツ銀行の結果は?
ドイツ銀行ホームページ、投資家向け情報「2020年戦略」 
南ドイツ新聞、2016.06.22、「ドイツ銀行はドイツ国内で2600ポスト削減
ハンデルスブラット、2015.10.08、「この名刺の価値は今下がっている」 
ウォールストリートオンライン、2016.08.01、「ドイツ銀行の危機?関係ない!私は全て欲しい、今すぐに!」 
ドイツ銀行ホームページ、投資家向け情報、株式情報ページ
南ドイツ新聞、2016.02.23、「ドイツ統一以後最大の財政黒字」 
ディー・ヴェルト、2016.08.24、「ドイツは税金の奇跡を体験」 
Statista、「ドイツの全公的財政における負債総額の推移2003-2015年

ドイツ:グローンデ原発で事故。作業員1名死亡

2016年08月27日 | 社会

ドイツ・ニーダーザクセン州のヴェーザー川に面して建っているグローンデ原発で今日(8月27日)午前10時(現地時間)に、点検作業の際にボイラーから突然水蒸気が漏れ出すという事故が起こりました。その際、作業員の一人(55)が重傷を負い、お亡くなりになったそうです。所轄警察や検察は既に捜査を開始しました。監督当局であるニーダーザクセン州環境省も調査を開始しました。

事故の詳細はまだ不明ですが、ボイラーは核分野外の部分なので、放射能漏れなどの心配はないようです。

グローンデ原発は今年の4月に冷却ポンプの故障のため停止しましたが、修繕終了後も再稼働されずにいました。7月30日にしずく状のリーケージが見つかり、調査の結果、調節検査管との溶接継ぎ目が漏れやすくなっていることが確認されました。プロイセンエレクトラ社は修理計画案を提出し、配管の一部を交換すると明言し、実験室で原因究明のために、比較可能な小規模管で疑似検査を行う予定だと8月初めに発表し、8月14日に再稼働の予定でした。

もうこれは再稼働を諦めて廃炉にすべきでしょう。2011/12年のEUのいわゆる「ストレステスト」でも「地震対策が不十分」が確認されていたことですし、こうもあちこち故障続きなのは老朽化の表れです。2021年末ではなく、即時廃炉にした方が住民も安心です。

グローンデ原発敷地内には大規模な中間貯蔵施設があり、Castor V/19型のキャスク100個分、使用済み核燃料1000トン分の収容能力を有していますが、バート・ピュルモント温泉施設のための鉱泉水源保護地区V内に位置し、他の飲料水保護地区から1キロしか離れていないこともあり、環境保護団体から常に批判の対象とされてきました。従って、即時廃炉してもこの中間貯蔵の問題は残念ながら、依然として残ることになります。

参照記事:
ハノーバー新聞、2016.08.27、「グローンデ原発で男性死亡」 
プロイセンエレクトラ、2016.08.26のプレスリリース、「作業員、グローンデ原発で事故により死亡

グローンデ原発

株主:エーオン83.3%、ビーレフェルト市営企業16.7%

事業者:共同原発有限会社グローンデ

営業開始:1985.02.01

稼働終了予定:2021.12.31

原子炉:加圧水型(酸化ウラン燃料、2013年よりMOX燃料も使用)、ジーメンス製

実質発電容量:1360MW

報告義務のある事象:1985年以来累計200件以上、うちレベル1事象1件。

 


北ドイツの原発3基が相次ぎ故障:ブロークドルフ、ブルンスビュッテル、グローンデ


 


ドイツ:世論調査特別版(2016年8月26日)~メクレンブルク・フォアポンメルン州、AfD支持率21%

2016年08月26日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーター特別版が8月26日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

メクレンブルク・フォアポンメルン州では9月4日に州議会選挙があります。日本の不在者投票に相当する郵便投票(Briefwahl)は既に始まっています。

もし次の日曜日が州議会選挙ならどの政党を選びますか?:

SPD(ドイツ社会民主党)  28%
CDU(キリスト教民主同盟) 22%
Linke(左翼政党) 13%
Grüne(緑の党) 6%
NPD (ドイツ国家民主党) 3%
AfD(ドイツのための選択肢) 21%
その他 7% 

今回の世論調査で出た政党支持率の分布は、州議会選挙での得票率と概ね一致していると見て間違いありません。そのため、右翼政党であるドイツのための選択肢(AfD)が21%の支持率を獲得しているのは心配の種です。一方、現在州議会入りしている古くからの右翼政党NPDは5%以下になっており、このままだと州議会入りを果たせません。NPD票はAfDに流れた、と見ていいでしょう。

メクレンブルク・フォアポンメルン州はメルケル首相の支持基盤であるにもかかわらず、CDUの支持率がAfDのそれと1ポイントしか変わらないことも彼女の弱体化に貢献しそうです。現在州議会与党であるSPDも支持率の低下は著しいのですが、それでも何とかトップを維持している感じです。

州首相には誰を希望しますか?:

エルヴィン・セレリング(Sellering、SPD) 64%
ローレンツ・カフィエ(Caffier、CDU)18%

どちらでもない 7%
分からない 11% 

 

州首相候補者の評価(スケールは+5から-5):

セレリング +2.3 (SPD支持者:+3.6)
カフィエ +1.2 (CDU支持者:+2.3)
ホルター +0.7 (左翼政党支持者:+2.8)

 

州政権と野党の評価(スケールは+5から-5):


政権

SPD +1.3
CDU +0.9

野党

左翼政党 -0.2
緑の党 -0.5
NPD -3.9

 

投票先は決まってますか?:

はい 58%
いいえ 42%

 

最も重要な問題は?: 

失業問題 38%
難民問題 25%
学校・教育 12%
家族・青少年政策 8%
費用・物価 8% 

メクレンブルク・フォアポンメルン州は2016年7月の失業者統計によると、全国第4位の高失業率(9%)を示しているので、失業対策が最重要課題と見られているのは当然の帰結と言えます。もちろん9%の中にはいわゆる隠れ失業者(55歳以上の失業者、労働局の斡旋する職業訓練等に参加中の者、失業届けを出していない無職者)は含まれていません。拙ブログ記事「ドイツ:貧富の格差はヨーロッパ最大」で紹介しましたが、メクレンブルク・フォアポンメルン州は貧困率が全国で2番目に高い23.6%です。隠れ失業者を含めた貧困率はおよそ11%弱ですから、残る12.6%が全世帯の所得を多い順に並べて真ん中に来る【メディアン所得】の60%以下の所得しかない世帯ということになります。もちろん家賃やその他の物価も全国平均以下ですので、数字から想像されるほど多くの世帯が貧困にあえいでいるというわけではないのでしょうが、それでもドイツが好景気に沸いている中で、「取り残されている」という感覚はより強くあると考えられます。


どの政党が各分野での専門知識・能力があると思いますか?

雇用
SPD 27%
CDU 29%
左翼政党 4%
AfD 2%

経済

SPD 31%
CDU 26%
左翼政党 2%
AfD 1% 


難民問題
SPD 19%
CDU 21%
左翼政党 9%
AfD 12%

社会正義

SPD 34%
CDU 13%
左翼政党 24%
AfD 3% 

この政党別分野別の能力判断で分かることは、21%いるはずのAfD支持者たちが、特にAfDのの政策能力を買って支持しているわけではないということです。よく言われることですが、いわゆる「反抗政党(Protestpartei)」へ既成政党への反発を示すために投票する人たちによってAfDが得票率を伸ばしているわけです。

ちなみに、このような投票の仕方をする人たちは反抗的投票者(Protestwähler)と呼ばれています。NPDも前回の州議会選挙でこのような反抗的投票者たちによって議会入りを果たしました。彼らは日本でいうところの「浮動票」に相当し、気分によっては無投票になる層でもあります。

どの連立政権がいいと思いますか?

SPD/CDU: いい 44%、悪い25%

CDU/SPD: いい 31%、悪い38%

SPD/左翼政党/緑の党:いい 30%、悪い 48%

 

難民数はメクレンブルク・フォアポンメルン州にとって処理可能?

はい 63%
いいえ 30%
分からない 7% 

メクレンブルク・フォアポンメルン州は人口も少なく、財政状況も悪いため、難民受け入れ数はそれに比例してかなり少なくなっています。それでも「処理できない」と考えている人が30%いるのは、閉鎖的・排他的な土地柄の影響もあるでしょう。

 

メルケルの難民政策について

いい 41%
悪い 51%
分からない 8% 

メルケル氏の地元とはいえ、排他的な土地柄。彼女のオープンな難民政策があまりいい評価を受けないのは当たり前と言えば当たり前です。

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.020人に対して2016年8月23日から25日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年9月23日ZDFで発表されます。その前に、ベルリン州の特別版世論調査が9月9日に公表される予定です。

 

参照記事:
ZDFポリートバロメーター、2016.08.26、「ポリートバロメーター特別版
Statista、2016年7月州別失業率統計
ディー・ヴェルト、2015.2.19、「ドイツの貧困についての真実 


ドイツ:非常用備蓄2週間分の目安~【緊急事態】ではありません

2016年08月25日 | 社会

先日ドイツで閣議決定した新民間防衛構想には各家庭で非常用に食料等を備蓄するよう推奨する文言が含まれていることで妙な誤解を招いたり、日本のSNSでは「ドイツは緊急事態!」等のデマが流れたりしていましたが、非常用備蓄の勧めは今に始まったことではなく、それこそ戦後ほぼ一貫して存在していました。第二次世界大戦及び冷戦時代を知っている世代は非常用備蓄をかなり真剣に実施していますし、冷戦時代しか知らない世代も食料等の備蓄はごく普通のことと捉えています。本当に備蓄を余念なくするかどうかはまた別問題ですが。

ドイツ国内では民間防衛構想の更新に対する反応は概ね落ち着いたもので、「なんで今更?」と考える人が多かったようです。中にはもちろん何かあったのかと不安に思う人たちもいたでしょうが、買いだめパニックようなことは一切起こりませんでした。そもそもドイツ人は日常的に買いだめをします。1週間に1度大きな買い物に行き、それ以外は、買い忘れを補ったり、生鮮物を買ったりしますが、毎日その日の分の食料品を買いに行く人は少数派です。水にしろビールにしろダース買いが普通です。

新民間防衛構想に対するドイツ人のツイッター反応

政府が発表した新民間防衛構想及び少量品等の備蓄に対するドイツ人たちの反応はツイッターのタグ#Hamsterkaeufe #Zivilschutzkonzeptでざっと見ることができますが、ジョークのネタになっていることが多いようです。

下のツイートは8月21日のもので「【ハムスター買い】を日曜日に話題にする。まさしく俺的ユーモア。」いわゆる「買いだめ」をドイツ語では「ハムスター買い(Hamsterkäufe)」と言います。日曜日にそれを話題にすることがなぜおかしいのかと言えば、ドイツでは日曜日はガソリンスタンドなどを除く全てのデパート・スーパー・商店が閉まっているからです。

 

次のツイートは「今私のハムスターを太らせているところ。こういう時代の純粋な事前の備え」とコメントしてます。「ハムスター買い」に引っ掛けたジョークであることは言うまでもありません。

次のツイートはスマートに一杯詰まれたバナナの写真。コメントは「連邦政府はハムスター買いを推奨。最初のストップは八百屋。これで10日分足りる。」

次のツイートは独紙南ドイツ新聞の2016年8月22日の記事へのリンク。コメントは「新民間防衛構想をアルバート・シュミットは全く評価していない。彼はとっくにプライベートブンカー(貯蔵庫)を持っている」

ドイツでは買いだめパニックこそ起こりませんでしたが、少々の混乱や議員たちの議論のエスカレートがあるにはあったので、特に野党議員から民間防衛構想の更新のタイミングが悪いという批判が出ていました。

 

今日ご紹介したいのは2013年度の連邦国民保護・災害支援庁による非常用備蓄の指針です。

上のグラフィックは当局の推奨する2週間分の備蓄の一人当たりの目安です。

  • 飲み物 28ℓ
  • 野菜類 5.6㎏
  • 穀類・ジャガイモ・麺類・米 4.9㎏
  • 乳製品 3.7㎏
  • 果物類・ナッツ類 3.6㎏
  • 魚・肉・卵 2.1㎏
  • 脂肪・油類 0.5㎏

乳製品3.7㎏にはちょっとびっくりですが、ヴィーガンでないドイツ人の標準的な消費量はこんなものかもしれません。


ドイツ:新民間防衛構想、本日(2016.08.24)閣議決定~【緊急事態】ではありません!

【ドイツの緊急事態】というデマの真相:新民間防衛構想