goo blog サービス終了のお知らせ 

徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:2016年度難民申請&認定数統計~新規入国者は28万人

2017年01月15日 | 社会

ドイツの2016年度の難民統計をご紹介します。

まずは新規入国者ですが、バルカンルートが閉鎖されてしまったことで、難民たちが危険を冒して地中海を渡っても、ギリシャやイタリアの【ホットスポット】に留め置かれてしまうため、ドイツまで到達した難民の数は去年の約89万人から28万人に激減しました。

一方、連邦移民難民局の体制が整ったこともあって、正式な難民申請数は745,545件となり、去年より268,869件の増加となりました。また、審査終了件数も去年の約1.5倍の695,733件でした。

出身国別に申請件数を見ると次の表のようになります:

 難民申請(初回および継続申請) 変化
  20152016 %絶対数
  合計 476,649 745,545 56.4 268,896
1. シリア 162,510 268,866 65.4 106,356
2. アフガニスタン 31,902 127,892 300.9 95,990
3. イラク 31,379 97,162 209.6 65,783
4. イラン 5,732 26,872 368.8 21,140
5. エリトリア 10,990 19,103 73.8 8,113
6. アルバニア 54,762 17,236 -68.5 -37,526
7. パキスタン 8,472 15,528 83.3 7,056
8. 不明* 12,166 14,922 22.7 2,756
9. ナイジェリア 5,302 12,916 143.6 7,614
10. ロシア 6,200 12,234 97.3 6,034


審査終了した695,733件のうち、36.8%(256,136人)がジュネーブ条約に基づいて難民認定されました。認定率が最も高かったのはエリトリア出身者で、75.2%でした。次に認定率が高かったのはシリア出身者で、56.5%。エリトリア出身者に比べると大分低い認定率です。基本的に「シリア全体が内戦状態なわけではない」という見方が適用され、具体的にシリアのどこから来たかによって難民認定されるかどうかが左右されるようです。

参照記事:

ドイツ連邦内務省プレスリリース、2017年1月11日、"280.000 Asyl­su­chen­de im Jahr 2016"


ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計

ドイツ:2017年度難民申請&認定数統計~申請総数186,644件



ドイツ:世論調査(2017年1月13日)~危険人物に対する措置厳格化賛成多数

2017年01月15日 | 社会

久々にドイツ世論調査、ポリートバロメーター最新版を私見を交えつつご紹介いたします。

難民政策

2016年に新たにドイツに入国した難民数は前年度に比べて激減しましたが(統計は別途紹介)、ベルリンのクリスマス・マーケットで起こったテロ事件など難民としてドイツに入国し、元からテロリストだったのか、ドイツ入国後に過激化したのかという疑問はともかくとして、テロに対する危機感はかなり強まっています。こうした空気の中で難民や移民の中の特に「危険人物」と目される人たちの送還措置に関する法の厳格化が議論されています。

危険人物の送還拘留を拡張・延長することに対してどう思いますか?:

賛成 88%
反対 9%
分からない 3% 

当然の結果かもしれませんが、危険人物送還のための拘留には賛成の人が多数です。

 

犯罪を犯した難民申請者を送還するためにはより厳しい法律が必要:

全体:

はい 67%
いいえ 31%

支持政党別の「はい」と回答した人の割合:

CDU/CSU 72%
SPD 64%
左翼政党 44%
緑の党 38%
FDP 66%
AfD 80% 

犯罪歴のある難民申請者の祖国送還に関する法律の厳格化もやはり賛成多数ですが、支持政党別でみると左翼政党及び緑の党支持者の間でのみ、厳格化を求める声が半数に満たなくなっています。

 

対テロ対策は十分になされていると思いますか?:

はい 43%(2016年10月:62%)
いいえ 51% (2016年10月:31%)

「十分ではない」という印象が10月に比べて強くなっているのはやはりベルリンのクリスマスマーケット事件が響いているのでしょう。

 

ドイツはこのたくさんの難民を処理することができると思いますか?:

はい 57%(2016年1月:37%)
いいえ 41%(2016年1月:60%) 


同じ質問に対する回答の長期的推移:

比較的肯定的な声が大きいのは、2016年度の難民入国数が激減したことと、ドイツ国民がテロ問題と難民問題をごっちゃにしていないことにその理由があります。少なくともそのように理性的な判断をする人がまだまだ多い、ということです。

 

メルケル首相の難民政策をどう評価しますか?(長期的推移):

いい 52%
悪い 45% 

現在はメルケル首相の政策支持の方がやや優勢ですが、世論が割れていることは事実です。メルケル首相率いるCDUの姉妹政党であるCSUの党首ホルスト・ゼーホーファーが特にメルケル批判の急先鋒と言っていいくらい噛みついてますが、それはAfDから票を奪うためのデモンストレーションの意味合いもあります。ただ姉妹政党同士で見解の一致を見ないことには選挙では戦えないので、和解を望む声も大きいのですが、なんというかまだ割れてますね。難民入国数が減ってしまった今となってはCSUが主張するところの「上限」も大して意味をなさないにも関わらず、意地を張っている感じです。

 

次期首相候補

どちらの方が首相として好ましいですか?:

メルケル対ガブリエル
メルケル 60%
ガブリエル 26%
分からない 14% 

メルケル対シュルツ
メルケル 47% 
シュルツ 37%
分からない 16% 


支持政党別:

メルケル対ガブリエル
メルケル 60%
ガブリエル 26%

CDU/CSU支持者
メルケル 89%
ガブリエル 6%

SPD支持者
メルケル 39%
ガブリエル 54% 

ここで際立っているのはやはりジグマー・ガブリエルSPD党首の党内人望の無さですね。SPD支持者の40%近くが自党の党首よりもメルケル首相の方がいいと回答しています。

 

連邦議会選挙2017

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 36%(変化なし)
SPD(ドイツ社会民主党)  21% (-1)
Linke(左翼政党) 9%(-1)
Grüne(緑の党) 10%(変化なし)
FDP (自由民主党) 6%(+1)
AfD(ドイツのための選択肢) 13%(+1) 
その他 5% (変化なし)

1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先回答推移:


政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.2(前回比+0.2)

 
 
緑の党は選挙後にどの党と連立して政権を取るべきですか?:
全体
SPDと左翼政党 32%
CDU/CSU 49%
分からない 19%
 
緑の党支持者
SPDと左翼政党 50%
CDU/CSU 44%
分からない 6%
 
緑の党支持者の連立希望政党の変化:
現在              2016年11月
SPDと左翼政党 50% <--    63%
CDU/CSU 44% <--       32%
分からない 6% <--       5%
 

理由は分かりませんが、左寄りの連立よりも保守のCDU/CSUとの連立を希望する緑の党の支持者がかなり増えています。もしかしたらこれもガブリエルSPD党首の人望の無さに原因の一端があるのかも知れません。

 

政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.4(→)
  2. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、2.0(→)
  3. アンゲラ・メルケル(首相)、1.8(↑)
  4. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.7(↑)
  5. トーマス・ドメジエール(内相)、1.3(↑)
  6. ケム・エツデミール(緑の党党首)、0.8(↓)
  7. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.7(→)
  8. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.6(↑)
  9. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.6(↑)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党議員)、-0.4(↓)

 

トランプ大統領と独米関係

トランプは大統領に就任後、選挙戦での主張を変えると思いますか?:

現在            2016年11月
過激なまま 33%  <--  20%
多少丸くなる 59%  <--   78% 


独米関係はどう変わると思いますか?:

改善する 2%
悪化する 55%
あまり変わらない 39% 

トランプ大統領に対する不安はドイツでも大きいということですね。

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1,292名の選挙権保有者に対して2017年1月10日から12日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。

次のポリートバロメーターは2017年1月27日に発表されます。

 

参照記事:

ZDF heute, 13. Januar 2017, Politbarometer: Große Zustimmung für härteres Vorgehen gegen „Gefährder“


ドイツ:世論調査(2016年11月25日)~首相候補は誰?

2016年11月26日 | 社会

本日11月25日に発表されたZDFの世論調査「ポリートバロメーター」を以下に私見を交えつつご紹介します。

次期首相候補

アンゲラ・メルケルが再度首相候補になることをどう思いますか?:

全体:

いい 64%
悪い 33% 

CDU/CSU支持者:

いい 89%
悪い 10% 

メルケル首相は、次期もCDU党総裁及び首相に立候補するか大分迷ったようですが、この世界の混乱期にほぼただ一人の安定的政治家として逃げられないと考えたらしく、決意を固めたようです。他にこれといった候補が党内に居なかったので、彼女が決意を表明した時、党内では随分とほっとした空気だったようです。党内支持率89%は、SPD党首ガブリエルなどとはくらべものにならないくらい高いです。

 

SPDからの首相候補は誰がなるべきだと思いますか?:

全体:

ガブリエル 29%
シュルツ(欧州議会議長)51%
分からない 20%

SPD支持者:

ガブリエル 27%
シュルツ 64%
分からない 9% 

現欧州議会議長のマルチン・シュルツがドイツ国内政治に復帰すると表明したため、彼がSPD首相候補になる可能性がにわかに出てきました。SPDは候補者を決定するのは来年1月を予定しています。それまでは色々憶測が飛び交いそうです。

現在SPD首相候補として名前が挙がっている二人をメルケルと対比させると以下のようになります。

どちらの方が首相として好ましいですか?:

メルケル対ガブリエル

メルケル 63%
ガブリエル 25%
分からない 12%

メルケル対シュルツ

メルケル 47%
シュルツ 39%
分からない 14% 

SPD首相候補はシュルツがなった方が、メルケルに対抗するにはチャンスが多そうです。

 

次は大統領候補です。先日連立与党共通の候補者として、現外相のフランク・ワルター・シュタインマイヤーが出馬することになりました。

シュタインマイヤーが大統領になるのをどう思いますか?:

いい 77%
悪い 14%
分からない 9% 

ドイツ人の圧倒的多数がシュタインマイヤーが次期大統領になることを歓迎しています。彼は時々演説に熱が入ると、文章が破綻してしまうことがありますが、それを除けば概ね理性的で、クリーンなイメージの政治家なので、党派を超えて受け入れやすいのでしょう。

 

連邦議会選挙2017

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 36%(+2)
SPD(ドイツ社会民主党)  21% (-1)
Linke(左翼政党) 10%(変化なし)
Grüne(緑の党) 11%(-2)
FDP (自由民主党) 5%(変化なし)
AfD(ドイツのための選択肢) 13%(+1) 
その他 4% (変化なし)

 

1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先推移:


政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.1(前回比+0.2)


2004年以降の選挙に行くか分からないあるいは行くつもりがない人の割合:

投票しない 6%
分からない 18% 


政党の能力

難民政策:

CDU 39%
SPD 14%
左翼政党 5%
緑の党 8%
FDP 1%
AfD 7%

年金政策:

CDU 26%
SPD 19%
左翼政党 6%
緑の党 2%
FDP 2%
AfD 1% 

 

社会的公平:

CDU 22%
SPD 29%
左翼政党 16%
緑の党 7%
FDP 2%
AfD 1%

経済政策:

CDU 47%
SPD 13%
左翼政党 2%
緑の党 2%
FDP 3%
AfD 0%

 

税制政策:

CDU 30%
SPD 21%
左翼政党 8%
緑の党 3%
FDP 5%
AfD 1%

犯罪検査:

CDU 45%
SPD 8%
左翼政党 2%
緑の党 1%
FDP 1%
AfD 5%


政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.5(+0.2)
  2. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、2.0(+0.1)
  3. アンゲラ・メルケル(首相)、1.8(+0.2)
  4. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.7(→)
  5. トーマス・ドメジエール(内相)、1.1(+0.4)
  6. ケム・エツデミール(緑の党党首)、0.9(→)
  7. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.7(+0.2)
  8. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.6(+0.3)
  9. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.6(→)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党議員)、-0.1

 

老後の備え

金銭的な老後のための備えは充分にありますか?:

充分 7%
ほどほど 46%
足りない 32%
全然ない 14% 

 

支持政党別老後の備えが足りないと思う人の割合:

CDU/CSU 33%
SPD 40%
左翼政党 62%
緑の党 53%
FDP 30%
AfD 61% 

老後の備えが足りないと思う人の割合は左翼政党及びAfDで際立って高くなっています。やはり経済的に「置いてけぼりにされている」と感じる人たち(主に旧東独)がこの2政党に分化しているのでしょうか。

年齢別老後の備えが充分にあると思う人の割合:

18-29歳 22%
30-39歳 40%
40-49歳 50%
50-59歳 48%
60-69歳 64%
70歳以上 83% 

 

社会的公平

ドイツは社会的公平がどちらかと言えば保障されていると思いますか?:

非常に公平 2%
公平 43%
不公平 43%
非常に不公平 11% 

統計的には貧富の格差がどんどん開いてきているので、ドイツはデータ上では少なくとも「不公平」な社会なのですが、「公平」だと思っている人が半数近くもいるのは不思議です。「他の国と比べてドイツはまし」と思っている人たちが多いのかも知れません。

 

過去数年でドイツ社会の結束は?:

減少した 75%
変わらない 18%
強化された 5% 

これは、地域社会の崩壊に伴う人々の孤立化が進んでいると見ることができるでしょう。特に移民の多い地域では、共同体共通の行事も少なくなり、未知の異文化が幅を利かせているという疎外感を感じ出している人も多いかもしれません。

 

難民政策・トルコ

メルケル首相の難民政策をどう思いますか?:

いい 50%
悪い 45% 

難民政策に関してはまさに賛否両論が拮抗しているようです。

 

ドイツはたくさんの難民を受け入れることができると思いますか?:

はい 57%
いいえ 40% 

まあ、去年の秋のように毎日数千人の難民が絶え間なくドイツに入ってくるというのでなければ、どうにかなるという意見の方が多くなるのは必然的なことでしょう。

 

トルコのEU加盟交渉は継続すべき?:

中断すべき 56% (二週間前:45%)
様子見すべき 35% (46%)
継続すべき 8%  (7%)

二週間前に比べて、「中断すべき」という人がかなり増えています。昨日(11月24日)、欧州議会はトルコのEU加盟交渉の一時凍結を決議しました。理由はもちろん、クーデター未遂以降のエルドアン大統領による反政府的勢力にくみすると思われている軍人、公務員などの罷免や解雇、親クルド政党HDP幹部の逮捕、政府に批判的なジャーナリストや学者の逮捕など、EU加盟に必須とされる民主主義的価値観からかけ離れた政治にあります。この決議は拘束力がないのですが、エルドアン大統領はこれを不当な内政干渉と思っているらしく、今日のイスタンブールでの演説で、EUがトルコに対してこれ以上批判をするなら、難民協定を破棄し、ヨーロッパへの国境を開放する、という脅しをかけました。エルドアンはロシアのプーチン大統領とも最近接近しており、地政学的にもかなりヨーロッパを揺るがせています。トルコを何が何でもヨーロッパの敵にすまいと、ヨーロッパがトルコの要求を呑んで、人権侵害を黙認するようなことになるのではないかと私は非常に危惧しています。

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1258名の選挙権保有者に対して2016年11月22日から24日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。

次のポリートバロメーターは2016年12月9日に発表されます。

 

参照記事:

ZDF heute, 25. November 2016, "Politbarometer"
Zeit Online, 25. November 2016, "Türkei: Erdoğan droht mit Grenzöffnung für Flüchtlinge"


Fukushima Radiation not safe!(福島の放射能は安全ではない)

2016年11月25日 | 社会

Fukushima Radiation not safe!(福島の放射能は安全ではない)という当たり前のことをタイトルにしたビデオがあります。ヤン・ゴッダード氏が作成したものです。彼のホームページは:http://iangoddard.com/

歴史的な調査と最先端の科学的調査の両方が、年間20ミリシーベルトという日本の許容被ばく線量が安全ではないということを、一貫して、論証しているということをこのビデオは伝えています。

このビデオを文書化し、日本語に翻訳したファイルがあります:
https://docs.google.com/file/d/0B5qUOl0_hAfnWmtwMkNRb0Z2WDA/edit

編集・翻訳: 大下 雄二
翻訳協力: 佐野 亜紀

 

内部被曝のリスクはここでは考慮されていないため、汚染地で汚染した食品からも被曝するリスクがあるところに生活する人たちの健康被害はここで述べられている以上のものである可能性が高い、ということを念頭に置いておくべきでしょう。


トルコ人、次々ドイツで亡命申請

2016年11月18日 | 社会

エルドアン・トルコでは7月半ばのクーデター未遂以来、対立勢力粛清の嵐で、軍・行政・司法・安全当局などの機関ではすでに11万人以上が解雇あるいは免職になっており、ジャーナリストも次々逮捕され、本日11月18日(金)はYildiz大学の学者が103人逮捕されました。

トルコ政府は今年、クルド人過激派PKKに対する攻撃を強化したため、今年夏までのトルコ出身者による亡命申請は主にクルド人でしたが、クーデター未遂以降は外交官や在独NATO軍人などトルコ人の亡命申請が増えています。

トルコ出身の亡命申請者数は以下のように推移しています:

2014年:1,806人
2015年:1,767人 
2016年:4,487人(10月現在)

外交官で10月に亡命申請したのは、内務省の発表によれば35人とのことで、その家族も一緒のため「35人」は最終的な数字ではないとのことです。

ドイツ・プファルツ州ラムシュタインに駐屯中のNATO航空中央軍から11月半ばに数人のトルコ人が亡命申請しました。駐屯軍は全部で約500人ほどで、うちトルコ人は30人とのことですが、正確に何人が亡命申請したのかは明らかにされていません。

11月8日、外務省国務大臣のミヒャエル・ロートは、「政府に批判的なトルコ人は、ドイツ政府が彼らを連帯的に支援するということを知るべきだ。」「ドイツは原則的にすべての政治的迫害を受けているものに対して開かれている。」「彼らはドイツで政治亡命を申請することができる。それはジャーナリストだけに限られていない」と独紙ヴェルトに語りました。これを受けて、今後もトルコ人の亡命申請が増加するものと思われます。

政治的迫害を受けている人たちのためにドイツの法律では二つの方法があります。政治的迫害による亡命はドイツ基本法第16a条に規定されています。この条項の歴史的背景については拙ブログ「ドイツの難民受け入れ」を参照してください。この条項に基づく政治亡命認定率は近年かなり低いレベルで推移していました。連邦移住・難民局によれば、2015年度に基本法第16a条に基づいて庇護権を取得したのはおよそ2000人でした。

二つ目の方法は、ジュネーブ条約に基づく難民保護で、亡命手続き法第3条にその規定があります。2015年度、この条項に基づいて難民庇護権を取得したのは195,551人(140.915件)でした。詳しい統計は拙ブログ「ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計」を参照してください。

 

移民・難民排斥運動の高まりを受けて、ドイツ政府は祖国送還・国外退去措置の実施の強化を決定し、実際に実践し、成果を挙げているようで、今年は2003年以来の送還数を記録することになるようです。

2015年の国外退去実施数は20,888人でしたが、今年は9月までの時点ですでに19,914人になっており、年末までに26,500人になる見込みです。送還処分になった人の4分の3はバルカン(アルバニア、コソボ、セルビア、マケドニア、ボスニアヘルツェゴビナ、モンテネグロ)出身者で、14,529人でした。やはりこれらの国の情勢が安定していることと、受け入れ態勢がある程度整っていることが原因でしょう。

一番問題となっている北アフリカ出身の難民認定拒否された人たちは、パスポートなどの身分を証明する書類を持っていないことが多く(ドイツ入国前に故意に破棄したと目されています)、そのせいで出身国側が受け入れを承知しない事態が発生し、仕方なく滞在が容認されている状態です。その問題に関しては、今年いわゆるマグレブ諸国であるチュニジア、モロッコ、アルジェリアと再受け入れ協定が締結されたのですが、実務レベルでの問題が多く、例えばノルトライン・ヴェストファーレン州では1300人が送還予定されているところを6月時点でたったの20人の送還が実施されたくらい、遅々として進まないのが現状です。このグループは犯罪率が非常に高いため、ドイツにとっては最も国外退去してほしい人たちなのですが、そもそも受け入れ側のマグレブ諸国が「安全」なのかという疑問もあり、人道的に難しい問題となっています。彼らは「滞在容認」されているだけなので、労働許可が下りず、また社会統合のためのセミナーやコースが提供されることもないため、必然的に不法労働、麻薬取引、窃盗、強盗などの犯罪に走るようになりますし、既に犯罪組織がドイツ国内に形成されているため、新しく入国して滞在容認されたマグレブ諸国出身者たちは、生きていくためにその組織に引き込まれざるを得ない状況です。防犯の観点から言えば、彼らの滞在を合法化し、労働許可を与えて、社会統合のための訓練を受けさせることが最善なのですが、そうすると正規に難民認定された人たちと変わらない扱いになってしまい、一体何のための難民申請手続きだったのか、ということになってしまうので、行政はそのジレンマと真摯に向き合うことなく、せいぜい対症療法のような表面的な措置を取るに過ぎません。ただ「出ていけ」というのでは問題解決になりません。協定を結んでも実際にはそれらの国は出て行った国民の再受け入れに協力的ではないし、だからと言って関係のない第三国に彼らを押し付けるわけにはいかないからです。

難民問題は非常に複雑な問題であり、大衆受けするような簡単な解決策など不可能なのだ、ということを私たちは理解しなければならないと思います。

 

参照記事:

Süddeutsche Zeitung Online, 24. Oktober 2016, 15:08, "Viele türkische Diplomaten beantragen Asyl in Deutschland"
Die Welt, 08. November 2016, "Bundesregierung bietet verfolgten Türken Asyl an"
Süddeutsche Zeitung Online, 17. November 2016, 10:56, "Türkische Soldaten beantragen in Deutschland Asyl"
Zeit Online, 16. November 2016, 19:08, "Türkische Soldaten suchen Asyl in Deutschland"
Süddeutsche Zeitung Online, 18. November 2016, 07:28, "Immer mehr Türken suchen in Deutschland Asyl"

Rheinische Post Online, 10. Juni 2016, 06.35, "Mängel bei Rücknahme-Abkommen: Abschiebung nach Nordafrika nur auf dem Papier"


ドイツ:2015年度難民申請&認定数統計

ドイツ:難民の犯罪、右翼の犯罪

大晦日夜、ケルン中央駅における女性襲撃多発。性犯罪に関する刑法改正及び難民法の厳格化が議論に

ドイツの難民排斥運動

ドイツの難民受け入れ


ドイツ:世論調査(2016年11月11日)~次期ドイツ大統領は?

2016年11月11日 | 社会

10月のZDFの世論調査は、副業が忙しくて2回とも飛ばしてしまいましたが、今日発表されたポリートバロメーターは、また私見を挟みつつ以下にご紹介します。

次期ドイツ大統領

ドイツでも大統領交代が近づいています。ただ、ドイツの場合大統領は直接国民に選ばれるわけではなく、国会と州の国民代表者で構成される連邦集会で選出されます。役割は象徴的なものが主ですが、政治的な発言が制限されたりするようなことはなく、かなり自由度があります。任期は5年で、再選は1回のみ許されています(基本法第54条第2項)。

現職のガウク大統領の任期が来年2月で終了するため、現在候補者選定の最中です。現政権を担う連立与党CDU、CSU、SPD3党共通の候補者を結局立てることができなかったため、まだ候補者議論が続きそうです。

世論調査では、現外相のシュタインマイヤーが次期大統領として最も支持を集めていますが、半分は「分からない」と回答しています。

誰が一番大統領としていいと思いますか?:

シュタインマイヤー 25%
ランマート 4%
ガウク 4%
クレチュマン 2%
ケスマン 2%
その他 11%
分からない 50% 

 

誰が大統領になるか、あなたにとって重要ですか?:

大変重要 17%
重要 44%
それほど重要ではない 28%
全く重要ではない 10% 

 

私にとっては、大統領が誰になるかさほど重要ではないですね。誰が首相になるかという問題よりも明らかに重要性は低いです。ドイツ大統領はクリーンで落ち着いたイメージがあれば誰でもいいんじゃないかと思います。ドイツ大統領にはなんとなく「国父」的なイメージがあるので、女性だと座りが悪いような気がしますが、どっしりとしたイメージの女性候補者がいれば、それでもいいように思います。現在の閣僚や与野党の幹部の中にはそのような女性候補者は見当たらないのですけど。

連邦議会選挙2017

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

DU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 34%(+1)
SPD(ドイツ社会民主党)  22% (-1)
Linke(左翼政党) 10%(変化なし)
Grüne(緑の党) 13%(+1)
FDP (自由民主党) 5%(変化なし)
AfD(ドイツのための選択肢) 12%(変化なし) 
その他 4% (-1)

 

緑の党は連邦議会選挙前にどの党と連立するつもりなのか決めるべき?:

全体:

はい 51%
いいえ 40%

支持政党別「はい」と回答した割合:

CDU/CSU 56%
SPD 45%
左翼政党 54%
緑の党 35%
FDP 52%
AfD 51% 

 

緑の党は連邦議会選挙後どの政党と連立政権を担うべきですか?:

全体:

SPDと左翼政党 36%
CDU/CSU 48%
分からない 16%

緑の党支持者:

SPDと左翼政党 63%
CDU/CSU 32%
分からない 5%

勝った政党に数合わせで連立して政権に参画する、というかつてのFDPと似たような正当に見られがちな緑の党ですが、緑の党支持者の間では比較的強い左翼傾向が見られます。かつて国民政党と言われたCDU/CSUやSPDの弱体化が顕著で、第3、第4政党の緑の党やAfDとの差が縮まって来ていますし、緑の党も結党から36年経って、弱小政党とはもう言えない既成勢力になっていますので、選挙前に連立相手を決めることの重要性はより高まっていると言えます。

 

1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先推移:


政権満足度(スケールは+5から-5まで):0.9(前回比+0.3)


政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで)

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.3(↑)
  2. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、1.9 (→)
  3. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.7(→)
  4. アンゲラ・メルケル(首相)、1.6(↑)
  5. ケム・エツデミール(緑の党党首)、0.9(↓)
  6. グレゴル・ギジー(左翼政党)、0.9(→)
  7. トーマス・ドメジエール(内相)、0.7(↓)
  8. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.6(↑)
  9. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.5(↓)
  10. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.3(↓)


自動車通行料金


自動車通行料金はバイエルン州首相が提唱したもので、特にドイツを通り過ぎる外国籍自動車を狙って料金を取り立てる趣旨の物でした。それが差別的で、域内の自由な交通を妨げる、とEUが異議を唱えたので、もう議題に登らないと思っていたのですが、忘れたころにEUのゴーサインが出たようで、再び政治的アジェンダに登場。

自動車通行料金は、相応の自動税減税がある場合、賛成しますか?:

全体:

賛成 53%
反対 42%

支持政党別賛成の割合:

CDU/CSU 59%
SPD 51%
左翼政党 36%
緑の党 46%
FDP 55%
AfD 57% 

 

自動車通行料金が導入されれば、負担が重くなる?:

はい 64%
いいえ 31%
分からない 5% 

一応、今のところ、建前は国内の自動車使用者の負担が増えないことになっているのですが、それを真に受けている人は少ないようですね。

 

トルコのEU加盟交渉

トルコは、クーデター未遂事件以降、エルドアン大統領の粛清政策が続き、ついに政府に批判的な新聞社Cumheriyetの 編集長および数人のジャーナリストや親クルドの政党HDP(トルコ議会で59議席を占める第3政党)の政治家数人が先週逮捕されるに至り、ドイツ外務省がジャーナリストをはじめとする政府に批判的なトルコ人に政治亡命を提供するほど(ツァイトオンライン、2016.11.08「外務省:ドイツは迫害されているトルコ人に政治亡命を提供」参照)。今日はCumheriyetの発行人およびHDPのコンサルタント5人が逮捕(ハンデルスブラット、2016.11.11.「トルコ:親クルドのHDPコンサルタント5人逮捕」参照)。HDP議員らは先週から議会ボイコット。エルドアンはどうやらHDP解体を目指しているようです。こんな事態になって、トルコが民主主義と考える人はいません。EU加盟の前提条件の一つは民主主義的価値観の共有ですが、トルコにはもうその資格はありません。「政治亡命」をドイツ外務省が提供している時点で、「安全な国」という評価も無効になり、本来なら難民をそのような国に送還することは許されないのですが。。。

トルコとのEU加盟交渉は?:

中断 45%
様子見 46%
継続 7% 

 

トルコの状況:ドイツは批判を控えるべきですか?:

はい 12%
いいえ 83%
分からない 5% 

批判を控えるべき、というのはEU・トルコ難民協定の存続を危惧している人たちからも来ているのでしょうが、実質上ディールは崩壊しています。政治的迫害がある国へ難民を送還するのはジュネーブ条約に違反します。トルコはいかなる批判も受け付けず、EUへのビザなし入国権を要求してますが、とんでもないことです。

EU加盟交渉を続けるべき、あるいはトルコ政権批判を控えるべき、という人の中には、トルコの地政学的な重要性や、IS撲滅における軍事的重要性や、トルコとロシアの接近を警戒する向きもあるかと思いますが、だからと言って、エルドアンのやりたい放題を認めてしまっては、それこそヨーロッパのダブルスタンダードとの誹りを免れないことでしょう。

トルコに関しては色々苦言したいことがたくさんありますが、ここでは控えておきます。

 

環境政策

2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」が正式批准されました。ドイツではその取り組みの具体案が審議の最中です。

ドイツでは環境保護のために十分な対策が取られていますか?:

現在:

やりすぎ 9%
丁度良い 36%
足りない 52%

2014年9月:

やりすぎ 10%
丁度良い 38%
足りない 49% 

2年前に比べて「足りない」と感じる人が増えているようです。ガブリエル経済エネルギー相による改革(太陽光エネルギーの買取額の減額、風力発電設備建設助成金の削減など)の影響なのではないでしょうか。長らく環境保護はドイツのトレードマークにされてきましたが、現状はそれにふさわしい政策が取られていないと私も感じています。

 

経済状況

一般的な経済状況:

いい 58%
どちらとも言えない 36%
悪い 5% 


自分の経済状況:

いい 64%
どちらとも言えない 31%
悪い 5%

自分の経済状況を「いい」と判断している人が64%もいることに若干驚きを覚えているのですが、景気がいいことの表れなのか、多少の見栄が入った回答なのか。。。

 

ドイツの経済は今後…?:

よくなる 25%
変わらない 51%
悪くなる 20% 

8月よりは「よくなる」と回答した人が多くなっています(+7)。その分「悪くなる」と回答した人は減っていますね(-4)。

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.276人に対して2016年11月8日から10日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年11月25日ZDFで発表されます。

参照記事:

ZDF、2016.11.11., "Politbarometer"
Die Zeit online、2016.11.08., "Auswärtiges Amt: Deutschland bietet verfolgten Türken Asyl an"
Handelsblatt、2016.11.11., "Türkei: Fünf Berater von pro-kurdischer HDP festgenommen"


米大統領選挙について&トランプ氏へのメルケル首相の祝辞が秀逸な件

2016年11月10日 | 社会

ここ数日、他の話題はないのか、と思うくらいアメリカ大統領選がメディアを賑わわせていましたが、結果はどうあれ、終わってよかったと思ってます。

大統領選の結果予想

選挙期間中のトランプ氏はその数々の差別的な暴言で顰蹙を買っていましたし、メルケル首相のことも名指しで殆ど侮辱的な批判をしていました。だから、というわけでもないでしょうが、ニューヨークタイムズの世論調査同様、ドイツのメディアも「クリントン氏が接戦で勝つ」と予想してました。予想が思いっきり外れたので、現在はなぜそうなったのか分析に夢中になっているみたいですが、大外れだったのは何もイギリスのEU離脱国民投票が初めてだったわけでなく、以前からそれほど精度の高い予想がされていたわけではないので、いい加減予測方法の根本的見直しをするべきでしょう。希望的観測も交じっていたかもしれませんね。

そんな中で、30年来米大統領選の結果予想を外したことがないというアメリカン大学史学教授アラン・ライトマンは殆ど神々しいくらいですね( ´∀` )
彼のトランプが勝利するだろうという予想は9月23日にワシントンポストで発表されてました。 ライトマン氏は30年以上前にホワイトハウスに関する13の鍵」という予想モデルを作り、以来大統領選の結果予想は100%正解だったそうで、今回もその記録を更新することになりました。
予想方法はかなり単純で、この13の問いの答えに「あてはまる(True)」が多ければ、現政権を担っている政党の大統領候補者が勝利し、「あてはまらない(False)」が多ければ政権交代になる、ということのようです。

 

ソーシャルボットの活躍

南カリフォルニア大学情報科学研究所のAlessandro Bessi と Emilio Ferraraの研究では、2016年9月16日から10月21日までの米大統領選に関するツイートが2070万件(約280万のアカウントから)収集され、分析された結果、全ツイートの約20%が「ソーシャルボット」あるいは「ソーシャルメディアボット」と呼ばれるAI(人工知能)のロボットによって自動生産されたもので、ソーシャルボットのフェイクアカウントの数は少なくとも40万に上るそうです。

ソーシャルボットによるツイートの75%はトランプについての肯定的ツイートで、残りの25%はほぼクリントン側に属するという。ソーシャルボットに使われているAIは非常に高度になっており、専門家でも本物の人間のツイートと区別するのが難しくなってきているようです。
こうしたソーシャルボットによって大量生産されたツイートがどれだけ世論に影響を与えたかについてはまだ不明のようですが、攪乱作用は十分にあるのではないでしょうか。

ツイートの数が多いとか、フォロワーが多いという理由で、その内容がメインストリームのように考えてしまう浅はかな考えの人は少なくないでしょうし、情報を精査できず、長い文章を読む忍耐力もなく、従って残念な判断能力しかない人たちがソーシャルボットに影響される可能性も少なくないのではないかと恐れています。

ドイツでの似たような研究では、主に右翼シーンやドイツのための選択肢(AfD)支援にソーシャルボットが投入されているとのことで、ツイッターやフェースブックのソーシャルボットによるフェイクアカウント同士の繋がり(お互いに「いいね」を押し合う)を取り除くと、密なネットワークに見えた右翼シーンが骸骨のようなスカスカなネットワークもどきになってしまうらしいです。

10月21日にAfDは堂々と「来年の連邦議会選挙に向けてソーシャルボットを投入し、選挙を盛り上がらせる」と公言しました(例えばツァイトオンライン、2016.10.21付けの記事「AfDは選挙運動にソーシャルボット投入」など)。他政党はそのような情報操作を否定的に見ています。

何というか、怖い世の中になったものです。私は元々ツイートだけの情報を鵜呑みにしたりせず、必ず裏を取ろうと、いろいろ調べますので、ソーシャルボットでいくらツイートやFB投稿が増えても騙されることはないでしょうが。。。

 

トランプが大統領になることを怖れるヨーロッパ

10月20日から25日に行われたYouGovによる調査で、ヨーロッパ人のトランプに対する恐れが浮き彫りになりました。

下のグラフはDe.Statistaというドイツの統計サイトからの借用です。

トランプあるいはクリントンが大統領になることを怖れている割合:

ドイツ:トランプ65%、クリントン13%
デンマーク:トランプ62%、クリントン4%
スウェーデン:トランプ59%、クリントン10%
イギリス:トランプ58%、クリントン9%
フランス:トランプ52%、クリントン5%
ノルウェー:トランプ50%、クリントン7%
フィンランド:トランプ48%、クリントン5%

ドイツでは、トランプに対する恐れもクリントンに対する恐れもとび抜けて大きいようですね。何かと心配性な国民性がここにも反映されているのかもしれません。

 

メルケル首相のトランプへの祝辞

ドイツの報道も、最後まで「クリントンがぎりぎりで勝つだろう」という予想を出しているところが多かったことはすでに述べましたが、そのためか選挙結果が出た直後はショックで固まっている政治家が多かったようです。やたらとトランプ氏をこき下ろし、将来の不安を煽るような発言をする(例えばジグマー・ガブリエル経済エネルギー相など)輩が少なくない中で、メルケル首相の祝辞は光っていました。

恐らくトランプにとってはヨーロッパの国のどの首相が何を言おうがたいして興味もないことでしょうが、私が「うまい」と思ったのは、彼女がトランプに名指しでかなり侮辱的なことを言われていたにもかかわらず、それには直接的に触れず、礼儀正しく当選に対する祝辞を述べたことと、それと同時にトランプが選挙運動中に散々暴言を吐いて否定してきた価値観を持ち出して、これをベースに協力関係を築くと宣言していること ―というかどちらかというと「呼びかけ」や「お願い」的なアピールとも取れますが― そしてそれによって彼の選挙中の暴言を間接的に全否定していることです。

以下祝辞のビデオ(全文)の書き出し:

"Meine Damen und Herren,
ich gratuliere dem Gewinner der Präsidentschaftswahl der Vereinigten Staaten von Amerika, Donald Trump, zu seinem Wahlsieg.

Die Vereinigten Staaten von Amerika sind eine alte und ehrwürdige Demokratie. Der Wahlkampf in diesem Jahr war ein besonderer mit zum Teil schwer erträglicher Konfrontation. Ich habe also, wie wohl die allermeisten von Ihnen, den Wahlausgang mit besonderer Spannung entgegengesehen. Wen das amerikanische Volk in freien und fairen Wahlen zu seinem Präsidenten wählt, das hat Bedeutung weit über die USA hinaus.

Für uns Deutsche gilt: mit keinem Land außerhalb der europäischen Union haben wir eine tiefere Verbindung als mit den Vereinigten Staaten von Amerika. Wer dieses große Land regiert, mit seiner gewaltigen wirtschaftlichen Stärke, seinem militärischen Potential, seiner kulturellen Prägekraft, der trägt die Verantwortung, die beinah überall auf der Welt zu spüren ist.

Die Amerikanerinnen und Amerikaner haben entschieden, dass diese Verantwortung in den nächsten vier Jahren Donald Trump tragen soll.

Deutschland und Amerika sind durch gemeinsame Werte verbunden: Demokratie, Freiheit, den Respekt vor dem Recht und der Würde des Menschen unabhängig von Herkunft, Hautfarbe, Religion, Geschlecht, sexueller Orientierung oder politischer Einstellung. Auf der Basis dieser Werte biete ich dem künftigen Präsitenten der Vereinigten Staaten von Amerika, Donald Trump, eine enge Zusammenarbeit an. Die Partnerschaft mit den USA ist und bleibt ein Grundstein der deutschen Außenpolitik, damit wir die großen Herausforderungen unserer Zeit bewältigen können: das Streben nach dem wirtschaftlichen und sozialen Wohlergehen, das Bemühen um eine vorausschauende Klimapolitik, den Kampf gegen den Terrorismus, Armut, Hunger und Krankheiten, den Einsatz für Frieden und Freiheit in Deutschland, in Europa und in der Welt.
Ich danke Ihnen."

以下日本語訳(拙訳です。カッコ内は私の補足です):

「ご来場の皆様、

私はアメリカ合衆国の大統領選の勝者であるドナルド・トランプに当選のお祝いを申し上げます。

アメリカ合衆国は古くそして敬うべき民主主義国家です。今年の選挙戦は、部分的に耐えがたい対立を含む特別なものでした。私は、恐らくあなた方の大多数と同様に選挙の行方を緊張しながら見守っていました。アメリカ国民が自由で公平な選挙で誰を大統領に選ぶのか、それにはアメリカ国境を大きく超えて意味があります。

私たちドイツ人にとって、アメリカ合衆国より深いつながりを持つEU外の国はありません。この大国をその巨大な経済力、軍事力、文化的影響力で統治する者は、ほぼ世界中で感じることのできる責任を負っています。

アメリカ人たちはその責任を次の四年間ドナルド・トランプが負うことを選びました。

ドイツとアメリカは共通の価値観で結ばれています:(その価値観とは)民主主義、自由、そして出身、肌の色、宗教、性別、性的指向や政治的姿勢にかかわりなく人間の権利と尊厳を尊重することです。この価値観を基礎に私は未来のアメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプに緊密な協力する用意があります。私たちの時代の大きな課題を克服するために、USAとのパートナーシップはドイツ外交の礎石であり、またあり続けます:(その課題とは)経済的および社会的な繁栄の追求、先を見越した環境政策、テロリズム、貧困、飢餓、病気との戦い、ドイツ、ヨーロッパそして世界中における平和と自由のための貢献(です)。

(ご清聴)ありがとうございました。」

2分29秒の短い演説の中で彼女個人の考え方や感じ方などを極力抑え、独米協力のベースとは何か、そして成すべき課題とは何かのみをきっちりと詰め込み(トランプの否定する「環境政策」も盛り込まれている)、余計な期待など述べていません。期待してないからなのかもしれませんけど。何はともあれ「根本的価値観が共有されないなら独米の協力関係はない」と言外に警告・牽制しているところはなかなか尊敬に値すると思います。

トランプ勝利の影響

ドナルド・トランプは政治的に未知数のため、様々な憶測を呼び、NATOの崩壊とか欧米関係の崩壊などまことしやかに噂されていますが、米国内はともかく、外交的にはトランプと言えどそうそう異端な政策は取れないのではないかと私は結構楽観しています。そもそも同盟などの国と国の契約は大統領や首相が変わったからと言って突然反故にできるものではありませんから。

取りあえず彼の公約である「自由貿易協定の類の見直し」は、TPPやCETA・TTIPに反対する私には好都合です。日本はTPP批准先走って、何を目論んでいるのやら理解不能です。

トランプ勝利の悪影響として現実味があるのはやはりヨーロッパでの大衆迎合主義が勢いづくことでしょうか。フランスの右翼政党フロン・ナシオナール(「国民戦線」)党首のル・ペンなどはまるで自分の勝利であるかのようにトランプの勝利を喜んでいましたし。近い所ではオーストリアで大統領選のやり直しが12月4日に予定されていますが、トランプ勝利の波に乗って(?)右翼ポピュリストのノーベルト・ホーファーが当選する可能性があります。

ドイツ連邦議会の選挙は来年の9月ですので、そこまでトランプブームが及ぶかどうかはちょっと疑問ですが、ドイツのための選択肢(AfD)が少なくとも10%の得票率を得ることはまず確実でしょう。かつての国民政党の一つであった社会民主党(SPD)と並ぶくらい(20%)になるかどうかは現時点では予測不能です。

ただ、ドイツではナチスの全権委任状などの歴史的教訓から、立憲主義の土台と法治国家の枠組みがかなり強固に作られており、日本のようにふにゃふにゃと解釈を変えたりして違憲な法律をごり押しするようなことは不可能ですので、AfDがいくら議席を獲得しても、圧倒的単独多数にでもならない限り改憲も無理、違憲な法律も不可能なため、根本的あるいは革命的な変化は起こせないはずです。なので、考えられる悪影響は社会の分断と犯罪の増加くらいに留まるのではないかと思います。それでも十分に悪いですけどね。


参照記事:

The Washington Post, 2016.09.23, "Trump is headed for a win, says professor who has predicted 30 years of presidential outcomes correctly"
firstmonday.org, vol. 21, No. 11; Alessandro Bessi and Emilio Ferrara: "Social bots disort the 2016 U.S. presidential election online discussion
Die Zeit online, 2016.10.21,  "AfD will Social Bots im Wahlkampf einsetzen"
Statista, 2016.11.07, "US Wahl: Europäer fürchten Präsident Trump"
Bundesregierung Mediathek, 2016.11.09, "Statement der Kanzlerin zum Ausgang der US-Wahl"
 


CETA調印。しかし抵抗は無駄ではない!

2016年11月02日 | 社会

先週はカナダとEUの自由貿易協定CETA(総括的経済貿易協定)がベルギーの一地方議会であるワロン地方議会の反対によって調印が遅れる事態となり、「もはやこれまでか?!」などとメディアでは大騒ぎになっておりましたが、CETA反対者は逆にワロン人応援署名を集めるなどして、ワロン人地方議会を、ローマ帝国に最後まで屈することなく抵抗するガリア人集落アストリックスとオベリックスのごとく英雄視していました。署名は環境保護団体ブントによれば、5万筆近く集まったそうです。

CETA反対の立場から言えば、「残念ながら」CETAは3日遅れで10月30日に調印されました。ところが、ワロン地方議会は「賛成」に回る条件をいくつか出しており、それが実に秀逸でした。

まず一番問題となっている投資家保護条項(ISD条項)は、CETAの仮運用機関において適用されないこと、及び、欧州裁判所によってこの条項が適法であるか否かを審議・判断されることです。前者に関してはドイツの憲法裁判所も調印の条件としていましたが、後者の要求は新展開と言えます。

それ以外のベルギーの特記事項は、自国産業(特に農業)の存続に関することで、存続が危うくなると判断される場合には保護条項が適用されることになっています。

その他、CETA反対論者たちを手懐けるために、特記事項として、社会保障や環境保護スタンダードを改悪してはならないとか、多国籍企業が都合の悪い法律の成立を阻止しようとしたり、自治体に例えば水道供給の民営化を強要してはならない、などが盛り込まれています。だから「心配いらない」というわけなのですが。。。

さて、CETA調印後は、欧州議会で審議・承認され次第、すぐに(ISD条項を除く)仮運用となりますが、実はこれからが長い道のりだったりします。加盟28か国でそれぞれに批准しなければいけないからです。正確には28国の議会及び16の地方議会の批准が必要となります。各国の批准は来年になると見られています。

環境保護団体ブントによれば、ベルリン州ではすでに連邦参議院でCETAに反対することを公表しています。バイエルン州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、ノルトライン・ヴェストファーレン州では反CETAの住民請願が開始されました。

CETAの反対運動はドイツが一番盛んですが、他の国にもかなりの抵抗勢力があるため、CETAが批准マラソンを生き延びられない可能性は低くないと見られていますし、私もそのように希望します。

ISD条項が完全に撤廃され、企業は須らく各国の法に従うよう強要され、また、社会保障や消費者保護、環境保護が「特記事項」に反して改悪された場合の罰則なのが明確に規定されれば、条約を批准しても大丈夫かな、とは思いますが、もう一つの懸念事項である「自国産業の保護」は自由貿易の建前にはそぐわないので、匙加減が難しいところです。

いずれにせよ、期待される「経済効果」とやらは結局大企業の懐に収まり、EU内の特に南欧の若年失業問題はこれっぽちも解決されず、格差が広がるのに拍車がかかることは請け合いです。

それは基本的に日本で今強行採決されようとしているTPPにも言えることだと思います。アメリカが調印を躊躇しているのに、なぜ日本が急ぐ必要があるのか意味不明ですが、それは安倍政権下ではむしろ「普通」なので、これ以上ここでは何も言いません。

参照記事:

フランクフルター・アルゲマイネ、2016.10.30、「CETAは調印された
ターゲスシャウ、2016.10.31、「調印にもかかわらず、CETAのための障害物競走は今から始まる」 
環境保護団体ブント、「メルシー、ワロン!」 

 


CETA:やっぱり加盟各国の国会で審議・批准 ー 欧州委員会の妥協

CETA ~いつから反対者が悪者になった?

 


CETA ~いつから反対者が悪者になった?

2016年10月24日 | 社会

CETAとはComprehensive Economic and Trade Agreement(総括的経済貿易協定)というEUとカナダの自由貿易条約で、かねてより、そのISD条項が民主主義の根幹を揺るがすと問題にされてきました。問題の根はTPPと同じです。たとえそれが、「仲裁裁判所」から「国際貿易裁判所」に名称が変更されたとしても、そもそも企業が国家の定める法律・規制を経済活動の障壁として裁判に訴えることができ、勝訴すれば賠償金を受け取ることができるというその可能性の存在自体が問題なので、本質的には何も解決されていないのです。多国籍企業に支払われる賠償金はもちろん敗訴した国の納税者が払うことになるわけです。つまり、国民が議会によって決めた、例えば環境規制とか、原材料表示義務などの法律が、その国で商売しようとする外国の多国籍企業の障害になるからという理由で、その規制によって失う利益オポチュニティーを、その規制を決めた国民が税金で補填することになるわけです。どう考えてもおかしいと思いませんか?カナダの企業がEU内で活動したいならば、EUの法律その他の規制にただ従うべきでしょう?関税が貿易障壁だから、それを下げろ、という要求とは全く次元の違う問題で、民主主義に基づく法制度そのものを揺るがすレベルのものです。

EU貿易総局長セシラ・マルムストレームは7月5日、これまでの欧州委員会の方針を曲げて、CETAを「混合条約」扱いにし、加盟各国の議会で審議することを認めました。それを受けて各国議会で審議され、ドイツでも先日連邦憲法裁判所が「解釈説明および加盟国ごとの追加記録をもって留保案件を解決すること」を条件に「一先ず」ゴーサインを出したところです。そして反対者はベルギーのワロン及びブリュッセル地方議会を残すのみとなりました。ベルギー政府は地方議会の承諾なしに条約に調印することができないので、月曜日までにワロン地方議会の説得に当たる時間を得ていたのですが、これまで7年間交渉にかかわってきた人たちや各国の経済相などから、並々ならぬプレッシャーをかけられる中、今日「ベルギーは調印できない」とミシェル首相が発表したので、「木曜に予定されているEU・カナダサミットはキャンセルか?」「CETAはまだ救えるか?」等と大騒ぎになっています。 

何としてもCETAを成立させたい政治家たちの言い分は、「カナダとの貿易条約すら調印に持っていけないなど、EUの機動力がないことの証明になってしまい、国際的に恥をかく」「ワロンはEUを人質に取った」などというようなものです。人によってもちろん若干のニュアンスの違いはありますが、とにかく「調印ありき」が大前提で、それを邪魔するワロン人たちがまるで物わかりの悪いバカ者のような扱いです。それが、ここ2・3日、私がテレビのニュースや主要メディアのオンラインニュースから受けた印象です。

「ちょっと待て」と言いたいです。7月に「CETAはEUレベルで締結・施行可能」という見解を強調した欧州委員会委員長ジャン・クロード・ユンカーを非民主的とやり玉に挙げ、何が何でも各国議会の承認を得るよう要求したのはあなたたちではなかったか?それで、ワロン人がノーと言ったから、今度はそちらを批判し、EUの機動力云々と脅しをかけるのはお門違いというものです。それなら最初からユンカー委員長の言うとおり、EUレベルで、欧州委員会及び欧州議会のみで条約締結すればよかったのです。でもそこでは民主主義の建前を振りかざし、今回はワロン議会の民主主義的な決議を全く尊重せずに、脅しすかして「イエス」と言わせようとする、えげつないダブルスタンダードです。

しかも、報道上なんだかすっかり無きものにされてしまっていますが、依然としてCETAとTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ条約)に反対する小さくない勢力は全欧で300万筆以上の反対署名を10月6日までに集めました(ヨーロッパ市民イニシアチブの主催団体の一つであるコンパクトのサイトより)。ワロン地方議会はたまたま議員たちが民衆に近いスタンスを持っていたから、「反対」多数となったのでしょう。ドイツでは明らかに民衆の声と議会の決定に乖離が生じています。CETAとTTIPの反対運動はドイツが最も盛んなのです。それなのに、ドイツ連邦経済・エネルギー相ジグマー・ガブリエルは、「TTIPはどうなるか分からないが、交渉の終わっているCETAだけは調印すべきだ」という謎の主張をして、社会民主党(SPD)党内からも顰蹙を買っています。「謎」なのは、根本的な条約の非民主性はどちらにも共通することなのに、交渉の進捗状況のみで違う扱いをしている根拠が不明だからです。ISD条項を含む限り、相手国がどこであろうと民主主義の危機であることに違いはないのです。それなのに、「何この空気!?」と非常に不快な違和感を感じる報道ばかりです。全欧から集まった300万筆以上の反対署名を無視し、あたかも問題点・批判点は全て解決されたかのように喧伝し、いまだに反対する人たちが、―現在はワロン地方議会が矢面に立っていますが―頑固で物わかりの悪い人間であるかのような議論の展開があちこちに散見されます。

ベルギーでは、社会保障予算が削られるなどの政策で社会的緊張が高まっており、ゼネストが頻繁に行われていたところなので、社会主義陣営の態度の硬化が顕著になっており、そのせいでCETAに関する妥協も受け付けなかったのではないかと、少なくともドイツ左翼系メディアTAZは報道しています。ツァイトオンラインは、ワロン地域の失業率の高さや、地元農業へのデメリットや消費者・環境保護スタンダードの低下が心配されていることを指摘していますが、その心配が正当なものであることは一切認めていないように見受けられます。正面から否定はしていませんが、肩を持つこともしていないので。

ワロン側は交渉のやり直しによって、いくつかの条文の変更を要求しましたが、EU側はそれを完全却下し、「条文は一切変更しない」としており、問題点は解釈説明や追加記録で解決すべしという態度を崩していません。

果たしてそのような条件つき承認が後に歯止めの役割を果たせるのか大いに疑問です。一度調印されれば、後はなし崩し的に新自由主義が一般市民の福祉を蹂躙していくのではないかと不安を覚えずにいられません。

参照記事:

TAZ(ドイツの左翼系新聞)、2016.10.24、「ベルギーはCETAサミットをおじゃんに
ツァイトオンライン、2016.10.24、「EUはCETA救済がまだ可能との見解」 
その他さまざまな2016.10.21-24間のニュース 


CETA:やっぱり加盟各国の国会で審議・批准 ー 欧州委員会の妥協

英EU離脱から何も学ばないEU—CETA&TTIP及びグリホサート

 


ドイツ:「帝国市民(極右)」とは?~警察官銃殺事件

2016年10月20日 | 社会

これまで極右運動の一つである「帝国市民(Reichsbürger)」がニュースなどで大きく取り上げられることがなかったので、知らなかったのですが、こういう奇妙な動きがドイツにはあるようです。

ニュースで「帝国市民」が採り沙汰されたのは、先日10月19日に、ニュルンベルク近郊のゲオルゲンスグミュント(Georgensgmünd)で、「帝国市民」を自称する男性ヴォルフガング・P(49)が、家宅捜査に入ろうとした地方警察特別出動コマンド(Spezialeinsatzkommando=SEK)に銃撃を開始し、警官4人が負傷、うち一人が重体という事件が発生したためでした。この重体となった警官は、今日10月20日にお亡くなりになったそうです。

家宅捜査の理由は、この男が所持していた31丁の銃器を没収するためでした。これらの武器は、彼が武器所有証で合法的に入手したものでしたが、彼の適性を疑った当局が許可を取り消したので、没収措置が取られることになりました。

「帝国市民」である彼はドイツ連邦共和国を認知せず、今年の1月には彼の身分証明書及びドイツ国籍を放棄しようとしたようです。住民票は抜き、自動車税も払わず、彼の土地に「独自の国家」を創設した、とYouTubeのビデオで宣言しています。庭には15世紀のフリートリヒ3世の紋章に似た国家紋章の旗がなびいているそうで、割と凝っています。彼はゲオルゲンスグミュント市当局に、そのおかしな価値観と行動で知られてはいましたが、「危険人物」とは見なされていなかったとのことです。彼はペギーダ(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者、ドイツ語: Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes)ニュルンベルク支部の演説者兼主催者として知られている人物ともフェースブック上でつながりがあり、そういうシーンでビデオ投稿などしていたようです。


さて、「帝国市民」運動そのものについてですが、1980年代に登場した、あまり統一性のない運動で、共通する主張は、民主主義の否定、ドイツ帝国(第三帝国)の存続、ホロコーストの否定です。1933年のドイツ帝国憲法は正式に廃止されていないとし、ドイツ基本法は無効であり、その観点から現ドイツ連邦共和国は彼らにとって違法な存在である、ということらしいです。ドイツ帝国は合法的に存続しており、現在のところ国家権力を有しない暫定政府がある、とのことです。

 今回のゲオルゲンスグミュントの事件を受けて、トーマス・ドメジエール内相は「帝国市民」の評価をきちんと再考する必要があると発言しました。具体的には憲法擁護庁による監視を強化する方向のようです。左翼政党は、数年来帝国市民運動の危険性が過小評価されてきたと指摘しています。ただ、あまり組織立っていないので、組織としての危険性は論じるのが難しく、「たまたま過激化した個人」による危険性とするのが妥当かどうか判断に迷うところでもあります。

8月にもザクセン・アンハルト州で自称「帝国市民」が発砲し、警察官二人が負傷した事件がありました。しかし、この犯人とゲオルゲンスグミュントのPとは直接なつながりはありません。

数年前から、「帝国政府」あるいは「帝国市民」を名乗る者から各地の役所に抗議の手紙が頻繁に届くようになり、いくつかの州憲法擁護庁でこのような市民の取り扱い指示書が作成されました。その指示書の基本姿勢は「無視」。ドイツ連邦共和国の合法性を否定し、それを理由に役所に(例えば税金関連で)抗議の申し立てをする市民に対しては、議論に応じず、即座に抗議を却下すべし、というスタンスのようです。いかにもお役所的対応ですね。

因みに憲法擁護庁の推定では、「帝国市民」は1,000人もいないようです。

州議会選挙で次々勝利を収めて驀進中の右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は公式には「帝国市民」から距離を置いていますが、地方自治体のAfD議員の何人かは明らかに帝国市民運動シーンとのつながりを持っていた、または、いることが判明しています。AfDはこれらの議員たちを離党させて、又は離党するよう動いています。しかしながら、AfD自体、結党間もなく急成長した有象無象の右翼連合と言えるので、各州で12-21%の得票率で州議会入りしたとはいえ、今後政党として「市民権」を得ていくためには、かなり大規模な内部浄化が必要なのではないでしょうか。その後にどれだけ議員が残るのか見ものですね。

参照記事:

ZDFホイテ、2019.10.19、「「帝国市民」銃撃 警官一人重体」 
ZDFホイテ、2019.10.20、「「帝国市民」P:波乱の道のり」 
シュピーゲルオンライン、2016.10.20、「いわゆる帝国市民:過小評価されてきた危険」 

 

2016年10月21日のアップデート

ザクセン・アンハルト州では警官4人に対して、「帝国市民」運動に参加している疑いで懲戒手続きが進行中。3人に対しては既に停職処分が決定。
バイエルン州でも「帝国市民」運動シンパの疑いのある警官4人が見つかり、1人は年初に、一人は木曜日(10月20日)に停職処分となりました。ほかの二人に対してはまだ手続きが終了していないとのこと。

本来、国・国家機関に忠誠を誓わなければならない公務員が、国家としてのドイツ連邦共和国を否定する「帝国市民」運動に関与していた当時実は、かなり波紋を広げてきます。

参照記事:南ドイツ新聞、2016.10.21、「懲戒手続き:「帝国市民」はザクセン・アンハルト州警察にも