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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:持たざる者ほど多い税等負担~ベルテルスマン財団調査

2017年08月17日 | 社会

今日公表されたベルテルスマン財団の税負担に関する調査結果が衝撃的です。

調査は、ベルテルスマン財団の委託により欧州経済研究センター(ZEW)が、より多く働くことがどのくらいの手取り収入増加に繋がるかを各年収クラス、家計形態ごとに調べたものです。

結果を要約すれば「低収入の人ほど、より多く働いても家計の収入増につながらない」という理不尽なものです。

まずは限界収入1ユーロ、つまり通常収入を超えて得た1ユーロにどのような課税などの負担があるかを表す指標が【実効限界負担】(Effektive Grenzbelastung)です。

上のグラフを見ると、福祉分野の支援(住宅支援、児童手当など)減額・打ち切り、所得税、社会保険保険料で1ユーロのうちの半分強を占めています。

ただこれはあくまでも平均的な負担を示すもので、元の収入及び家計形態によってその割合は違ってきます。

シングル家計で年収が1万7千ユーロ(約219万円)であれば、1ユーロ余計に稼いでも手取り額は増えません。それに対して年収が7万5千ユーロ(約966万円)であれば、余計に稼いだ1ユーロのうち56セントが手元に残ることになります。

夫婦で子供が二人の家系においては、家計年収が4万ユーロ(約515万円)であれば、余計に稼いだ1ユーロのうち56セント、家計年収が9万ユーロ(約1,160万円)であれば、66セント手元に残ることになります。

場合によっては限界負担が120%、すなわち余計に稼いだ1ユーロに対して税等の負担が1ユーロ20セントになり、20セントのマイナス収入になることもあります。これはドイツで就労能力のある失業者に給付される生活保護である第二種失業手当(俗に「ハルツ4」)が、労働収入に応じて減額される場合などに起こるようです。

シングルマザー家計でも状況は厳しく、年収23,800ユーロ(約306万7千円)までは限界負担が一貫して60%で、年収4万千ユーロ(約528万円)あたりから漸く限界負担が下がり始めます。

この調査からの提言は、児童手当、住宅手当、失業手当などの社会保障的給付金の相互調整を行い、より多く働こうとするモチベーションを上げるべきだということです。

やはりそこが一番喫緊に改善されるべきところでしょうね。

累進課税自体にももちろん改善の余地があるので、9月の連邦議会選挙を目前に控えた選挙活動の中でも様々な提案がなされてますが、連立政府は4年も時間があったにもかかわらず、その問題を放置し、なんで選挙前になって今更のようにそこに改善の余地があることに気付いたのか疑問に思う限りです。

調査報告はこちら

参照記事:

Zeit Online, "Mehrarbeit lohnt sich häufig nicht", 17. August 2017
Bertelsmann Stiftung - Aktuelle Meldung, "Wer wenig hat, wird am stärksten belastet: Steuer- und Sozialsystem benachteiligt Geringverdiener", 17. August 2017


ドイツ:5人に1人の子供が継続的に貧困 ベルテルスマン財団調査報告(2017年10月23日)

ドイツ:最新貧困統計(2016年度)

ドイツ:貧富の格差はヨーロッパ最大


ドイツ:原発事業者4社、本日(2017年7月3日)核廃棄処理基金へ240億ユーロ振り込み

2017年07月03日 | 社会

ドイツでは核廃棄物処理に関する原発事業者と国の役割分担とその資金調達方法が今年1月にあまり公の注意を惹くことなく最終決定しました。その法的根拠となる廃棄処理基金法(Entsorgungsfondsgesetz)、正式名称「原子力廃棄処理資金調達のための基金設立に関する法律」(Gesetz zur Errichtung eines Fonds zur Finanzierung der kerntechnischen Entsorgung)といい、その第7条第2項に基づいて、本日、RWE、エーオン、EnBW、ヴァッテンファルの原発事業者4社が約240億ユーロを核廃棄処理基金へ振り込みました。

2017年1月27日版では、この振り込みが7月1日に実行されることが定められており、後になって、その日が土曜日であることが判明したので、慌てて(?)振り込みに関する追加政令を定めて、月曜日、すなわち7月3日に振り込んでもいいことになりました。ただし、利子の計算には、その金額が7月1日土曜日に入金されたかのように扱うことになっているので、欧州中央銀行(ECB)の定めるマイナス金利0.4%が1日から3日の間理論的にかけられることになり、526,000ユーロの利子をECBに払うことになるのですが、実際には入金がないので、その扱いにはまだ不明のところがあるようです。

また240億ユーロという金額の振り込み自体にも金融技術的な問題がありした。というのは、振り込みに使用されるソフトウエアが小数点以下2桁を含めてトータル11桁しか扱えないからです。このため原発事業者らは9億9900万ユーロずつに小分けして振り込む羽目になったそうです。そういう奇妙な手間があったにせよ、原発事業者4社は、たったそれだけの金額で済んで、笑いが止まらないと言ったところでしょう。これを払うことで、核廃棄処理の責任の一切が国へ移譲されることになるのですから。

この振込金額は廃棄処理基金法の附記2に原発ごとに定められており、総額173億8900万ユーロにリスクプレミアム35.47%を加えて、235億5600万ユーロとなっています。これは概ね去年の原子力委員会の採択(拙ブログ「ドイツの脱原発、核廃棄物の処理費用は結局納税者持ち~原子力委員会の提案」を参照してください)に沿ったものです。

振込金額の内訳は:

エーオン 約100億ユーロ
RWE 68億ユーロ
EnBW 48億ユーロ
ヴァッテンファル 18億ユーロ

一括払いにすることで、原発事業者4社は、分割払いの際の利子年間4.58%を節約することになります。

各原発の廃炉・解体は、原発事業者4社が責任を持って行うことになっています。2022年までにドイツ国内の原発が全て停止することになっていますが、廃炉・解体にかかる期間が最終的にどのくらいになるのかは誰にもわからないし、そこから出る核廃棄物の最終処理方法などはまるで決まっていないため、その処理にかかる費用がどのくらいになるのかは全く予測不能です。

核廃棄処理基金の運営に関しても不明な点がまだ多い状態です。「脱原発」の優等生のように称賛されるドイツですが、その脱原発の行方はまだまだ不透明と言わざるを得ません。

参照記事:

ZDF heute, Atomkonzerne überweisen 24 Milliarden Euro, 04.07.2017
Die Welt, Das sind die dunklen Seiten des deutschen Atomfonds, 03.07.2017

出典法律:
BFE(ドイツ連邦原子力廃棄処理局), Entsorgungsfondsgesetz, 27.01.2017
Bundesregierung(ドイツ連邦政府広報), GESETZ IN KRAFT GETRETEN: Finanzierung des Atomausstiegs sichern, 19.06.2017


訃報:ヘルムート・コール元独首相

2017年06月17日 | 社会

昨日のニュースでヘルムート・コール元独首相が87歳で亡くなったことが報道され、少なからず驚きました。なぜ驚いたかと言えば、彼よりも一時代古いヘルムート・シュミット元独首相がついこの前、と言っても2015年11月のことですが、亡くなったばかりだったので、コール元首相が亡くなるような年齢だという気がしていなかったからです。でもよく考えてみれば、享年96歳だったヘルムート・シュミットが長生きだっただけなのですね。

ヘルムート・コールと共に東西ドイツ統一の立役者だったハンス・ディートリヒ・ゲンシャー元外相は去年の4月に89歳で亡くなっていますので、同時代の政治家であるヘルムート・コールもいつ亡くなってもおかしくない年齢ではあった、と後から一人納得した次第です。

ヘルムート・コールは、他の亡くなった二人の政治家とは違って、全くシンパシーを感じられない政治家でした。確かに1982年から1998年までの16年間ドイツ首相を務め、1980年代と90年代のドイツとヨーロッパに大なり小なりの影響を与え続けた政治家であることは事実ですが、元東独の住民に与えた希望と失望、闇献金スキャンダル、ゆるぎない権力維持ネットワークを築いたことなどを考えると、「偉大な政治家」という尊称を贈るのにかなり躊躇せざるを得ません。恐らく私自身が1990年から1998年の8年間、彼の政権下のドイツを直に体験していることが大きいのだろうと思います。特に4期目の1994-1998年は、肥満の症状と下膨れの顔が顕著になり、「ビルネ(Birne、西洋梨)」と揶揄され、「いい加減あれを見たくない」という嫌悪感が広がっていた時代の空気を吸っていたので、いまだに「コール・イコール・ビルネ」、「コール・イコール・闇献金」などのネガティブなイメージが強く、亡くなったからと言って褒め称える気には到底なれないわけです。

まあ、そういうイメージはともかく「大物政治家」であったことは事実で、歴史に「東西ドイツ統一首相」として名を遺すことは確実です。むしろそのために、自分の任期中に統一を急いだのではないかという噂がまことしやかに流れていたものです。まあ、とにかく少し経歴を記録しておくくらいの価値はあると言えるでしょう。以下の経歴は主にドイツ語版ウイキペディアのヘルムート・コールの記事を参照したものです。

フルネームはヘルムート・ヨーゼフ・ミヒャエル・コール(Helmut Josef Michael Kohl)といい、1930年4月3日に、化学コンツェルンBASFの本拠地として知られるルートヴィヒハーフェン・アム・ライン(ラインラント・プファルツ州)で生まれ、保守的なカトリック教徒の家庭で育ちました。第2次世界大戦中は子供の疎開措置の一環でエルバッハ(Erbach)、後にベルヒテスガーデン(Berchtesgaden)に送られ、そこでヒトラーユーゲント(ヒトラー青少年団)において、準軍事訓練を受けましたが、フラックヘルファー(Flakhelfer)と呼ばれる高射砲補助員として投入されることなしに終戦を迎えました。1950年にフランクフルト大学で法学と歴史学を勉強し始めますが、1951/52年冬学期にハイデルベルク大学に移り、歴史学と政治学に学科を変えて、そこで1956年に修士課程修了。1958年に「プファルツにおける政治的発展と1945年後の政党の復活」という博士論文で博士号を獲得しました。

政治的なキャリアは終戦直後の1946年にキリスト教民主同盟(CDU)に入党することに始まり、1947年には故郷ルートヴィヒハーフェンにユンゲ・ユニオーン(Junge Union)というCDU党青年団を発足し、1953年には既にラインラント・プファルツ州CDU執行部入り、1959年にCDUルートヴィヒハーフェン郡連合会代表に就任するなど、かなり精力的に活動し、党内キャリアを積んでいき、1969年5月に任期途中で辞任したペーター・アルトマイヤースの後継者としてラインラント・プファルツ州首相に39歳の若さで選ばれました。当時では史上最年少の州首相就任でした。この頃は、「若き改革者」として党内の先輩たちにも煙たがれ、「傲慢」との評価も多かったらしいですが、これに対してコールはインタビューで「自分は193㎝の身長のために人に威圧感を与えるような、少なくともそのように取られることがある」というようなことを応えていました。つまり「傲慢という批判は当たらない」と。

1971年にCDU党首に立候補するものの、ライナー・バルツェルに負け、1973年に2度目の立候補で党首に就任しました。以後1998年までの実に25年間CDU党首を務めたのです。そのうちの16年間は同時にドイツ首相でもありましたので、最初は若き改革者として登場した彼でも、党内外に「コール帝国」を築いていくだけの時間が十分あったと言えます。

彼は物事を書類で処理するよりも、個人的に直接電話をかけたり、直接会ったりして、処理していくことを好み、そのようにして強固なネットワークを築いていったと言われています。またその際に「敵・味方」を明確に分けて、一度懐に入れた人間に対しては非常に忠実な友だったらしいですが、敵認定した人物にはとことん冷酷だったとも言われています。彼の息子がその冷酷ぶりを暴く暴露本を出版しています。彼のプライベートは時々ネガティブな新聞の見出しとなりました。家族の中での父親としての役割はどうやら果たせなかったようです。最初の奥さんであったハンネローレ・コールは自殺されました。

首相としての彼の功績とされているのは、独仏和解の象徴となったヴェルダンにおけるミッテラン元仏大統領との共同戦没者追悼(上の写真)、後のユーロ導入の先鞭をつけるマーストリヒト条約の締結、東独国家元首だったエーリヒ・ホーネッカーとのボンにおける会談の実現(1987年)、そして前述の東西ドイツ統一(1990年)です。

下の写真は、1982年にマーガレット・サッチャー英首相、別名「鉄のレディー」と共にボンで記者会見に臨むコール首相。

下の写真は、1990年、ソ連書記長ミハイル・ゴルバチョフ(中央)とゲンシャー独外相(左)と共にドイツ統一に関する会談をするコール首相(右)。

1990年、ソ連書記長ミハイル・ゴルバチョフとゲンシャー独外相と共にドイツ統一に関する会談

下の写真は任期最後の年、1998年に当時の米大統領ビル・クリントンと共にエアフォース・ワンで会談した時のもの。

1998年、米大統領ビル・クリントンとエアフォース・ワンにて

 

ただ、ユーロ導入や東西ドイツ統一には多くの問題や課題が残されており、特に実現のタイミングが早過ぎたのではないかという疑問もあり、果たしてそれらの実現を「功績」と評価できるのか、「功罪」を問うべきなのか、判断が難しいところです。私自身は当然「功罪」を問いただすべきだと思っています。

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100年前のヴェルダンの戦い(第1次世界大戦)~本日追悼式典。オバマ大統領広島訪問を考える。

訃報:ドイツ元外相ハンス・ディートリヒ・ゲンシャー(89)

ヘルムート・シュミット元西ドイツ首相、国葬


ドイツ:世論調査(2017年5月19日)~メルケルがシュルツを大きくリード

2017年05月19日 | 社会

 

首相は誰がいいかという質問に、「メルケル現首相がいい」と答えた人の割合が一段と増えました。政治家評価ランキングでも、2015年8月の転落以来初めてトップに返り咲きました。別に彼女が特別に何かしたわけではありません。もしかしたらそれがいいのかもしれませんが。ヨーロッパの唯一の「定数」のような位置づけ。先日彼女はマクロン新フランス大統領の訪問を受けましたが、彼は彼女の任期中4番目のフランス大統領です。この「変わらなさ」がなんとなく人に安心感を与えているのかも知れません。SPD首相候補のシュルツの指名と共に一時「シュルツ旋風」のようなものが巻き起こり、久々に新規入党が増加したというのが今ではウソのようです。

そして、今最も望ましいとされている連立政権はCDUとFDPです。一見現在のCDUとSPDによるいわゆる「大きな連立」を倒して、政治的変化を求めていると解釈もできますが、CDUとFDPの連立政権はその前にあったのです。その当時の政府に対する満足度は現政府よりも低かったのですが、誰も何も覚えていないようです。今日のニュース風刺「Heute Show(ホイテショー)」では、この現象を「Wählerdemenz(有権者痴呆症)」と呼んでいました。

では、以下に最新の世論調査ポリートバロメーターの結果をご紹介します。

次期首相候補

連邦首相にはどちらが望ましいですか?

メルケル 57%
シュルツ 33%

二人の差はなんと24ポイント。シュルツ人気は2月半ばをピークに下がり続けています。やはり現職首相に比べて今SPD党首である以外に役職のないシュルツは日常的に存在感を示せないという事情もあるのかも知れませんが、現政権のにおいを着けたくないばかりに(?)党首義務を果たすべきところで代理人を送ったというのが戦略的な間違いだったという可能性もあります。

さて、両首相候補が9月に控えた連邦議会選挙で勝利するために役立つかという問いです。

アンゲラ・メルケルはCDU/CSUにとって:

役立つ 72%
害になる 11%
どちらでもない 12%

マルティン・シュルツはSPDにとって:

役立つ 42%
害になる 18%
どちらでもない 34%

メルケルの選挙に「役立つ」イメージは今年あった三つの州議会選挙で、CDUが3回とも勝利したことと、その際に「メルケル効果」のようなものがあったと考えられていることによります。その辺の事情は「ドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙(2017)」で言及しましたので、興味のある方はそちらをご覧になってください。

連邦議会選挙

とにかく州議会選挙で三連勝したCDUですが、だからと言って連邦議会選挙の行方がもう決まったようなものなのかというと、それがそうでもないようです。

今日既に誰が連邦議会選挙で勝つかはっきりしていますか?:

はい 33%
いいえ 66%

回答者の2/3は「連邦議会鮮魚の行方はまだ決まってない」と見ており、支持政党別でもその見方にほどんど差がありません。AfD支持者の57%は多少目には着きますが。まあ、AfDが連邦議会入りするのは確実なことなので、その影響があるのかも知れませんね。ただこのまま党内抗争が続いたり、ナチス色の濃い発言をする議員がまた表面化したりすれば、もっと支持率を下げて、議会入りの危うい5%ラインまで落ち込む可能性もなくはないです。


現時点で、誰が連邦議会選挙で勝つと思いますか?:

CDU/CSU 73%
SPD 9%
その他の政党 5%
分からない 13%


もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 38%(+2)
SPD(ドイツ社会民主党)  27% (-2)
Linke(左翼政党) 9%(変化なし)
Grüne(緑の党) 7%(-1)
FDP (自由民主党) 8%(+2)
AfD(ドイツのための選択肢) 7%(-1) 
その他 4% (+1)

「変化なし」云々は2週間前の世論調査と比較した値です。4月7日の世論調査でCDU/CSUは35%でしたので、+3ポイント、SPDは同時点で32%でしたので、-5ポイントになります。この「トレンド」が9月まで続くのか分かりませんが、私はその可能性が高いと思っています。こうしたトレンドがひっくり返るには、大きな外的要因の影響が必要でしょう。例えば「アゲンダ2010」で大胆な改革をしたシュレーダー元首相(SPD)などは2002年の連邦議会選挙で2期目は無理だろうと目されていましたが、選挙直前の晩夏にエルベ川で「世紀の大洪水」が起き、その時の彼の危機管理が功を奏して、直前までの世論調査の傾向を吹き飛ばし、SPD/緑の党連立政権フェーズ2が誕生しました。

シュルツは現職首相ではないので、シュレーダーのように何かで活躍して選挙に勝つのは不可能ですが、現職のメルケルが大失政を犯して、CDUが支持率を下げる可能性はなくはないです。

 

1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先回答推移:

 
 
いいと思う連立政権は…?:
 
前述の通り、CDU/CSUとFDPの連立が43%で、最も好ましいと思われています。次が「大きな連立」ことCDU/CSUとSPDで、39%。割と根強い人気とも言えますね。他の連立の可能性と比べると、この二通りがダントツで支持されていると言えます。最後のSPD、左翼政党と緑の党のいわゆる「左派連立」は21%で最も人気がないのですが、これはSPD自体が「左翼政党とは協力体制を取らない、連立しない」と宣言している事実も反映されていると思います。


政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.2

赤線はSPD/緑の党の連立政権、青線はCDU/SPDの「大きな連立」、黒線はCDU/FDPの連立政権。FDPは現在連邦議会には入っていませんが、このまま行くと次の連邦議会には復活しそうです。なんでも自己責任で、企業ばっかり優先するネオリベラル政党なんかいらないのに。平均的な満足度はFDPとの連立政権よりも「大きな連立」の方がずっと高いです。それなのになぜFDPの支持がまた広がっているのでしょうか?確かにFDPはパッケージをちょっと変えましたが、言っていることは前と全く同じです。やはり「有権者痴呆症」ですかね?

 

政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. アンゲラ・メルケル(首相)、2.2(↑)
  2. ヴォルフガング・ショイブレ(財相)、1.9(↑)
  3. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、1.8(↓)
  4. ジーグマー・ガブリエル(新外相)、1.0(↓)
  5. トーマス・ドメジエール(内相)、0.9(↓)
  6. グレゴール・ギジー(欧州左翼代表)、0.7(↓)
  7. マルチン・シュルツ(SPD党首・前欧州議会議長)、0.6(↓)
  8. チェム・エツデミール(緑の党党首)、0.5(↓)
  9. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.5(↑)
  10. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.3(↓)

フォン・デア・ライエン防衛相は連邦軍のスキャンダル続きで、かなり評価を下げたようです。連邦軍の将校「フランコ・A」が極右思想を持ち、難民への風当たりを強くする目的でシリア難民として移民・難民局に登録し、政治家へのテロを企んでいたというもので、しかもなぜか一時的な保護をうける決断が下されていたという珍妙な話です。これは防衛省だけの問題ではなく、移民・難民局のある内務省の問題でもあるのですが、風当たりは防衛省の方が強いです。なぜならこの「フランコ・A」は修士論文ですでにその極右的思想が読み取れるくらいだったのに、軍隊に入隊するどころか、あまつさえ出世して将校になっていたので、それを許す体質が連邦軍にあるのではと疑念を持たれているからです。まあ、連邦軍の体質に関しては、フォン・デア・ライエンの責任ではないのですが、問題が表面化した後の彼女の対処法がまずかったというか、毅然と問題解決に望む姿勢があまり感じられず、軍の指導部を非難してしまったのがマイナスに働いてますね。「フランコ・A」に関しては、その後協力者らしき人たちが二人見つかり、逮捕されました。移民・難民局の方にも内通者がいるはずで(普通に考えてアラビア語を一言も話せない人間がシリア難民で通るはずがないので)、これからこのスキャンダルは大きくなっていくみたいです。

 

トルコ

トルコはここのところやりたい放題です。ドイツがトルコ出身のNATO軍人に亡命を認めたことがきっかけで、ドイツ連邦軍が駐屯しているトルコ内基地インチェリックへの国会議員の立ち入りを(また)禁止しました。またドイツ国籍のトルコ系ジャーナリストなども何人かテロを計画した疑いで逮捕されています。エルドアン大統領がギューレン運動関係者を本当の関係者かどうかはともかく、片っ端から逮捕してるので、身の危険を感じた多くのトルコ人がドイツに亡命申請しています。実際にこの人たちがリアルな危険にさらされていると判断されれば、亡命が認められるわけですが、それは同時にエルドアンの要求する容疑者引き渡しを拒否することも意味するので、彼がそれを自分に対する挑発と受け取っても仕方ないわけです。その報復がトルコにある基地に駐屯するドイツ連邦軍の運営阻止に値する議員の立ち入り禁止なのですが、これは同じNATOに属する同盟国として本来全く容認できない強硬策です。それが2度目ということもあって、ドイツはインチェリックからの引き上げを検討しています。世論調査ではこの引き上げ案が回答者の81%から肯定的に評価されています。

しかし、メルケル首相を始めとするドイツの政治家たちの反応は実に弱気です。本来ならトルコに憤然と抗議してもいいはずのスキャンダルなのに、「好ましくない状況だ」(byメルケル)としかコメントしなかったり、「連邦軍の引き上げの必要はない」とまで言う政治家が居たり。とにかくできる限りエルドアンを刺激しないという態度を示し合わせているようです。確かに選挙のある年に、エルドアンの切り札である「難民カード」を切られると、折角落ち着いてきた難民問題がまた国内で炎上することが予想され、メルケルが再び政治的に苦しい立場に追いやられるシナリオが考えられるので、少なくとも選挙が終わるまでは穏便に済ませようという意図が透けて見えなくもないです。でも、エルドアンのようなマッチョタイプはパワーゲームを好み、パワー言語しか理解しないと言ってもいいので、相手が下手に出るならどんどんつけあがることが予想されます。それがどこまでエスカレートするのか分かりませんが、場合によっては「難民カード」が切られなくても、政府のトルコ懐柔策自体が非難の対象になることが十分に考えられます。なんだか第二次世界大戦前のイギリスのヒトラーに対する懐柔政策を彷彿させる感じがします。

 

アメリカ

トランプ大統領も世界の不安ファクターですね。現在はもっぱら内政的なもので立場が悪くなっていますが、それを速く忘れさせるために国民の興味を国外に向けさせる手段として何かしら外交爆弾を落とさないとも限りませんので油断禁物です。

ドナルド・トランプの政治に大きな不安を感じますか?:

2017年5月

はい 78%
いいえ 21%

2017年1月時点

はい 62%
いいえ 37%

「心配だ」とする人が1月に比べて16ポイントも増加しています。

トランプが就任以来初の外国訪問をするのに、真っ先にサウジアラビアに行くというのもかなり象徴的な行動で、イランの選挙の結果も含めて世界情勢を悪化させる要因だと思います。(2017.05.20補足:イランでは改革派のロハニが大勝したので、取りあえずイラン側からの緊張増加はなくて済みそうです)

 

EUとフランス

さて、大統領就任後早速ドイツへ表敬訪問したマクロンですが、ドイツ人には割と期待されているようです。

EUの問題をマクロン仏大統領とならより容易に解決できると思いますか?:

はい 62%
いいえ 28%
分からない 10%

フランスに容認範囲以上の借金を認めますか?:

はい 48%
いいえ 43%
分からない 9%

支持政党別借金容認割合

CDU/CSU 47%
SPD 60%
左翼政党 60%
緑の党 52%
FDP 51%
AfD 24%

AfD支持者の間ではフランスの借金に対する理解が極端に少ないようです。きっと彼らの頭の中では「ドイツが第一」で、「フランスのためにドイツがお金を払うことはない」とかいうフレーズが渦巻いているのでしょう。

確かにドイツはその人口の多さと経済力のためにEUへの支払額が一番多いですが、EUの低金利政策も含めてドイツは払い込んでいる以上の経済効果を得ています。そしてドイツは今でこそ好景気で輸出量も貿易黒字も新記録を出すほど絶好調ですが、10年ちょっと前はマーストリヒト条約の3%規定を超える財政赤字を抱えていて、その違反に対する罰金支払いを求められたことがありました。私の記憶では、ドイツは罰金を結局払わずに済み、立ち直る猶予をもらったはずです。それならフランスにも立ち直るチャンスが与えられてもいいはずですよね?

 

経済

ドイツ経済の絶好調ぶりは世論調査にも表れています。一般人に全く感じられることのなかったどこぞの国の「景気回復」とは質が全然違います。

ドイツにおける一般的な経済状況:

いい 65%
悪い 5%
どちらでもない 30%

 

自分自身の経済状況:

いい 65%
悪い 7%
どちらでもない 28%

65%の人が自分の経済状況を「いい」と判断しているということは、好景気が一般人に届いているということだと思います。勿論地域別にみると、ある地域のほぼ全体が「置いて行かれてる」状況もあります。

 

今後のドイツの経済トレンド:

良くなる 41%
変わらない 46%
悪くなる 11%

なんか凄い楽観主義者が多いようです。既に絶好調なのに、更によくなると考えている人が4割もいるとは!この絶好調が「変わらない」、つまり続くと考えている人も46%いますが、こちらも楽観的ですよね。まあ、楽観的だからこそ個人消費も増えて、国内経済も潤うことになるのでしょうが。

でも、年金受給開始年齢は67歳からで、年金受給レベルは過去平均収入の43%。平均収入の人でも年金受給額は生活保護レベルになり、【下流老人】リスクは依然としてあります。今は景気がいいから、老後の問題に蓋をして見ないようにしてるのでしょう。

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1,344名の選挙権保有者に対して2017年5月16日から18日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。

次のポリートバロメーターは2017年4月28日に発表されます。

参照記事:

ZDF heute, Politbarometer - Merkel mit großem Abstand vor Schulz, 19.05.2017


ドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙(2017)

ドイツ:シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会選挙(2017)

ドイツ:3州同時選挙。右翼政党「ドイツのための選択肢」大躍進

ドイツ:世論調査(2017年4月7日)~首相候補。メルケル再びシュルツをリード


ドイツ・ノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙(2017)

2017年05月15日 | 社会

昨日、5月14日は、ドイツで最も人口の多いノルトライン・ヴェストファーレン州の州議会選挙でした。ドイツ有権者の5人に1人(1310万人)がこの州に住んでいることになるため、「小さな連邦議会選挙」とも言われ、その注目度は先週のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の比ではなりません。ここでの結果が実際にどれだけ9月に控えた連邦議会選挙に反映されるかについては意見が分かれるところです。政治家たちはどちらかと言うと「州政治」と「連邦政治」は分けて考えるべき、と言う人が多いようですが、メディアは分けて考えない方に傾いているようです。

投票結果

SPD(ドイツ社会民主党、現政権)31.2%(-7.9)
CDU(キリスト教民主同盟) 33%(+6.7)
緑の党(現政権) 6.4%(-4.9)
FDP(自由民主党) 12.6%(+4.0)
海賊党 1.0%(-6.8)
左翼政党 4.9%(+2.4)
AfD(ドイツのための選択肢) 7.4%(+7.4)
その他 3.7%(-0.9)

直前の世論調査ではSPDとCDUがほぼ同点でしたが、予想外にはっきりとSPDが負けました。現職州首相ハンネローレ・クラフトはこの大敗の責任をとって、全ての党内職を辞任しました。引き際は潔いですね。
ノルトライン・ヴェストファーレン州は歴史的にSPDの牙城と言われている州で、そこで史上最悪の得票率を出したことで、SPDはこれから連邦議会選挙に向けて苦しい戦いを強いられることになる模様です。特にSPDの連邦首相候補マルティン・シュルツは、彼が1月に党首に就任してから、ザールラント州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州に続いて3度目の敗北を喫したことになるので、かなりインパクトのある選挙プログラムを打ち立てて、9月の連邦議会選挙で成果を出さないことには相当苦しい立場に追い込まれることになるでしょう。彼の就任当初「シュルツ効果」とか「シュルツ・ハイプ」とか言われた支持率の増加はあっという間にしぼんでしまいましたね。

 

ノルトライン・ヴェストファーレン州議会の議席は199議席あり、その割り当ては以下のようになります。

勝者であるCDUがこれから連立相手候補と交渉に入ることになりますが、CDUとFDP(黒・黄連立)が連立する場合、100議席でかなり危うい過半数となるため、2党連立ではなく、3党連立になる可能性もあります。今のところ誰もが「色んなオプションを検討し、話し合う」という回答に始終して、明言を避けています。新州首相ラシェットは「とりあえず左翼政党やAfDとの連立は論外」としています。左翼政党は得票を伸ばしたとはいえ、5%に達しなかったため、州議会入りは果たせず、どちらにせよ対象外です。

 

投票動機

投票先の決断に最も重要だったテーマはTagesschauの調査によると:

学校の状態 29%
きな臭い世界情勢 22%
警察による治安活動 15%
州首相候補 13%
連邦首相候補 11%

このうち州議会の管轄またはそれに関連するのは学校と警察と州首相のみです。

投票先別にみると投票動機にかなりの違いがみられます。

CDU投票者では、52%が治安問題、47%が学校の状態、40%が連邦首相候補を自分の投票決断に重要だったと言っています。CDUの連邦首相候補は現職首相のアンゲラ・メルケルです。彼女は州政治とは関係ありませんが、連邦レベルの政党の在り方が州議会選挙の投票行動に影響を与えたことになり、「メルケル・ボーナス」と言えるでしょう。

それに対してSPD投票者では37%が州首相候補、35%が学校の状態、35%がきな臭い世界情勢を自分の投票決断に重要だったと言っています。SPDの州首相候補は現職のハンネローレ・クラフトでしたので、彼女の「現職ボーナス」がものを言ったことになりますが、それだけでは選挙に勝つことはできなかったということですね。「きな臭い世界情勢」がなぜSPDに投票する理由になるのか、その辺の関連性は私には意味不明です。もしかしたらCDUに比べると平和志向が強いと思われているのかも知れませんが、ドイツ連邦軍のアフガニスタン派遣を決定したのはSPDのシュレーダー政権下のことでしたので、説得力のあるイメージではありません。

学校・教育政策に関して言えば、争点となったのは「Inklusion(包括)」のスローガンで実施された障害のある子どもたちの普通学校への統合措置です。これは国連条例をドイツで実施したものですが、教師や生徒の親たちの多くがこの措置で最終的にみんなが苦しくなってると見ているようです。理想はともかく、現実問題として普通学校に障がい児を受け入れる態勢が整備されておらず、養護教諭不足で、普通の教師たちは障がい児の扱いに困り、障がい児自身も必要なサポートが学校で得られずに困る結果となったらしいです。この措置を推し進めたのは教育相シルヴィア・レアマン(緑の党)でした。きちんとした受け皿を作らずに無理に障がい児受け入れを進めたのは失策以外の何物でもありません。その不満が下に述べる州政府の業績評価にも顕著に表れています。

現州政府の業績評価:

「不満」の割合:

道路の補修 77%(満足:20%)
学校・教育政策 70%(満足:24%)
子供の貧困対策 67%(満足:24%)
犯罪対策 63% (満足:34%)
NRWの経済促進 44%(満足:52%)


下のグラフが示すように、NRWでは州政府に対する満足度が群を抜いて低かったので、連立政権を成す両政党SPDと緑の党がそれぞれ7.9及び4.9ポイント得票率を失ったのは当然の帰結と言えます。

ノルトライン・ヴェストファーレン州(2017) 45%
バーデン・ヴュルッテンベルク州(2016) 70%
ザールラント州(2017) 69%
ラインラント・プファルツ州(2016) 61%
シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州(2017) 56%

治安の悪化、失業率・貧困率の増加、依然として改善されない道路の渋滞、無理な学校政策などによる現政権への不満が前回投票しなかった人たちをも投票に向かわせたようで、投票率は2012年の59.6%から65.2%に上昇しました。


年齢別統計

有権者の投票先を年齢別に見た統計も興味深いです。若い人がSPDに投票し、年寄りがCDUに投票するという老若間の断然もあるようです。

下のグラフは今回初めて有権者となった人たちの投票先を示しています。SPDが26%で、22%のCDUをリードしています。

18-24歳の有権者の投票先を見ても、やはりSPDが26%で、23%のCDUをリードしています。

しかし、70歳以上の有権者の投票先を見ると、CDUが46%も占め、34%のSPDに大きく差をつけています。つまり今回の選挙はジジババの投票行動が勝敗を分けた、と言えますね。

60歳未満と60歳以上の投票行動を比較したのが以下のグラフです。60歳未満ではCDUとSPDの得票率が同じです。差がついているのは60歳以上。高齢化社会では高齢者の考え方の傾向が政治により大きく影響する典型的な例と言えるのではないでしょうか。

「社会的公正」を公約に掲げながら貧困率・失業率を増加させてしまったSPDと緑の党に対する不満の受け皿になったCDUですが、彼らの掲げる「NRWをナンバーワンに」という公約も到底守られそうにありません。人口約1790万人を擁するNRWは、炭鉱を中心に繁栄したルール工業地帯を抱え、経済成長期の1970代に多くの移民労働者を受け入れてきた歴史があり、産業構造の変化の真っ最中で、ドイツの中でも特殊な位置を占めています。人口が多いこと、外国人の割合が多いこと、旧産業関係者の既得権益など一筋縄ではいかない状況があるため、政権交代して、CDUが政治をするからと言って、そう簡単に色々変えられるわけがないのです。予算も限られていますから、治安の改善一つとってもどこまでできるものなのか疑問です。

参照記事:

ARD Tagesschau, Landtagwahl Nordrhein-Westfalen 2017, 15.05.2017
Zeit Online, Schulz hofft auf den Kraft-Effekt, 14.05.2017
Zeite Online, NRWeg, 15.05.2017


ドイツ:シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会選挙(2017)

2017年05月08日 | 社会

5月7日はフランス大統領選が国際メディアを賑わわせていました。結果はご存知の通り無所属のエマニュエル・マクロンが約65%を得票し、35%得票した極右政党フロン・ナシオナルのマリーン・ルペンに勝利しました。西側諸国のリベラル派はさぞ結果に安堵したことでしょうが、忘れてはならないのは、35%の得票率がフロン・ナシオナル創立以来の快挙だという事実と、既存政党が党派を問わず極右勢力を抑制するためだけにマクロンに投票するように有権者に呼びかけたにもかかわらず投票率が例年より低めにとどまったことです。これの示すことは、フランス国民の大半がどちらの候補者も支持できず、投票に行った人たちの多くがルペンを勝たせないためだけにマクロンに票を入れたということでしょう。マクロンがすぐにでもしなければならないことは新党を結成し、6月に控えた国民議会選挙で議会における支持基盤を確保することです。そこである程度の勢力が形成されれば、彼の掲げた改革を実施する可能性も出てきますが、そうでなければフランスの状況は何も変わらず、政治に対する失望が広まり、次はフロン・ナシオナルを抑えることができなくなるだろうと予想されています。その意味でマクロンの今後はフランスだけではなくEUの将来にとっても重大事項です。ルペンが反ドイツ・反EUを打ち出したのに対して、マクロンはEU支持、ドイツとの緊密な協力を打ち出しています。彼のドイツ側のパートナーとなるのはメルケル現首相かマルティン・シュルツ元EU議会議長か決定するのは4か月後です。そのドイツ連邦議会選挙の傾向が読み取れると言われるのが、フランス大統領選と同日に行われたシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会選挙及び来週の日曜日、5月14日に行われるノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙です。

前置きが長くなりましたが、以下が昨日のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会選挙の結果です。

CDU(キリスト教民主同盟) 32%(+1.2)
SPD(ドイツ社会民主党) 27.2%(-3.2)
Grüne(緑の党) 12.9%(-0.3)
FDP(自由民主党) 11.5%(+3.3)
Piraten(海賊党)1.2%(-7.0)
SSW(南シュレスヴィヒ有権者連合)3.3%(-1.3)
Linke(左翼政党) 3.8%(+1.5)
AfD(ドイツのための選択肢) 5.9%(+5.9)
その他 2.3%(-0.1)

AfDの州議会入りは回避されませんでしたが、全国平均の支持率よりずっと低い得票率(5.9%)に終わったことは注目に値します。シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の有権者はローカルな問題の方を重要視する傾向が強いのかも知れません。その場合反EU、反イスラム、反難民を掲げるAfDには州政治に重要な政策にかけるため、得票が難しくなります。

投票率は64.2%で前回の2012年の時よりも4ポイント改善されました。

シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議会は73議席から成り、投票結果により以下のように割り当てられることになります。

通常、政党が州議会入りするためには最低5%の得票が必要条件ですが、SSWはデンマーク系やフリース系の少数民族のための政党であるため、5%に達しなくても議会に議席を得られることになっています。

現行のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州政府はSPD、緑の党、SSWの3党による「海岸連立政権(Küsten-Koalition)」と呼ばれる連立政権ですが、その主要政党である3党が軒並み得票率を減らしているため、選挙結果は現行政府の否定と解釈されています。

現州首相であるトルステン・アルビヒ(SPD)は現職メリットを生かして得票率35%を目指していましたが、30%を超えることがなく、SPDの新党首マルティン・シュルツの人気による「シュルツ効果」も全く現れず、むしろこれまでほとんど無名だった若い新州首相候補ダニエル・ギュンター(CDU)の州政治のテーマを重点的に扱った選挙運動とメルケル首相の安定性によって大きく差をつけられることになったため、明確な敗北を認めざるを得ない状況です。

理論的にはSPD、緑の党、FDPのいわゆる「信号機連立(Ampelkoalition)」が成立することによって過半数を超える政権が可能です。しかし、最大勝利者であるCDUから見れば、政権交代が論理的な結論であり、今後の連立交渉はCDUが舵取りすべきものですで、その場合はCDU、緑の党、FDPのいわゆる「ジャマイカ連立」が可能です。もちろんCDUとSPDのいわゆる「大きな連立」も可能ですが、これでは負けたSPDが政権参加することになるので、あまり有権者の意志を反映しているとは言えません。

 

さて、来週はノルトライン・ヴェストファーレン州議会選挙です。一応私も有権者ですが、まだ投票先は決まっていません。

参照記事:

Tagesschau, 2017 Schleswig-Holstein: Vorl. amtl. Ergebnis, 2017.05.07

ZDF heute, Landtagwahl in Schleswig-Holstein: Hochrechnung: Küsten-Koalition geht baden, 2017.05.07


ドイツ:世論調査(2017年4月7日)~首相候補。メルケル再びシュルツをリード

2017年04月07日 | 社会

久々のポリートバロメーターです。忙しかったり、病気だったりで間が空いてしまいましたが、4月7日の分を再び私見を交えつつご紹介いたします。

次期首相候補

まずはタイトルにもあるように首相候補の話題から。以前の記事で、ドイツでは首相候補問題のことを「K-Frage(カー・フラーゲ)」と省略することが多いことを述べましたが、これは9月の連邦議会選挙が終わるまで引き続き注目の話題です。私がお休みしている間に、SPDの首相候補シュルツが現職のメルケルを追い上げて、一時リードしていましたが、最新のカー・フラーゲではメルケルが盛り返しています。メルケル48%、シュルツ40%。


アンゲラ・メルケル首相の仕事ぶりは?:

いい 76%
悪い 21%

マルチン・シュルツなら?:

もっとうまくやれる 20%
もっと悪い  22%
違いない 40%
分からない 18% 


メルケル対シュルツ

信頼性:

メルケル 34%
シュルツ 13%
どちらとも同じ 44%

好感度:

メルケル 31%
シュルツ 27%
どちらとも同じ 35%

専門知識:

メルケル 46%
シュルツ 10%
どちらとも同じ 31% 


連邦議会選挙2017

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 35%(+1)
SPD(ドイツ社会民主党)  32% (変化なし)
Linke(左翼政党) 8%(変化なし)
Grüne(緑の党) 7%(変化なし)
FDP (自由民主党) 5%(変化なし)
AfD(ドイツのための選択肢) 9%(変化なし) 
その他 4% (-1)

「変化なし」云々は2週間前の世論調査と比較した値です。1月の時点ではSPDの支持率が24%でしたので、それと比べれば8ポイントの伸びで、「シュルツ効果」が効いていると言えます。一方、AfDは1月時点で11%あったので、この2か月半で2ポイント支持率が下がったことになります。メルケル率いるCDU及びその姉妹政党CSUは安定的な強さですね。


1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先回答推移:

 

政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.3


連立政権モデルの評価:

CDU/CSUとSPD(現行の「大きな連立」)

いい 49%
悪い 31%

SPD、緑の党、FDP

いい 23%
悪い 52%

CDU/CSU、緑の党、FDP

いい 21%
悪い 53%

SPD、左翼政党、緑の党(「左派連立」)

いい 24%
悪い 62% 

現行の「大きな連立」の続行が望まれているようです。対して左派連合には相当の抵抗があるようですね。

 各政党の能力評価ー経済:

CDU/CSU 42%
SPD 19%
左翼政党 2%
緑の党 1%
FDP 2%
AfD 1% 

 

各政党の能力評価ー社会的公平:

CDU/CSU 20%
SPD 39%
左翼政党 11%
緑の党 4%
FDP 2%
AfD 2% 


各政党の能力評価ー難民政策:

CDU/CSU 39%
SPD 17%
左翼政党 5%
緑の党 6%
FDP 2%
AfD 6% 

 

政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、1.9(→)
  2. アンゲラ・メルケル(首相)、1.9(↑)
  3. ヴォルフガング・ショイブレ(財相)、1.9(↑)
  4. マルチン・シュルツ(SPD党首・前欧州議会議長)、1.3(↓)
  5. トーマス・ドメジエール(内相)、1.2(↑)
  6. ジーグマー・ガブリエル(新外相)、0.9(↓)
  7. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.9(↑)
  8. チェム・エツデミール(緑の党党首)、0.8(初ランクイン)
  9. グレゴール・ギジー(欧州左翼代表)、0.6(再ランクイン)
  10. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.5(→)


英EU離脱

3月末にセレザ・メイ英首相が正式にEUへ離脱申請を提出し、ハードな離脱交渉がスタートしました。その事務的な課題についてまとめましたので、興味のある方は「イギリスのEU離脱~その事務的課題」をご覧ください。

では世論調査の問いです。

イギリスのEU離脱をどう思いますか?:

いい 10%
悪い 69%
どちらでもいい 20% 

「どちらでもいい」が20%もいるのが少々驚きです。EU離脱の国民投票から結構時間が経っているので、関心が薄れてきているのかも知れませんね。

EU離脱交渉:EUはイギリスに大きく譲歩すべきですか?

はい 10%
いいえ 88%
分からない 2% 

EUを存続させるためには出て行こうとするイギリスに大きく譲歩せず、ハードな条件を付けることで後追いを牽制することに意味があります。感情的にも出て行くものを優遇するなど許せない面があるかもしれません。ただ、あまりハードにしすぎると、両者に大きな損害が生じるリスクがあることも念頭に置かねばならないでしょう。

EU離脱はドイツにとって大きな経済的損失?:

現在:

はい 18%
いいえ 76%
分からない 6%

2016年6月時点:

はい 34%
いいえ 56%
分からない 10% 

なんというか、ドイツ経済の強さの表れなんでしょうか?

 

ドイツ・トルコ関係

このところ緊張が続いているドイツ・トルコ関係です。改善の兆しは今のところ皆無です。トルコの大統領権限を拡大することに関する国民投票が来週行われる予定ですが、その選挙運動をトルコ国外で行おうとしたことでドイツばかりかオランダともかなりの摩擦を生じさせました。トルコの法律では国外での選挙運動は本当は違法なのだそうですが、まるで当然の権利のように選挙運動関連の催し物をドイツなどで企画し、それが当事国に断られたからと言って『ナチスのやり方と同じ差別』などと罵って物議を醸しました。実際にナチス的なやり口を披露しているのはまさしくエルドアン政権なのですが、自分のことは棚上げにした批判をぶちまけるトルコ大統領および外相には開いた口が塞がらない、としか言いようがありません。トルコがドイツ国籍を持つディー・ヴェルトのトルコ系ジャーナリストをテロリスト・スパイ容疑で逮捕したことで緊張は一層高まっています。

トルコにおける民主主義はエルドアン大統領の下で非常に危険にさらされている?:

はい 93%
いいえ 5%
分からない 2% 

この問いに「いいえ」と答えた人が5%もいたことには驚きです。ドイツ国内に住む多くのエルドアン支持のトルコ人たち以外にも「いいえ」と答えた人がいたことを示しています。

国内のドイツ人・トルコ人の共生が非常に危うくなっている?:

現在:

はい 61%
いいえ 37%
分からない 2%

2016年11月時点:

はい 41%
いいえ 55%
分からない 4% 

心配なのは、ドイツ国内にはエルドアン大統領支持者たちも、そうでないトルコ系労働移民も、「亡命」してきたクルド系トルコ人たちもいるため、彼らの間で争いが勃発することです。国内でのトルコ人対ドイツ人という構図よりずっとあり得る対立構造で、すでに何件もエルドアン大統領支持者たちによる「ギューレン関係者」と見られるグループへ攻撃が起こっています。

難民問題

バルカンルートが閉鎖されて以降、ドイツへの入国者が激減したため、国内の緊張は既に落ち着いていると言えます。現在問題となっているのは、難民認定されなかった人たちの強制送還措置についてと、すでに滞在権を獲得しているもののテロリストの疑いがある者や、テロを扇動しているとみられる者を国外追放するかどうかなどです。
2015年の秋から2016年春までに大量にドイツに入国してきた難民たちの多くがドイツの労働市場に受け入れられており、彼らのせいで失業率が上がると心配されていたことが嘘のように記録的に低い失業率が続いています。 

ドイツはこの多くの難民を処理できると思いますか?:

はい 66%
いいえ 31% 

 

メルケルの難民政策をどう思いますか?:

いい 51%
悪い 45% 

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1,384名の選挙権保有者に対して2017年4月4日から6日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。

次のポリートバロメーターは2017年4月28日に発表されます。

参照記事:

ZDF heute, Politbarometer - K-Frage: Merkel jetzt wieder vor Schulz, 2017.04.07


イギリスのEU離脱~その事務的課題

2017年04月02日 | 社会

メイ英首相がついにEU離脱通告を提出しました。国民を二分するような政治的問題において、ハードライン(いわゆるハード・ブレグジット)を実施するのはどうかと思いますが、それを抜きにしても事務的課題は膨大で、数年間はイギリスおよびEU官僚たちが血を吐く思いをするのではないでしょうか。

独紙ツァイトオンラインにいくつかそうした課題が列記されていましたので、こちらに書き留めておきます。

1)600億ユーロの支払い義務

EU加盟国は数年先までの支払い義務を負います。EU官僚の年金積立金や助成プログラムのための分担金や共同負債の保証など。イギリスはEU離脱後600億ユーロのそうした支払い義務を負っています。ジョンソン英外相はもちろん支払い拒否の姿勢です。

2)17,105のEU条例

EU域内貿易は主に条例によって規定されていますが、EU離脱後のイギリスではトータル17,105のEU条例が無効になるため、それに代わる国内法を制定しなければなりません。英議会は年間60-100の法律を成立させ、約2000の条例を制定しているようですので、単純計算でも8年はかかることになります。

3)43の自由貿易条約

EUはトータルで43の自由貿易条約を締結しています。EU離脱後もイギリスがこの自由貿易のメリットを得続けたいのであれば、43か国と別途交渉する必要があり、それが成立するまではWTOの規則に則って貿易をするしかありません。それはすなわち各品目ごとに関税をかけることを意味します。

4)13,608品目

イギリスがEUと新たに自由貿易条約を締結できない場合、13,608品目に一々税率の異なる関税がかけられることになるため、かなり貿易に支障が出ると考えられます。

5)31,000人のEU科学者

イギリスの大学では現在約31,000人のEU出身科学者が働いています。生物、物理、数学では約23%、工学で18%、医学で14%を占めるEU出身科学者たちは大半が3万ポンド以上の年収があるため、ビザが取りやすい状況にありますが、26%強は年収3万ポンド以下のため、今後のイギリス内での立場に不安を感じています。5年間滞在すれば永住権を申請できますが、まだ5年経っていない人も少なくありません。

6)イギリスのパスポートは1,236ポンド

イギリスの国籍取得には1,236ポンドかかります。その前段階ともいえる永住権は2年以上イギリスを離れていると無効になります。

現在イギリスには330万人のEU出身者が滞在しています。また、EU域内には約120万人のイギリス人が滞在しています。彼らの立場を交渉で確定しなければならず、また双方の健康保険システムのコストの差引勘定をどうするかも決定する必要があります。

7)177,000台のトラック、208,000台の配達用小型トラック、185万台の乗用車

アイルランドはEUに留まります。現在イギリス・アイルランド間の国境を日に177,000台のトラック、208,000台の配達用小型トラック、185万台の乗用車が通過します。イギリスのEU離脱後はヒトとモノの流れを国境でコントロールすることになりますが、1998年に締結された Good Friday Agreementでアイルランド共和国との国境に検問を実施しないことが明記されています。それに従えばアイルランド経由のヒトとモノの流れはコントロールできないことになります。英政府はこの問題の解決策をまだ明らかにしていません。

8)金融会社5,500社

イギリスには約5,500の金融会社がEUパスポーティングを利用して、EU域内へ金融商品を販売しており、逆に約8,800のEU金融会社が同制度を利用してイギリスと取引していますが、EU離脱に伴い、この簡易化された金融取引ができなくなります。英政府が代替条約をEUと交渉するかどうかはまだ不明なため、イギリスの金融会社は既にEU拠点を探し始めているようです。

9)1,661,191人のスコットランド人

166万人以上のスコットランド人がEU離脱にNoを投票しました。スコットランド票の62%に相当します。スコットランドはイギリスとは無関係に特例としてヨーロッパ経済圏に留まることを希望しましたが、そういう特例が適用される見込みはほぼ皆無です。ニコラ・スタージョンは2度目のスコットランド独立に関する国民投票を実施すると宣言しましたが、英政府がそれを認めることはまずないと見られています。ロンドンに対する不満が高まっています。こうした不満を今後いかに吸収し、昇華させる政策を採るかが大きな課題です。

参照記事:

Zeit Online, "Großbritannien: Viel Spaß, Theresa May!", 29. März 2017.

 


フクシマー継続する惨事(2017年3月 IPPNWプレスリリース)

2017年03月17日 | 社会

東日本大震災、福島原発事故から6年経った2017年3月、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部から関係記事が出ておりましたのでご紹介します。

いつまでリンクが有効かはわかりませんが、原文はこちらです: https://www.ippnw.de/atomenergie/gesundheit/artikel/de/fukushima-die-andauernde-katastrop.html

発行から4日経ってしまいましたが、漸く時間ができたので、日本語に翻訳しました。日本語訳はこちらからご覧ください。

福島医科大が県内の学校に人を派遣して、「理不尽ながん診断を受けたくなければ」スクリーニング検査を拒否するよう推奨しているとこのプレスリリースに言及されています。ドイツ語からの翻訳ですので、日本語で言葉通りにそういわれていたのかは定かではありませんが、そのような意味の発言があったというだけでも問題です。検査しなければ診断も出ませんが、それはがんの発見を遅らせるに過ぎず、根本的な解決にならないばかりか、発見の遅れによってがんの転移が進むなどの深刻な健康被害が出る可能性もあり、汚染地で生活する子どもたちにとって害にしかなりません。こうした発言には統計上のがん診断数を操作して、実際の被害状況を隠蔽しようとする意図が働いていると言えます。住民の健康問題などどうでもよく、外部に公表される数字だけ酷くなければいいという冷酷さが見え隠れしています。避難者の帰還を支援金給付中止によって強制するような動きも、復興(とそれに伴う税収+予算節減)ありき、で住民を無視したとんでもない施策です。まずは住民あっての復興でしょう。住民の健康リスクをとことん無視した政策は人権無視としか言いようがありません。海外に住む私にとっては実質的に「無関係」ではあるかもしれませんが、人として許せないことだと思うので、「無関心」ではいられません。


IPPNW(核戦争防止国際医師会議)、いわき放射能市民測定室たらちねを紹介

Fukushima Radiation not safe!(福島の放射能は安全ではない)

福島:除染された土地が再汚染!フェアウィンドのガンダーセン氏調査

【緊急署名】 放射性廃棄物を含んだ除染土を公共事業で利用する方針の撤回を

書評:ストラベーナ・アレクシエービッチ著「チェルノブイリの祈り」

書評:オリハ・V.ホリッシナ著「チェルノブイリの長い影」

福島第一原発事故直後の救助支援者4割が1ミリシーベルト以上の被曝というニュースと日本政府の情報操作

「福島の甲状腺がん発生率50倍」の津田教授と「チェルノブイリの祈り」のアレクシエービッチ氏

被曝量と白内障の関係~金沢医科大の研究

低線量被曝と白血病リスク

福島の小児性甲状腺がん~IPPNWが日本政府を痛烈に批判


ドイツ:世論調査(2017年1月27日)~首相候補。メルケルはわずかにシュルツをリード

2017年01月28日 | 社会

週末で翻訳依頼の打診もお断りして時間を確保し、読書(ダン・ブラウン著、『デジタル要塞』)も読み終わってひと段落したので、次の本を読みだす前に昨日1月27日に発表されたZDFの「ポリートバロメーター」を私見を交えつつご紹介します。

次期首相候補

まずはタイトルにもあるように首相候補の話題から。ドイツでは首相候補問題のことを「K-Frage(カー・フラーゲ)」と省略することが多いです。この場合のKは首相を指すドイツ語「Kanzler(カンツラー)」の頭文字です。ちなみにメルケルさんは女性なので、「Kanzlerin(カンツラリン)」となります。正式名称はこのKの前に「連邦の」という意味の「Bundes(ブンデス)」がつきますが、正式な呼びかけ(Frau Bundeskanzlerin)など以外では普通使われません。

というわけで、カー・フラーゲです。CDU(キリスト教民主連盟)からは現職のメルケル首相が4期目を目指すことは去年の時点で明らかになっていましたが、彼女の対抗馬となるSPD(ドイツ社会民主党)の候補者は先日まで党首だったジグマー・ガブリエルとなるか前欧州議会議長マルチン・シュルツとなるか明らかではありませんでした。それが先日、党員の中ですら驚く人がいたくらい急にガブリエルが党首を辞職し、シュルツがその後継者となり、従ってSPDの首相候補になることが決定しました。前回のポリートバロメーターを見て頂ければお分かりになると思いますが、ガブリエルの人気・人望の無さはある意味群を抜いており、これではSPDが選挙で勝てないと本人も認めざるを得なかったのでしょう。

さて、シュルツが首相候補と決まった後の世論調査の結果は:

メルケル 44%
シュルツ 40%
分からない 16% 

逆転が可能かどうかは分かりませんが、メルケルは本当にわずかリードしているのみです。ちなみにメルケル対ガブリエルでは60%対26%の大差をつけていましたので、シュルツがかなり強力なライバルであることは確かです。

 

マルチン・シュルツが首相候補であることはSPDにとって連邦議会選挙でどんな影響がありますか?:

という質問には61%が「どちらかといえばいいこと」と答えており、「どちらかといえば悪い(6%)」と「影響なし(22%)」と答えた人を圧倒的に上回っています。

 

大統領選挙

さて、来月には現職のドイツ大統領ヨアヒム・ガウクが任期終了となります。次期大統領候補者は連立政権党CDU/CSUおよびSPD共同推薦の現外相フランク・ヴァルター・シュタインマイヤーです。左翼政党推薦の候補者などもいますが、まあ、シュタインマイヤーでほぼ決まりと見ていいでしょう。彼は昨日外相職を引き、後をジグマー・ガブリエルが引き継ぎました。ガブリエルはこれまで経済・エネルギー相として外交に関わってきましたが、優れた外交手腕を発揮するどころか、結構顰蹙を買うような問題発言があったので、この引継ぎに不安を覚えている人は少なくないです。

フランク・ヴァルター・シュタインマイヤーが連邦大統領になることをどう思いますか?:

という問いに対して、73%が「いいと思う」と答えています。「悪い」と答えたのは16%、「分からない」が11%でした。

シュタインマイヤーは外相として難しい国際危機を無難に運営してきた実績もあるので、国の顔というかお飾り的な意味合いの強い連邦大統領としてドイツの外交に貢献していくのはいいんじゃないかと私も思います。

 

ヨアヒム・ガウクはいい連邦大統領でしたか?:

という問いには84%が「はい」と答えています。否定的な答えは11%、「分からない」は5%でした。

まあ、無難な大統領だったと私も思っています。特に歴史に残るような足跡を残したわけでもありませんが、いかにも「国父」という役割に相応しい態度で、何の瑕疵もなく任務を果たしたという印象です。

連邦議会選挙2017

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 36%(変化なし)
SPD(ドイツ社会民主党)  24% (+3)
Linke(左翼政党) 10%(+1)
Grüne(緑の党) 8%(-2)
FDP (自由民主党) 6%(変化なし)
AfD(ドイツのための選択肢) 11%(-2) 
その他 5% (変化なし)

今回の結果で目を惹くのはやはりSPDの伸びと緑の党およびAfDの支持率低下でしょうか。SPDの伸びは「シュルツ・ハイプ」という感じのもののようです。私は頭が変わっただけで政党支持が変わるというのにはちょっとついて行けないものがあると思いますが、まあ、元欧州議会議長は人気があるということです。
AfDの支持落ちは、チューリンゲン州支部長のブヨルン・ヘッケ(Björn Höcke)がドレスデンで行った問題発言「私たちドイツ人は、首都の心臓に恥の記念碑を作った世界で唯一の民族だ」とドイツの回想文化(Erinnerungskultur)あるいは追悼文化(Gedenkkultur)を批判したことが影響していると見られています。
緑の党の支持が下がった理由は不明ですが、もしかしたら大晦日のケルン警察警備方法について襲撃事件を予防したことを認めず、人種差別的な警備だと批判したことや、テロ対策に関してもイデオロギー的な硬さでもって差別防止に焦点を当てるところなどが緑の党離れの一因となっているのかも知れません。選挙後の連立相手などを前以て決めないところも信頼性を失くす原因となっている可能性もあります。


1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先回答推移:


政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.1(前回比-0.1)


連立政権モデルの評価:

CDU/CSUとSPD(現行の「大きな連立」)

いい 47%
悪い 33%

CDU/CSUと緑の党

いい 35%
悪い 40%

CDU/CSU、緑の党、FDP

いい 24%
悪い 48%

SPD、左翼政党、緑の党(「左派連立」)

いい 24%
悪い 59% 

相変わらず「大きな連立」の支持率は高いようです。ただSPDが弱っているので、もう2大国民政党の連立とは言えないという指摘もありますが。


政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.5(↑)
  2. マルチン・シュルツ(SPD党首・前欧州議会議長)、2.0(初ランクイン)
  3. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、1.9(↓)
  4. アンゲラ・メルケル(首相)、1.8(→)
  5. ヴォルフガング・ショイブレ(財相)、1.7(→)
  6. トーマス・ドメジエール(内相)、1.1(↓)
  7. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.8(↑)
  8. ジーグマー・ガブリエル(新外相)、0.7(→)
  9. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.5(↓)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党議員)、-0.4(→)


AfDと極右思想


一番最近のはチューリンゲン州支部長のヘッケ氏の問題発言でしたが、こうした問題発言はAfDが複数の州議会入りを果たした後、殆ど定期的と言っていいほど数か月ごとに話題になってます。

AfDでは極右思想がどのくらい支配的だと思いますか?:

非常に支配的 44%
支配的 38%
それほど支配的ではない 11%
全然ない 1% 


AfDは極右的見解から十分に距離を取っていますか?:

はい 10%
いいえ 81%
分からない 9% 

このAfDを極右的ではないと思っている10%以上の人たちがAfDの票田になっているのでしょうかね。嘆かわしいことです。

 

トランプ大統領と独米関係&英EU離脱

今国際関係で一番話題になっている人物といえばやはりトランプ新米大統領でしょう。就任早々色んな大統領令で世間を騒がせています。ドイツではドナルド・トランプ大統領の政治はどう捉えられているのでしょうか。

ドナルド・トランプの政策は非常に心配なものですか?:

はい 62%
いいえ 37%
分からない 1% 

ま、心配ですよね。

独米関係はどう変わると思いますか?:

改善する 2% (2週間前:2%)
悪化する 72% (55%)
あまり変わらない 22% (39% )

トランプ就任前と比べるとかなり否定的な見方が強くなっているようですね。

 

次はイギリスのEU離脱についてです。トランプはこのイギリスの決断を絶賛していますが、当のイギリス国民の方は分断されたままです。

EU離脱交渉:EUはイギリスに大きく譲歩すべきですか?

はい 11%
いいえ 83%
分からない 6% 

 

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1,303名の選挙権保有者に対して2017年1月24日から26日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。

次のポリートバロメーターは2017年2月10日に発表されます。

参照記事:

ZDF heute, Politbarometer, K-Frage: Merkel knapp vor Schulz, 2017.01.27