みちくさ茶屋

いらっしゃいませ。どうぞごゆるりと。

見知らぬ乗客

2009-08-23 | calture
少し前の話になりますが、「見知らぬ乗客」の舞台を観てきました。
カメラが入っていたということなのでDVD化を期待していたものの、どうやらそれはかなわない様子。なので、備忘録も兼ねて、書いておくことにします。

本編に入る前に叫びたい。まず、このチケット取るのがどんだけ大変だったか!って話よ。ヤフオクやチケ流をのぞけば当たり前のように10万円ランク。(正規値段は8500円です)FC枠、一般発売であっさり落選し、当日券申し込みの電話もまっったくつながらず、耳も指も心も痛い状況でした。それでも「行きたい。行きたいんだよお!」とほうぼうでわめいていたら、多大なる協力をしてくれた友人のおかげで、なんとかゲット。さらに感動したのが「自分も観てすごく良かったので、みっちゃんにどうしても観てもらいたくて、毎日当日券申し込みの電話をかけ続けていた」というもうひとりの友人。ありがとうありがとう。涙が出ます。チケットを手にしたときには、「椿姫」の舞台を観るために大晦日の海に飛び込んだ北島マヤのように、「これで……これで行けるわ……!」と半分震えながら不気味な笑いをたたえておりました。
そんなこんなでチケット争奪にも震えた私ですが、やはり、二宮君の演技にはさらに震え上がりました。以下、感想を交えながらストーリー展開を少し。

はじまりはニューヨーク行きの電車の中。資産家の一人息子チャールズ・ブルーノ(二宮和也)と、新進気鋭の建築家ガイ・ヘインズ(内田滋)は、隣に座り合わせたことから知り合いになる。(余談になりますが、私、二宮君が「チャールズ」ってすっごく似合ってる名前だと思ったんだけど、舞台ではほとんど「ブルーノ」と呼ばれていて残念でした。母親役の秋吉久美子さんがたまに「チャーリー」とか言ったりはするんだけれど。)ガイにやたら好感を持ったブルーノは、自分がとっていた個室車両にガイを招く。このあたり、「ボンボン」感たっぷり。若造が個室をとってるっていうだけで相当だと思うけど、食事や酒をたくさん注文し、ボーイにはチップを50ドルも渡したりする。この時点でブルーノはかなりアル中。お酒飲んでばっかりだし、なんかどっか、ふらふらしてる。
でも、でもね! これがスゴイのよ! そんなキャラっていうのを前提に、聞いて欲しい。この舞台、主要人物が少なくて、ブルーノとガイの出番とセリフがとっても多い。ブルーノなんかは、橋田寿賀子の脚本なみに長い。しかも、日本人はそんなこと言わないだろうっていう外国人特有の言い回しも多いし、ブルーノの役柄を表そうとしてか、早口。なのに! なのに! 天才二宮、2時間半以上の舞台で一度も噛まなかったのだ!(他の役者さんたちは何度か噛んでた)いや、おそれいりました。役者二宮和也、プロ中のプロです。

「お互いもう、見知らぬ乗客じゃないんだよ。僕らはそれ以上だ」と、お互いの身の上を話そうともちかけるブルーノ。(このセリフ、チラシとか宣伝とかでよく引用されてたんだけど、こんなに早くにあっさり出てくるとはちょっと驚き。もっとコワいとこで決めゼリフとして言うのかと思ったけど、純粋に、仲良くなろうって気持ちから出た言葉だったのか……そう思うと、ちょっとせつない)
ブルーノは、成人してもなお自分を認めてくれない父親を憎んでおり、ガイは、浮気相手との子供を身ごもりながらも名誉目当てで離婚に応じない妻に腹を立てていた。そこでブルーノはガイに持ちかける。「僕の父を殺してくれるなら、君の奥さんを殺してあげる」と。
ガイはそんな恐ろしい話にはのれないと相手にせず、ブルーノから去っていく。が、そこでブルーノがこっそり隠したガイの本(プラトン)に書かれていた住所と電話番号からガイの妻をつきとめ、絞殺してしまう。
このときの、殺人鬼と化す二宮君がすごい。首を締めて、一度死んだかと思った妻が息を吹き返したのに気づき、あわててもう一度首に手をかけるんだけど、目をひんむいて、うすらわらいを浮べて、「はぁ……はぁ……」っていう興奮ぶりが鳥肌モノ。自分のしてることが、恐怖だけど快楽、みたいな。こえぇ……。
自分の知らないところで妻が殺されたころ、ガイは、恋人アンと一緒にいた。ガイ演じる内田滋さんがあまりにも正統派のハンサムなので観てるほうもうっかりしちゃうんだが、つまりガイだって、妻がありながら可愛い恋人とよろしくやってたわけですよ。だから早く奥さんとも離婚したかったというのはわかりますが。

さて、妻が死んだことにより、ガイは晴れてアンと結婚し、仕事でも成功をおさめ、輝かしい第2の人生をはじめようとする……ところに、ジャジャ~ン! ブルーノがやってくるのです。「君の奥さんを殺してやったんだから、僕の父親を殺してくれ。僕達はもう共犯なんだ」と。
自分は妻を殺してくれなんて言っていない、もう僕とはかかわらないでくれ、とつっぱねるガイ。しかし、あの手この手で執拗にガイをつけまわし、彼を精神的に追い込んでいくブルーノ。
でもブルーノには「ガイを困らせてやろう」というより、「ガイにかまってほしい」という愛情の飢餓感が受け取れる。ブルーノには友達も恋人もいない。唯一、べたべたに愛し愛されている母親が彼のよりどころ。アル中でマザコンでイッちゃってるブルーノもかなり「お子ちゃん」なのだが、母親にもずいぶんな未熟さを感じる。世間知らずで、美しく着飾って、あまったるい声で「ベルトを買いたいんだけど、どう思う~?」などと息子にしなだれかかる母親。秋吉久美子さんが好演してました。この母ちゃんならしょうがないか、みたいな空気がうまくかもし出されていて。

話を戻しますが、ブルーノにしつこく詰め寄られたガイは、だんだん精神状態がおかしくなってきており、とうとうブルーノの指示に従って父親殺害に手をかけます。ここで興味深いのは、この舞台において重要人物であるはずの、ブルーノの父親が登場しないこと。なので、どんな人物なのか、実際にどんな会話をしていたのか、観客にはわかりません。ただブルーノが「僕を認めてくれない」と憎んでいるだけで。それを考えると、もしかして、ブルーノが一方的にいじけてるだけで、実はそんなひどい父ちゃんではなかったのではないかという気にさせられます。このへんは「観客の想像に投げる」という手法をとっており、おもしろいと思いました。

殺人を犯してしまったことにより、ますます不安定になっていくガイ。仕事も手につかず、当然、誰にも打ち明けられず……。探偵や警察からの尋問をかわしていかなくてはならないストレスにもさいなまれています。ブルーノは相変らずガイに不気味ともとれる好意を表しており、ガイはもうブルーノとの関係を断ち切りたいと思いながらも、どこかで彼が自分の中に入り込んで大きな存在になっていっているのを認識している……そんな感じ。そう、いつしか、ガイもブルーノを不思議な形で愛し始めていたのかも……。

そんな中、バーで2人で飲んでいるシーンが印象的でした。ブルーノにとっては「デート」みたいな感じだったのかもしれません。お酒をこぼしてしまったブルーノに「拭いてやるよ」とやさしく口元をぬぐってあげるガイ。まるで恋する少女みたいにうれしそうなブルーノ。しかしガイは、「もう二度と会いたくない」とブルーノに背を向けます。「何万年でも、僕は待ってるから! 何万年でも……」消え入るような声で、遠ざかるガイに叫ぶブルーノ。どう考えてもイカれてますが、そこはさすが二宮君、うまい。観てるほうは「泣かないで~」って慰めてあげたくなっちゃうようないとおしさが。

その後ブルーノのアル中は悪化し、顔つきもかなりヤバくなり、手もぶるぶる震えた状態に。この演技も白熱。二宮君、どこでそういうの学ぶのかなあ。手の動き方とか、目の流し方とか……。
すっかり酒に侵食されてしまった息子に「もう私には手が負えないわ」と母親も匙を投げてしまい、それを母親の「裏切り」と受け取ったブルーノは、絶望の淵へ……
「ままーーっ、ままーーーっ」と、ぐるぐるぐるぐる、母親を捜し求めるシーンは圧巻でした。

そして舞台はクライマックスへ。
ガイとアンの家で、仕事仲間でもある旧友が「橋を作る計画」を持ちかけます。アンも「昔からの夢だったじゃないの」と喜んでいるのに、気乗りしないガイ。
そこにブルーノが登場。ガイの友人だと思っているアンは、ブルーノを招き入れてしまいます。ブルーノはもうマックスに錯乱していて、わけのわからないことを叫んだり、ロデオポーズをとったり(ガイの元妻を殺したのがメリーゴーランドに乗ったあとだったので、それを思い出させるような場面)、めちゃくちゃなテンション。しまいにはガイの部屋にあった拳銃を取り出し、自分の頭に銃口をつきつけようとするブルーノ。ガイはあわてて阻止しようとし、2人がもみあっているうち、銃弾の音が……。

「ありがとう……」
ひとこと礼を言って、倒れ込むブルーノ。引き金を引いてしまったのがどちらだったのか、それは謎です。殺す意志、自害する意志の有無も、故意なのか事故なのかも。
息絶えたブルーノを抱きしめながら、ガイは、額に、顎に、唇に、やさしく口づける……。
そこで暗転。

探偵がやってきて、撃ったのはどちらかと尋問。
「わからない。でも、ブルーノは言っていました。僕はいずれ自殺する。しかも、一番憎んでいる人に、殺されたように見立てて、と」
そう答えるガイに、探偵はこう諭します。
「でも私は、彼はあなたを愛していたと思うのですが」

それには答えず、両手を探偵に差し出すガイ。
手錠をかけてください、みたいなポーズ。
ここで舞台は終幕です……

最後、砂かけるようで悪いですが、ガイがラストで探偵に両手を差し出したのがなんか疑問でした。
探偵って、手錠かけたりしないよね? 「捕まえてください」って意思表示だったんだと思いますが。

うーん、思い出しながらざっと書いてみましたが、これでは舞台の素晴らしさがよくわからないわ。
本当にDVD化はナシなのかなあ~。角度的に見えなかった表情とかもいっぱいあるんだよなぁ。秋吉さんと二宮君のチューも、確認できたのは秋吉さんの金髪後頭部だけだったし。地道にジャニーズ事務所にリクエストメールするか……


最新の画像もっと見る

コメントを投稿