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三池祟史監督『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』その2

2015-01-24 11:32:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 親となる阿湖は玲二にゲテモノジュースをジョッキ一杯一気飲みさせ、玲二はそれが盃だと思って臭いとまずさを我慢して飲み干すと、阿湖はそれは単なる不老不死のジュースだと言います。玲二がわざと床に転がした錠剤を拾う月浦。玲二は月浦が麻薬取引に絡んでいると見抜きます。
 月浦と二人になった玲二は「錠剤を買うか?」と言うと、月浦は「対等な相棒契約を結ぼう」と言い、ロシアンルーレットをし、「引き金を引いたのはお前が始めてだ。裏切ったら死んでもらう。ルートはすきや会の3次団体のしかばね組から末端へ。クスリは組長と俺の秘密のしのぎだ」と言います。
 月原の身辺を洗うようにと、玲二が路上で上司に携帯で連絡していると、バイクに乗った豹柄の刺青の男・黒木(上地雄輔)に拉致されます。
 猫沢は玲二を逆さ吊りにし、玲二が子分らを撃ち殺したとして、灰皿をパンストに入れて作ったヌンチャクで、玲二を殴ります。「すきや会をつぶせば若頭になれる」と言う猫沢は、玲二がまだすきや会の盃をもらっていないことを知り、「今日は半殺しで我慢してやる」と言って、玲二を解放します。
 バッティングセンターで上司から「抗争のきっかけを作ったら潜入捜査は終了だ。2,3年したら復職させてやる」と告げられる玲二。
 日浦と不良債権の取り立てに行く玲二。日浦は歯医者で債務者の歯をドリルで破壊し、別の債務者には火炎放射器を放ちます。
 セスナを操縦する日浦は、この世界へ誘ってくれ、その後シャブで自滅して死んだ昔なじみの友人の借金4千万を友人の親に肩代わりさせようとしますが、親のあまりの窮乏を見て、幻の蝶をアマゾンに探しに行っている息子からの生活費だと言って2百万置いて帰ります。それを見た玲二は、鳥肌の立つほどカッコよく生きてみたいと言います。
 「盃を受ける腹は決まった。さよならジュンナ。クスリをばらまいている奴らを一網打尽だ」と思っていた玲二は、「殺気を放ったな」と言う轟に殴られます。玲二は今日盃を受ける予定で、あんたの背中を捕えて超え、究極の男になりたいと言うと、轟は「気合い入ってるな」と言って気に入ります。
 盃の儀式。手のひらに書いておいた口上は汗でにじんで消えてしまいます。「盃を懐深くおさめてから口上を」と言われて、バリバリと盃を食べだした玲二は、見事な口上を述べ、轟は「こいつの無礼を許してやってくれ」と言います。
 すきや会と蜂の巣会の抗争が始まり、銃撃戦が展開されます。猫沢は玲二を守る日浦の足を立て続けに撃ち、猫沢が投げた手榴弾からも玲二を守るために日浦が玲二の上にかぶさります。「いい花を咲かせろ」と言って意識を失う日浦。「背中の蝶はカッコよく飛んでるぜ」と言う玲二。
 夕日に向かって飛ぶ蝶。蜂の巣会は抗争の正当性をアピールするため、怪文書を警察に送りつけます。植物状態の日浦。月原は阿湖に「ロシアのマフィアから百万錠のMDMAを買わないかと言ってきている。蜂の巣会の猫沢に1錠八百円で買い叩かれたらしい」と言うと、阿湖は「クスリはご法度だが、一石二鳥だ。日浦も喜ぶだろう」と言います。「傷を負った者は去るしかない。俺が兄弟の羽になる」と考える玲二。
 ジュンナが自室で胸を見て「また垂れてきた」と言うと、ドレスボックスから玲二が出てきて「セックスさせてくれ」と言います。ジュンナが拒否すると、玲二は「大切な男が撃たれた。もう飛べない。死にかける度にお前の顔が浮かんだ。童貞のままで死にたくないと生き延びてきた。しかし死ぬ覚悟ができたから会いに来た。もういい。童貞のままで死んでやる」と言い、ジュンナは「しよう」と言ってくれます。大量のコンドームを取り出す玲二。入れる前にイってしまい、ジュンナに抱かれてまた立ちますが、二度目もダメです。3度目は上司の顔を思い浮かべ、イクのを我慢し、なんとかセックスすることに成功します。一方、日浦を拉致する黒木。(また明日へ続きます……)

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三池祟史監督『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』その1

2015-01-23 10:24:00 | ノンジャンル
 三池祟史監督の’14年作品『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』をWOWOWシネマで見ました。
 疾走する車のボンネットの上に縛り付けられた裸の男。「殺気放ったな」と言う“特別検分役 轟周宝”(岩城滉一)。「ヤクザは面白くなくちゃ」と言う“取持人 日浦匡也”(堤真一)。「金持ってる奴が偉い」と言う“立会人 月原旬”(山田孝之)。「お前が火をつけた」と言う“親 阿湖正義”(大杉漣)。そしてボンネットに縛られている“子 菊川玲二”(生田斗真)。「数ヶ月前まで交番勤務の巡査だった」のナレーション。警察学校最低の成績で、交番勤務となってからも近隣住民とのトラブルが絶えないのでクビを言い渡される玲二。万引き少女に性器を見せるように強要していた店主に銃を向けたが、その店主が市会議員だったことから、このようなことになったらしい。あくまでも自分の主張をし続ける玲二に、上司は「合格!」と言い、潜入捜査官に任命されます。殺人やシャブ、人身売買を行う日本一の犯罪組織・すきや会の代表、周宝を挙げるため、地下にもぐり、モグラとなること、そのための専属養成係としてイメクラのカズミの写真を見せられます。
 イメクラで「初体験は好きな人と決めていた」と尻ごみをする玲二は、シャワーを浴びていると男にスタンガンを当てられ失神し、気がつくと疾走する車のバンパーに裸のまま縛られています。恋人の婦人警官ジュンナにその姿を見られる玲二。男に「サツの犬だろう?」と言われ、玲二があっさりとそれを認めると、洗車機で体を洗われ、玲二が男を罵ると、男は「今まで20人来たが、皆泣きを入れた。合格だ。黒檜組に潜入しろ」と言って、組の事務所に玲二が縛られたままの車を突っ込ませます。
 「舎弟になりたくて」という玲二に、組長は「景気づけに日高を撃ち殺せ。警察の犬だ」と言い、日高の頭をビール瓶で割ります。もうすぐパパになると言っていた元同僚の日高を思い出す玲二。「殺さなければ口封じにお前を殺す」と組長が言うと、玲二は組長を人質に取り、日高と一緒に逃げようとします。すると組長は「合格!」と言い、自分は厚生労働省麻薬取締課長だと明かし、皆で拍手します。「どこまで合格が続くんだ?」と吐き捨てる玲二。日高の血も特殊効果の血糊でした。しかし日高は目から義眼を取り出し、見破られれば拷問が待っていると言います。土竜(モグラ)の唄の合唱で、「拷問されても身分を明かすな。女と甘い言葉には気をつけろ」と歌われます。
 すきや会直参のあこぎ組のカジノ。ヤクザにケンカを売って取り入ろうと考えた玲二は、イカサマを演じ、落とし前として手をナイフで刺し、血糊を使います。組員(的場浩司)はそれを見破り、玲二のキンタマをゴルフのクラブで叩きつぶそうとしますが、玲二は自慢の石頭で相手をやっつけます。そこにあこぎ組の組長の監視役で、常に蝶柄の背広を着ている日浦が現れ、組員の鼻を上向きに砕き、「お鼻にお花が差せるようになれば、蝶も飛べる」と言い、「ヤクザは面白くないと」と言います。日浦は拳銃を玲二に向け、面白い話を要求し、サツの犬か?と聞きます。一方、ジュンナは自分の超セクシー写メールを送っても返事がないので、玲二を心配しています。玲二から携帯を奪って、その写真を見、「面白くねえ」と玲二を殴る蹴るする日浦。「拷問されても身分を明かすな」の歌詞を思い出す玲二。日浦はカジノの女に玲二を撃たせますが、弾が外れ、日浦が玲二に銃口を食わせると、女は逃げ出します。玲二は「見たこともない蝶を見せてやる」と言い、「切腹して腸を蝶々結びにしてホルモン蝶を飛ばす」と言うと、日浦は「面しれえ、俺と義兄弟の契りを交わし、あこぎ組のナンバー2になれ」と言います。
 今夜日浦と快気祝いを歌舞伎町のクラブですると上司に報告する玲二。すきや会の資金源は錠剤の合成麻薬MDMAで、年に数千億、周宝自らがしのいでるので、組織の奥の奥まで入らないといけないと言う上司。
 クラブに行くと、新人だと言ってジュンナが紹介されます。カズミからメールをもらったと言うジュンナは、事情が分からず玲二と口げんかをします。自慢のパールコブラを日浦が見せ、逃げ出すジュンナ。日浦は「クスリはやらねえ。それが親父の口癖だ」と言います。するとダイヤの歯を持つ、関西最大の組織・蜂の巣会の猫沢(岡村隆史)が、親分からすきや会との火種を作れとの命令を受け、ワカメ酒を飲ませろと暴れ出し、玲二を捕まえ、目にタバスコを注ぎます。目の見えなくなった玲二は、ジュンナに電気を消せと言います。猫沢が玲二の指を4本まとめて詰めようとすると、電気が消え、玲二は闇の中で光るダイヤめがけて襲いかかり、猫沢を撃退します。親父に盃を取り持とうと言う日浦。(明日へ続きます……)

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木皿泉『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』その4

2015-01-22 10:15:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
ある日、突然涙が止まらなくなった。連太郎だったらどうしよう、絶対イヤだと思い、連太郎の家に向かったが、留守だった。夕子は会社でチビチビと仕事をしている自分こそ、一番見すぼらしいと思った。ふいに、連太郎の家の銀杏の実を拾い集めて、洗っている自分の姿が見え、突然涙が止まった。条件反射的に「死んだ」と確信したが、その時、連太郎が家に入ってきた。夕子を見て驚いている連太郎に「死んだかもしれないって、思ったもんですから」と夕子が言うと、連太郎は「実は、昼間、ちょっとそんなこと考えました」と答えた。座敷から見る銀杏の木は、とても様になっていて、変わらないものが、ここにはあると、夕子は自分の心が安らいでゆくのがわかった。夕子は「私ここで暮らしていいですか?」と言い、連太郎は「夕子さんのせいで誰か死んでいる訳ではない、単なる能力なのだ」と言い、それを聞いた夕子は、気持ちが少し楽になった気がした。夕子は寿退社した。結婚した次の年に、男の子を産んだ。庭にある一本の木のような人になってほしいと、一樹と名付けた。夕子は家事をするだけで十分に幸せだった。それが連太郎の仕事の都合で、東北の方へ一家で移り住むことになってから、気持ちがどんよりとしはじめた。連太郎はパチンコにのめり込むようになった。そして家を売ってマンションを買おうと連太郎は言い出し、夕子は深く絶望して、「パチンコをやめられないなら、私を刺して下さい」と言って包丁を差し出した。夕子のうなじをじっと見つめていた連太郎は「もうやらないよ」と言い、それ以来パチンコを止めた。夕子は、その後、ほとんど泣かなかったが、一度だけひどく泣き続けたことがあった。関西でひどい地震が起こったと聞くと、夕子はようやく泣き止んだ。やがて夕子は不治の病にかかり、自分が、あんなに泣いたのは、死んでゆく誰かを慰めるためだったと分かった。私は、ここに来てよかったんだよね。加藤さんの言葉がよみがえり、言う通りだったと、幸せな気持ちになった。
『男子会』 岩井のアパートにギフが突然訪ねてきた。ギフは大量の水のダンボールを玄関に運び込み、家出をしてきたと言い、泊めてほしいと言う。会社でテツコに尋ねてみると、女の人のところへ行ったみたいだと言った。家に帰ると、家具の入った箱がいくつか増えていた。ギフが言うには、書道教室で知り合った30代後半の女性が北欧の家具の店をやっていて、温泉に誘われ、そこで女は突然、さめざめと泣き出し、「このままじゃ倒産する」と言い、ギフが金を貸そうか?と言うと、じゃあ家具を買って下さいと言われたらしい。配送先を自宅にする訳にはいかず、とっさに岩井の住所を書いてしまったのだとか。女はギフを連れて温泉をすぐに出て、自分の事務所に行き、ギフに水を買ってきてほしいと言うと、そのまま姿を消してしまったのだと言う。寝る場所がなくなった岩井とギフはギフの家に行き、テツコにはギフが一時的に記憶喪失を起こしたということにして、岩井はギフの家に泊まり、テツコがこの生活を失いたくないので、この家に居続けているのだと分かった。家具は岩井の友人たちが買ってくれ、岩井は自分のアパートに戻ると、またギフがやって来て、今度はテツコが家出したと言う。一樹の従兄弟の虎尾に聞いて、一樹のお骨を返しに行ったことは分かった。そこへテツコがやって来て、京都に行って、ギフとテツコが使っているのとおそろいの茶碗を買ってきたと言う。テツコは「一樹は死んだってことでもういいよね」とギフに言い、ギフは、うんうん、とうなずいた。「一樹もそれでいいと言っている」とテツコは続けた。それから岩井は茶碗を持ってギフの家をしばしば訪ねるようになった。どこへ行くのかわからないけど、それでいいと岩井は思った。
『一樹』 「明日のパン、買ってきて」と夕子に言われ、一樹は顔をしかめた。自分で行けばいいのに。パンも嫌いだった。母がつくるものは、どこかぶかっこうで、一樹は自然と人とかかわらない子になっていった。パンを買い、雨の中、傘を差して歩いていると、子犬を抱いている女の子が「入れてください」と飛び込んできた。かすかにカレーの匂いがしたので、「今日のお昼、カレーだったの?」と聞くと、「夕べのカレー」と女の子は答えた。自分が抱えているのはパンだと教えると、女の子は「犬の名前、パンって名前にしていい?」と聞き、「いい名前だと思うよ」と言うと、女の子は、また雨の中を走り抜けて行った。一樹が17才の時、母が亡くなり、話の通じない父と残され、遊んでいても、ふいに恐ろしいほどの悲しさに襲われるようになった。そんな時、成長して女子高生になったあの女の子とばったり出会った。逃げる女の子を追いながら、母が「動くことは生きること」と言っていたことを思い出した。女の子に追いつき、「あの時の犬、どうした?」と聞くと、「パンは生きてるよ」と女の子は言った。一樹は心臓の動悸を感じ、「自分は、今、間違いなく生きている」と思った。

木皿さんの文章は、無駄な文がなく、あらすじにするのにとても苦労しました。最初の短篇『ムムム』だけが、まともなあらすじで、他のものは相当はしょって書いています。アフォリズムも多く出て来て、書き残しておきたい文に多く出会えました。今後も木皿作品は要チェックです。

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木皿泉『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』その3

2015-01-21 11:04:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。
 『虎尾』 一樹の従兄弟の虎尾は、一樹が亡くなった後、一樹が使っていた廃車寸前の車をもらう。一樹は若い頃とてももてた。その武勇伝はその車とともにあった。その一樹がなぜテツコのような地味な女性と結婚したのか、不思議だったが、一樹は「選ぶんじゃなくて、もう、それしかないんだって」と言った。そして一樹の死を母からの電話で知ったのは、オオちゃんと初体験を済ませた直後だった。ある日テツコから電話があり、雪だるまがまだあるか?と聞いてきた。そしてそれを届けて、テツコとギフが小さな人形で大いに盛り上がっているのを見ると、一樹に何か返せたような気持ちになった。初体験の子とはお互い結婚するならこの人と思うようになっていたが、マンションの購入時に虎尾が駐車場も買いたいと言うと、全く連絡を寄越さなくなった。ある日、テツコは自分が缶に取っておいた一樹の一片の骨を一樹の墓に返すのを手伝ってほしいと言ってくる。深津先輩に手伝ってもらい、それを成し遂げると、深津先輩がシャワーを浴びたいと言うので、ラブホに行った。テツコがもういらないと言う缶を虎尾がもらうと、もう車は廃車にしてもいい気がした。そして一樹のことを死ぬまで忘れないとテツコが言うのを聞いて、一樹が何でテツコでないとダメだったか、わかった気がした。そして無性にオオちゃんに会いたいと思った。
 『魔法のカード』 職場で岩井が結婚詐欺にあったらしいと聞いたテツコは、パンケーキ屋で本人に問いただす。岩井は、イジメで同級生に金を巻きあげられ、自殺しようとしていた小学生の女の子と、夜の橋の上で出会い、480万貸してくれればリセットできると女の子が言ったので、480万を渡したが、その時に聞いた住所はウソだったと話した。話を聞いて頭にきたテツコは席を立つが、その時に岩井の携帯も持ってきてしまう。夜になり、その女の子から岩井の携帯に電話があり、今日中に岩井に会いたいと言う。テツコが女の子に会うと、彼女は「自分は何も信じられない嫌な子だ」と言い、お金を返したいとテツコに言った。岩井は、願いの叶う“強・中・弱の魔法のカード”だと言って、自分の名刺3枚を渡したので、女の子は強のカードを岩井に渡して、480万貸してほしいと言ったと言う。女の子はテツコに促され、自分で岩井にお金を返しに行き、帰ってきたが、魔法のカードを岩井に返すのを忘れたと言う。テツコは「人生は長いから、もらっておけば」と言い、女の子は、「ほんとうに美しいもの」を探した詩人の八木さんに教えてあげたかったと言った。女の子と別れると、すぐに岩井から「オレ、結婚できるから」という電話がかかってきた。テツコはこれぐらいのことで岩井さんをイヤだと思ってしまった自分の心の狭さに、自分は怒っていたのだと分かった。テツコは「一番強い魔法のカードちょうだい」と岩井に言う。私が欲しかったのは、これだったのか。怖いものなど、何もない。
 『夕子』 夕子は、親しくなると、その人がいつ亡くなるのかわかる。亡くなる一週間ぐらい前になると、なぜか涙が止まらなくなってしまう。涙は不思議なことに、亡くなったという知らせが入ったとたん、ぴたりと止まる。だから、自分が結婚して家庭を持つ、などということは、とても考えられなかった。しかし、短大を出てOLになると、周りが放っておいてくれず、親や親戚に勧められるままにお見合いをした。どの男性も見すぼらしく思え、ことごとく断った。ある日、見合いの後、例のごとく涙が止まらなくなり、相手は交通事故で死んだ。それ以来、夕子は全ての見合いを断わり続けた。事務の仕事は性にあっていた。が、しばらくするとシステム室なるものができて、コンピューターで管理することになり、全てが簡素化され、伝票処理が誰にでもできるものになってしまうと、夕子の仕事は面白いものではなくなってしまった。夕子の周りはみんな怒らなくなっていき、最後まで口うるさかった加藤さんも辞めてしまったが、別れ際に夕子に「世の中、あなたが思っているほど怖くないよ。大丈夫」と言ってくれたおかげで、夕子はまた見合いをしてみることにした。見合いの相手は寺山連太郎という27才の気象予報士だった。会ってみると、見すぼらしいと思うところは、ひとつもなかった。とりあえず、お付き合いしてみようかな、と言うと、母親は喜んだが、数日後、占いの結果が悪かったと言って、やめた方がいいと言い出し、本当に断ってしまったようで、連太郎からの連絡は来なくなってしまった。(また明日へ続きます……)

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木皿泉『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』その2

2015-01-20 10:52:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 結局、その日、台風は大きくそれた。岩井さんがつくった焼きそばを二人は食べた。岩井さんは、エジプトの砂漠の真ん中で車を降ろされ、それでもフツーに歩いていた自分を見て、驚いた相手が引き返してきた話をして、「オレ、麻痺しちゃってるのかな」と言った。
 岩井さんの家を出ると、ギフからメールが届いた。「ムムムの件ですが、タカラジェンヌはどうでしょう。小田宝が本名です」台風はそれたとは言え、風はまだまだ強かった。虫カゴが風に舞って飛んでいくのが見えた。テツコは、虫をとらえるはずの虫カゴが空を飛んでゆくのを見て、わけもなく気持ちが明るくなった。ギフから、またメールが届いた。「今日は、台風がおさまったから、予定通り寿司屋にでかけましょう」テツコは、思い当たることがあって一人で笑い出した。駅前に新しくできた寿司屋の名前は、たしか「雷寿司」だった。ギフは、カレンダーの稲妻の絵を「雷寿司の日」だと思い込んでいたのだ。虫カゴはどこかへ飛んでいってしまった。それは、たぶん誰も思いも及ばない場所で、そういう場所が、まだきっとあるのだと、テツコは思った。
 『パワースポット』 航空会社の客室乗務員のタカラが、末期ガンのカズちゃんを見舞った後、母からカズちゃんが亡くなったことを知らされ、修学旅行のおみやげにカズちゃんにあげた、雪だるまがスキーしている人形はどうなってしまったんだろうと考える。中堅になった仕事は楽しくなく、ある日突然、笑うことができなくなり、神経クリニックの帰り、笑いが止まらなくなって産婦人科医を辞めたというサカイくんに会い、バイクの事故で正座ができなくなり、住職を辞めた深チンの話を聞き、「3人で、パワースポットでも行く?」と言われる。タカラは仕事を辞め、29才になって実家に戻り、昼間は家にこもり、夜に出かけるようになると、ある晩、カズちゃんのお父さんが流星群を見ているのに出会う。お父さんにカズちゃんが空から見ていると信じてもらえば、自分も救われると思ったタカラは、カズちゃんの形見として雪だるまの人形を求める。それはカズちゃんのお嫁さんの徹子さんからの手紙とともに届けられ、「一樹が残していったものは、案外たくさんあるかもしれないことに気づかせてくれてありがとう」と書いてあった。タカラは後輩に、勤務中はその人形を持っていてほしいと頼み、カズちゃんのお父さんを呼び出し、あの飛行機にカズちゃんが乗ってると言うと、お父さんは「おーいッ! 一樹ッ!」と叫ぶ。そして「一樹がよく言っていた。あれにタカラが乗ってるかも、って。いい名前だな、タカラ。オレ、くたくたになるまで生きるよ」と言い、「私も、くたくたになるまで生きていていいですか?」というタカラに、「見ててあげるよ」と言ってくれた。タカラはサカイ君にまた出会うと、彼は深チンと3人で「パワースポット」という惣菜屋をやろうと言う。タカラは何だか嬉しくて、気がつくと心の底から笑っていた。
 『山ガール』 定年後の趣味を探していたギフは、テツコに友人の32才の山ガールの里子を紹介される。山歩きは思った以上に気持ちのいいもので、頂上で里子に勧められるままにビールを飲み、里子は婚約者にふられた過去を語ると、ギフは「目の前から消えちゃったんだから、死んだのと同じ」と言う。しかしビールの飲み過ぎで、ギフは帰りの途中で歩けなくなり、里子はギフを背負っていくと言う。その首筋を見たギフは、そこから彼女の覚悟を感じた瞬間、力が戻る。それはパチンコにはまっていた時、包丁を自分に渡し、「賭け事をやめられないんなら、私の首を刺せ」と背中を向けた時の妻の首筋を思い出させたのだ。里子は、自分が山登りする理由が、誰かと生死を共にしたかったのだと分かる。「あーあ、また明日から仕事か」と言う里子に、ギフは「いつ誰かと事故に巻き込まれるかもしれない。すでに知らない誰かと生死を共にしている」と言い、「じゃあ、私をふった奴とも共に生きてるんですか」と里子が言うと、ギフは「見えなくても、いるんです」と言い、里子もあの男と共に生きていく覚悟をつける。帰宅したギフはテツコに「オレたちってさ、生死を共にしてんだよなぁ」と言い、テツコは銀杏の実を割りながら、その合いの手のようにギフが唸り声を風呂で上げるのを「これが生死を共にするってことなのかな」と笑った。(また明日へ続きます……)

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