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ジェフリー・ディーヴァー『ブラック・スクリーム』その5

2021-11-29 11:05:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

「こいつは月曜の深夜にアメリカを発って、昨日、火曜日にイタリアに着いています」
 ダンテ・スピロは剣のように鋭い声で言った。「なぞかけはいい。きちんと説明したまえ、森林警備隊!」
「誘拐犯です。最終的には被害者を殺すつもりで拉致するようですが。“コンポーザー”というニックネームがついています。死の直前の被害者の映像を使ったミュージックビデオを作るんです」
 ロッシとスピロは━━ダニエラも━━唖然(あぜん)として言葉も出ない様子だった。
「だって、あれ」エルコレはバス停留所のベンチの背もたれを指さした。
 背もたれの支柱から、ミニチュアの首吊り縄が下がっていた。

 (中略)
 スピロが続けた。「さて、私はナポリに戻らなくてはならない。おやすみ、マッシモ。何かあれば連絡を頼む。報告書はすべて送ってくれ。鑑識報告書も忘れずに。この手がかりは追跡すべきだろうな。本当に犯人が残したものだとするなら」スピロは首吊り縄を見つめた。それからかぶりを振ると、自分の車に戻った。(中略)
 爆音が遠ざかるのを待って、ロッシが言った。「私の部下だ」
「はい。シルヴィオ・デカーロ」
「首吊り縄のことを訊いてみたんだ。何も知らなかった。アメリカの誘拐事件、コンポーザー事件のことは何も知らなかったよ」ロッシは小さく笑った。「そう言う私も何も知らなかったがね。スピロ検事も知らなかった。しかし、きみは知っていたな、ベネッリ巡査。きみだけはその事件のことを詳しく知っていた」
「報告書や警戒情報に目を通しましたから。それだけのことです」
「うちの人員配置に一時的な変更を加えようと思う」
エルコレ・ベネッリは黙って先を待った。
「私の下で働くことは可能かな。私の部下として。むろん、今回の事件に限っての話だが」
「僕がですか?」(中略)
「そうしてくれ。国家警察ナポリ本部(クエストウーラに。場所はわかるな?)
「はい、行ったことがあります」(中略)

 (中略)
 いまステファンは、カンパニア州ナポリ近郊の仮住まいにいた。古い建物だ。(中略)
 ステファンは作業台に戻り、ヘッドフォンを着けた。音量を上げ、ガット弦をより合わせたリ結んだりして首吊り縄を作る作業を続けながら、鼓膜を優しく愛撫する音に一心に聴き入った。ふつうの人のiPhoneやモトローラの携帯電話にあるプレイリストには、フォークソングやクラシック、ポップスやジャズ、そしてジャンルを超えた音楽が並んでいるだろう。ステファンのハードドライブにも、もちろんたくさんの音楽が保存されている。しかし、記憶容量の大部分を占領しているのは、音楽ではない音だった。(中略)現在も残る録音を最初に作成した装置は、エジソンが1878年に発明した蓄音機だ。ステファンは、エジソンが録音した音源をすべてコレクションしている。(中略)
 手袋をした手で首吊り縄を思いきり引っ張って強度を確かめる━━ただし、勢い余ってラテックスの手袋を破かないよう用心した。(中略)
 残るはリズムセクションだ。
 もう完成したも同然だなと思いながら、リビングルームの奥の小部屋をのぞきこむ。そこには、つい最近までリビアのトリポリ在住だったアリ・マジークが、ぼろ人形のように力なく横たわっていた。

「第三部 地下送水路 9月23日 木曜日」

(中略)
 ロッシが言った。「昨夜、バス停留所で採取した証拠をベアトリーチェに分析してもらった。そこのイーゼルの紙に書いておいてもらえないか。きみの報告書や私のメモの情報も頼むよ。現場の写真も貼っておいてくれ。いつもそうやって捜査の進捗を記録したり、手がかりや関係者を結びつけたりしているんだ。図式分析だね。ひじょうに重要なことだ」(中略)
 ダニエラが言う。「これは私の個人的な意見になりますけど、警部、ンドランゲタのとりわけやっかいな構成員がナポリに来ているという噂があります。(中略)」
 その報告はロッシの注意を引いた。
 イタリアには、有名な犯罪組織がいくつか存在する。(中略)なかでも危険とされ、精力の及ぶ範囲が広いのは(中略)ナポリの南側、カラブリア州に本拠を置くンドランゲタだ。(中略)

 (中略)
 男性が二人、ロビーに現れ、アメリカ人の一行にひたと視線を据えた。(中略)二人は目配せを交わしたあと、三人に近づいてきた。
「あなたがリンカーン・ライム?」年長のほうが言った。イタリア語の癖の強い英語ではあったが、理解に支障はない。
「そうです。こちらはアメリア・サックス刑事と、(ライムの介護士の)トム・レストン」(中略)
 ロッシが言った。「ライム警部、サックス刑事、ショール・レストン、こちらはスピロ検事。今回の捜査の一員です」

(また明日へ続きます……)