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千葉伸夫『チャプリンが日本を走った』その2

2018-01-12 05:41:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
・「1921年、最初のヨーロッパからの旅の帰途、ニューヨークでシンシン刑務所をおとずれた。面会室で老婆の手をにぎりしめるひとりの囚人。父母の対話にしがみついている子、子の笑い声は救いだった。独房を見て自分なら発狂するだろうと思う。囚人になんとあいさつしたものか迷い、得意のギャグを披露しておどけて見せた。死刑執行室の陰惨はことばにならない。庭を監視人とひとりの男が歩いていた。処刑前の散策だった。男がチャプリンの方に来た。血の凍る瞬間だった。その印象は消えることがなかった。若いアイルランド独立運動家に会ったとき、会えてよかったと言われて、心のひらかれる思いがしたと『僕の旅』に書いている」

・「こんどの旅に出る前も、シンシン刑務所で千八百人の受刑者に『街の灯』を上映して慰問してから旅に出た。かれらを感動させることができないならば、だれを感動させえることができるだろうか、という思いからだった」

・「『旅行記』によると、ロンドンでは、ロンドン中央刑事裁判所で、作家のオスカー・ワイルドが幽閉されていたワーンズヘス刑務所を訪ねた。女性が色男(情人)の顔に硫酸をかけた事件の裁判を見物した。ロンドンの刑務所の特質は、囚人に沈黙を強いることであり、チャプリンにはとても理解しがたい措置だった。死刑囚監房と死刑室も見た」

・「小菅刑務所は葛飾区の西端、荒川と綾瀬川の間の田野に1930年に建てられた。蒲原重雄の設計による白鳥が翔び立つ姿をデザインしたもので、今日では日本の名建築にあげられている。時計台の中央尖塔の下、X字型の中央舎屋、廻廊の両端にY字型の三階建ての威容だった。バープ・チコン・システム、セセッション式といわれる。(中略)
 チャプリン『ここの建築設計は誰がしたのですか?』
 香椎『日本人によって設計その他全部なされました』
 チャプリン『いや、実に立派なものですね。私は日本にこんな立派なプリズンがあろうとは思いませんでした』
 囚人がチャプリンに礼をして行く。
 チャプリン『これは礼儀正しいですね。囚人の内訳は?』
 香椎『強盗333名、殺人247名、窃盗180名、その他。全員十年以上の刑期です』」

・「監房、教誨室、自動車修理工場、木工場、炊事場、病舎と歩く。
 チャプリン『猥褻犯はどうですか? いやいやご遠慮なく』
 香椎『十名です』
 チャプリン『いや、ありがとう。ぼくはどこの国のプリズンに行っても、この質問を出します。この犯罪の割合でその国の国民性が分かりますから』
 工場へまわって、『頭を使う機械の扱いが巧い』と言って感心する。労働時間の割合も聞いた。
 チャプリン『昨年の死亡率は?』
 香椎『昭和六年度はただのひとりです』
 屋上に出たチャプリンは、
 『明るくて気持ちがいい、シンシン刑務所より立派だね。実によい設備だ。ホテルのぼくらの部屋の方が余程陰気だ、兄さん、ひとつ入ったら』と感心した」

・「(前略)この建築は、監房の錠前、窓格子に至るまで、一切囚人の手によって作られ、十年以上の重罪犯のみ収容している」

・「午前十時に起きて、十一時半に、芝の伊皿子(いさらご)の実業家で裏千家・堀越角次郎邸へ向かった。(中略)チャプリンは茶道に興味津々だった。(中略)チャプリンは堀越梅子夫人にならって、ふくさを手に、お弟子さんの令嬢たちに囲まれてその流儀を真似てみた」

・「ふたたびチャプリンは中世日本の旅に出た。行き先は、和田堀町の大蔵流狂言方・山本東次郎邸である。山本が演じた能狂言は『鎌腹』。

・「チャプリンは、太郎が自殺の方法に工夫、思案するアクションにいたく満足した。
『まことに結構……とにかく、もっとも洗練された芸術だと思います。あの無表情は……』」

。「『お茶こそは、なににもまして古い日の日本人の人となりと精神を表していると思いました。茶道は人生の哲理を表わし、素朴で単純な技術をもって人間の勘定を悦ばし、日常茶を飲むという日本人の習慣をもって、生活の技術を表現しているのです。(中略)お茶を立てている間は、こそとの音もしないのです。身振りもなにもいらない。まったく静寂につつまれた空気のなかで眺めるのです。(中略)人生の最大の目的が美の追究であるとすれば、日常のありふれた事柄にも美を追究することは、きわめて道理にかなったことではあるまいか』」

・「五月二十七日、午後二時半、帝国ホテルを出たチャプリン一行は、ビュイックを飛ばして、(中略)五時間の小旅行のあと、七時半、宮ノ下の富士屋ホテルに到着した。チャプリンはホテルの山口支配人らに迎えられ、ニッコリほほえんで四十五号室に消えた。(私事ですが、私の4つ下の妹は、箱根の富士屋ホテルで盛大な結婚式を挙げました。夫側の親戚が新潟からバスで大挙して押し寄せ、結婚式の後の宴では飲めや歌えの大騒ぎだったのを思い出しました。)(また明日へ続きます……)

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