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千葉伸夫『チャプリンが日本を走った』その7

2018-01-17 05:29:00 | ノンジャンル
 先日、川崎アートセンターで、アキ・カウリスマキ監督の’17年作品『希望のかなた』を見てきましたが、期待通り傑作でした。関東圏にお住まいで映画好きの方、午前10時からの上映(12時前には終わります)が19日までに迫っています。絶対に見る価値はあると思います。すぐに川崎アートセンターにゴーです!!

 さて、また昨日の続きです。
・「三日、ワシントン発AP 四日、朝日新聞
 『マックグラナリー米司法長官は二日、記者団に対し、「地下街の顔役、破壊活動分子その他好ましからぬ人びと約百名を国外に追放する」と次のように語った。地下街の顔役および組織的犯罪者六名を国外に追放する法的手続きは、すでに先週から開始され、米市民権または居留権を悪用して不法活動を行なったと確定される百人に近い人びとに対して、国外追放の処置をとる準備が進められている。また、この中には前歴を隠し、虚偽の手段で米市民権を獲得した共産党員など好ましからぬ人びと、例えばフランク・コステロやチャーリー・チャプリンも含まれる』
 単に『好ましくない』と追放の理由を明確にしないし、マフィアのボスとならべるなど強引であざとい。要するに、チャプリンをアメリカの保守派、マジョリティ(多数派)が恐がったということだろう。アメリカの市民権をとらないチャプリンが、アメリカにて、核兵器と冷戦下の対決にたいして批判を加えるオピニオン・リーダーとして行動することを、潜在的に、政府のみならず国民も嫌ったのだろう」

・「死を前にしたコメディアンの老残の日々を描いた『ライムライト』という映画は、にわかに脚光をあびた。十月十六日、『ライムライト』がイギリスで公開された。ロンドンからはエリザベス女王の『とても素晴らしいですわ。わたし、ただ泣いては笑い、笑っては泣きました』という談話が、フランスからは、『フランス人はチャプリンを崇拝することによって、チャプリンを非難するアメリカ人より精神的に勝れていると感じている』『殉教者と聖徒の栄光を担った人として映っている』と外電が伝えてきた。テーマ曲『永遠に』は大流行して、イギリス、フランスでのヒットに花をそえたのである」

・「バリー事件は、逆にみると、〈中興の祖〉ゴダードの存在の大きさをきわだたせた。バリーに代わって『影と実体』の候補として、十八歳の女優志願のウーナ・オニールが登場する。ノーベル文学賞の作家ユージン・オニールの娘だ。
 父オニールの強い反対を押し切って、1943年6月、ウーナはチャプリンと結婚した。
 晩節を穢(けが)しかかったチャプリンは、ウーナによって救われ、逆境で結ばれたために、ふたりの結びつきはきわめて強く、そしてチャプリンは晩節を全うするということになる」

・「結局、二人の間には八人の子供が生まれた。
 映画俳優として、やや地味だけれども活躍するようになる長女ジェラルディンの語った、父と母親について、ふれておこう。
 スイス移住当初、マスコミの好餌となり、落ち着く暇が与えられなかった。(中略)母ウーナは父チャプリンの最良の伴侶だった。よき話相手であり、秘書であり、精神安定のペースメーカーであり、料理・衣装から家政にすぐれた腕を見せていた。(中略)世間に出たがらない母親だった。〈自立〉を望む子供たちと、家庭にあって〈偉大すぎる独裁者〉チャプリンの中にたって調整に苦労していたようだ。
 父親としてのチャプリンは、パントマイムやブラック・ユーモアが得意で、子供たちにしてみせた。子供たちには大学を出て医者か弁護士になることを期待していた。チャプリンは語学が苦手で、ジェラルディンがスペイン語のできることを自慢していた。そして、多くの父親のように、子供たちに何かしてやることをたのしみにしていた。有名人としてのチャプリンは、ファンの殺到をうとましそうにしながらも、実は誰にも気付かれなかったりすると落胆していた。芸術家など有名人に会うことも楽しみであったという」

・「チャプリンは、バスター・キートンの芸がうまくて、うらやましいと若いときからずっと思っていたこと、映画製作中はいらいらするので、時々かんしゃくをぶつけさせてくれる秘書が必要なことなどを話した。チャプリンの場合、監督業だけにとどまらない。製作、シナリオ、主演、監督、音楽から、公開するまでの仕事をもチャプリンがしたのだから、かんしゃくを受けるほうはさぞかし大変なことだろう」

・「チャプリンは、
『近ごろどうも太りすぎたようだから運動に歩きたい』
と、人通りの少なくなったセント・ジェームズ街をバッキンガム宮殿の方へ歩いていった。
 このとき64歳、おそらくその後ろ姿には、『独裁者』以降の闘いを終えたチャプリンの安らぎと『ライムライト』で見せた初老の鬱屈した心理状態から立ち直った影があったはずである」(また明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto