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千葉伸夫『チャプリンが日本を走った』その1

2018-01-11 05:24:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、千葉伸夫さんの’92年作品『チャプリンが日本を走った』を読みました。
 何カ所か引用させていただくと、
・「ロンドンではイギリス皇帝の招待を拒否したし、ベルリンではヒンデンブルグ大統領の招待に出席しなかった。その後も各国の主だった人びとに招かれ、辞退しては、きまぐれ、わがままものとその国のジャーナリズムから攻撃されていた」

・「『私が感心した点が三つあります』と輿石はいった。『一つは生活が大変真面目なこと。私はずいぶんお客さんに接してきましたが、有名な人、お金持ちの人で女に興味のない人は、まぁないと言っていいでしょう。チャプリンだけはその点、なかなか感心なものです。ナポリ以来、私は船のなかでも陸上でもほとんどチャプリンから離れたことはありませんでしたが、一度だって女を買いませんでした。見上げたものです。』二つめは読書。『上陸すればかならず本を買います。それも二、三冊、また四、五冊と買います。その土地の旅行記、歴史、風俗、習慣といったところから、旅行に全然関係のない芸術に関したもののようでした。』三つめは兄弟仲がよいこと。『この点は外人としては珍しいことと思います。兄のシドニーの方はチャプリンを呼ぶとき“チャーリー”といいますが、チャプリンの方では、“セイ”と言って話し掛けます。もっとも、たまに“シドニー”と言って話し掛けます。別におれの方が有名だとか、偉いのだとかいう素振りはすこしも見えません。ほんとうに中のいい親友ふたりが旅行しているとしか見えません。』」

・「(チャプリンが東京駅に降り立ったとき)東京駅周辺を埋め尽くした人は、実に八万人。この光景について、ある記者は、『何のことはない。そこに震災当時の避難民の喧騒と怒号が渦巻いていた』と表現している」

・「『日本の芸術は固有の物とフランス伝来の物とふたつある。これは純日本式……。日本では東西のふたつが入り乱れている。まるで東京の外観のようだ。一見ゴタゴタしている。しかし、そのためよく見ると面白い』と感想を述べたと新聞報道にある」

・「ぼくは映画人です。ぼくの生命、ぼくの関心は芸術にあるのです。ですからそれを通してあらわれたぼくの人生観なり世界観というものが、ぼくには一番ふさわしいものです」

・「ぼくはこの靴が大好きだ! ずいぶん長い間、ぼくに奉公している。何も信仰で古い靴をはいているんじゃありませんがね、長い間おなじ靴をはいていると、そこに捨てがたいものが湧いてくる。それが同じ意味でぼくはクラシックを好みます。幾代かの人間が大事に、大切に抱擁してきた芸術、そこにはかびだらけのもの以外に、何かいいものがあるんです。この意味でぼくは歌舞伎を尊重する、能にも憧憬を持っている」

・「人間の気持ちいっさいを、人形がまるで生きているように表現する。人形師は少しも目障りにならない。浄瑠璃は分からないが、声の抑揚が実にリズミカルだ。世界の一流の役者でも、『泣く』場面なら『泣く』場面をはじめから終わりまでやってのける者は少ない。あの良弁杉の親子対面の場など、日本の観衆の涙にさそわれて、ぼくたち兄弟も思わずもらい泣きしました」

・「『ぼくが日本へ来たのは、歌舞伎を見物したいばかりなんですよ』と言って、チャプリンは満足して引き揚げた。下谷同朋町の“錦”に寄って夕食。てんぷらを『げっぷのでるほど食べた』と新聞が報じている」

・「まったく近代の生活はあわただしい。ぼくなどこの十五年間というものは、まったく働きづめに働き、休暇・休息の時間を盗むことが出来ませんでした。旅行するとしても、カリフォルニアからニューヨークの間を走り抜けて往復するというようなことだけでした。今度はやっと宿願を達して、家居を出てからもはや十六カ月になります。無目的な旅行、ほんとうの遊びの旅行。ただひとつ旅行中に仕事がある。それは各国の山紫水明に接し、異なった民族の風俗習慣をながめ、いろいろな国でいろんな人に会った印象を、文字に翻訳していることです。今度の旅行中の仕事と云えば、これがただひとつの仕事でしょう。いずれ落ち着いたら、これを整理し、一巻の書として上梓したいと思っています。そうとう長いものになるでしょう」(明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto