昨日の続きです。
・「Y (前略)ヒッチコックはドイツのウーファの撮影所で映画を撮り始めて、ドイツ映画、特にフリッツ・ラングやF・W・ムルナウの影響をすごく受けたと言ってるしね。『第十七番』なんかでも、幽霊屋敷みたいな空家に入った男が、突然列車の轟音におどろく。と、その恐怖におびえた顔がドイツ表現主義映画のようにビョーンと長くのびて歪むとか。もちろん光と影の怪奇的な使い方なんかもね」
・「Y (前略)ヒッチコックでは一番表現主義映画風なのはやはり『第十七番』かなあ、影の使い方なんか。前半の空家のシーンはほとんど真っ暗闇の中でロウソクの光だけでドラマが展開するし。それでも突然、死体の手が階段の途中からぬっと出ていたり、おどろおどろしいムードの中でもさりげなくユーモアも散りばめられていて、もしこれが別の監督の名になっていても、誰もが『まるでヒッチコックみたいだ』って言うだろうな。音の使い方なんかにしても
W ドアノブに伸びる手の影が先にノブに届く、なんてのは面白い影の使い方だった。縛られたまま手すりが壊れて高い所でぶら下がっちゃうところも、お得意の高所のスリルだね。
Y そして、映画の後半はこれもヒッチコックお得意の走る列車のシーンになる。それと、列車を追うバス。ハッピーエンドも見事だしね。
W 空家のシーンは実験映画みたいな趣きがあるけど、列車のシーンになると一転してアクション映画みたいになる。列車もバスもスピードの恐怖を出してるしね。ラストに洒落たオチがついてるのもいいな」
・「Y (前略)『リッチ・アンド・ストレンジ』という映画の方は、ちょっと倦怠期の若夫婦が世界一周旅行の途中で、特に夫の方は浮気なんかして、別れてはくっついて……といった話で、ヒッチコックがハリウッドに行ってすぐ撮る『スミス夫妻』という、キャロル。ロンバートとロバート・モンゴメリー主演のロマンチック・コメディにつながるような面白い映画でね。キャロル・ロンバートもブロンドだね。
ヒッチコック好みの男優もこの時代にすでに出てくるね。『スキン・ゲーム』のエドマンド・グウェンはのちに『海外特派員』や『ハリーの災難』に出てくる。『殺人!』のハーバート・マーシャルも『海外特派員』に出てくる」
・「Y サイレントからトーキー時代になって、『恐喝(ヒッチコックのゆすり)』がまず、まさにヒッチコックならではの素晴らしさだね。『恐喝(ゆすり)』という題で東京近代美術館フィルムセンターのイギリス映画特集で上映したのがかなり前のことで、戦前も劇場未公開作品だったわけだけど、いまではDVDでしか観られないとはいえ、とにかく観られるというだけで嬉しい。ヒッチコックのトーキー第一作であるばかりか、イギリス映画のトーキー第一作という歴史的な作品でもある。(後略)」
・「Y 実際トーキー事始めといった映画的な面白さにあふれている。とくに朝の食卓で『ナイフ、ナイフ、ナイフ……』という声だけがヒロインの脳裏にひびくところなどは、最も有名なヒッチコック・シーンの一つだけど、何度観ても、やっぱりすごい」
・「W 食事の最中に血なまぐさい話をする、というのもヒッチコック好みのアイデアだね。最初の犯人逮捕のシーンも鮮やかなものだね。犯人側から刑事たちを見るところなんか、実にうまいキャメラワークをやってる。
Y 犯人が手に持って広げている新聞越しに、キャメラが、犯人の眼になって、壁にかかっている小さな鏡にうつった刑事たちの姿をとらえるところ」
・「Y (前略)ヒロインを演じるアニー・オンドラはチェコの女優で、ヒッチコックのサイレント映画の最後の作品になる『マンクスマン』にも出ているんだけど、ブロンドでセクシーで、いたずらっぽくて、コケティッシュで、男を誘い込むっていうか、すでに典型的なヒッチコック美人だね。一人の男とデートしながら、こっそりもう一人の男の誘いにも乗るというあたりもね」
ここまでで全671ページ(目次、索引は除く)中の27ページ。このまま書き続けると、膨大な量になってしまいます。ということで本の紹介はここでお終まい。残りの部分は是非ご自分で買ってお読みください。これだけ映画知識のある方同士の対談はめったにお目にかかることはできないと思います。文章も平易だし、語られている内容も実際に映画を観ているような錯覚に陥るほどの描写能力を発揮されていて、ヒッチコック映画を観る際には、最高のガイドブックになっていると思います。値段は税込みで1620円。買う価値は絶対にある!! 映画好きな方はお手元に置いておいて損はないと思います。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
・「Y (前略)ヒッチコックはドイツのウーファの撮影所で映画を撮り始めて、ドイツ映画、特にフリッツ・ラングやF・W・ムルナウの影響をすごく受けたと言ってるしね。『第十七番』なんかでも、幽霊屋敷みたいな空家に入った男が、突然列車の轟音におどろく。と、その恐怖におびえた顔がドイツ表現主義映画のようにビョーンと長くのびて歪むとか。もちろん光と影の怪奇的な使い方なんかもね」
・「Y (前略)ヒッチコックでは一番表現主義映画風なのはやはり『第十七番』かなあ、影の使い方なんか。前半の空家のシーンはほとんど真っ暗闇の中でロウソクの光だけでドラマが展開するし。それでも突然、死体の手が階段の途中からぬっと出ていたり、おどろおどろしいムードの中でもさりげなくユーモアも散りばめられていて、もしこれが別の監督の名になっていても、誰もが『まるでヒッチコックみたいだ』って言うだろうな。音の使い方なんかにしても
W ドアノブに伸びる手の影が先にノブに届く、なんてのは面白い影の使い方だった。縛られたまま手すりが壊れて高い所でぶら下がっちゃうところも、お得意の高所のスリルだね。
Y そして、映画の後半はこれもヒッチコックお得意の走る列車のシーンになる。それと、列車を追うバス。ハッピーエンドも見事だしね。
W 空家のシーンは実験映画みたいな趣きがあるけど、列車のシーンになると一転してアクション映画みたいになる。列車もバスもスピードの恐怖を出してるしね。ラストに洒落たオチがついてるのもいいな」
・「Y (前略)『リッチ・アンド・ストレンジ』という映画の方は、ちょっと倦怠期の若夫婦が世界一周旅行の途中で、特に夫の方は浮気なんかして、別れてはくっついて……といった話で、ヒッチコックがハリウッドに行ってすぐ撮る『スミス夫妻』という、キャロル。ロンバートとロバート・モンゴメリー主演のロマンチック・コメディにつながるような面白い映画でね。キャロル・ロンバートもブロンドだね。
ヒッチコック好みの男優もこの時代にすでに出てくるね。『スキン・ゲーム』のエドマンド・グウェンはのちに『海外特派員』や『ハリーの災難』に出てくる。『殺人!』のハーバート・マーシャルも『海外特派員』に出てくる」
・「Y サイレントからトーキー時代になって、『恐喝(ヒッチコックのゆすり)』がまず、まさにヒッチコックならではの素晴らしさだね。『恐喝(ゆすり)』という題で東京近代美術館フィルムセンターのイギリス映画特集で上映したのがかなり前のことで、戦前も劇場未公開作品だったわけだけど、いまではDVDでしか観られないとはいえ、とにかく観られるというだけで嬉しい。ヒッチコックのトーキー第一作であるばかりか、イギリス映画のトーキー第一作という歴史的な作品でもある。(後略)」
・「Y 実際トーキー事始めといった映画的な面白さにあふれている。とくに朝の食卓で『ナイフ、ナイフ、ナイフ……』という声だけがヒロインの脳裏にひびくところなどは、最も有名なヒッチコック・シーンの一つだけど、何度観ても、やっぱりすごい」
・「W 食事の最中に血なまぐさい話をする、というのもヒッチコック好みのアイデアだね。最初の犯人逮捕のシーンも鮮やかなものだね。犯人側から刑事たちを見るところなんか、実にうまいキャメラワークをやってる。
Y 犯人が手に持って広げている新聞越しに、キャメラが、犯人の眼になって、壁にかかっている小さな鏡にうつった刑事たちの姿をとらえるところ」
・「Y (前略)ヒロインを演じるアニー・オンドラはチェコの女優で、ヒッチコックのサイレント映画の最後の作品になる『マンクスマン』にも出ているんだけど、ブロンドでセクシーで、いたずらっぽくて、コケティッシュで、男を誘い込むっていうか、すでに典型的なヒッチコック美人だね。一人の男とデートしながら、こっそりもう一人の男の誘いにも乗るというあたりもね」
ここまでで全671ページ(目次、索引は除く)中の27ページ。このまま書き続けると、膨大な量になってしまいます。ということで本の紹介はここでお終まい。残りの部分は是非ご自分で買ってお読みください。これだけ映画知識のある方同士の対談はめったにお目にかかることはできないと思います。文章も平易だし、語られている内容も実際に映画を観ているような錯覚に陥るほどの描写能力を発揮されていて、ヒッチコック映画を観る際には、最高のガイドブックになっていると思います。値段は税込みで1620円。買う価値は絶対にある!! 映画好きな方はお手元に置いておいて損はないと思います。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)