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M・バルガス=リョサ『子犬たち/ボスたち』

2010-11-11 07:10:00 | ノンジャンル
 今年のノーベル文学賞を受賞したM・バルガス=リョサの'67年の中編小説『子犬たち』と'59年の短編集『ボスたち』を読みました。
 『子犬たち』は、勉強もできスポーツもでき友情にも厚かった少年クエリャルが、ある日シャワー室で犬に襲われて「ちんこ」に損傷を受け、〈ちんこ〉というあだなとなり、無頼な性格となってわざと危険な行動に出て仲間をハラハラさせ、仲間に次々とガールフレンドができるに従って孤立感を深め苦しみ、やがて大人になって仲間たちが家庭を持つようになると仲間と疎遠になり、結局無頼の徒として事故死してしまうという話。文が句点で次々とつながり、括弧が省略され、主語と述語、名詞が混然となっている独特の文体が魅力的でした。例えば、「ブラザー・レオンシオ、転入生が来るってほんとうですか? 三年A組、ブラザー? うん、そうだ、ブラザー・レオンシオは顔にかかった髪を乱暴に払いのけ、さあ、もう静かにしなさい。」といった感じで、ほとんど会話文でなりたっているのですが、そこから感じられて来るクエリャルの心の生々しい痛みが胸に迫り、息苦しくなるほどでした。
 『ボスたち』に含まれている短編は6つ。表題作『ボスたち』は、新しい校長が試験の時間割を発表せず、今後抜き打ちテストを行うと宣言したことに対し、「全員を落第させるつもりか」と怒りをつのらせた俺を含む中等科の有志が他の生徒たちに登校拒否を呼びかけ、学校のロックアウトをしようとしますが、過激派のルーが学校に無理矢理入ろうとした下級生に暴力を振るったことをきっかけに逆に体勢派の反撃をくらい、挫折する話、『決闘』は、 俺たちの仲間のフストがお互いの仲間が見守る暗闇の中で「ちんば」とナイフで決闘をし、負けて殺され、それに立ち合っていたフストの父の家まで遺体を運ぶ話、『弟』は、リマから数年ぶりに牧場に住む兄妹の元に戻ったフアンが、妹を犯したというインディオを山奥に追って殺す兄に同行しますが、戻ってみるとそれは妹の狂言であったことが分かり、フアンは怒り狂ってリマに戻ることを宣言し、妹の馬に当り散らしますが、その後納屋に閉じ込められていた他のインディオを解放すると気持ちが落ち着き、兄から一緒に飲もうと言われるという話、『日曜日』は、恋する女の子を賭けて、仲間の見守る中、ミゲルはルベンとビールの飲み合いで決闘しますが決着がつかず、冬の海での泳ぎの決闘へと至りますが、そこで二人は死の恐怖を体験し、結果としてミゲルが勝ち、ルベンとの友情も取り戻すという話、『ある訪問者』は、囚人が解放される条件で、荒れ地にある宿の女主人を襲ってその愛人を誘い出すのに成功しますが、愛人が警察に連行された後、警察にわざと現場に取り残され、復讐に燃える愛人の仲間たちが囚人を殺そうとするところで終わる話、『祖父』は、老人のドン・エウロヒオが道で拾った髑髏を油で磨き上げ、中にロウソクを灯して道の真ん中に置き、孫を驚かせようとしたところ、ロウソクの火が油に引火し、髑髏全体が炎に包まれ、それに気付いた孫が隠れている老人の存在に気付かず、老人は満足して帰って行くという話です。
 どの短編も登場人物の偽りのない生々しい感情が見事に描き出されていて、読みごたえがありました。暴力と仲間意識がすれすれのところで均衡を保っている話が多く、スリリングな短編に仕上がっていたと思います。これからバルガス=リョサの他の作品も読みたいと思わせる出来でした。単純な面白い読み物としてオススメです。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto