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百田尚樹『永遠の0(ゼロ)』

2009-11-23 14:04:00 | ノンジャンル
 百田尚樹さんの'06年作品「永遠のゼロ」を読みました。
 フリーターのぼくは、フリーライターの姉から、特攻隊で死んだ祖父のことを知っている人を探し出して一緒にインタビューするバイトを与えられます。最初に会った、当時の同僚からは、祖父が憶病者で戦闘から逃げ回っていたと聞かされますが、次に会った同僚は、操縦技術は一流で、階級が下の者にも敬語を使っていて、妻のためにも死にたくないと語っていたと話します。元部下は、危険を回避するための見事な撃墜技術を持っていたと言い、戦い続けるためには生き延びろと言われたことが印象的であったと語ります。別の元部下は、祖父が並外れた鍛練を日頃から行い、娘に会うまでは死ねないと言い、またお前も死なない努力をしろと言われたと語ります。腕のたつ相手と遭遇し、その相手がパラシュートで落下している時に銃撃した時には、もしこの男を生かしていたらこれから先また何人もの同志が殺されるかもしれないからだと述べたとも言い、その後助かったこの米兵は戦場なのだからパラシュート降下中でも撃つのは当たり前だといい、祖父の操縦技術をほめ、彼が死んだことを聞くと涙を流します。元整備士は、祖父が目指していたプロの棋士を生活のために諦めて入隊したこと、妻のヌード写真を持って死んだ米兵を写真とともにきちんと葬ってやったことなどを語ります。祖父の助言から戦争の休暇中に両思いの幼馴染みと結婚したと言う元同僚も出てきます。また、祖父に飛行技術を教わった元特攻要員は、沖縄戦の後半は志願がなくとも通常の命令で特攻させたと証言します。別の元特攻要員は、無慈悲な上官から教え子らを守り、命に換えて祖父を敵から守ろうとした教え子までいたと言います。祖父をライバル視し、祖父の出撃の時を目撃したという元やくざは、その時の祖父の目は死を覚悟したものではなかったと証言します。そして元通信員の話から、出撃の際、祖父が自分から旧式の機を選び、新式の機を譲ってもらった部下はエンジントラブルで不時着して助かったのだと言い、ぼくが見たその部下の名前は祖母が再婚した現在の祖父なのでした。そして現在の祖父は真実を語ります。おそらく祖父はエンジンの不調が音で分かり、一度はためらったものの、結局以前に命を救ってもらった教え子であった現在の祖父にその機を譲ったこと、その操縦席には万が一助かったら自分の妻子をよろしく頼むと書かれていた紙が残されていたこと、戦後3年かかって探し当てた祖父の妻の面倒を現在の祖父が見るようになったこと、そして妻の生活が軌道に乗ってきた時、妻が本当に夫への罪滅ぼしだけのために面倒を見てくれているのかと尋ね、それに対し、現在の祖父は自分は汚い気持ちの持ち主であると言って泣いたこと、それに対し、妻は、祖父が休暇で帰って来た時、自分は絶対に生きて戻ってくる、もし死んだとしても生まれ変わって戻ってくると言って戦場に戻っていったこと、現在の祖父が祖父からもらった外套を着て現れた時、夫が生まれ変わって戻ってきてくれたと思ったのだということを妻が語り、二人は泣いたこと、祖母が死ぬ間際に「ありがとう」と言った時、現在の祖父は祖父が戦闘服姿でベッドの脇に立っていたのを見たこと。そして現在の祖父が「ありがとう」はその祖父に言われたのだと思うというのに対して、ぼくと姉は祖母は現在の祖父を愛していたと反論するのでした。ぼくは祖父の話を知って一時あきらめていた司法試験にまた挑戦することにし、姉も幼い頃からかわいがってくれ現在は貧しい工場を経営している男性との結婚を決意するのでした。そして最後、祖父の最後の姿が描かれます。海面すれすれに長時間飛行してレーダーを逃れ、被弾すると急上昇して背面から急降下して空母に体当たりしますが爆弾は不発。しかし空母の艦長はその飛行技術に敬意を現し、手厚く弔うのでした。
 大平洋戦争時の海軍の士官らの無能ぶりには驚かされ、ミッドウェイ以降も何度も勝機がありながらそれを逃していたことを初めて知りました。しかし、この小説の優れているところは、構成もさることながら、やはりそのエモーショナルな部分でしょう。助かった米兵が祖父の死を悼むところでは胸が熱くなり、最後の現在の祖父と祖母とのやりとりの場面では涙しました。以前に読んだ「ボックス!」に負けずとも劣らない出来だと思います。文句無しにオススメです。