杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ニュービジネスとシングルカスク

2014-06-19 11:49:24 | ニュービジネス協議会

 私が広報を担当している一般社団法人静岡県ニュービジネス協議会で、今年11月、【第10回新事業創出全国フォーラムIN静岡】(主催/公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会・独立行政法人中小企業基盤整備機構)という全国大会を企画運営することになりました。

 ベンチャー企業日本一を選ぶ『ニッポン新事業創出全国大賞』表彰式をはじめ、基調講演にはホンダ技術研究所の山本芳春社長がASIMOや燃料電池車、水素小僧、ホンダジェットなど近未来のモビリティについて展示実演を交え、夢いっぱいのおImg104話をしてくださいます。

 

 パネルディスカッションでは、静岡県ニュービジネス協議会会長でTOKAIの鴇田社長がコーディネートをして、静岡がんセンターの山口建総長、県立大学の木苗学長、浜松ホトニクス研究所の原所長という静岡県の産業クラスター代表が「ふじのくにから未来への挑戦」と題して討論します。

 

 

 近くなりましたら改めて詳細をご紹介しますが、このフォーラムに全国から1000人集めよとの指令が下り、開催実行委員会の末席にいる私もあちこち飛び回るはめに。ニュービジネス協議会組織は全国に22団体あり、11月に静岡まで来てくれそうな団体に大会PRをしに行くのです。

 

 

 私が派遣されたのは仙台に拠点のある(一社)東北ニュービジネス協議会と、大阪に拠点を置く(一社)関西ニュービジネス協議会。

 

 まず6月11日、前夜新宿を経由して夜行バスで仙台入り。プレゼンを予定している東北ニュービジネス協議会定時総会は15時からで、時間はたっぷり。日本酒の蔵元を訪ねようかとも思いましたが、調子に乗って飲みすぎて肝心の仕事に支障が出ては・・・と自主規制し、アポなしで見学できるニッカウヰスキー宮城峡蒸留所に行ってみました。

 

 

Imgp0265  あいにくの雨模様の中、バスで山形方面へ1時間ちょっと。周囲に目立った建物が一切ない、清流と森に囲まれた蒸留所で、電線地中化によって景観もスッキリ。9時の開場と同時に入り、10数人のバスツアー客に混じって小1時間、場内を見学しました。

 

 ウイスキーづくりを簡単におさらいすると、

 ①大麦を発芽させ、大麦麦芽(モルト)をつくる

②ピート(ヨシやスゲなどの水辺植物が堆積して炭化した“草炭”)を燃やして麦芽を乾燥させる。

③粉砕した麦芽に温水を加えて糖化醗酵させ、麦汁をつくる。

④麦汁に酵母を加え、糖をアルコール醗酵させる。

⑤醗酵液をポットスチルで蒸留させ、原酒をつくる。

⑥原酒を樽に詰めて熟成させる。

 

 

 この工程でポイントになるのは、第一に水。以前、サントリー山崎蒸留所を見学したとき、ブレンダーさんから「ウイスキーは水を記憶する」と聞いたことがあります。麦やピートは外から持ってくることができても、水はその土地の天与の恵。ニッカでも北海道余市と宮城峡で微妙に風味が違うのは、やはり水の違いによるものでしょう。

Imgp0269  ここ宮城峡は広瀬側と新川川の合流地にあり、近くには鳳鳴四十八滝という名水スポットもあります。周囲は森林に囲まれ、雨模様だったこの日はほのかに霧も立ち込めて、神秘的な風景でした。日本酒の酒蔵は街中にもあるけど、ウイスキー蒸留所は規模からしてもハンパじゃない水量が必要だろうし、水質が安定したところでなければ設備投資できないでしょう。

 

 

 

 創業者の竹鶴正孝は理想のウイスキーづくりのために余市に蒸留所を建て、異なる風土の原酒をブレンドしてより芳醇なウイスキーを造るため、東北の地をくまなく探し、ここに建てたそうです。そのあたりのいきさつは正孝夫婦をモデルにした今秋スタートのNHK朝ドラ「マッサン」で描かれるかもしれません。

 

 

 

Imgp0267  さらにポイントとなるのは蒸留方法です。ポットスチルの形状は蒸留所によってさまざまで、蒸留の回数や加熱方法も違ってくる。

 そして樽。蒸留所には樽職人がいて、接着剤を使わず、木材を組み合わせて造ります。無色透明な原酒が樽から出る様々な成分によって琥珀色に変化する。樽の性質が酒質に大きく影響を与えるわけです。10年後、20年後、どんな酒質になるかを予測し、様々な樽をセレクトする。これも熟練の技です。

 

 

Imgp0270  日本酒に比べ、道具や機械に負う部分が大きいように見えますが、道具や機械を使いこなすのもまた人間。変化を予測する、個と個を組み合わせる、異質なもの同士を調整する・・・ウイスキーの熟成管理とは、なにやら人間の集団組織運営に通じるものがありそうです。

 

 

 

 

 

 試飲コーナーでは、シングルモルト(一ヶ所の蒸留所でつくられたモルトウイスキー)、ピュアモルト(複数の蒸留所のモルトウイスキーを混和させたもの)、ブレンデッド(複数のモルトウイスキー&とうもろこしを原料にしたグレーンウイスキーをブレンドしたもの)をちびりちびり楽しみましたが、一番印象に残ったのは、蒸留所限定のシングルカスク。たった一つの樽で熟Dsc_0419 成され瓶詰めされたモルトウイスキーです。これの10年と25年を飲み比べ、原酒と樽の協働によって抽出された重みや深みというものを、よりダイレクトに実感できました。

 

 

 

 

 昼過ぎに仙台市内に戻り、商店街を散策した後、東北ニュービジネス協議会定時総会の会場・勝山館へ。静岡から駆けつけた実行委員会の古谷博義副会長と合流し、「静岡には東北に負けない名酒がそろっていますからぜひ来てください」と静岡大会をアピールさせてもらいました。

 

 

 

 

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 終了後、静岡へとんぼ帰りの古谷副会長と別れ、一人で国分町界隈へ。途中の錦町公園でドイツビールの祭典「オクトーバーフェスト」の会場に出くわしました。先日、広島へ行った帰りに立ち寄った大阪・天王寺公園でも「オクトーバーフェスト」をやっていて、ドイツが国を上げて日本全国で大プロモーションを仕掛けてるのか・・・とビックリでした。バイエルンの古城や修道院の醸造所で造られたレアな地ビールがそろっていますが、一杯1400円~とちょっとお財布にキツイ(苦笑)。

 

 

 

 

 

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 目的の居酒屋は、静岡の蔵元さんに教えてもらった【きゃりっこ亭】。開店27年という老舗の地酒専門店です。オーナー伊藤さんは開店直後、取引先の塩釜の酒販店で偶然飲んだ磯自慢にベタぼれし、磯自慢ラインナップをそろえようと静岡富士宮のよこぜき酒店から取り寄せるようになったとか。壁に張られたリストを眺めていたら、地元宮城はもちろん全国の実力地酒が多数そろう中、磯自慢は4~5種、初亀、喜久醉、正雪、國香と、静岡比率が異常に?高いことを発見し、無性に嬉しくなりました。

 

 

 なんで仙台まで来て静岡の酒を?と思われるかもしれませんが、県外で、静岡のような小さな産地の酒を大切にする店は、産地や銘柄のネームバリューに左右されず、酒質をしっかり見極めることのできる店で、料理の食材選びにもそれは反映されています。夜行バスの移動とウイスキー&ビールの試飲で疲労がたまり、料理は2品、お酒も2種しか頼めませんでしたが、26年前に磯自慢の蔵を初めて訪ねて酒取材がスタートした自分とも酒歴が重なる伊藤さんとは、常連さんが来るまでしっぽりお話ができました。

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 「20数年前、磯自慢と紹介しても知る人は皆無だったが、よこぜきさんのようなしっかりした酒販店さんがいてくれたおかげでブレずに来ました」と伊藤さん。旅先で、故郷の酒と人を褒められるってホント、気持ちがいいものです!

 

 

 これまでいろいろな居酒屋を訪ね歩いてきましたが、ウイスキーを飲み比べた後でつらつら整理してみたら、たとえば、磯自慢を飲みたかったら磯自慢だけを置くシングルカスクのような店に。静岡の酒を飲みたかったら静岡銘柄だけを複数置くシングルモルトのような店に。全国と呑み比べるときはピュアモルトのような店。ビールやウイスキーもチャンポンしたかったらブレンデッドな店だなあと。そんなこじつけ整理をしたガイドブックを作ってみたいなあと思いますが、たぶん酒友しか読んでくれないでしょう(苦笑)。


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