杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

松井妙子先生の染色画展

2008-04-03 21:23:44 | アート・文化

 昨日(2日)から、旧金谷町役場前にある金谷図書館で、松井妙子先生の染色画展『SLの詩』が始まりました。うっかり見逃してはいけないと、松井先生と古くから親交のある静岡新聞論説委員の川村美智さんと一緒に観に行きました。

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  美智さんは、静岡県内の図書館の運営に意見・提言をする審議会の委員も務めていて、オープンして3年になる金谷図書館の施設そのものにも興味があったよう。学習室の窓から、大井川鉄道の線路と駅が見え、時間によっては窓越しにSLの発着も楽しめるという景観バツグンの館内に感心していました。

 

 

  松井先生の作品は、玄関ロビーの一角に設けられたミニギャラリーに、SLや茶畑などふるさと金谷にちなんだ作品がいくつか並んでいました。ほとんどが所蔵家から特別に借り入れたものです。古いものでは1992年制作の作品もあり、先生ご自身も久しぶりの再会。毎年5月GW明けの松坂屋静岡店での個展を前に、この時期は制作の追い上げで多忙を極めておられますが、今回は、地元図書館の3周年記念で、川根町との合併によって新市がスタートした節目の春ということで無償協力し、ご自身で作品をセレクトし、所蔵家から借りる段取りを取られ、納入や設置にも立ち会われたそうです。「美智さんと観に行きます」と連絡をしたら、息抜きしたいからお昼をご一緒しましょう、と制作の手を休めて出てきてくださいました。

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  美智さんは、30年近く前、百町森という絵本専門の書店で、取材のネタ探しの合間に息抜きをしていたとき、新静岡センターで作品展を始めたばかりの松井先生と偶然出会い、その後、取材を通して親交を深めてこられたそうです。

  

 私は、16年ほど前、JAの情報誌の『わたしとお茶』というコーナーで、作家や芸術家の方々にお茶でいっぷくする時間についてインタビューする仕事で松井先生と出会いました。

 美智さんは、静岡新聞社きっての女性名記者として知られた方で、私にとっては雲の上の存在でしたが、美智さんが出版局に在籍されたとき、ガイドブックの仕事を何本かいただいたのが縁で、目をかけてくださり、編集局に戻って夕刊の生活文化欄を担当されたときは、地酒をテーマにした署名記事を書かせていただけるようになりました。

 

 

 

  新聞に署名記事が書けるというのは、静岡のようなローカルで働くライターにとっては格別なことです。それも、長年追い続けてきた地酒について、テーマにそって自由に書かせてもらえるというのは、まさにライター冥利につきる出来事でした。

 中でも2003年2月12・13日に2日間にわたって掲載された『酒造りの若き担い手たち』では、國香の松尾晃一さん、満寿一の増井浩二さん、喜久酔の青島孝さん、杉錦の杉井均乃介さんといった蔵元杜氏の地道な努力と、彼らの右腕になり得る蔵人の資質について考察し、取材先の蔵元から「自分が日ごろ感じていたことをうまく整理して書いてくれた」と喜んでもらいました。

 美智さんが創ってくれたチャンスは、私のライター人生を大きく変え、勇気と自信を与えてくれました。本当に感謝してもしきれない思いで一杯です。

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  取材対象者と、その後何年にもわたって親交が続くというのも、記者やライターにとっては格別なことです。まず、取材対象者が、記事を気に入って喜んでくれないと始まりません。しかも、取材するほうもされるほうも、相手は大勢いる中の一人にすぎないのですから、記事がよかっただけでは長いつきあいにはならないでしょう。

 お互い、若き挑戦者だった時代に出会い、年齢も近い美智さんと松井先生は、きっと、仕事のつきあいを超えて、気心の知れた友人か同志のような関係に発展したのだと思います。私も、年齢の近い松尾さん、増井さん、青島さんたちと、そんな関係でありたいと思います。

 

 松井先生は私が映画づくりに挑戦していることを「地道にやってきたから、道が拓けたのよ」と激励し、まとまった支援金をポンと差し出してくださいました。思いがけない申し出でビックリしましたが、自分の仕事を長年見守ってくれた人の存在が、こんなにありがたく力強いものか…と改めて感激しました。

 

 

 美智さんは、新聞紙面で『吟醸王国しずおか』を取り上げる算段をあれこれして下さり、今日(3日)さっそく、〈大自在〉を担当する論説委員の榛葉隆行さんに引き合わせてくれました。

 「撮影現場で何を一番感じたの?」と聞かれ、「働くことの意味です」と答えた私。もちろん、酒造りの厳しい作業現場で黙々と働く彼らをイメージしてのことですが、それは、松井先生が30年以上、スタイルを変えずに黙々と続けてこられた染色画や、美智さんが“女性初”の壁をいくつも乗り越え、記者の仕事に男女の差がないことを身をもって証明してきたことにも重なります。

 

 

 何かを続け、何かを越えて、なお現役であり続ける人は、同じように努力する人の価値がわかる。わかりあえる―2人の素敵な女性の生き方・働き方に、大いに励まされたと同時に、自分も誰かとわかりあって、励ましあう存在でありたい…他者とのコミュニケーションが希薄になりがちな今、映画の中でもそんなメッセージを込められたら、と思います。

 

*金谷図書館3周年記念 松井妙子染色画展「SLの詩」/2008年4月2日(水)~22日(火)

*松坂屋静岡店6階美術画廊 第13回松井妙子染色画展/2008年5月7日(水)~13日(火)

*お茶の郷10周年記念 ふるさとを詩う~松井妙子染色画展/2008年9月27日(土)~11月3日(月)


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