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「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」

2011-05-07 07:11:27 | 
本は「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」(新潮文庫)

1999年9月に起きた茨城県東海村での臨界事故。
3人の作業員が被曝し2人が死亡したのですが、その治療を担当した東大の医療チームをNHKスタッフが取材した番組が元になった本です。

タイトルに「朽ちていった命」とありますが、まさにそのまま。
人が被曝するとどうなるのか、、、ということが恐ろしいほど分かる重い一冊でした。

1999年9月、大内さんという作業員の方は、一瞬で20svもの被曝をしてしまいます。
これは、一般の人が一年間で浴びる量の2万倍。
これまで、世界でも大量被曝した人が9日以上生きた例は無く、医療チームにとって大内さんの治療は、まさに「海図なき航海」でした。
手探りで、懸命に被曝治療に当たりますが、実はその行為は、「治療」というより「延命」。

なにしろ、被曝した瞬間、大内さんの染色体は完全に破壊され、再生のために必要な新しい細胞を作ることが出来なくなってしまいました。
最初は白血球の減少からはじまり、皮膚細胞、内臓、全ての器官がだめになっていきます。
特に皮膚細胞が再生できなくなってしまったことで、血液や体液を保持することが出来なくなり、毎日10リットルもの水分が体中から染み出してしまいます。
それをひたすら輸血と点滴で補うだけの日々。
人工皮膚の移植なども行われますが、なにしろ細胞が再生されないため、くっつくことは無く、治療は空しく失敗に終わります。

それでも何とか、最新の医療機械と大量の薬で延命させるのですが、読んでいて「モルモット」という言葉が浮かんでくるほど。
医療スタッフの中にも「何のためにこんな治療を続けるのか」という動揺も広がり、最後は家族の同意の下、延命治療を停止。
大内さんは息を引き取ります。享年35歳。被曝から83日目のことでした。

死亡後の記者会見で、治療スタッフのリーダーは「原子力防災の施策のなかで人命軽視がはなはだしい。責任ある方の猛省を促したい」と強く非難しています。
「原子力は安全」という自らのプロパガンダに縛られ、事故後の対応や治療方法などになんら対策を取らないまま進む日本の原子力政策。
福島の事故が起きても、「少量の放射能はかえって健康に良い」なんて発言する東電出身の国会議員が居る現状を見ると、「原子力防災の施策のなかで人命軽視がはなはだしい。」という状況は何も変わっていないのだと気がつきます。

昨日、菅直人が発表した「浜岡原発の停止」、これが本当に実現され、日本のエネルギー政策の方向転換につながれば、と思います。

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1 コメント

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Unknown (HIRA)
2011-05-07 14:05:37
なんも考えてなさそうな首相に見えますが(実際それを覆せそうな要素もない)、この決断だけは国民のためになりそうです。
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