東京ナイト

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「ミツバチの羽音と地球の回転」

2010-06-06 23:37:21 | 映画
土曜日はいろいろ。
日本民藝館に行って、新国立美術館で「ルーシー・リー展」を見て、その後、新宿で糞土師・伊沢正名さんの写真展に顔を出し、最後は四ツ谷で映画「ミツバチの羽音と地球の回転」を観ました。

この映画は「六ヶ所村ラプソティー」の鎌仲ひとみ監督の最新作。
2006年10月に「六ヶ所村ラプソティー」を観てこんな感想文を書いています。

~青森県六ヶ所村で稼動しようとしている核廃棄物再処理施設を巡り、六ヶ所村の人々や、既に稼動しているイギリスの人々を2年間にわたり取材したドキュメンタリー映画。

じつにじつに考えさせられる映画。

単純な「原発反対! 再処理施設は白紙撤退!」というメッセージ映画じゃ全然ない。
とにかく、「今、何が六ヶ所村で起こっているのか? 村の人、近隣の人は何を思っているのか?」ということを丁寧に、慎重に取材している。

原発推進派の人々にも取材。
あるいはかつては反対していたが、今は生活のために・・・という人も。
問題は「核」だけではなく、仕事のない地方の現実、増え続けるエネルギー消費、そして、放漫にエネルギーを使い散らす僕たちの生活まで、複合的に絡み合っている。
単純に、核廃棄物再処理施設がなくなればいいという訳じゃない。

まずは「何が起きているのか」を知ることが必要。
僕はこれまで、六ヶ所村という名前は知っていたが、(行ったこともあるが)、そこで何が起きているか想像したこともなかった。

映画の中で、無農薬のお米を作り続けるおばあちゃんが言った言葉。
「核の問題では、中立と言う立場はないんだ。心情的には反対でも、反対!と声を上げないと結果的には賛成したことになる。反対と言うのはめんどくさいけど、こんなことには賛成しちゃいけないよ」

素晴らしくいい顔をしたおばあちゃん。
田植えの時、苗に「がんばれよ」と声を掛けながら一生懸命作ったお米。でも、これまで買ってくれていた都会の消費者は、六ヶ所村の近くで作っているから、安全性に疑問があるからという理由で購入を止めた人が相次いでいると言う。
(そんな事を言われ、でも地元に住むしかないおばあちゃんは、どんな気持ちだろう)

こうしたおばあちゃんの思いをマスコミはまったく取り上げない。
今回のポレポレでの上映もマスコミは無視。
かなりの圧力がかかっているのではないか? とのこと。

北朝鮮が、核開発! なんて騒いでいるけど、
すでに六ヶ所村では核爆弾に転用できるプルトニウムが45トンもあり、再利用の目処もまったく立たないまま(海外では計画の見直しが相次いでいて、推進しているのは日本だけ)、次々と計画は進められている。
で、そのことはほとんど報道されていない・・・

マスコミの機能不全は、今に始まったことではないけれど、
小泉以降の傾向は、居酒屋と銭湯が好きな非政治的人物の僕でさえも「やばい」と感じている。

マスコミがダメなら、口コミだ!
まずは、自分たちが「知ること、考えること、何か動くこと」。

とにかく、原発のことだけでなく、いろいろな事を考えさせられる映画。
ぜひぜひ、見て欲しい!!
そして、少しでも多くの人に口コミして欲しい! ~




で、今回観た「ミツバチの羽音と地球の回転」はこの「六ヶ所村ラプソティー」の続編とも言える作品。

「六ヶ所」が「知ること」を目的とした映画だとしたら、今回の「ミツバチ」は「行動すること」を目的としている映画だと思いました。

山口県・祝島。
人口500人の小さな村ですが、この村の対岸で計画されている原子力発電所の建設に反対している島民が今回の主人公。この反対運動はなんと30年近く地道に続けられているのです。

「六ヶ所」の時は推進派の人に話を聞いたりしていますが、この映画では一切そうした人に取材はしていません。
あくまでも「反対」という目線で語られます。

反対運動の中心は島で農業、漁業をしながら暮らす老人たち。特におばあちゃん達が元気です。「絶対反対」の鉢巻を頭に巻いて毎週1回、島をデモ行進しています。
しかし、計画を進める中国電力は島民との話し合いに応ぜず、着々と着工に向けて準備を進めていきます。
こうした光景は、現在日本で稼動する54基の原発を作るときどこでも見られたものでしょう。

で、映画の取材スタッフはスウェーデンに飛びます。
この国は風力、波力、太陽光発電など自然エネルギー大国。
1980年代に電力事業は自由化され、市民はコストとエコロジーの両面を考えながら自由に電力会社を選ぶことが出来るのです。
地域の暖房は温水を使い、電気自動車が街を走り、最新の波力研究が進む国・・・。

世界最先端の自然エネルギー政策が紹介されますが、翻って日本では・・・。
30年前に計画された原発の計画が、何も変わることなく地域の反対を押し切って進められています。

自然エネルギーの分野では売上高1兆円を越す企業が続々と生まれています。
欧米だけでなくこの分野への中国の進出も著しい状況です。

しかし日本は毎年20兆円規模の石化エネルギーを海外から輸入して、狭い国土に50基以上の原発を稼動させています。

正直、日本は周回遅れのランナーになってしまった気がします。
硬直したエネルギー政策は、今の閉塞した日本社会の象徴でもあると思いました。

という訳で、この映画は「何かしなくちゃ」と思わせる力を持った映画です。
「原発反対」のメッセージ映画という枠を飛び出し、新しいエネルギーの可能性や日本が何を選択していくのか、世界の中でどう生きるのか、毎年20兆円もの石油を買う余裕が今後もあるのか、自然エネルギーを活用した地方経済の新しい可能性などいろいろな事を考えるきっかけになりました。

まずは少しでも多くの人にこの映画を見てもらいたいです。
自主上映会などの動きも活発なようです。ぜひ!
http://888earth.net/index.html