ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

2013年8月27日午後に打ち上げ予定の「イプシロンロケット」が発射中止になりました

2013年08月27日 | イノベーション
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2013年8月27日13時45分に打ち上げを予定していた固体燃料ロケットの「イプシロンロケット」が発射を中止されました。

 発射予定時刻まで秒読みは進みましたが、ロケット本体が自律的に予定時刻の19秒前に中止の判断をしたもようです。



 原因は現時点では不明だそうです。

 こうしたことは、まさに本番と練習の違いです。多くのロケットファンの方々が鹿児島県肝属郡(きもつきぐん)肝付町(きもつきちょう)の内之浦宇宙空間観測所の近くに集まり、今回の打ち上げ成功を見届けようとしました。今回はこの方々を残念がらせる結果になりました。

 ここがロケット打ち上げ事業の厳しさでした。本番と練習の違いが、実際にはどの程度の差になっているのかという今後解析される事実が、日本の本格的なロケット打ち上げビジネスを大きく左右します。今回は、ロケットの打ち上げ失敗でない点がまだ救いですが、発射中止の実態は解明中です。

 8月27日夕方に宇宙航空研究開発機構が開催した記者会見では、イプシロンロケットプロジェクトチームのプロジェクトマネージャーを務める森田泰弘さんは「地上の計算機がロケットの姿勢(ロール角:長手軸周り)異常と判断して発射のシーケンスを停止させたと考えている」と説明しました。そして「ロケットの機体は全く動いておらず、機体そのものには異常はなかった」と説明しています。

 この記者会見に同席した宇宙航空研究開発機構の理事長の奥村直樹さんは「支援してもらった国民や関係機関、企業の期待に沿えず申し訳ない」と陳謝たそうです。そして「早急に原因究明に全力をあげたい」と述べました。事前に、今回のロケット打ち上げが日本の本格的なロケット打ち上げビジネスの道を切り開くとのプレゼンテーションを繰り広げたことへの言い訳です。

 今回の「イプシロンロケット」ではまだ実現できていませんが、2017年度に打ち上げを目指している改良型では、打ち上げ費用を30億円以下に低減する目標を掲げており、日本が本格的にロケット打ち上げビジネスに参加する計画です。

 取りあえず、数日後の「イプシロンロケット」の打ち上げ成功を祈念しています。

トヨタ自動車が「カローラ」のハイブリッド車モデルの生産を始めました

2013年08月25日 | イノベーション
 トヨタ自動車の生産子会社であるトヨタ自動車東日本(本社は宮城県・大衡村)は、2013年8月23日に「カローラ」シリーズのハイブリッド車(HEV)となる「カローラアクシオハイブリッド」「カローラフィールダーハイブリッド」の生産・出荷を始める“ラインオフ式”を開催したと、新聞紙やテレビなどが報道しました。

 このラインオフ式は、当初の量産開始計画より6週間も早く実施したそうです。



 トヨタ自動車東日本は2012年7月に東北地方の自動車の生産拠点として再編された生産子会社です。以前の、関東自動車工業、セントラル自動車などを合併してつくられました。

 2013年8月6日に、トヨタ自動車は乗用車などの「カローラ」シリーズにハイブリッド車(HEV)モデルを追加すると発表しました。

 現行の「カローラ」シリーズは2012年5月に国内販売の新型モデルを発表し発売しました。搭載するエンジンの一つに1.3リットル型を採用し、従来の慣行を破って“サイズダウン”を実施したことが話題になりました。

 2012年5月に国内販売された新型モデルは「カローラ」シリーズは、1966年に生産・販売を始めた「カローラ」の11世代モデルです。日本の乗用車普及を牽引した代表車種です。トヨタ自動車の販売チャンネル(ディーラー)の一つであるトヨタカローラ店で販売されています。

 現在、「カローラ」シリーズと表記される理由は、「カローラ」ブランドだけでセダン系からワゴン系と幅広い乗用車のモデルを展開し販売しているからです。一時は、スポーティー系までも展開し、「カローラ」シリーズだけでさまざまなタイプの乗用車を販売していました。トヨタ自動車の中に、「カローラ」というフルラインモデルを展開する自動車会社を持っている感じでした。それだけ、「カローラ」ブランドの乗用車などが売れたからです。

 今回も、「カローラ」の11世代モデルを国内販売した時点から、わずか1年3カ月でハイブリッド車(HEV)モデルを追加しました。セダン系「カローラアクシオ」とワゴン系「カローラフィールダー」では、「想定以上にハイブリッド車を求めるユーザーが多かった」(トヨタ自動車)からだそうです。

 開発期間が短い理由は、ハイブリッドシステムにはハイブリッド車「アクア」のものを「最小限の変更で採用した」(トヨタ自動車)からです。

 乗用車などの「カローラ」シリーズは、日本を代表する乗用車です。しかし、「カローラ」というブランドは「おじさん・おばさん」ブランド化しています。購入者の多くが日本の乗用車普及期のオーナーの方々になっています。この「おじさん・おばさん」ブランド化を少しでも遅らせるために、テレビコマーシャルに木村拓哉さんを採用して、若々しさをアピールしています。

 トヨタの「カローラ」シリーズのライバルといわれた日産自動車の「サニー」は既に廃止されています。ミニライバルといわれたマツダの「ファミリア」も既に廃止されています(商用車のバンタイプに一部、名称が残っています)。それぞれ一時は、その会社を代表する乗用車ブランドでしたが、「おじさん・おばさん」ブランド化し、若者が購入しないとのブランドイメージ調査結果によって、廃止されました。

 この点でトヨタ自動車の「カローラ」シリーズは異なる動きをしています。ただし、よくみるとセダン系は「カローラアクシオ」、ワゴン系は「カローラフィールダー」」と、サブブランド名をつけてイメージを変えようとしています。

 実は、「トヨタ」自動車というブランドイメージもいくらか「おじさん・おばさん」ブランド化しています。時に、米国などでは、この傾向を強めています。そのブランドイメージを払拭するために、2012年4月6日からスポーツカー「トヨタ86」が国内で発売されましたた。トヨタブランドのスポーツカーの復活として話題を集めました。

 さまざまな理由によって、確立したブランド名を大切にするトヨタ自動車と、イメージが古くなったブランド名を変えていく日産自動車とマツダのブランド戦略の今後を見守りたいと思います。ホンダ(本田技研工業)のブランド戦略も目が離せません。

富士フイルムが銀塩写真フィルム事業から他分野事業に転換できた話を伺いました

2013年07月12日 | イノベーション
 2013年7月10日に開催された「第三回お茶の水コラボレーションセミナー」での講演内容は「富士フイルムの医療分野事業への進出」の経緯などの解説でした。

 同セミナー主催者は産学連携学会です。会場は東京都文京区の東京医科歯科大学構内です。



 このセミナーの参加者の多くは、銀塩系カラーフィルム市場で、一時は世界で数社に入るトップシェアを持っていた富士フイルムが事業転換し、医療事業などの六つの事業分野に事業展開することに成功した経緯に一番関心があったようです。講演後の質疑応答は、この点に集中しました。

 日本の富士フイルムとコニカの2社は、銀塩系写真フィルム事業の世界的なトップ企業でした。ところが2000年以降は、デジタルカメラの普及によって、従来の銀塩系フィルムのカメラを使わなくなり、銀塩系写真フィルム市場がほぼ消滅し、富士フイルムとコニカの2社は基幹事業を失いました。

 富士フイルムの講演者によると、2000年に銀塩系写真フィルムの売れ行きが頭打ちした結果、事業が成長しなくなりました。デジタルカメラが普及し、撮影した画像を磁気記録するメモリーに保存し、その画像データをパソコン画面などで見るようになり、写真を現像・焼き増しすることがなくなったからです。若い方の中には、銀塩系フィルムカメラて何?、「写るんです」使い捨てカメラて何?と、思う方が増えています。

 富士フイルムの講演者によると、2003年には銀塩系写真フィルム事業の売上げが3分の1も減り、同事業の存続見通しが危うくなりました。この時に、根幹事業である銀塩系写真フィルム・印画紙(紙焼き紙)事業が消滅するとの危機感を社員同士が共有できたのだそうです。2002年から2003年には、富士フイルムは会社の生き残り策を模索したそうです。

 富士フイルムは基幹事業の銀塩系写真フィルムなどで培った要素技術を基盤に、その周辺に染みだしていく“土地勘のある”事業を手がけることで、事業内容を変更していくという基本方針を打ち出します。とはいっても実際には、技術面でまったくの飛び地の事業はM&A(合併・買収)を積極的に進めたそうです。技術戦略会議という場で、新規事業の中身を議論したそうです。

 例えば、富士フイルムがテレビコマーシャルで宣伝している化粧品・ヘルスケア商品のルーツは、銀塩系写真フィルムに体積の半分も塗布していた“ゼラチン”を要素技術の一つにしたものです。ゼラチンとは、言い換えるとコラーゲンです。写真フィルムの厚さ100ミクロンのベースフィルム上に約20ミクロンの多層膜をコートする技術を持っていました。

 さらに、焼き増ししたカラー写真の印画紙のカラー画像が色あせないように、活性酸素をコントロールする要素技術を持っていました。この要素技術から、抗酸化力のあるアスタキサンチンという色素物質(キサントフィル類)の微細粒子が誕生しました。直径20ミクロン以下だと、アスタキサンチンの微粒子は皮膚から浸透するそうです

 こうした要素技術を束ねて、化粧品の「アスタリフト」「ナノフィルト」「ルナメア」の製品を産み出しました。しかし、富士フイルムは元々、企業に製品を販売するBtoBビジネスの事業しか手がけていませんでした。通常の化粧品メーカーのように化粧品店への流通・販売経路を持っていなかったのです。このため、当時盛んになり始めたWebサイトを利用するネット販売手法を採用しました。この結果、化粧品の「アスタリフト」のテレビコマーシャルを多く流しています。

 同様に、画像診断技術を要素技術として持っていたために、現在は医療・ライフサイエンス事業の中の「病院向けITソリューション」の画像診断システムとして成長しているそうです。画像を蓄えるサーバーなどのハードシステムから高速画像診断エンジンなど、一連のシステムとして病院などに販売しているようです。

 急成長し、かつ激戦市場である医療・ライフサイエンス事業の事業利上げ・利益は、富士フイルムは非公開だそうです。ただし、かなり稼いでいるそうです。

 富士フイルムは1934年に大日本セルロイドの写真フィルム部の事業を分離・継承して富士写真フイルムを設立・創業して以来の社名「富士写真フイルム」から“写真”をとり、2006年に新社名として“富士フイルム”に変更しました。同時に、ホールディングカンパニー傘下に事業会社を置く形になりました。さらに、この時に富士ゼロックスを傘下に入れています。

 富士フイルムのご講演者は、非公開資料などの資料を多く駆使し、かなりの速さで講演されたので、その時のメモは残念ながら不完全なままです。

 2006年に社名変更すると同時に、現在の新しい事業を展開するための技術基盤を築くために、同年4月に富士フイルム先進研究所を神奈川県足柄上郡開成町に設けました。



 富士フイルムが従来の基幹事業の銀塩系写真フィルム事業から現在の6事業部体制になぜうまく移行できたのかは、今回の講演からは、その成功要因などはあまり分かりませんでした。
 
 日本の富士フイルムとコニカの2社が銀塩系写真フィルム事業から他事業に巧みに無事に事業展開できたのに対して、米国のコダックはうまく事業転換できなかったようです。日本企業の強さの秘密が何かを考えています。

大学技術移転協議会が開催した、実務者向けのPCTセミナーを拝聴しました

2013年07月05日 | イノベーション
 一般社団法人の大学技術移転協議会(UNITT)が開催したPCTセミナー「PCT(特許協力条約)制度に関するトピックス」を拝聴しました。ここまで読んで、多くの方は「何の話?」と思われていることでしょう。特許などの知的財産系の話です。

 PCTセミナーの講演者は、WIPO(世界知的所有権機関)とWIPO日本事務所の方です。



 普通の方は、“PCT”も“WIPO”という言葉にも馴染みがないと思います。しかし、特許や著作権などの知的財産が重視されるようになった現在、実は知らないうちに、その恩恵を受けたり、影響を受けたりしています。

 グローバル市場化した海外市場で製品やサービスを販売・提供している日本企業は、知的財産戦略としてもPCTをよく利用している国の一つです。その理由は、PCTは特許や商権、意匠権などを各国で取得する際に利用される制度だからです。各国に特許や商権、意匠権などを出願する際に利点が多い制度だからです。

 PCTによる国際出願件数は2012年には、約19万4400件で前年比6.6%の伸びです。その出願人が所属する国別では、米国が5万件強と一番多く、これを第二位の日本が約4万4000万件で追いかけています。日本は2012年が前年度比12.3%増と、急速に国際出願件数を増やしています。米国と日本の人口比でを考えると、日本は相対的にかなり出願していることになります。

 急速に国際出願件数を増やしている国は、第四位の中国です。2012年が前年度比13.6%増です。そして第五位の韓国も2012年が前年度比13.4%増です。つまり、アジアの製造業が強い日本・中国・韓国の3カ国が上位を占め、かつその伸び率が高く、アジアが成長してしていることを示しています。

 2012年のPCTによる国際出願件数が多い出願人の企業では、第一位は中国のZTE Corp.です。第二位は日本のパナソニック、第三位は日本のシャープです。そして、第四位は中国のHuawei Technologies Co.Ltd(HTC)、第五位はドイツのRobert Bosch Corp.(ボッシュ)、第六位は日本のトヨタ自動車です。

 このほかに、日本企業は第十二位に三菱電機、第十三位に日本電気(NEC)、第十四位に富士フイルム、第十五位に日立製作所などと続きます。第二十位台まで日本企業が10数社も入っています。

 さらに、国際出願件数が多い出願人の企業の第一位の中国のZTE Corp.も、第四位の中国のHuawei Technologies Co.Ltd(HTC)もスマートフォンを製造し販売する企業です。スマートフォン販売のグローバル化が反映しています。

 中国企業が国際出願件数を急速に増やしている理由の一つは、最近話題になっているスマートフォンの「グローバル知財戦争」です。具体的には2009年10月に、スマートフォンを巡る特許戦争をフィンランドのノキアが、米国のアップル社を訴訟したことから、その後はアップル社と韓国のサムソン電子、中国のHTC、米国のモトローラ社が参戦し、紛糾しています(このことは、弊ブログの2012年12月21日編で触れています)。

 今回のPCTセミナーは、特許などの知的財産の出願やライセンスなどの実務を務める方々に、実際にPCTを利用して国際出願する際の、留意点などを具体的に説明するものでした。“初級者”の実務者が国際出願するには、想像以上に知的財産の知識が必要になるとの印象を持ちました。

 今回、WIPO日本事務所が東京都千代田区霞が関の経済産業省別館の隣のビルに入居していることを知りました。関連する特許庁のビルからは少し離れています。

2013年7月1日のクローズアップ現代「生物に学ぶイノベーション」を拝見しました

2013年07月03日 | イノベーション
 2013年7月1日の午後7時30分からNHK総合テレビで放送されたクローズアップ現代の「生物に学ぶイノベーション ~生物模倣技術の挑戦~」を拝見し、いろいろと考えました。

 NHK総合で放送される「クローズアップ現代」は、ある特定のニューストレンドを30分で分かりやすく解説する番組です。

 今回放送された「生物に学ぶイノベーション ~生物模倣技術の挑戦~」は、NHKのWebサイトによると「いま、厳しい生存競争の中で生物が進化させてきた機能を模倣する『バイオミメティクス(生物模倣技術)』により、革新的な技術が次々と生まれようとしている」ことを解説したそうです。



 具体的には「電子顕微鏡やナノテクノロジーの進化により、生物の「神秘のメカニズム」を分子レベルで解明、再現できるようになってきたのだ。次世代技術として期待される一方で、日本では昆虫学や動物学の研究者と工学系の技術者との連携が弱く、製品化の動きは欧米に大きく遅れを取っているのが現状だ。“生物のパワー”をどう技術開発に生かし、イノベーションにつなげていくのか。加速する企業や大学での研究の最前線を追い、可能性と課題を探る」ことを伝えたそうです。

 この中身は、弊ブログの2013年3月17日編に掲載した内容とかなり重なっています。その理由は、文部科学省の科学研究費新学術領域「生物規範工学」プロジェクトが研究開発する目標と意義などを解説したからです。ニュースソースが同じなので、解説の中身は当然、同じものになります。

 人類はやっと昆虫やは虫類、鳥類、ほ乳類などの生物が獲得した常温・常圧の環境下で、必要な物質をつくり出す入り口に入ったことを伝えています。

 例えば、クモがつくり出す強くてしなやかな糸を目標に、慶応義塾大学発ベンチャー企業のスパイバー(山形県鶴岡市)がドレスを試作したニュースが最近報道されました。まだ試作段階で、製品としての品質や価格が安定してつくれる段階ではありません。



 例えていえば、ライト兄弟が飛行機第一号を数100メートル飛行させた段階です。この飛行機を“要素技術”として、航空機運用網を組んで、一般の方が移動に利用できる事業化まではまだ時間がかかります。事業のシステムをつくるイノベーションが必要です。飛行機1台では、航空ライン・飛行場網はできません。運用システムの事業開発が必要になります。

 また、以前にカイコがつくる生糸を模倣して、ポリアミド(通称ナイロン)を開発しましたが、ポリイミドは高温・高圧の反応が必要です。今後は、常温・常圧でどうやってつくるかを目指し必要があります。予想以上に、至難の業です。
 
 同様に、アワビの殻のようなセラミックス材料を常温・常圧で穏やかな反応によってつくるには、現行の高温・高圧で高速でつくる現行の工業技術からかなりのパラダイムシフトが必要になります。

 持続可能性社会に向けた技術革新としての生物規範工学を実用化するには、かなりの研究開発とその事業化開発が必要になります。人類はやっと生物が行っている工業的な仕組みを明らかにし始め、それを利用する端緒についたところです。

 数10年から数100年先に実用化できる技術が生物規範工学です。NHKの番組は、一般の方が生物規範工学に強い関心をもつように、少し夢を語りすぎました。そんなに簡単には実用化できません。ここを誤解して、妙に早い事業化を期待してはいけないと感じました。