石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2023年版解説シリーズ(12)LNG貿易1

2023-08-23 | EIエネルギー統計

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0585EiWorldEnergy2023.pdf

 

4. LNG貿易

(2017年以降急成長するLNG貿易!)

(4-1) 2013年~2022年の国別輸入量の推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/5-G02a.pdf 参照)

 世界全体のLNG輸入量は2013年の3,268億㎥から2022年には1.7倍の5,424億㎥に増加している。2020年までは日本が輸入量世界一であり、2014年には10年間では最高の1,218億㎥のLNGが輸入されている。これは原発の運転停止のため火力発電用LNGの輸入が急増したことが主な要因である。しかし2015年以降はほぼ一貫して前年を下回っており、2022年には1千億㎥を切り(983億㎥)、2013年の8割にとどまっている。

 

一方、中国は毎年大きく増加しており、2013年の251億㎥が2021年1,099億㎥に増加、ついに日本を抜いて世界一のLNG輸入国になっている。2022年の輸入量は日本983億㎥に対し中国は932億㎥であり、日本がトップに返り咲いたが、世界景気が本格的に回復すれば今後は中国が世界最大のLNG輸入国になることは間違いないであろう。

 

日本、中国に次いで輸入量が多いのは韓国であり、4位フランス、5位スペイン、6位インド、7位台湾の順である。なお2013年から2021年まではインド、台湾が韓国に次ぐLNG輸入国であったが、2022年はフランス、スペインの輸入量が急増し順位に変動が生まれている。ウクライナ紛争のためロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入が途絶し、その対応としてLNGの緊急輸入に踏み切ったことが最大の要因である。

 

上位3カ国はすべて極東アジアであり、その輸入シェアは47%に達している。LNGは輸出国の液化搬出装置及び輸入国の搬入ガス化装置に巨額の投資が必要であり、輸出入は一部の国に限定されている。但し最近では地球温暖化問題が重視され、石油より二酸化炭素排出量が少ない天然ガスの需要が増加、さらに今春のロシアのウクライナ侵攻によりLNG輸入を始めるヨーロッパ諸国が増えている。この結果、世界的にLNG争奪戦の様相を見せている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2023年版解説シリーズ(11)生消ギャップ2

2023-08-22 | EIエネルギー統計

3.主要国の石油・天然ガスの生産・消費ギャップと自給率(続き)

(3-2) 天然ガス

(輸出余力2千億㎥超すロシア、年々高まるオーストラリア及び米国の余力!)

(i)主要国の生産・消費ギャップ

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-G01b.pdf参照)

 2013年におけるロシアの天然ガス生産量は6,145億㎥、消費量は4,249億㎥で、生産が消費を1,896億㎥万B/D上回っていた。カナダ、オーストラリアはロシアほど多くはないがやはり生産量が消費量を465億㎥及び256億㎥上回っていた。

 

 これに対して米国は生産量6,557億㎥、消費量7,070億㎥で、差引▲513億㎥を隣国カナダから輸入していた。中国及びインドも天然ガスの純輸入国であり、中国は▲501億㎥、インドは▲179億㎥それぞれ消費が生産を上回っていた。

 

 その後2022年までロシア、カナダ、オーストラリアは引き続き生産が消費を上回っている。このうちオーストラリアは生産が急拡大し、2022年の生産量は2013年の2.5倍、1,528億㎥に達した。この結果、オーストラリアの生産余力は2013年の4.3倍に拡大している。

 

2013年当時純輸入国であった米国、中国及びインドのその後の推移は対照的である。米国の改善が顕著であるのに対して、中国とインドは生産・消費ギャップが拡大している。米国は2013年に▲513億㎥であったギャップが年々縮小し、2017年にはついに生産が消費を上回り純輸出国に変わっている。さらに2019年にはカナダを上回る生産余力のある国になり、2022年の生産・消費ギャップはプラス974億㎥に達している。一方の中国とインドは逆にギャップが年々拡大し、2022年は中国が▲1,539億㎥(生産2,218億㎥、消費3,757億㎥)、インドが▲284億㎥(生産298億㎥、消費582億㎥)になっている。

 

(自給率100%以下だった米国と中国が2022年には111%と59%に二極化!)

(ii)米国・中国・インドの自給率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-G02b.pdf参照)

 生産量を消費量で割った自給率について米国、中国及びインドの2013年以降の推移を見ると、まず2013年の自給率は米国93%、中国71%、インド63%であった。即ち米国は1割、中国は3割、そしてインドは4割を輸入に依存していたことになる。中国とインドはその後年々自給率が低下し、2022年には中国は59%、インドは51%に下がり、両国とも必要量の半分近くを輸入に頼っている。

 

これに対して米国の自給率は改善を続け、2017年には自給率100%を達成した。その後も生産の増加が消費のペースを上回り、2022年には111%となり、天然ガスの輸出国に変身している。前項の石油で触れた通り、米国の2022年の石油自給率は93%である。かつて米国は不足する石油と天然ガスを中東産油国とカナダ、ベネズエラに依存していたが、エネルギー安全保障の面からも米国は外国に依存しない強い国家に変身したと言えよう。

 

(2005年の自給率50%が2022年は101%に!)

(iii)米国の石油と天然ガスの自給率(1970~2022年)

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-G03.pdf参照)

 1970年以降2022年までの半世紀強にわたる米国の石油・天然ガス自給率の推移を見ると、50年前の自給率は石油が77%、天然ガスは99%であり、石油と天然ガスを併せた自給率は86%であった。この当時米国では天然ガスはほぼ自給体制であり、石油の2割強を輸入に依存していた。

 

 天然ガスについては1980年代後半まで自給率100%であったが、1990年以降消費の拡大に生産が追い付かず自給率は徐々に低下し、2005年には82%まで下がった。しかしその後はシェールガス開発が急発展して生産量が劇的に増加、2015年には自給率が100%を超え、2022年には111%に達している。天然ガスについて米国はすでに輸出国の仲間入りを果たしているのである。

 

 同様に石油の自給率の推移を見ると1970年代後半には50%台後半に落ちている。その後1980年代半ばに67%まで回復したが、その後再び自給率は年々低下し、1994年に50%を割り2005年にはついに34%まで落ち込んでいる。即ち国内需要の3分の1しか賄えなかったことになる。しかし2010年以降はシェールオイルの生産が本格化し、自給率は急回復し、2022年は93%になっている。

 

石油と天然ガスを併せた自給率で見ると、1970年は86%であった。最近まで消費の主流は石油であったため自給率は石油に近く、例えば2005年の自給率は石油34%、天然ガス82%、合計ベースの自給率は50%であった。しかし、最近では石油と天然ガスの自給率の差が無くなり2022年の自給率は石油93%、天然ガス111%、合計ベースでは101%である。米国は炭化水素エネルギーの完全自給国になったわけである。

 

(続く)

 

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                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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石油と中東のニュース(8月22日)

2023-08-22 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・露サウジの輸出減で油価アップ。Brent $85.41, WTI $81.88

(中東関連ニュース)

・リビア:大統領/国会選挙の早期同時実施で合意

・米国の捕虜解放と凍結資産解除までに2か月必要:イラン外務省

・パレスチナ/イスラエル双方の死者すでに230人超、昨年1年間上回る

・トルコ、ハンガリーに天然ガス輸出契約

・サウジの百万長者35.4万人、MENAトップ:クレディ・スイス銀行

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(41)

2023-08-21 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第2章 民戦後世界のうねり:植民地時代の終焉とブロック化する世界(3)

 

041.対照的なフランスと英国の植民地支配(3/3)

 それに対して英国は大英帝国の長い植民地支配を通じて極めて老獪な知恵を生み出した。英国はイスラームの教祖ムハンマドの子孫でありながらマッカ太守の座をサウド家に追われたフサインの二人の息子を委任統治領のヨルダンとイラクそれぞれの国王に据えた。民主主義が広く普及した西欧社会では君主制はアナクロニズム(時代遅れ)に映るが、中東はまだまだ部族が幅をきかせる世界であり、何と言ってもイスラームが生活の中に根を張っている。西欧流の共和制あるいは議会制民主主義は時期尚早だった。英国は冷徹に中東の現実を見ていたのである。

 

 1921年にマッカの太守フセインの二男アブダッラーを国王とするトランス・ヨルダン王国が成立、「アラビアのロレンス」で有名なT.Eロレンスが大英帝国の代表者として国王のアドバイザー(実際は支配者英国の回し者)となった。同国は1946年にヨルダン・ハシミテ王国として独立した。英国は貴族の子弟の帝王学養成所として名高いサンドハースト王立陸軍士官学校にヨルダン皇太子を留学させ、ハシミテ王家を英国に取り込んでいる。

 

 ヨルダンの一般国民にとってハシミテ王家は英国が送り込んできた天下りの支配者である。しかし彼らにとって国王が預言者ムハンマドの子孫であることはかけがえのない「ありがたい」ことであったに違いない。首都アンマンのアラブ商人たちもハシミテ家を喜んで迎え入れた。第二次世界大戦開戦の1939年に生まれたカティーブはまだ7歳で王国独立の何たるかもわからなかったが、新国王を熱狂的に迎える父親の喜ぶ様子を鮮明に記憶している。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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二大産油国サウジとロシアで分かれる明暗:世界主要国のソブリン格付け(2023年8月現在) (下)

2023-08-21 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0584SovereignRatingAug2023.pdf

 

2.2020年7月以降の格付け推移

  ここでは2020年7月以降現在までの世界の主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。

 

(格付け無しが続くロシア、A-からAに格上げされたサウジアラビア!)

(1) 世界主要国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)

先進国の中ではドイツが過去3年間常に最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を続けている。なお米国の場合、S&Pは2011年にトリプルAからAA+に引き下げている。最近S&Pと並ぶ格付け会社FitchRatingが同国をトリプルAからAAに引き下げている。FitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であることを引き下げの理由としているのは興味深い。

 

アジアの経済大国中国と日本の格付けは3年間A+で推移している。AAAのドイツとは4ランク、米とは3ランクの格差があり、過去3年間格差は解消していない。台湾は2020年までAA-であったが、2021年上期に韓国と並ぶAAに格上げされ、2022年上期に再度引き上げられ現在はAA+に格付けされている。これら欧米・アジア各国より格付けは少し下がるが、石油大国のサウジアラビアは上半期にA-からAにアップした。世界的な景気回復とOPEC+の協調減産による原油価格の上昇が同国の経済見通しを明るいものにしている。

 

コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国については、上述のとおり中国がA+である。その他の4カ国を見ると、インドは過去3年間BBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされている。

 

南アフリカとブラジルは共にBB-で投資不適格であった。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ、信用度が低い。BRICsの一角を占めるロシアは、昨年1月までインドと同じ投資適格では最も低いBBB-であったが、4月のウクライナ侵攻に伴い、S&Pは同国をN.R.(No Rating)として格付け対象から除外しており、現在もその状態が続いている。

 

(アブダビに並んだカタール、サウジも1ランクアップ、復調著しいオマーン!)

(2)GCC6カ国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)

 GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2020年7月時点ではUAE(アブダビ)最も高いAAであり、これに続きクウェイトとカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2021年下半期にはA+に落ちている。これに対してカタールは昨年下半期にAA-からアブダビと同格のAAに格上げされている。

 

3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトが格下げされているのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。カタールについては前項でも触れた通り天然ガス(LNG)が世界的に品不足で価格が高騰したためである。

 

サウジアラビアはこれら3カ国より低くA-であったが、今年上半期にAに格上げされている。同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐエネルギー歳入を誇っているが、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを厳しく見ている。

 

オマーンとバハレーンは投資不適格の格付けである。有力な産油(ガス)国が多いGCCの中で石油生産量がほとんどないバハレーンのソブリン格付けは過去3年間B+にとどまったままである。オマーンは2020年7月にはBB-であったが、下期に1ランク格下げされてバハレーンと同じB+に落ち込んだ。しかし2022年中に2ランク格上げされ、今年7月現在では3年前の2020年7月を上回るBBに格付けされている。

 

以上

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2023年版解説シリーズ(10)生消ギャップ1

2023-08-20 | EIエネルギー統計

3.主要国の石油・天然ガスの生産・消費ギャップと自給率

(3-1) 石油の生産・消費ギャップ(差)及び自給率の推移(2013~2022年)

(3-1-1)石油

 世界の石油生産国と消費国を並べると(表2-T01a及び表3-T01a参照)、米国が生産、消費量で共に世界一であり、中国(生産6位、消費2位)、サウジアラビア(生産2位、消費4位)、ロシア(生産3位、消費5位)など生産・消費の両面で世界のトップクラスの国が少なくない(日本やドイツのように消費が多く、生産がゼロの国はむしろ例外)。

 

 このような国について生産量と消費量のギャップを比較すると、生産量が消費量を上回る国とその逆のケースがある。生産量が消費量を上回る場合はその差が輸出され、逆に消費量が生産量を上回る場合はその差が輸入で埋め合わされることになる。また、生産量を消費量で割った数値をパーセントで表すと、100%を境にその国の石油自給率を示すことになる。

 

 ここではサウジアラビア、ロシア、米国、中国、インド、イラン及びブラジルの7カ国について2013年から2022年までの各国の生産量と消費量のギャップを点検し、また米国、中国及びインド3か国について同期間中の自給率の推移を見てみる。

 

(ギャップが急速に改善する米国、輸出余力を維持する露・サウジ!)

(i)主要国の生産・消費ギャップ

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-G01a.pdf参照)

 2013年における米国の石油生産量は1,010万B/D、消費量は1,799万B/Dでその差は▲789万B/Dであった。同様に中国は▲635万B/D(生産422万B/D、消費1,056万B/D、以下同じ)、インドは▲280万B/D(92万B/D、372万B/D)で共に石油の純輸入国であった。

 

 これに対してロシアは生産量1,081万B/D、消費量322万B/Dで差引759万B/Dの輸出余力があった。サウジアラビアの生産量と消費量はほぼロシアに並び、差引793万B/Dの輸出余力を有していた。イランはこれら2国よりは低いものの生産量が消費量を173万B/D上回り、ブラジルは消費量が生産量を54万B/D上回っていた。

 

 その後、中国とインドは消費が生産を大きく上回り、2022年には生産と消費のギャップは中国が▲1,018万B/D(生産411万B/D、消費1,430万B/D)、インドが▲445万B/D(同74万B/D、519万B/D)に拡大している。これに対して米国は生産が消費の伸びを上回り、2022年には生産と消費のギャップは▲137万B/Dに縮小、10年前より652万B/D改善されている。

 

 ロシアとサウジアラビアの輸出余力は2013年以降も大きな変化は無く、2022年はサウジアラビアが826万B/D、ロシアは763万B/Dである。イランも引き続き生産量が消費量を上回っているが、そのギャップはほぼ変わらず、2022年の輸出余力は191万B/Dである。ブラジルは深海油田の開発等による生産量の増強により、2010年には▲54万B/Dの消費超過であったが、2022年には逆に60万B/Dの生産超過となっている。

 

(10年間で大きく明暗を分けた米中の石油自給率!)

(ii)米国・中国・インドの自給率

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/4-G02a.pdf参照)

 生産量を消費量で割った自給率について米国、中国及びインドの2013年以降の推移を見ると、まず2013年の自給率は米国と中国がそれぞれ56%と40%で米国の自給率が16ポイント高かった。これに対しインドの自給率は25%にとどまっていた。即ち米国は4割強、中国は6割、インドは7割強を輸入に依存していたことになる。その後、中国とインドは年々自給率が低下し、2022年には中国は29%、インドは14%に下がり、両国とも石油の輸入大国になっている。

 

これに対して米国は過去10年間で急激に自給率が改善し、2021年には93%に達し、米国は石油の完全自給まであと一歩に迫っている。かつて米国は不足する石油を主として不安定な中東産油国に依存していたが、エネルギー安全保障の面からも米国は外国に依存しない強い国家に変身したと言えよう。

 

(続く)

 

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今週の各社プレスリリースから(8/13-8/19)

2023-08-19 | 今週のエネルギー関連新聞発表

8/15 経済産業省

我が国の石油・天然ガスの自主開発比率(令和4年度)を公表します

https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230815001/20230815001.html

 

8/15 コスモエネルギーホールディングス

当社株券等の大規模買付行為等に係る情報リストに対する回答の受領に関するお知らせ

https://www.cosmo-energy.co.jp/content/dam/corp/jp/ja/news/2023/08/15/pdf/230815jp_01.pdf

 

8/18 JOGMEC

重要鉱物の確保に向けて、アフリカ諸国と合意文書を締結~西村経産大臣のアフリカ諸国歴訪に同行し、各国との関係を強化~

https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00131.html

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石油と中東のニュース(8月19日)

2023-08-19 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・イラン外相、サウジ訪問。皇太子と会談

・北京でサウジ・中国ビジネスフォーラム開催、10数件総額13.3億ドル締結

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(40)

2023-08-18 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第2章 民戦後世界のうねり:植民地時代の終焉とブロック化する世界(2)

 

040.対照的なフランスと英国の植民地支配(2/3)

 これに対して1798年の革命でブルボン王朝を倒し共和制を樹立したフランスには共和制国家としての長い伝統がある。フランス共和国憲法第2条で「自由・平等・博愛」を国家の標語とし、それを象徴する三色旗(トリコロール)を高々と掲げる以上、シリア及びレバノンは共和制国家でなければならなかった。但しフランスは実質的な支配権は失いたくなかったため、シリアではシーア派少数部族のアラウィ派を権力の座につけた。植民地支配で少数派をバーチャルな(見かけの)支配者に起用するのは宗主国の常套手段である。フランスは外部の支援を必要とする少数派を陰で操り、多数派を弾圧あるいは分裂させることで自国に有利な権力構造を作り上げたのである。

 

 「自由・平等・博愛」を標榜する表の顔と植民地を意のままに操ろうとする裏の顔はフランス外交の矛盾であり、その矛盾を突いたのがソ連である。第二次大戦後、唯一の社会主義国家としてソ連は世界中に階級闘争を展開し始めた。それは中東ではアラブ民族主義と並ぶもう一つの柱である社会主義運動として広まり、シリアの共和制はフランスの意図しない方向に走り出した。このような事態に対してフランスは自らの共和制という足かせに阻まれ強圧的な行動が取れない。フランスはすべてを混乱させたままで逃げ出すのである。後始末を引き受けるのは結局米国と言うことになる。ベトナム戦争でベトコン(ベトナム共産党)に敗れ後始末を米国に委ねたのと全く同じ構図である。戦乱の世でフランスが頼りにならないことは歴史の事実である。つまり中東では昔も今もフランスは問題解決の主役たりえないのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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EI世界エネルギー統計(旧BP統計)2023年版解説シリーズ(9)消費量3

2023-08-18 | EIエネルギー統計

2.世界の石油・天然ガスの消費量(続き)

(2-3) 米国、中国、日本、インド4カ国の過去10年間の消費量推移

(日本を追い抜き格差広げるインド!)

(2-3-1)石油 (図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03a.pdf参照)

 2022年の石油消費量が世界1位から3位までの米国、中国、インド及び世界6位の日本について2013年から2022年まで10年間の石油消費量の推移を追う。

 

 2013年の米国の消費量は1,800万B/Dであり、中国1,060万B/D、日本450万B/D及びインド370万B/Dであった。米国は2019年に1,940万B/Dに達し、2020年はコロナ禍のため1,720万B/D強に急減したが、2022年には1,910万B/Dまで回復している。

 

 これに対し中国の消費量は2013年以降2021年まで一本調子で増加、2017年に1,300万B/Dを突破、2021年には1,490万B/Dに達した。2022年は過去10年間で初めて前年度を下回る1,430万B/Dにとどまり、それまで縮まる一方であった米国との格差が再び開く結果となっている。

 

 日本の消費量は長期減少傾向にあり、2013年には米国、中国に次いで世界3位であったが、2015年にはインドに追い抜かれ世界4位に転落した。その後さらにサウジアラビア及びロシアにも追い抜かれ、昨年の消費量は世界6位の334万B/Dであった。

 

(アジアの天然ガス消費をけん引する中国!)

(2-3-2)天然ガス  (図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03b.pdf参照)

 米国(2022年の天然ガス消費量世界1位)、中国(同3位)、日本(同7位)及びインド(同15位)の2013年から2022年までの消費量の推移を見ると、2013年は米国が7,070億立方メートル(㎥)、次いで中国が1,719億㎥、日本1,235億㎥、インド490億㎥であった。米国とその他3カ国の格差は4倍以上であった。その後中国の消費量は急ピッチで増加、2016年には2千億㎥、2019年には3千億㎥を突破、2022年の消費量は3,757億㎥を記録し、米国との格差は2倍近くに縮まっている。

 

 一方この間日本の消費量は2014年の1,248億㎥を天井にその後は年々減少し、2022年には1,005億㎥となり中国の4分の1に縮小している。インドは2013年の消費量490億㎥に対し2022年は582億㎥であり過去10年間の増加率は低い。

 

(まだまだ格差が大きい1位米国と2位中国!)

(2-3-3)石油+天然ガス(図http://bpdatabase.maeda1.jp/3-G03c.pdf参照)

 石油とガスを合計した消費量を米国、中国、インド及び日本の4カ国で比較すると、まず2013年の消費量は米国が3,018万B/D(石油換算、以下同じ)である。中国は1千万B/Dを超えており(1,353万B/D)、日本とインドは663万B/D及び456万B/Dであった。米国は2019年に3,410万B/Dまで伸び、2020年はコロナ禍の影響で急落したが、2022年には3,430万B/Dに達している。

 

 中国は2021年まで一度も減少することなく同年の消費量は2,145万B/Dまで増加したが、2022年は若干減少し2077万B/Dにとどまっている。2013年に2.2倍であった米国と中国の格差は、その後年々縮小したが2022年の格差は1.7倍でありまだ両国の開きは大きい。

 

日本は石油、天然ガス共に過去10年間消費が減少しており2022年の消費量は507万B/Dで2013年を150万B/D以上下回っている。インドは天然ガス消費は停滞したが、石油消費は増加している。この結果合計消費量では2018年に日本を超え、その後格差は広がり2022年には日本を100万B/D以上上回っている。

 

(続く)

 

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     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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