石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(41)

2023-08-21 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第2章 民戦後世界のうねり:植民地時代の終焉とブロック化する世界(3)

 

041.対照的なフランスと英国の植民地支配(3/3)

 それに対して英国は大英帝国の長い植民地支配を通じて極めて老獪な知恵を生み出した。英国はイスラームの教祖ムハンマドの子孫でありながらマッカ太守の座をサウド家に追われたフサインの二人の息子を委任統治領のヨルダンとイラクそれぞれの国王に据えた。民主主義が広く普及した西欧社会では君主制はアナクロニズム(時代遅れ)に映るが、中東はまだまだ部族が幅をきかせる世界であり、何と言ってもイスラームが生活の中に根を張っている。西欧流の共和制あるいは議会制民主主義は時期尚早だった。英国は冷徹に中東の現実を見ていたのである。

 

 1921年にマッカの太守フセインの二男アブダッラーを国王とするトランス・ヨルダン王国が成立、「アラビアのロレンス」で有名なT.Eロレンスが大英帝国の代表者として国王のアドバイザー(実際は支配者英国の回し者)となった。同国は1946年にヨルダン・ハシミテ王国として独立した。英国は貴族の子弟の帝王学養成所として名高いサンドハースト王立陸軍士官学校にヨルダン皇太子を留学させ、ハシミテ王家を英国に取り込んでいる。

 

 ヨルダンの一般国民にとってハシミテ王家は英国が送り込んできた天下りの支配者である。しかし彼らにとって国王が預言者ムハンマドの子孫であることはかけがえのない「ありがたい」ことであったに違いない。首都アンマンのアラブ商人たちもハシミテ家を喜んで迎え入れた。第二次世界大戦開戦の1939年に生まれたカティーブはまだ7歳で王国独立の何たるかもわからなかったが、新国王を熱狂的に迎える父親の喜ぶ様子を鮮明に記憶している。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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二大産油国サウジとロシアで分かれる明暗:世界主要国のソブリン格付け(2023年8月現在) (下)

2023-08-21 | その他

(注)「マイライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0584SovereignRatingAug2023.pdf

 

2.2020年7月以降の格付け推移

  ここでは2020年7月以降現在までの世界の主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。

 

(格付け無しが続くロシア、A-からAに格上げされたサウジアラビア!)

(1) 世界主要国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)

先進国の中ではドイツが過去3年間常に最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を続けている。なお米国の場合、S&Pは2011年にトリプルAからAA+に引き下げている。最近S&Pと並ぶ格付け会社FitchRatingが同国をトリプルAからAAに引き下げている。FitchRating, S&P共に連邦債務の上限問題に関して連邦政府と議会の関係が不安定であることを引き下げの理由としているのは興味深い。

 

アジアの経済大国中国と日本の格付けは3年間A+で推移している。AAAのドイツとは4ランク、米とは3ランクの格差があり、過去3年間格差は解消していない。台湾は2020年までAA-であったが、2021年上期に韓国と並ぶAAに格上げされ、2022年上期に再度引き上げられ現在はAA+に格付けされている。これら欧米・アジア各国より格付けは少し下がるが、石油大国のサウジアラビアは上半期にA-からAにアップした。世界的な景気回復とOPEC+の協調減産による原油価格の上昇が同国の経済見通しを明るいものにしている。

 

コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国については、上述のとおり中国がA+である。その他の4カ国を見ると、インドは過去3年間BBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされている。

 

南アフリカとブラジルは共にBB-で投資不適格であった。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ、信用度が低い。BRICsの一角を占めるロシアは、昨年1月までインドと同じ投資適格では最も低いBBB-であったが、4月のウクライナ侵攻に伴い、S&Pは同国をN.R.(No Rating)として格付け対象から除外しており、現在もその状態が続いている。

 

(アブダビに並んだカタール、サウジも1ランクアップ、復調著しいオマーン!)

(2)GCC6カ国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)

 GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2020年7月時点ではUAE(アブダビ)最も高いAAであり、これに続きクウェイトとカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2021年下半期にはA+に落ちている。これに対してカタールは昨年下半期にAA-からアブダビと同格のAAに格上げされている。

 

3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトが格下げされているのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。カタールについては前項でも触れた通り天然ガス(LNG)が世界的に品不足で価格が高騰したためである。

 

サウジアラビアはこれら3カ国より低くA-であったが、今年上半期にAに格上げされている。同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐエネルギー歳入を誇っているが、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを厳しく見ている。

 

オマーンとバハレーンは投資不適格の格付けである。有力な産油(ガス)国が多いGCCの中で石油生産量がほとんどないバハレーンのソブリン格付けは過去3年間B+にとどまったままである。オマーンは2020年7月にはBB-であったが、下期に1ランク格下げされてバハレーンと同じB+に落ち込んだ。しかし2022年中に2ランク格上げされ、今年7月現在では3年前の2020年7月を上回るBBに格付けされている。

 

以上

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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