2017.8.7
前田 高行
(価格低迷でシェールガス生産増加が止まった米国!)
(4)主な国の生産量の推移(2005~2016年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-2-G03.pdf 参照)
2016年の天然ガス生産量が世界1、2位の米国とロシア、第4、5位のカタールとカナダにオーストラリア(世界10位)及び英国(同20位)を加えた6か国について2006年から2016年までの生産量の推移を追ってみる。
ロシアの2006年の生産量は5,952億㎥であり2008年には6千億㎥を突破した。その後は横ばい状態を続け2014年から2016年の間は5,800億㎥前後にとどまっている。これは同国の輸出先である西ヨーロッパ諸国の景気が2008年のリーマンショックで急激に減速、現在も冷え込んだままであることが最大の要因である。ロシアの天然ガスはパイプラインで西ヨーロッパに送られており、備蓄が効かないパイプライン輸送は末端の需要に左右されやすいと言える。このような状況に対してロシアは中国と天然ガス輸出契約を締結し、或いは極東でLNG輸出基地の増強に取り組むなど極東アジアへの輸出に力を入れている。
米国の場合、天然ガス生産量は2006年以降2015年まで一貫して増加しており、2009年にはロシアを追い抜いて世界一の天然ガス生産国となっている。翌2010年には6千億㎥を突破、その後も急激に増加し、2015年の生産量は7,662億㎥を記録している。これは2006年に比較すると1.5倍の増加となる。このように米国の生産量が急速に増加したのはシェールガスの生産が商業ベースに乗ったことが大きな理由である。しかし2014年以降原油価格が急落、米国内の天然ガス価格もこれに引きずられて値を下げたため(詳しくは後述する「天然ガス価格の推移」参照)、一部のシェールガス生産業者は採算が悪化、生産を中止あるいは削減する動きが出ており、この結果2016年の生産量は過去10年間で初めて前年度を下回ることとなった。
カナダはかつて米国、ロシアに次ぐ世界第3位のガス生産国であり2006年に1,717億㎥であった生産量は年々減少し、2011年にはカタールに抜かれ、2012年には1,411億㎥まで落ち込んだ。その後生産量はわずかながら上向き2016年は1,520億㎥となりイラン、カタールに次ぐ世界5位の生産国となっている。同国は生産した天然ガスの大半をパイプラインを通じて米国に輸出しており、米国の自給率が高まった結果、カナダからの輸出が減少している(後述する「主要国の生産量と消費量のギャップ」および「主要国の天然ガスの自給率」参照)。但しカナダは世界15位の豊富な埋蔵量を有しており(前章国別埋蔵量参照)十分な生産余力があると考えられるため、今後はLNGとして日本など極東向けの輸出に力を注ぐことになろう。
英国は生産量が長期下落傾向にある。同国の2006年の生産量は800億㎥であったが、2016年には半分410億㎥に落ち込んでいる。同国の場合は北海油田が枯渇しつつあり、原油と共に産出される随伴ガスの生産量も減少しているためであり、今後も生産量の低下は避けられない。同国は現在ではカタールからのLNGの輸入が急増している状況である(第4章「世界の天然ガス貿易」参照)。
これに対して最近天然ガスの生産が増加しているのがカタールとオーストラリアである。カタールの2006年の生産量は507億㎥であり、ここに取り上げた6か国の中では5番目であったが、2016年には1,812億㎥に達し2006年に比べ3.6倍に増加している。カタールの場合多くはLNGとして輸出しており、年間77百万トンの輸出体制を整えている。さらに同国はUAEからオマーンに及ぶドルフィン・ガス・パイプランによる生ガス輸出も行っておりこれが生産急増の要因である(後述第4章「世界の天然ガス貿易―カタールの輸出動向」参照)。
オーストラリアはカタールの後を追うように近年ガス田開発と液化設備の建設を行っている。2006年の生産量は392億㎥であったが、2010年には500億㎥、2014年には600億㎥を超え、2016年の生産量は912億㎥と急激に増加している。日本などとの長期契約によりLNGの販売体制を確立、LNGの生産出荷施設も相次いで建設されており今後生産量はさらに増加するものと考えられる。
(天然ガス篇生産量 完)
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