Eさんは今日も賑やかである。
「マキちゃん、知ってるか?男の○○が大きい奴ほど脳みそは小さいんだって。」
「またぁー、Eさんたらそんな話ばっかりだもん。」
「いやいや、これは医学的にも統計されていて、科学の話だぞ。」
「下ネタじゃーん。」と、マキちゃんに一刀両断されたEさん。
下ネタ満載のEさんのおしゃべりからは、Eさんの歩いてきた人生の労苦は伺えない。
わたしの店では、わたし以外にその素顔を見せたことがないので、
マキちゃんにも、Eさんはただの下ネタ好きのお気楽なオジサンと写っていることだろう。
苦難の人生を、少なくとも人前では嘆くこともなく、
一見好色なオジサンと振る舞っているEさんの強さに、
時に、わたしは驚嘆の思いを抱く。
Eさんのお好みはバーボン。それもワイルドターキーの12年。
クラッシュした氷をたっぷりグラスに詰め、そこにワイルドターキーを注ぎ、
軽くステアしてEさんの前に置く。
つまみは簡単に、マカダミアンナッツをブラウントーストにして、
天草の海水から作った塩を振りかけたもの。
ワイルドターキーは、アメリカはケンタッキー川に近い、
ターキーヒルで作られたので、ワイルドターキーと名付けられたとか、
商品化した人間が、七面鳥狩りに行く途中に樽買いしたバーボンを、
好みの味になるまでブレンドしたから、ワイルドターキーと命名されたとか、
由来については、わたしにはその程度の知識しかない。
Eさんには息子が1人いる。
既に18才になるが、自閉症の症状がある。
養護学校の高等部に入ってからは、併設された寮に入っているので、
Eさんの平日は一人きりで、寂しいだろうがある意味気楽でもある。
息子が生まれてから自閉症だと分かるまでに数年が過ぎ、
それが治らない病気だと医者から聞かされたEさんの奥さんは、その事実を受け入れることができず、
自分が精神的に病み、息子の面倒を見ることも適わず、
夫と息子を家に残したまま、親に引き取られていったという。
それからのEさんの人生は苦闘の連続だったらしい。
息子の面倒を見るために、それまで勤めていた会社を辞め、
仕事を転々とし、自閉症に理解のない人々に頭を下げて謝る日々だったと、
Eさんは、くもりのない笑いで、楽しかった思い出のようにわたしに話してくれた。
Eさんが、またいつもの下ネタでマキちゃんの眉を顰めさせている。
「人指し指より小指が長い男は、○○がすんげー長いんだって。」
「そんな人いるわけないでしょ!」マキちゃんが少し怒ってみせる。
「鼻が大きい奴は、アソコも大きいってのは知ってるよね。」
「知りません!」とマキちゃん。
わたしは、Eさんの下ネタに凄みすら感じてしまう。
自閉症の息子をほとんど一人で育て、
その成長を喜ぶことで、自分の人生を幸福と思うことのできるEさんに、
わたしはただ「あなたは素晴らしい方です。」と、頭を下げるしかない。
「マスター、今日のナッツはかなり香ばしいよね。」とEさん。
「すみません。ちょっと目を離した隙に、少し焦がしちゃいました。」
「なーに、これも良いもんだ。」と最後の一つをつまんだEさんは、マキちゃんに、
「マキちゃん、あるアニメで、寝室の枕元にティッシュの箱がおいてあったんだって。それを見たオバさんたちがテレビ局に猛抗議をしたんだって。」
「そのアニメがなんだか知ってる?」
「え~っ、知らない。」とマキちゃん。
わたしには、抗議したオバさんたちの方が余程不純だと思えるのだが。
そのアニメがなんだったかですって。
多分マキちゃんが答を聞いていると思います。
お知りになりたければ、一度名も知らぬ駅に来ませんか。
※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
「マキちゃん、知ってるか?男の○○が大きい奴ほど脳みそは小さいんだって。」
「またぁー、Eさんたらそんな話ばっかりだもん。」
「いやいや、これは医学的にも統計されていて、科学の話だぞ。」
「下ネタじゃーん。」と、マキちゃんに一刀両断されたEさん。
下ネタ満載のEさんのおしゃべりからは、Eさんの歩いてきた人生の労苦は伺えない。
わたしの店では、わたし以外にその素顔を見せたことがないので、
マキちゃんにも、Eさんはただの下ネタ好きのお気楽なオジサンと写っていることだろう。
苦難の人生を、少なくとも人前では嘆くこともなく、
一見好色なオジサンと振る舞っているEさんの強さに、
時に、わたしは驚嘆の思いを抱く。
Eさんのお好みはバーボン。それもワイルドターキーの12年。
クラッシュした氷をたっぷりグラスに詰め、そこにワイルドターキーを注ぎ、
軽くステアしてEさんの前に置く。
つまみは簡単に、マカダミアンナッツをブラウントーストにして、
天草の海水から作った塩を振りかけたもの。
ワイルドターキーは、アメリカはケンタッキー川に近い、
ターキーヒルで作られたので、ワイルドターキーと名付けられたとか、
商品化した人間が、七面鳥狩りに行く途中に樽買いしたバーボンを、
好みの味になるまでブレンドしたから、ワイルドターキーと命名されたとか、
由来については、わたしにはその程度の知識しかない。
Eさんには息子が1人いる。
既に18才になるが、自閉症の症状がある。
養護学校の高等部に入ってからは、併設された寮に入っているので、
Eさんの平日は一人きりで、寂しいだろうがある意味気楽でもある。
息子が生まれてから自閉症だと分かるまでに数年が過ぎ、
それが治らない病気だと医者から聞かされたEさんの奥さんは、その事実を受け入れることができず、
自分が精神的に病み、息子の面倒を見ることも適わず、
夫と息子を家に残したまま、親に引き取られていったという。
それからのEさんの人生は苦闘の連続だったらしい。
息子の面倒を見るために、それまで勤めていた会社を辞め、
仕事を転々とし、自閉症に理解のない人々に頭を下げて謝る日々だったと、
Eさんは、くもりのない笑いで、楽しかった思い出のようにわたしに話してくれた。
Eさんが、またいつもの下ネタでマキちゃんの眉を顰めさせている。
「人指し指より小指が長い男は、○○がすんげー長いんだって。」
「そんな人いるわけないでしょ!」マキちゃんが少し怒ってみせる。
「鼻が大きい奴は、アソコも大きいってのは知ってるよね。」
「知りません!」とマキちゃん。
わたしは、Eさんの下ネタに凄みすら感じてしまう。
自閉症の息子をほとんど一人で育て、
その成長を喜ぶことで、自分の人生を幸福と思うことのできるEさんに、
わたしはただ「あなたは素晴らしい方です。」と、頭を下げるしかない。
「マスター、今日のナッツはかなり香ばしいよね。」とEさん。
「すみません。ちょっと目を離した隙に、少し焦がしちゃいました。」
「なーに、これも良いもんだ。」と最後の一つをつまんだEさんは、マキちゃんに、
「マキちゃん、あるアニメで、寝室の枕元にティッシュの箱がおいてあったんだって。それを見たオバさんたちがテレビ局に猛抗議をしたんだって。」
「そのアニメがなんだか知ってる?」
「え~っ、知らない。」とマキちゃん。
わたしには、抗議したオバさんたちの方が余程不純だと思えるのだが。
そのアニメがなんだったかですって。
多分マキちゃんが答を聞いていると思います。
お知りになりたければ、一度名も知らぬ駅に来ませんか。
※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。