読書おぶろぐ

読んだ本の感想を書いてます

ビンラディン アメリカに戦線布告した男 

2011年05月16日 21時36分35秒 | 人物伝、評伝 (自伝含)

 

ヨセフ・ボタンスキー氏の著書。

ボタンスキー氏はテロリズム、とくにイスラム教過激派を専門とする世界的に知られたアナリストであり、ワシントンのシンクタンク「国際戦略研究会(ISSA)」研究部長、連邦下院に設置された「テロと非通常戦闘に関する調査検討チイム」座長、「ディフェンス&フォーリン・アフェアーズ」誌の上級エディターなどを兼務されてゐる。米国務省、国防総省の元顧問であられます。

本書は2001年10月に前月(9月11日)のテロ後に書かれたものであるので内容が多少古くなつてゐるであらうが、「オサマ・ビンラディン」といふ人物に関して生い立ちから遡りビンラディンの活動について著述したものである。

国際的テロ組織のリイダア、といふ漠然としたビンラディンの肩書きを詳細に知るには適した著書と言へやう。

ただ、著者はアメリカの立場であるのでその立場で書かれてゐる記述がところどころに見られ、ビンラディンの立場からこの本を読むとかなり「カチン」と来ることがあるのではないかと思はれた。

個人的に言ひたいと思つたことは、本書の中でビンラディンに匹敵する活動家としてチェ・ゲバラの名前が出てゐたがゲバラは彼の著書の中ではつきりテロ行為を否定してゐるので、かなりむッとしたのと同時に「アメリカに歯向かふヤツはテロリストと定義するのか?」と思つた部分があつた。

また、アメリカに対する攻撃を「テロ」と呼称してをり、アメリカが民間人に対する攻撃に関してアメリカ人はテロと認識してゐないやうであるが(常に自分たちは正義である、といふ姿勢がよくわかる)、アメリカの攻撃も十分テロである。なので、テロリスト同士の争いと思つてこちらは見てゐるのであるが、「テロ支援国家」としていくつかの国を定義づけて記述してゐるのも一歩引いてみると、かなり白ける。(アメリカの民間人攻撃がテロなので、残念ながら日本もテロ支援国家となる)

ビンラディンがなぜアメリカ、アメリカと並んでイギリスを攻撃対象にするのか、はアメリカがイスラム教の地に軍隊を駐留してゐるからである。イスラム教徒の地に他宗教のキリスト教徒が駐留する、これはビンラディンにしてみればイスラム教の神アッラーへの冒涜行為なのである。例へて言へば、神社の神殿にアメリカ人が土足で上がりこみ、お供え物を口にするやうな行為を目の当たりにさせられるやうなものであらう。

アメリカがさつさとサウジアラビアを始めとしたイスラム教徒の地から撤退すればよいのであらうが、そこは色々な利権がからんでゐる。また、アメリカに数多く在住するユダヤ系の存在も影響が大きい。

ビンラディンは一代で財をなした建設業者の父親の跡を継ぐといふよりも、父親の仕事のコネクシヨンを通じてサウジの王家との関係を築き、資金確保の道を確立し、世界の様々な地に慈善事業など他の事業に「見せかけ」たテロ組織とネツトワアクを構築していく。 そのやうすを取材して本書で明らかにしてゐるので、ビンラディンがだういふ人でどんな活動を行なつてきたのかを知ることができる。

今回、アメリカは緻密な諜報活動でビンラディンの居場所を特定し踏み込み殺害に至つたわけであるが・・・・

事件を踏まへて、本書を読んでいくと「裏切り者がゐた」のではないかと思はざるをへない。しかし、本書の最終章に記述されてゐるやうにビンラディンは既に自身が「歯車」であるほどのシステムを構築してしまつた。彼は死んだが、ジハアドは続くだらう・・・・ その活動に困らないシステムを既にビンラディンは確立してしまつたのである。



最新の画像もっと見る