星のひとかけ

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史実に基づくエンタメ歴史小説:『戦場のアリス』ケイト・クイン著

2019-11-09 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)

『戦場のアリス』ケイト・クイン著 加藤洋子・訳 ハーパーBOOKS


第一次大戦下、 ドイツ軍占領下のフランスでスパイ活動をし、 英国側へ情報を伝える活動をしていた 実在の女スパイ組織《アリス・ネットワーク》を題材にした歴史エンターテインメント小説…

面白かったです。

、、 上のフォトで なぜ マイケル・オンダーチェ著の『戦下の淡き光』と 『イギリス人の患者』に挟まれて写っているかというのは、、 このところの自分の読書履歴でもありますし、 作品を読んだ方なら理由がわかるかもしれません、、 が オンダーチェさんの話はまた今度にして、、

『戦場のアリス』 面白かったですし、 《アリス・ネットワーク》なる女性スパイ組織がどんな活動をしていたのか、という点にはすごく興味を覚えました、、 が この作品はあくまで史実の部分に 虚構の語り手や虚構の伝説スパイらを付け加えてドラマ仕立てにしてあるお話。 その創作部分の物語に関しては、、 う~~む。。 なので感想はさらりと…

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物語の展開は、 第二次大戦終結後の1947年、 アメリカ人の(虚構の)女子大生が 第二次大戦中にフランスで行方不明になった自分のいとこを探すため、 その手掛かりを求めてロンドンで孤独に暮らす中年女性を訪ねるところから始まります。 その中年女性がかつて 《アリス・ネットワーク》でスパイ活動をしていた伝説の女性とは知らずに…

そして アメリカ人女子学生と、 引退した元スパイの女、 そして元女スパイの面倒をみている運転手の若者、という三人組のロードムービー的な道中が始まり、 次第に元女スパイの過去が語られていくうちに第一次大戦時代の《アリス・ネットワーク》の様子が明らかになっていく、というもの。 

、、 良心的なのは、著者が「あとがき」の部分で、 この物語の虚構の部分と、 実際にあった部分とを詳しく説明してくれている点で、 主人公の女子大生およびロンドンで出会う元女スパイとその運転手の主要人物は ストーリーを進めるための虚構の人物。
元女スパイの口から語られる、 第一次大戦中の諜報活動にまつわる行動のうち 「この部分」「あの作戦」「こういった手口」、、 これらの部分は史実です、と説明されている部分には いろいろと驚くような事実があってとても興味をひかれました。

元女スパイが行動を共にしていたリーダー的存在、 《リリー》は実在の人物で ウィキにも載っていました。 美しい人です⤵
Louise de Bettignies(Wiki) 

また、 《アリス・ネットワーク》の女性たちを見つけ出し、リクルートする役割の英国軍のキャメロン大尉=《エドワードおじさん》として登場する人物も実在の人だそうで、 物語の中のこの大尉のエピソード、、 大戦後のその後のエピソード含めて、 私はこの人物にもとても興味をひかれました。 物語の中では まるで映画『ニキータ』の《ボブおじさん》のような、 任務と私情のはざまで苦悩するような役どころでロマンチックに描かれていましたが、、 その辺は脚色なのでしょう…
Cecil Aylmer Cameron(Wiki)


脚色部分…  ロードムービー的な三人組の道中の物語は、、 アメリカの(1947年とは言え、いまどきの娘…といった感じの)ちょっとドロップアウトしかけた娘の、 路を取り戻す成長物語&ラブロマンス、、
そして 元女スパイの過去の遺恨をめぐる展開は サスペンスアクション映画的な、、 というか なんだか『テルマ&ルイーズ』みたいな所も… 
著者がアメリカ人だからか 良くも悪くもアメリカンニューシネマな感じが 私にはしました、、 (書評などでは余りそういう意見は見当たりませんが…)

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おそらく、 私がこういう感想になってしまうのは、、 現在の関心のありどころ というか、、 マイケル・オンダーチェさんの『戦下の淡き光』を先に読んでしまった流れのせいもあるのでしょうね、、

小説、、 言葉による世界の構築、、 文字から生まれる想像力の芸術、、 そういう領域の作品と、 読者に読む楽しさを与える物語とでは、 どちらかが優劣とかいう問題ではなく 別の領域のモノなのですから。。

、、 でも、 『戦下の淡き光』を読んで、 『イギリス人の患者』を二十数年ぶりに読んで、 その前提となっている『ライオンの皮をまとって』をまたまた読み返しているところですが(共通するのはふたつの大戦にまたがる時代だということ)、、 
『イギリス人の患者』には《イギリス人》など何処にも出てこなかった事… ハナも、ハナの父親のパトリックやカラヴァッジョもカナダから何をしに戦争に加わってイタリアにいたのか、、 (恋におちる相手の)人妻のキャサリンはなぜ砂漠へ来たのか、、
、、全部の背後に隠れていた英国軍の戦争… 秘密裏の戦場…

そういう、、物語の中で語られていなかった部分が、再読すると、 (そして別の作品を読むと)、、 強烈に浮かび上がって来て、 気づいていなかった新しい《物語》の可能性に 頭がくらくらしてきます。。 その《可能性》の拡がりの為には 今回の『戦場のアリス』もとても良い刺激剤にはなりました。 その意味ですごくおもしろかったです。


、、結局 ちょっとまだ マイケル・オンダーチェさんから抜けられそうも無いな…


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秋が深まってきました。。


これからの季節の光の色、 街の色、 樹々の色が大好きです。。 自然が、、 季節が、、身終いをしていくとき…


身仕舞い ではなく…


 
その季節を 自分も共に感じています…


もうしばらく この時間がおだやかにつづきますように。。