星のひとかけ

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闇の中の男 / ポール・オースター

2014-06-15 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
ポール・オースターが2007年に書いた 『写字室の旅』と、 2008年に書いた『闇の中の男』をつづけて読んだ。 翻訳はいずれも2014年、  柴田元幸訳、新潮社。


オースター作品はほぼ読んでいるけれど、 読み返したりしない怠けファンなので、 作品内容はすぐ忘れてしまう。 ましてや登場人物の名前なんて 全然憶えていない。。

、、というわけで、 『写字室の旅』のからくりがわかったのは、 半分以上読んでからの事でした。。 何が起こっているのか、 此処がどこでいつの時代のことなのか、 男は何者なのか、、 全くわからない状況から話を進めていく(世界をつくっていく)オースターのやり方は、 まぁ慣れているとも言えるし、 作家として好きな人だから、、

でも、、 9・11以降のオースターは、 作家として相当に苦しんでいらっしゃるのだな、、と、 その〈あがき〉を味わっている感じだった。 この『写字室の旅』は、 次の『闇の中の男』にも関連を持っていると 柴田さんが書かれていたので、 すぐ『闇の中の男』のほうも読んでみた。

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出たばかりの本だから、 内容についてコメントするのはやめよう。。 『写字室の旅』を読んでいなくても、 『闇の中の男』から読み始めるのは可能だと思う。 むしろその方が良いかもしれない。 『写字室~』のほうで、 作家の意図するものが半分見えてしまっているから。。

このブログにもずっと書いてきたことだけれど、、 私はオースターの 現実世界に対する 〈予兆〉 〈偶然〉 そして〈小さな奇跡〉 を愛してきた。 でも9・11とその後のアメリカ社会(ブッシュ社会)に生きるオースターさんには、 もう〈小さな奇跡〉を描かないのだろうか、、とも書いてきた。

そして2008年にオースターさんが書いたこの作品。。 本当に、作家としていまだ苦しんでいらっしゃるのだな、、と その苦悩の産物を読んだ気がしました。 、、だけど、、 サリン事件や、阪神大震災や、3・11を経てきた日本で、 日本の作家が 「生きる事」「家族」「人との絆」などをテーマに創りだそうとした小説…(私は余り読んでいないから対象がほんのわずかだけど、、) 、、その私が読んだ国内の作家よりは、 オースターの作家としての「創造」の苦悩のほうを 好ましく感じます。

、、だけど、 決してこれで満足な作品ではない。。 〈こうあったかもしれない世界〉を創造してきた作家さんが、 いつの頃からか、 現実を検証しなおすような、 その中に僅かの真実を見つけようとするような、、 そんな書き方になってしまったのだろうか。。。 

 ***

すごく印象に残っている部分を… (ごく短い引用ですが未読の方はごめんなさい)

イラクに行くという「彼」の言葉。。
 
 「アメリカに協力しに行くんじゃありません。 自分のために行くんです」

 ・・・・・

 「(僕は) なんにもしてないんです。 だから行くんです」(太字傍点)

 ・・・・・

、、この「彼」も まさに『闇の中の男』であり、 「彼」は「彼ら」であり、同時に「我ら」であり、 アメリカ日本全世界共通の「未来」でもあること。。。

、、オースターさんも、 もうすぐ老人という年代になるけれど、 現実の中の小さな安寧に希望を求めて欲しくない。 〈予兆〉を感じ取れる作家さんでいて欲しい。 ブッシュ政権は終わりましたが、 オバマさんも苦しんでいます。 芸術に老いは関係ないと言っていたルー・リードさんもいなくなってしまいました。。

だからまだ私は、 新たなオースター作品を待つことはやめないだろうと思います。

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