ご苦労さん労務やっぱり

労務管理に関する基礎知識や情報など。 3日・13日・23日に更新する予定です。(タイトルは事務所電話番号の語呂合わせ)

定期健康診断に女性向け項目を追加することのハードル

2024-09-13 08:27:44 | 労務情報

 厚生労働省に昨年12月から設置された「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」において、労働安全衛生規則第44条に定められている検査項目に「女性の健康に関する事項」(月経困難症・更年期に係る問診、その他女性の就業率向上に着目した検査項目)を追加することが検討されている。

 これは、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」(すべての女性が輝く社会づくり本部・男女共同参画推進本部;令和5年6月13日決定)で「事業主健診(労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断)に係る問診に、月経困難症、更年期症状等の女性の健康に関連する項目を追加する」と、「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針2023)」(令和5年6月16日閣議決定)で「事業主健診の充実等により女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会を実現する」と、それぞれ示されたことに基づき、健診項目を追加するにあたっての障害や配慮すべき事項を整理しているものだ。

 検討会では、次のような意見が出されている。
  ・健康診断は原則無症状のものが対象になるが、その意味で効果があるか
  ・検査で判明した健康事象・危険因子が業務に起因もしくは業務によって増悪するか
  ・有所見とされた者に対して事業者が実施できる事後措置(就業上の措置)は何か
  ・有所見とされた者に対して過度に就業制限をかけることの不利益可能性はないか
  ・検査は巡回健診でも実施可能か、また、対象となる労働者全員に対して実施可能か
  ・検査に要する費用の増大を事業者が許容できるか
  ・検査結果は「事業者が把握するべき健康情報」として事業主に提供できるか
  ・要望する声の多い「がん検診」や「眼底検査」等の追加は考えないのか
 その他にも否定的な意見も目立つが、上述のとおり女性向けの健診項目を追加することは既定路線であるので、その適切な実施を担保する方法やそのための政府指針を示す方向で意見が集約されるものと思われる。

 ちなみに、日本経済団体連合会は「2024年版経営労働政策特別委員会報告」において、女性の一層の活躍促進に向けて「働き続けられる環境の整備」等に積極的に取り組むとしており、具体的には、①生理休暇を刷新・拡充した「L休」(「Life Style Support 休暇」の略)の創設、②女性の健康に関する管理監督者への意識啓発、③産業保健スタッフによる相談支援や専門医への受診勧奨等、女性の健康と仕事との両立支援に向けた実効性ある対応に着手することとしている。
 これらも働く女性の健康保持に有効な施策であるので、健診項目の追加と併せて検討する価値はあるだろう。


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社会保険の適用拡大を踏まえてワークシェアリングの活用を

2024-09-03 09:03:49 | 労務情報

 社会保険は長らくいわゆる正社員またはそれに近い労働者を適用対象としてきたが、健康保険・厚生年金保険は(各種要件はあるものの)週20時間以上就労する者が強制適用となり、その要件が今年10月にさらに緩和(適用拡大)される。
 また、雇用保険も、週10時間以上就労する者を被保険者とする改正法(令和10年10月1日施行)が先ごろ成立した。

 こうした動きを踏まえて、自社内におけるワークシェアリングを考えている会社もある。 というのも、これまでワークシェアリングを躊躇させていた「従業員各人の業務量(端的に言えば労働時間)を減らすと社会保険の適用から外れてしまう」というボトルネックが解消されるからだ。

 「ワークシェアリング」は直訳すれば「仕事を分け合う」ことであり、「1人に任されていた業務を複数人で分ける」と説明されることもあるが、イメージで言えば「3人の業務を4人で分担しなおす」というのが現実的なところだろう。 これにより1人あたりの業務量は25%減となる計算だ。
 もっとも、業務量が25%減ったからと言って賃金を25%減額するのは労働者が納得しないだろうし、それまでは不要だった“調整”業務が増え、また当然“引き継ぎ”も必要になるだろうから、経営者としては「ワークシェアリングは短期的にはコストアップにつながる」と理解しておかなければならない。

 それでも、ワークシェアリングには以下のようなメリットがあるとされる。
 まず、マクロ的には、雇用を創出すること、育児中・介護中の者や高齢者等がそれぞれの意欲と能力に応じて働けるようになること、ひいては人口減少社会にあって労働力不足に対処できるようになる、といった効果がある。
 個々の企業においても、従業員の健康保持が図れ、組織の連携や一体感醸成にも寄与しうるといったメリットがある。 また、ワークシェアリングを進める過程で業務プロセスの見直し(リエンジニアリング)が必須であることから業務が効率化することも期待できる。 さらには、副次的な効果として、従業員が“自分の時間”(それが自己啓発であれ副業であれ)に得たものが会社にフィードバックされる可能性もある。

 もちろん、市場が縮小している業界においては「雇用が維持できる」という最大のメリットがあるわけだが、上に挙げたようにワークシェアリングには他にもさまざまなメリットがあるので、業績が好調であっても、積極的な活用を考える価値があるのではなかろうか。


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労働者代表の複数化・常設化を検討中(労働基準関係法制研究会)

2024-08-23 08:59:07 | 労務情報

 「時間外労働に関する協定」(俗に「三六(サブロク)協定」とも呼ばれる)を初めとする各種の労使協定は、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合が無い場合には、労働者の過半数を代表するもの(以下、「労働者代表」と呼ぶ)と締結する。 また、就業規則を制定する際にも労働者代表の意見を聴かなければならない。

 この労働者代表は、挙手や投票(「回覧方式での投票」や「社内ネットを用いた投票」でも差し支えない)等の民主的な方法によって選出されるべき(H11.1.29基発45号)なのだが、現実には、経営者が特定の者を指名したり、親睦会の代表が自動的に労働者代表になったりするケースも少なくない。
 このような不適切な選出方法では適用される労使協定の有効性にすら疑問符が付いてしまうので、そのような取り扱いをしている会社はすぐに改めるべきだ。

 ところで、今、厚生労働省に設けられた「労働基準関係法制研究会」では、この「労働者代表」を複数化・常設化しようとする議論が進んでいる。
 そもそも、労使協定というのは、「労使が合意した事項については労働基準法等の規制を緩める(デロゲーション)」という位置づけがあるところ、それほどの重責を1人の労働者に担わせていることを当事者(労使とも)が理解していない現状があるので、それを改めようというものだ。

 これに関し、日本経済団体連合会は「労使協創協議制」(選択制)を提案している。
 これは、労働者の中から民主的な手続きにより複数人の代表を選出し、行政機関により認証を受けたうえで、会社との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限を付与するというものだ。
 ただ、この提案で気を付けたいのが、過半数労働組合の無い会社が労使協創協議制を選択しなかった場合には労使協定が締結できない(労働基準法等の例外規定が適用されない)としていることだ。 この点、中小零細企業には受け容れがたいかも知れない。

 一方、日本労働組合総連合会は「労働者代表法」の制定を要望している。
 その案によれば、労働者を代表する複数の者から成る機関(労働者代表委員会)を設置し、その自主的・民主的な運営や使用者との対等性を確保する枠組みを法的に整備するとしている。
 これまで連合は、労働組合でない「労働者代表」に対して否定的なスタンスであったが、少し軟化して、「労使コミュニケーションの中核的役割の担い手は労働組合であるべき」としつつも、「労働者代表の選出や運用について法で規制する」という現実的な歩み寄りを見せた印象だ。

 具体的にどのように変わるかは今後の議論を待つことになるが、現状の労働者代表の在り方について労使とも問題意識を持っており、その解決のためには労働者代表の複数化・常設化が必要、という方向性は定まりつつあると言えよう。


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「ハローワーク別地域指数」記載誤りは全国・全業種に影響

2024-08-13 09:08:17 | 労務情報

 厚生労働省は、昨年8月に公表した「ハローワーク別地域指数」の一部(全434所のうち、神奈川・山梨・長野・新潟以西の275所)に誤りがあることを発表した。
 これは、全国のハローワークの所管地域ごとに「一般労働者の賃金の水準(一般賃金水準)」を示したもので、派遣労働者にとって実質的な“最低賃金”に相当する。
  【参考】職業安定局需給調整事業課報道発表(令和6年5月24日)

 では、ここで、派遣労働者の待遇決定方式について、改めて確認しておこう。
 いわゆる「同一労働同一賃金」の観点から、派遣労働者も派遣先(派遣労働者を受け入れる事業所)の労働者と不合理な待遇格差があってはならない(労働者派遣法第30条の3)。 これは必ずしも“均等”でなくてもよいが、“均衡”の取れた待遇が求められている。
 しかし、この「派遣先均等・均衡方式」により派遣労働者の待遇を決定することにすると、派遣先は自社従業員の賃金等に関する情報を派遣元(派遣会社)に提供しなければならず、また、派遣労働者本人にとっても派遣先が変わるたびに待遇が見直されるという不合理が生じる。
 そのため、9割近くの派遣元では、同法第30条の4の規定に基づき、過半数労働組合または過半数労働者代表との「労使協定」により待遇を決定しているのが現状だ。
  【参考】労働政策審議会資料『労使協定書の賃金等の記載状況について』(P.1)

 この「労使協定方式」により派遣労働者の待遇を決定するには、「厚生労働省令で同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として定める額以上の賃金とする」等の基準が設けられている。

 今般、その金額に誤りがあったということなので、訂正後の(正しい)一般賃金水準に満たない労使協定を締結している派遣元では、新たな協定を締結して(経過措置期間は今年9月30日まで)賃金額を引き上げ、加えて、今年4月から新協定発効までの間の賃金差額を補うことを労使で検討しなければならない。

 こうした派遣元事業主に対し、厚生労働省は現在、雇用保険二事業により支援する方向で検討している。
 具体的には、「人材確保等支援助成金」の下に時限措置として、①賃金制度の整備に係る基本経費として5万円、②雇用する派遣労働者1人当たり1万円、③(①②の合計額を超えざるを得ない場合)実費、を助成する案が示されている。

 それにしても、この原資は雇用保険料の事業主負担分から賄われるということだから、今般の行政の不始末は、派遣元・派遣先だけでなく、また、地域も問わず、すべての事業所に影響が及ぶと言えよう。


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社用PCの私的利用とその監視の是非

2024-08-03 12:47:30 | 労務情報

 従業員が会社から貸与されたPCやスマホあるいはネットワーク(以下、「社用PC等」と呼ぶ)を用いて業務に関係ないメール送受信やSNS投稿やネットバンキング操作等(以下、「私的利用」と総称する)をしていたら、会社は懲戒することができるのだろうか。

 そもそも、社用PC等を私的利用してよいか否かを問うならば「否」と答えざるを得まい。 社用PC等も業務用に付与したメールアドレス(SNSアカウントを含む)も、その所有者が会社である以上、それを貸与した目的以外に使うことは認められないからだ。
 しかし、私用メールの“受信”については、業務用のメールアドレスを家族や友人に知らせることは珍しくなく、それを禁じる合理的な理由も無いので、これは許容範囲内と言えるだろう。
 一方、私用メールの送信その他積極的な私的利用は、業務用メールアドレスを使おうと私的メールアドレスを使おうと、いずれにしてもメールを打っている間や操作している間は職務専念義務(労働契約に付随する義務)を果たしていないことになる(東京地判H14.2.26等)。
 とは言え、民法493条は「債務の本旨に従った弁済」を求めているのであって、当人の執務自体もしくは職場の業務運営全体に支障が生じるほどでない限りは私用メールを送ったことを咎め立てるのは酷にすぎよう(参考:東京地判S42.11.20;“私用電話”に関する裁判例)。 また、会社の電話機を用いて私用電話を掛けた場合における「電話料金」のような“目に見える損害”が、社用PC等の私的利用では生じないことも考慮されるべきだろう。

 結論として、社用PC等の私的利用を禁じること自体は可能であるが、それへの違反行為を懲戒の事由とするのは、現実に、その頻度や内容の不適切さ等により業務に支障が出たり、有形・無形の損害を被ったりした場合に限る、と認識しておくべきだろう。

 ところで、こうした案件を論じる時には、プライバシー権(日本国憲法第13条「幸福追求権」の一つと解釈される)についても理解しておかなければならない。 というのも、社用PC等であったとしても、その利用方法に関して利用者(この場合は従業員)に一切のプライバシー権が無いとは言えないからだ。
 上述のとおり社用PC等は会社の所有物であるから、会社は施設管理権の一環として、その利用方法を監視することは問題ない。 しかし、それが「責任ある立場でない者によるもの」・「職務上の合理的必要性なく個人的な好奇心等から行われたもの」・「監視している旨を秘匿してのもの」であった場合などには、「社会通念上相当な範囲を逸脱した監視」として、プライバシー権の侵害となりうる(東京地判H13.12.3;この判決では請求棄却)。
 逆に、会社は「責任ある者が職務上必要な範囲で利用方法を監視する」旨を周知しておくべきであり、また、そうすることで私的利用や不適切利用を抑止する効果も期待できそうだ。


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従業員の個人資料はいつまで保存しておく?

2024-07-23 09:01:08 | 労務情報

 労働基準法第109条には、「労働者名簿」・「賃金台帳」等を「3年間」保存しなければならない旨が定められている。また、労働安全衛生規則第51条では、「健康診断個人票」を「5年間」保存しなければならないとしている。その他、雇用保険に関する書類は「4年間」、社会保険に関する書類は「2年間」と、それぞれ法令で保存期間が定められている。
 さて、これら従業員の個人情報を含む資料は、保存期間経過後は、廃棄して良いのだろうか。あるいは、むしろ、保存期間を経過したら、積極的に廃棄するべきなのだろうか…‥

※この続きは、『実務に即した人事トラブル防止の秘訣集』でお読みください。

  

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古くて新しい「つながらない権利」

2024-07-13 16:59:12 | 労務情報

 勤務時間外に業務上の連絡を受けないのは、通信手段が限られていた時代は当然のことであった。 また、社外からの電話に対し、在社している者が「〇〇はお休みをいただいております」などと返答するのも、ほんの十年ほど前までは普通に見られた光景だ。
 しかし、携帯電話の普及やメール・SNS等の発展に伴い私生活中に仕事の連絡が入ることが増えたことにより、2010年ごろからフランス・ドイツを中心に「つながらない権利」(=勤務時間外に業務と“つながらない”権利;より強い語調で「アクセス遮断権」と呼ぶ向きもある)が主張されるようになった。

 わが国でも、新型コロナウイルス感染症の流行により在宅ワークが進んだことを契機に、この「つながらない権利」が注目されるようになってきた。
 日本労働組合総連合会(連合)が昨年12月に公表した「“つながらない権利”に関する調査2023」によれば、「勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある」と回答したのが72.4%(コロナ禍前より8.2ポイント上昇)、「勤務時間外に取引先から業務上の連絡がくることがある」と回答したのも44.2%に上っていて、連合もこれを問題視している。
  【参考】日本労働組合総連合会「“つながらない権利”に関する調査2023」

 そもそも、勤務時間外に業務上の連絡を入れて対応させたなら、それは「労働時間」に他ならない。 しかも、日ごろより「連絡があったら対応せよ」と指示しているのであれば、連絡を待っている時間すべてが「手待ち時間(=労働時間)」ということになる。

 なので、社内(部下・同僚・上司)に関しては、当人が勤務時間外であることを承知しているはずなのだから、連絡しないことを徹底させたい。
 もちろん、どうしても連絡を取らなければならない事態も起こりうるだろうが、それは突発かつ緊急の例外事象と認識しておくべきだ。

 さて、これが社外(取引先・行政機関等)からの連絡となると、どう対処すべきか悩ましいところだ。
 担当者の勤務時間外に入ったメールは受信せずに削除するシステムを導入している企業(特に外資系)もあるが、社外からの連絡まで一切拒否するのは、少なくとも日本人の感覚にはなじまないだろう。 ただ、受信するけれども「対応には時間(日数)をいただきたい」旨のメッセージを自動返信することぐらいは検討してもよいのではなかろうか。

 会社によっては、かなりの意識改革が必要になるかも知れないが、オン・オフの境界を明確にすることは生産性の向上につながり、また、担当者不在時のカバー体制を構築するのにも寄与しうる。
 「つながらない権利」は、厚生労働省に設置された労働基準関係法制研究会でも議論の俎上に載っているので、これを踏まえた対応を各企業で考えたい。
  【参考】厚生労働省「労働基準関係法制研究会(第5回)資料No.3」(P.10)


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リスキリングとアンラーニングは相容れないものではない

2024-07-03 07:59:38 | 労務情報

 これまで日本企業における従業員の人材育成は、OJTに代表される「アップスキリング」(up-skilling)に重点が置かれていた。 しかし、近年の急激なデジタル化の進行等により、これでは不充分(場合によっては不適切)になりつつある。
 そこで提唱されているのが、「リスキリング」(re-skilling;「リ・スキリング」とも表記されるが本稿では「リスキリング」で統一する)や「アンラーニング」(un-learning)といった“学び直し”の機会だ。

 まず、リスキリングは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応して価値を創造し続けるために、必要なスキルを獲得する/させること」(厚生労働省労働政策審議会労働政策基本部会資料「リスキリングをめぐる内外の状況について」より)と定義される。 つまり、「リスキリング=DX教育」ととらえる向きも多いが、そう決めつけることはなく、例えば、GX(グリーントランスフォーメーション)への対応もリスキリングの方向性の一つと言える。
 そして、企業がこれを進めることで、現下の社会変容にも自社の新規事業展開や将来的な業態変更にも適応できるようになることが期待される。経済産業省や厚生労働省も、これへの支援策を打ち出している。
  【参考1】経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
  【参考2】厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」

 一方のアンラーニングは、直訳して「学習棄却」、または意訳して「学びほぐし」とも呼ばれ、これまで学んできた知識や身につけた技術を一旦捨てることをいう。 もっとも、そこには当然、取捨選択(その過程が業務の見直しにもつながる)が必要であり、また、リラーニング(re-learning)ともセットで考えなければならない概念だ。
 アンラーニングは、従業員に自己否定感をもたらしディモチベーションともなりかねないリスクを伴うものの、(やり方次第ではあるが)従業員の意識変革を促し、組織の若返りも図れるという大きなメリットがある。

 誤解されがちだが、リスキリングとアンラーニングは対立概念ではない。
 リスキリングは新たな分野における知識や技能を身に付けるのに対し、アンラーニングは同じ分野における新しい価値観や枠組みを身に付けるものであって、相容れないものではないし、リスキリングの前提としてアンラーニングが必要になるケースもあるだろう。

 これからは、リスキリングとアンラーニングと、さらにはリカレント教育(職場を離れて大学院等で学び直す)や従来型のアップスキリングや自己啓発推進制度等も上手に組み合わせて、新しい時代に対応できる従業員を育成することが企業に求められよう。


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労働条件の不利益変更に係る個別合意が無効とされないためには

2024-06-24 08:52:26 | 労務情報

 労働条件を労働者にとって不利益に変更するには、該当する従業員全員と個別に合意を交わす方法(労働契約法第8条)と就業規則を変更する方法(同第9条・第10条)とがある。
 これらのうち後者は会社が一方的に決めることができるためトラブルになりやすいのは想像に難くないが、前者であってもその合意の効力が争われることがある。

 裁判所は、「労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである」(最二判S.48.1.19、最二判H.2.11.26、最二判S.28.2.19等)との立場に立つ。
 具体的には、次のような観点をもって、その同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたもの」と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かを判断される。
  (1) その労働条件変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度
  (2) 労働者により同意がされるに至った経緯及びその態様
  (3) 同意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等

 これを踏まえて考えれば、
  (1)に関して…
   他の条件を引き上げて不利益を軽減する、激変緩和措置を設ける、実施までの猶予を置く、期間限定とする
  (2)に関して…
   会社が倒産の危機に瀕している、役員報酬を減額している、同業他社やグループ企業の相場や慣習に合わせている
  (3)に関して…
   複数回にわたり丁寧に説明した、裏付け資料を用いて説明した
といったケース(例示)であれば、個別合意に基づく不利益変更の合理性が高まると言えそうだ。
 逆に、安直に「同意書」を提出させただけでは、その合意が否認される可能性が高いと認識しておくべきだろう。

 一般に、労働条件の不利益変更に際して個別合意を交わしておくとトラブルになりにくいとは言われるが、それでもトラブルにならないわけではない。
 経営者は、労働者に誠意をもって説明し、形式ではなく、本当に納得して合意してもらえるように努めなければならない。


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退職代行への会社としての対処

2024-06-13 08:59:54 | 労務情報

 自社の従業員が退職代行業者(本人に代わって退職の意思表示や退職手続きをしてくれる業者;労働組合や弁護士であるケースも含む)を利用して退職しようとした際、会社はどう対処したらよいだろうか。

 まず、経営者としては、この段階まで来たら、その退職を引き留めることはできないと認識しなければなるまい。
 そもそも退職すること自体が本人の自由であるのだし、加えて、退職代行業者を利用するのは、「会社が退職させてくれない」「職場でハラスメントを受けている」等の事情があるからであって、つまるところ「会社が信用できない」との意思表示とも言えるからだ。
 ただし、当該従業員に関して懲戒解雇に該当する事由が生じている場合は、自己都合での退職を認めるべきではないので、それだけは気を付けたい。

 そして、本人に連絡が取れるなら直接、本人が会社からの接触を拒否しているなら当該退職代行業者を介して、本人自筆の退職届(「退職“願”」はこのケースではそぐわない)を提出させる。 同僚や家族が本人になりすまして退職代行業者に依頼していることも考えられないではないので、必ず本人の意思を確認し、書面で残しておくべきだ。

 退職届が提出されたなら、後は、通常の退職手続きを淡々と進めるだけだ。
 有給休暇の消化を要求されたなら退職日までの間で取らせ、健康保険証や会社からの貸与物等を返還させ、失業給付を受ける予定の者には離職票交付を手配する。 最後の給与や退職金の支払い等も通常の退職者と同様に取り扱う。
 ちなみに、退職代行業者を利用したことは、こうした手続き面で不利益に取り扱うべき理由にはなりえない。 業務引継ぎに支障があった(実際そうなるケースが大多数と思われる)等により会社が現実に損害を被った場合はその賠償を請求することが可能だが、その場合でも、損害額を給与や退職金から勝手に控除することは許されない。

 その一方で、当該従業員が退職する意思を固めた理由や、それを会社に直接示さなかった(示せなかった)ことについて、社内でしっかり検証するべきだ。
 事情によっては、退職者から訴訟を提起されることも想定しておかなければならないだろう。また、上司の評価や処遇を見直したり、職場全体の悪習を洗い出したりする必要があるかもしれない。

 会社としては退職代行業者を利用されたことへの不快感はあろうが、どちらかと言えば非は会社にある(ことが多い)のだから、むしろ猛省を促したいところだ。


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