顧客の中には不当な要求をしてくる者もおり、企業としては対応に苦慮することもあるだろう。もちろん、商談における正当な要求や、自社に非のある正当なクレーム等であれば、貴重な意見として真摯に受け止め、今後の商品やサービスの品質向上に役立てるべきだが、“迷惑行為”と言えるほどの悪質なクレーム(まれに暴力行為を含む)となれば話は別だ。
厚生労働省から今年3月に公表された『職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書』には、「カスタマーハラスメント」や「クレーマーハラスメント」といった新用語により、これらを社会的な問題としてとらえる機運を醸成していくことが必要という意見も示されており、国も問題視していることが窺える。
ただ現状、こういった行為は厳密には「パワーハラスメント」に該当するわけではない。
厚生労働省が平成24年3月にとりまとめた『職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言』によると、「パワーハラスメント」とは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されている。この定義によれば、顧客は「同じ職場で働く者」ではないため、パワハラの行為者にはならないことになる。
その一方で、同省が昨年9月に作成した『職場におけるハラスメント対策マニュアル』には「取引先、顧客‥などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得る」とあり、セクハラに関しては、顧客から性的な言動により嫌がらせを受けたケースも含まれるとされている。
もっとも、用語の定義はどうあれ、労働契約法上、使用者には労働者への安全配慮義務があるため、経営者は顧客や取引先など外部の者からの著しい迷惑行為から自社の従業員を守る(心の健康も含め身体等の安全に配慮する)ことを考える必要がある。事業主が労働者の安全に配慮するための対応が求められるという点では、顧客や取引先からの迷惑行為も職場内のパワハラと類似性があると言える。
とは言え、顧客や取引先は自社の就業規則等の適用範囲外であるうえ、また、顧客等に対して迷惑行為をやめるよう求めることは、その後の取引関係へ影響を考えれば容易ではない。また、一つ対応を誤ると、このご時勢、SNS等で自社の悪評を流布されかねない。
企業経営者はこういったことを理解したうえで、(いささか対症療法的ではあるものの)担当者をフォローし、場合によっては、担当変更等の措置も検討するべきだろう。
そして、それと同時に、自社の従業員が取引先に対する迷惑行為の加害者とならないよう、教育していくことも忘れてはならないだろう。
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