今年(平成28年)年頭、安部首相が施政方針演説において「多様な働き方が可能な社会への変革が必要」と表明して話題になった。この発言の背景には、平成24年3月に厚生労働省の主宰する有識者懇談会が提唱し、その後も毎年のように厚生労働白書に登場している「多様な正社員」の存在がある。
「多様な正社員」は、用語的には従来型の「いわゆる正社員」も含まれるはずであるが、一般的には「限定正社員」(「勤務地」や「勤務時間」や「職種」等を限定して雇用される者)を指すことが多い。
この「限定正社員」は、非正規雇用者を正規雇用化するに際しての受け皿として活用でき、逆に、いわゆる正社員にとっては育児や家族の介護等による離職を避けるための選択肢として機能することも期待されている。
経営者の中には、「限定正社員」は整理解雇の場面において要件が緩やか(解雇しやすい)と考えている向きも見られるが、必ずしもそれは正しいと言えない。
確かに、「整理解雇の4要素 」と呼ばれる判例法理の1つ「被解雇者選定の合理性」においては、一般論として「正規雇用者の解雇よりも先に非正規雇用者を解雇すべし」とされているが、そもそも限定正社員は「非正規雇用」ではなく「正規雇用」であり、これに該当しない。
また、裁判例を見ても、当該限定された「勤務地」や「勤務時間」や「職種」が無くなる場合であっても、解雇回避努力義務を尽くさない安易な解雇は認められていない。その点、いわゆる正社員と何ら変わるものではないのだ。
ただ、特に「勤務地」や「勤務時間」については労働者側の都合で限定を付しているケースが多いため、(労働者本人の側が勤務地や勤務時間の変更に対応できず)結果として整理解雇が肯定された例も少なくない。しかし、これも、会社から本人に対して勤務地や勤務時間を変更しての雇用継続を打診する等の解雇回避努力義務を果たしたことが前提だ。
さて、これが整理解雇ではなく、「職種限定正社員」の「能力不足による解雇」の話になると、少し様相が変わってくる。
職種限定正社員の場合は、採用の経緯や成績評価の妥当性等を鑑みたうえで、会社の期待に応えられなかった者の解雇が許されると解されている。予定されていた職務によっては「職務の変更や降格等の解雇回避措置すら要しない」と判示した裁判例(東京高裁S63.2.22、札幌高裁H11.7.9等)もあるほどだ。
無論、解雇は「客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であること」(労働契約法第16条)が大前提であることを忘れてならないが。
そう考えれば、「限定正社員なら解雇しやすい」というのは、ごく限られたケースの、言わば“例外”と認識しておかなければならないだろう。
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