定年後再雇用に際して、そもそも、労働条件を引き下げることは許されるのだろうか。
この問いに対しては、「定年後再雇用とは、一定の年齢に到達したことをもって雇用関係を一旦終了させて、改めて雇い直すことなのだから、どんな労働条件にしようと問題ない」と考える向きもあるだろう。 しかし、そんな単純なものではないのだ。
まず、新たな労働条件に本人が同意しているかどうかが最大の問題となる。
労働契約法第8条は「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容を変更することができる」と定めており、本人の同意があれば、労働者にとって不利益な労働条件とすることが可能だ。 しかし、その決定過程に詐欺や強迫があってはならず、あくまで本人の自由な意思に基づく同意を得られるよう努めるべきなのは言うまでもない。
本人が同意しない場合においても、就業規則の変更により労働条件を変更することが可能ではある(同法第10条)が、同条に列挙されている要件を満たすのはハードルが高く、また、定年後再雇用にこれを適用するのは無理のあるケースも多いだろう。
また、定年後の労働条件が従前(定年前)よりも大幅に低下する場合には、2つの観点から違法とされる可能性がある。
1つ目は、高年齢者雇用安定法の観点だ。 同法第9条は企業に65歳(以上)までの継続雇用を義務づけているところ、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、法の趣旨に反し、不法行為となりうる(福岡高判H29.9.7)。
2つ目は、パートタイム有期雇用労働法の観点だ。 定年後に再雇用された者は有期雇用労働者となるケースが大多数と推測されるが、その待遇については正規労働者との間に不合理な相違を設けてはならないことになっている(均衡待遇;同法第8条)。 さらには、正規労働者と同視すべき者であれば、差別的取り扱いをすること自体が禁止されている(均等待遇;同法第9条)。
では、どの程度なら“大幅に低下”に該当するのかというと、それを明言するのは難しい。
長澤運輸事件(最二判H30.6.1)で最高裁は、定年前と比べて約20~24%下がったことを是認したが、これがすべての事案にあてはまるわけではない。
もっとも、その後も定年後の労働条件に関する裁判例はいくつか出されていて(福岡高判H30.11.29、名古屋地判R2.10.28等)、それらはいずれも共通して、「労使交渉」や「労使自治」という用語を強調していることは特筆に値する。
それらを踏まえれば、定年後再雇用にあたっては、まず本人(または労働組合)と真摯に話し合って、両者が納得のうえで定年後の労働条件を決めることが肝要と言えよう。
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