「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「蝉しぐれと空蝉」

2012-09-03 00:13:10 | 和歌

 蝉しぐれが賑やかだ。

 「うつろ庵」の近くの公園は、欅の大木が鬱蒼と茂っているが、欅の近くに立てば将に夏は真っ盛りだ。

 欅の大木一本だけでも、どれ程沢山の蝉が合唱しているのだろうか。余りにも多くの蝉が鳴き競うので、蝉しぐれなどという生易しさを通り超えて、激しい耳鳴り状態に見舞われる。

 散歩の際に、時に通過する程度の者にとっては、「将に夏は真っ盛りだ」などと呑気な感想を漏らすが、ご近所の皆さんにとっては、早朝から夜分にかけて常時聞かされるから、堪ったものではあるまい。将に騒音公害であろう。

 しかしながら不思議なことに、蝉たちは申し合わせたかのように、一時、ピタリと鳴きやむこともある。ほんの僅かな暫らくの静けさではあるが、大合唱との
落差が大きいだけに、得難いものが感じられる。「うつろ庵」の庭にはそれ程の大木はないので、公園の騒音公害程ではないが、それでもかなり賑やかだ。



 
 「うつろ庵」の庭木の下には、沢山の穴が開いている。
蝉の幼虫が這い出した穴だ。そんな穴の近くの枝先をみれば、蝉が脱皮した殻が其のまま空蝉となって留まっている。中にはアクロバット風な、ユーモラスな姿態を留めているものもあって、脱皮に掛けた蝉の思いが偲ばれる。

 何年かの土中の幼虫時代を経て、穴から這い出し、脱皮した後の蝉は成虫として、数日の命を懸けて鳴き明かすことになる。陽のもとで精一杯鳴き、新たな命を育んで夏を終わるのだ。蝉の騒音公害などという雑音は無視して、夏を謳歌せよ。
そしてまた、大切な命を大地に預けよ。



 

            殻を脱ぎ陽ざしを浴びて飛び立てり

            あの鳴き声はかの蝉ならむや


            空蝉の姿を見やりこの蝉の

            脱皮に掛ける思いを偲びぬ


            蝉たちは暑さに負けじと今日も鳴くや

            照る陽をうけて命の限りに


            蝉しぐれ互いの鳴き声確かめて

            ひと時やすみてまた謳うかな


            蝉たちの聲を聴きつつ励まさむ

            余命の短き夏の命を


            鳴き合うて新たな命を結べかし

            大地に委ねよ君らの卵を







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