蝉しぐれが賑やかだ。
「うつろ庵」の近くの公園は、欅の大木が鬱蒼と茂っているが、欅の近くに立てば将に夏は真っ盛りだ。
欅の大木一本だけでも、どれ程沢山の蝉が合唱しているのだろうか。余りにも多くの蝉が鳴き競うので、蝉しぐれなどという生易しさを通り超えて、激しい耳鳴り状態に見舞われる。
散歩の際に、時に通過する程度の者にとっては、「将に夏は真っ盛りだ」などと呑気な感想を漏らすが、ご近所の皆さんにとっては、早朝から夜分にかけて常時聞かされるから、堪ったものではあるまい。将に騒音公害であろう。
しかしながら不思議なことに、蝉たちは申し合わせたかのように、一時、ピタリと鳴きやむこともある。ほんの僅かな暫らくの静けさではあるが、大合唱との
落差が大きいだけに、得難いものが感じられる。「うつろ庵」の庭にはそれ程の大木はないので、公園の騒音公害程ではないが、それでもかなり賑やかだ。
「うつろ庵」の庭木の下には、沢山の穴が開いている。
蝉の幼虫が這い出した穴だ。そんな穴の近くの枝先をみれば、蝉が脱皮した殻が其のまま空蝉となって留まっている。中にはアクロバット風な、ユーモラスな姿態を留めているものもあって、脱皮に掛けた蝉の思いが偲ばれる。
何年かの土中の幼虫時代を経て、穴から這い出し、脱皮した後の蝉は成虫として、数日の命を懸けて鳴き明かすことになる。陽のもとで精一杯鳴き、新たな命を育んで夏を終わるのだ。蝉の騒音公害などという雑音は無視して、夏を謳歌せよ。
そしてまた、大切な命を大地に預けよ。
殻を脱ぎ陽ざしを浴びて飛び立てり
あの鳴き声はかの蝉ならむや
空蝉の姿を見やりこの蝉の
脱皮に掛ける思いを偲びぬ
蝉たちは暑さに負けじと今日も鳴くや
照る陽をうけて命の限りに
蝉しぐれ互いの鳴き声確かめて
ひと時やすみてまた謳うかな
蝉たちの聲を聴きつつ励まさむ
余命の短き夏の命を
鳴き合うて新たな命を結べかし
大地に委ねよ君らの卵を
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