夕暮れに虚庵夫人と連れだって、海岸のプロムナードを散歩をした。
夕陽を背中に受けて、ごくゆったり歩いていてふと気が付いたら、二人の長~い影法師が揺らめきつつ、どこまでも一緒に付いて来た。 子供の頃には、お友だちと一緒に「影踏み遊び」をしたことが懐かしく思い出された。 大人気もなく茶目っ気を出して、影の踏みっこをして童心に還って遊んだ。
前後を散歩していた人々は、じじ・ばばが突如として「影踏み遊び」に興じたから、怪訝に思ったに違いあるまい。老夫妻にとっては他人様の眼など気にならないから、いい気なものである。天真爛漫に、ひとしきり「お遊び」を楽しんだ。
夕陽が沈み、影法師が見えなくなって、ふと振り返ったら、三浦半島の低い山並みの向こうに、「富士山の影法師」が見えた。
夕靄の様なごく淡い雲に、富士山の南の稜線が延長したかのように、空高く影法師が伸びていた。駿河湾、更にはその向こうの遠州灘に太陽が沈まんとして、水平線の彼方から富士山に残照を投げかけているのであろう。
じじ・ばばの「影踏み遊び」に合わせて、富士のお山も「長~い影法師」を残して、暮れなむとしていた。
ばば様と夕焼け小焼けの散歩には
供する二つの影法師かな
揺らめきて何処までついて来るのやら
身の丈いとど伸ばしてやまずも
童心に還って影踏み興ずれば
激しく揺れる影法師かも
影法師踏み交わしつつお遊びに
齢を忘れるじじとばばかな
いや長く伸びにし影もやがて消え
陽は山の端に入りにけるらし
振り返れば富士のお山の影法師も
われ等に和して共に遊ぶや
茜空の富士のお山の影法師よ
名残とどめよ せめて暫しを
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