紅の薔薇一輪は抱けるや
寒に耐えつつ熱き思ひを
雲の垂れこめた寒い「うつろ庵」の庭に、たった一輪だけの紅の薔薇が咲いた。
この時節で、莟から開花に至るまでの辛苦は並大抵のものではなかろう。花茎自体も頑健には育たず、細首のままだから寒風に吹かれれば、前後左右に振り回される。気の毒なことに、花びらには数か所に棘の傷跡がついたままだ。
「うつろ庵」のこの真紅の薔薇は、以前にも何回かご紹介したが、「高貴な乙女の化身」だと虚庵居士は信じて疑わない。本来ならば馥郁と香りたつ気品を湛えているのだが、厳寒のこの季節ではそれも侭ならない。にも拘わらず、寒に耐えて咲くのは、こころに熱き思いを抱いているからに違いあるまい。
寒空に佇み、薔薇の心を忖度しつつ、暫しもの思いにふける虚庵居士であった。
襟元を開いたままに凛と立ち
首(こうべ)をたれぬは出自を語るや
ただ独り君を想えば寒空も
厭うものかは薔薇を召しませ
化身なるわが身の思ひを如何にせむ
ただ紅の花に託すは
見たまふや想寄せにしかの人は
寒に咲くばら思ひとどけと
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