猫柳の飴色の苞が割れて、銀色の綿毛が覗いた。
正月飾りに使った猫柳であるが、数本を無造作に花器に投げ入れたまま双月が経た。この間、活け合わせの花は様々に取り換えられたが、正直のところ、華やかさが無い猫柳には余り眼が届かなかった。
ふと気が付くと、いつの間にか飴色の苞が割れて、銀色の綿毛が覗いているではないか。よく見れば、それも一つ二つだけでなく、殆どの苞に割れ目が出来て、花芽の準備が着々と進んでいた。
年末のごく寒い時期に元木から切り取られ、花器の置かれた玄関は、暖房など殆ど効かない過酷な条件にも拘わらず、猫柳の枝は逞しく水を吸い上げ、細い枝に数多く付けた花芽を育んできたのだ。
大地に根を下ろし、養分を吸い上げているのであれば未だしも、花器に投げ入れらた猫柳は、鋏で切られた切り口から吸い上げる、冷たい水だけが命の源なのだ。
他愛もないそんな事に気が付いてからは、猫柳が急に愛おしい存在に変わった。傍を通る度毎に、花芽の膨らみに眼をやり、苞の破れが次第に大きくなる変化に、声を掛け励ます毎日に替わった。何れ春になったら、「うつろ庵」の庭の適当な場所に植えてやろう。
猫柳は凍えに耐えるや皮ごろも
固く閉ざして春を待つかも
ただ独り年賀の飾りに口閉ざして
初春の夢を描き来つらむ
飴色のいと固き苞割れ初めて
銀の綿毛の覗く今日かも
銀色に輝く綿毛を観まほしき
苞皮をやがて脱ぎて出でけむ
つややかな花穂の綿毛を観むものと
睦月如月待ちにけるかも
わが庵の庭の何処か君がため
場所を探さむ花穂の後には