川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

ニュージーランドらしい作品が読みたい(子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから6)

2010-12-23 10:38:46 | インポート
月刊「子どもの本」に6回にわたって連載した「子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから」というエッセイの最終回を公開します。


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6、ニュージーランドらしい作品が読みたい

 ニュージーランドは本の値段が高い。

 国内で本を作る場合、人口が少なく部数をたくさん刷れないからコストがかさむし、海外の英語圏の本を取り寄せる場合も当然、輸送費が上乗せされる。だから、日本で出版される本に比べると5割り増くらいの感覚がある。ニュージーランドの作家にしてみると、部数は伸びず、海外勢に押され、専業でやっていくには苦労するらしい(知人の証言)。
 ましてやニュージーランド固有の絵本や児童文学というのは、ジャンルとして層が薄いようだ。

 図書館に行っても、マオリの神話などをモチーフにした国産絵本のコーナーはあったものの、ほかの英語圏と分けてニュージーランドの作家の作品を置いてはいなかった。使われる言語も同じわけだから、区別する必要はないと感じる人がほとんどなのだろう。それゆえ、ニュージーランド固有の環境に則した絵本は、ジャンルとして確立しにくいともいえそうだ。

 というわけで、児童書、というか、特に絵本については、ニュージーランド滞在中、地元図書館で手当たり次第借りる中、ほとんど地元作家の作品に出会わなかった。唯一といってよいのが、Rebecca S. Wheelerの"How Absurd"。頭の中でいろいろな動物をくっつけて、変な生き物をつくってしまうユーモア系作品で、ぼくたちはずいぶん楽しんだ。もっとも、著者はニュージーランド生まれながら、オーストラリア在住だ。出てくる動物も、ニュージランドの生き物は一種類もなくて、むしろ、カンガルーなどオーストラリア産のものが登場する。

 ニュージーランドの不思議な生き物を魅了されているぼくとしては、ニュージーランド人によるものではないけれど、『カカポ──月のこども』(うちだいずみ・さじちあき)をまずす奨めたくなってしまう。内田さんは、長年ニュージランド在住で、ぼくも大好きな飛べないオウム、カカポを主役にした絵本を出した。これは英語版あるのだったけ?

 一方、絵本を卒業して、文字の多い本を読むようになる子どもたちにはどんな作品があるのか。

 ニュージーランドの児童文学は、エスター・グレン賞とか、ニュージーランドポスト児童文学賞(後者には絵本カテゴリーの賞もあると最近知った)といったものもあり、そこそこ充実しているはずなのだが、それでも層の薄さ、浸透度の低さは否めない。

 身の回りの子に、どんな本を読んでる?と聞いても「国産」が話題になるのは希だ。"The whale rider"(『クジラの島の少女』)を読んだというおませな子がいた程度。それよりも、北米発のベストセラー「ミスター・アンダーパンツ」(邦訳では『パンツ・マン』)を挙げる子の方が普通だった。

 結局、ニュージーランドに住みながら、ニュージランド固有の絵本や児童文学にはほとんど触れられなかったのが残念。そのかわりと言ってよいのか分からないが、帰国後、ニュージーランド作家によるニュージランドを舞台にした作品『ハンター』(ジョイ・カウリー作 大作道子訳)が翻訳され、楽しく読んだ。2006年のニュージーランドポスト児童文学賞の受賞作で、19世紀と現代、2つの時代を舞台に、それぞれ自然の中でサバイバル的な状況にある子どもたちが、時を超えた交流をしつつ、危機を乗り越える。

 現代の子どもたちは、飛行機の事故でフィヨルドランド地方の浜に取り残されている。3人のきょうだいのうち、末弟は腕に怪我をしており感染症がひどい。一方、19世紀の子どもは、身よりのないマオリの少年で、捉えられて奴隷として使役されていた村から逃走中。21世紀の子どもたちと同じ浜の周辺で、200年も先で起きている遭難事故を透かし観る。まったく「自然派」とはいかない現代のきょうだいが、19世紀の少年から得た知識で、釣りをして魚を得、サシミとして食べたり、サンドフライ(血を吸う迷惑なブヨの一種)よけになる樹液を体に塗ったり、感染症を悪化させた弟のために抗菌作用のある葉を使って手当てしたり、という場面は、実に臨場感があってわくわくした。

 いわば、15少年漂流記的な感覚。作中でも、主人公たち(現代の3きょうだい)が、「スイスのロビンソン」を引き合いに出すシーンがある。ここで「15少年」が出てこないのは、やはり、前にも書いた通り、ニュージーランドではなぜか「15少年」が読まれていないからなのだろう。「うーん、著者に伝えたいぞ!」と脈絡もなく思ったのだった。

 いずれにしても、ニュージーランドの自然と歴史にしっかり根ざしたよい作品だった。こういう作品は、ぼくが知らないだけで、まだまだあるような気がしていて、ぜひ邦訳してほしいと思う。

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この文章を書いてから、ニュージーランドの児童文学で、言及した以外でも邦訳があるのを知ったのだけれど、それは後で紹介することにして、とりあえず、このエッセイの中に出てきた本。

How AbsurdHow Absurd
価格:¥ 1,652(税込)
発売日:2007-07-20

カカポ―月の子ども
価格:¥ 1,529(税込)
発売日:1993-04
ハンターハンター
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2010-06-03
The Adventures of Captain UnderpantsThe Adventures of Captain Underpants
価格:¥ 526(税込)
発売日:1997-09


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