川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

15少年漂流記を強力にプッシュ(子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから4)

2010-12-14 16:02:58 | インポート
月刊「子どもの本」に6回にわたって連載した「子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから」というエッセイの第4回目を公開します。


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4、15少年漂流記を強力にプッシュ

 ニュージーランドのイメージをひと言であらわせといわれれば、「15少年漂流記」と答える。小学生の頃はじめて徹夜して読んだ本で、登場人物の少年たちの大部分がニュージーランド入植者ということに印象づけられた。


 長じて実際に訪ねると、人里離れたところでワイルドな暮らしをしている人たちも多いし、都会でも家を自分で建てるくらいは普通。自主精神が旺盛で、たとえば公立の小中高校でも保護者がみずから校長や教職員を雇用し、学校を運営する(教育委員会に相当するものがない)。まだ歴史浅いこの国で、15少年の末裔たちはしっかりと根を張って、物語に描かれていた通り、冒険心にあふれ、誇り高くあり続けている。そんなふうに感じている。

 ぼくの子どもたちも「15少年」好きだ。特に、息子は同じ著者の「神秘島物語」も愛読しており、離島冒険物に目がない。一度、ニュージーランド北島のオークランドを訪ねた際、「クイーン・ストリート」を歩き、たぶん「チェアマン寄宿校」はこのあたり、とか、スラウギ号が流された埠頭はたぶんここ、とか、あちこち探して盛り上がった。

 在ニュージーランドの日本人にこの話をすると、「あれはニュージーランドだったんだ!」と驚く人が多い。さらに最新の豆知識として、作品で南米近くに設定されている「チェアマン島」のモデルが、実はニュージーランド領のチャタム島なのではないかという説が有力になっていることも併せ伝えると、いたく感動する人もいたっけ。

 しかし、残念なことに、これが生粋のニュージーランド人にはまったく通じない。これまで何人に聞いたか分からないけれど、とにかくこの小説を知っている人は皆無だ。ほとんど、ではなく、まったく知られていないというのが正直なところ。

 著者のジュール・ヴェルヌはフランス人だから、英語圏で知名度が落ちるのは仕方ないのだが、「タイムマシン」「宇宙戦争」「海底二万里」はわりと読まれている。だから、同じ著者に「2年間の休暇」という作品があって、それはニュージーランドの子が船で漂流し、無人島で2年間サバイバルする話なんだ、などと説明しなければならない。しかし、知らない小説の粗筋を説明されても「だから?」という反応になるのが当然で、話題としてすら成立しない。

 あまりにも知られなさ加減に、クライストチャーチの図書館で調べた。1965年の訳で"A drift in the Pacific" と "Second Year Ashore"の2分冊になっているものと、1967年の訳の" A Long Vacation"が、中央図書館の書庫の奥深くに眠っていた。それ以降、新たな訳がないことも分かった。明治時代以来、数え切れないほどの訳がなされ、現在も複数の訳の版が途切れず売られている日本とは大きな違いだ。

 一度だけ、地理学の学位を持つ知人とチャタム島について議論したのが、ニュージーランド人と交わした「15少年」関連の会話で唯一の「盛り上がった」記憶。彼はチャタム島の環境評価の仕事をしたことがあり、ぼくが持参していた邦訳書中の「チェアマン島」地図を見て「そっくりじゃないか」と興奮した。「形といい、内陸に大きな湖があることといい、チャタム島の昔の地図だと言われても信じる」と。読書家の彼はヴェルヌの「神秘島物語」を読んだことがあったので、「神秘島にもたしかモデルの島があったはず。本当に几帳面な作家だ」などと話し合ったのを覚えている。しかし、これは本当に特殊な事例。

 日本では知らない者がいない「15少年漂流記」は、むしろ、ぼくたち日本人のための物語なのだ、とぼくは今では思っている。勝手にイメージを重ね合わせ、勝手に胸を躍らせる。まあ、それはそれでいいじゃないか。

 ところが! ニュージーランド在住の日本人男性で、「え、それなに? 聞いたことない」という人に出会った。年の頃は30代前半。ニュージーランド居住歴は10年ほどで、少年期は日本で過ごしている。へぇ、そういう人もいるのか! 自分の世代では「知らない人はいない」ほどメジャーなのだが、今は知名度は落ちているのかもしれない。

 そこで、強力にプッシュ。日本語補習校の図書コーナーにも邦訳を置いてきたし、また、日本でも、学校の読み聞かせ活動の中でとりあげる。スラウギ号が無人島に漂着するまでの部分を朗読して、「あとは読んでねー」と学級文庫に置いてきたりする。埋もれさせるには惜しい作品だもの。そして、常にオトナってやつは、次の世代と「何か」を共有したがるものであるがゆえ。

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以上。

数ある邦訳の中で、とりあえず、ぼくが子どもたちに推しているのはこの訳。
十五少年漂流記 痛快世界の冒険文学 (1)十五少年漂流記 痛快世界の冒険文学 (1)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1997-10-16


また神秘島も、全訳ではなく、かいつまんだこっちの方がとっつきやすいです。
神秘島物語 痛快世界の冒険文学 (5)神秘島物語 痛快世界の冒険文学 (5)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1998-02-20



さらに最近、妹と話して急に思い出したガボテン島。
これ、考えてみれば、和製15少年だったのね。
冒険ガボテン島 (上) (マンガショップシリーズ (11))冒険ガボテン島 (上) (マンガショップシリーズ (11))
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-01-31


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1 コメント

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チャタム島には、モリオリ族(マオリ族ではなく)... (カワバタヒロト)
2010-12-21 19:00:33
でも、チェアマン島の面影という意味では、ちょっと違うかもしれませんね。クマもダチョウもいないし(笑)。

あ、鳥は固有種が多く、バードウォッチャーにはパラダイスみたいだそうです。
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