サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥 (フィールドの生物学) 価格:¥ 2,100(税込) 発売日:2009-11 |
これからも続いていくらしい(非公式ながらたぶん確実な情報)シリーズで、その第一弾として去年でたのが、「サイチョウ」。「熱帯アジア動物記」と同時発売だったはず。
両方ともすばらしい出来映えなのだけれど、とりあえず、先に「サイチョウ」を紹介。
舞台は、タイのカオヤイ国立公園。
ここはぼくも行ったことがあって、なにしろヒルが多いところ(この前いったボルネオのヒルなんてまったく問題ないって思えるくらい、多い印象だった)。それだけ豊かな動物相をほこる場所でもあって、著者はここでサイチョウ相手のフィールドワークを繰り広げる。
のべ1000日。
フィールドの研究者でも、本当に長期間現地調査に費やすことができるのは、大学院生だとかごくごく若い内だけなのだそうで、それをとことん、やってしまった著者は、筆ののりといい、実際に書かれている内容といい、魅力的な「若き研究者像」を描出するのに成功していると思う。
もちろんただサイチョウを追っているだけでは、今の研究にはならない。森林生態系の中でどういう役所を演じているのかが大切になってくる。だから、途中は話はどんどん植物にシフトしていくのだけれど、それまた、興味深し。
フェノロジー(生物季節学)をかなり無手勝流にやってしまったり、ほんと、若いってすげえなあっという素朴な感動を抱いたり。
なお、作中に時々、顔を出す、ブタオザル・マスターの女性のセンパイやら、ブタオザルをボタニカル・モンキーとして「使う」話やら、サイドスートリーのおもしろさてんこもり。
なにがよいって、結局のところ、すでに大学教授になって久しい大御所ではなくて、つい最近研究者コミュニティに参入してまだバリバリの「現役」であるフィールドワーカーが、学生時代の初々しい気持ちを保ちつつ、思いの丈をぶつけてくれているというのにつきるかも。
ほんといい本です。
いいシリーズです。
このスジに目をつけた編集者、偉い!
「モグラ」を読んだ限りでは、「アフリカにょろり旅」に近い感じを受けました。「アフリカ...」よりもうすこし学術よりで堅いですけど。
でも若手の情熱が伝わってきて良い読後感でした。
やはり、キモは若手の情熱、と不安(たぶん背景のどこかに流れている)、と無茶、とあれこれ、ってとこなんだと思います。