ピクニック at ハンギング・ロック ディレクターズ・カット版 価格:¥ 4,179(税込) 発売日:2005-01-28 |
めったにしない映画評などをしたことがあったらしい。自分でも書いたのを忘れている原稿。「週末の一本」というファイル名だったので、きっとそのような雑誌企画だったのでしょう。ファイルは2001年の日付。
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ピクニック・アット・ハンギングロック
舞台は1900年2月、真夏のオーストラリア。
実際に起きた少女失踪事件が描かれる。別にどぎつい暴力やセックスのシーンがあるわけではない。ストーリーはあってなきがごとしだし、思わず血中アドレナリン濃度が上がってしまうような山場もなし。とにかくすべて「宙ぶらりん」で、常に何かが欠落している。その分、心に引っかかるというやっかいな映画だ。
失踪するのはメルボルン郊外にある「アップルヤード女子学院」の女子学生3人と女性教師1人。遠足に出かけた女子学生たちは「ハンギングロック」と呼ばれる岩山を探索しに出かけ、そのまま姿を消す。その際、付き添いの数学教師もいなくなる。捜索の結果、少女のひとりは、意識を失い、また、記憶を失った状態で保護されるが、ほかの者たちの行方は杳として知れず、事件は迷宮入りとなる。
真相について、映画なりの解釈は一切提供されない。ただ少女たちは、オーストラリア独特のゴツゴツした景観の中に溶け込んで、神隠しにあったかのように消えるだけだ。
最近の作品でいうと、『ブレア・ウィッチ』に通じる何かがある。解決されない謎、まき散らされた事実の断片を、観る者がつなぎ合わせ、なおかつ、全体像は見えない。しかし、作品世界は確固とした世界観に貫かれており、我々が考える以上の何かが、その背後にあるのだと納得させられてしまう。
ウェブを検索してみると、はたして、結構なカルト・ムービーとして語られていた。英米豪のサイトでは、「ハンギングロックの謎を解く」たぐいのものがいくつもある。「毒蛇説」「UFO説」「駆け落ち説」「レイプ説」などが乱れ飛んでいる。研究本まで出ているようだ。
一方、日本ではキャラ萌えのあげく(失踪する女学生ミランダは『ボッティチェリのヴィーナス』を思わせる超美少女)コスプレに走るおかまちゃんたちのオフ会報告をみつけた。たしかに、ヴィクトリア朝の抑圧されたファッションに身を包んだ娘たちは、言外に性的な雰囲気をまき散らしており、それが映画全体に通底するトーンにもなっている。
実は「失踪の謎」以上のミステリーがある。これもウェブで発見したのだが、この映画は「事実に基づいている」ことになっている(冒頭でその旨ナレーションが入る)にもかかわらず、実のところ1900年に本当にそんな事件があったのか確認できないらしい。「実際に起こった」と語ったのが確信犯なのだとすれば、映画の中身が中身だけに、意味深なのだ。
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追記@2008
オーストラリアといえば、一応のところぼくも「関係者」というかマニアの一人で、こんな作品を書きました。そういえば、「ハンギングロック」というタイトルの章もあるのだった。
はじまりのうたをさがす旅 赤い風のソングライン 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2004-09-11 |