１０月 ２２日

　　　　　　　　　　　　　　　　障子貼る・障子の張替・障子替へる・襖入れる




　　　　　禅寺の大障子貼る雨の日に　　　　　　　　　　　細見綾子


　　　　　障子貼り替へし座敷に碧の軸　　　　　　　　　　栗田やすし


　　　　　障子貼る朝より風のなき日和　　　　　　　　　　下里美恵子


　　　　　声ひびく仏間の障子張り替へて　　　　　　　　　岸本典子


　　　　　張り替へて水音ひびく寺障子　　　　　　　　　　梅田葵


　　　　　山の日を集めて峡の障子貼り　　　　　　　　　　藤田岳人


　　　　　貼りたての障子明かりに嬰寝かす　　　　　　　　久野和子


　　　　　障子貼る庵主の白き割烹着　　　　　　　　　　　尾関佳子


　　　　　谷川の音を遠くに障子貼る　　　　　　　　　　　高橋幸子


　　　　　障子張り蛹のやうに眠りけり　　　　　　　　　　八尋樹炎


　　　　　茅屋根にやはらかき日や障子貼る　　　　　　　　井沢陽子



　　　　　　　　　　



　　　　　障子貼る母の手さばき妻の敵　　　　　　　　　　草間時彦


　　　　　障子四五枚たやすく貼れぬ猫も居て　　　　　　　村山故郷


　　　　　障子貼るお狐さまの風通ひ　　　　　　　　　　　波多野爽波


　　　　　障子貼る刃ものぬれ紙よく切れて　　　　　　　　橋本多佳子


　　　　　縁に日のさし来る障子貼りにけ　　　　　　　　　鈴木真砂女


　　　　　　今日２２日は天皇陛下が、即位を公に宣言する儀式「即位礼正殿の儀」が
　　　　　　　　　　　　　　皇居・宮殿で行われます。今年に限り、今日は祝日になりました。　　

１０月 ２１日

　　　　　　　　　　　　　　　菊・菊日和・菊の宿・菊作り・菊の香



　　　　　菜畑に黄菊一うね上越線　　　　　　　　　　　　細見綾子


　　　　　菊の香や加賀の鶴来の板庇　　　　　　　　　　　栗田やすし


　　　　　漱石と話したきこと菊日和　　　　　　　　　　　河原地英武


　　　　　菊香る大きな耳の飛鳥仏　　　　　　　　　　　　奥山ひろみ


　　　　　鑑真廟供華の白菊香りけり　　　　　　　　　　　石原進子


　　　　　ゆつくりと車椅子押す菊花展　　　　　　　　　　鈴木みすず


　　　　　迷ひ入る京の小路や菊日和　　　　　　　　　　　益田しげる


　　　　　錻力屋の歪むガラス戸菊の鉢　　　　　　　　　　佐藤とみお


　　　　　浜菊や瀬戸の渦潮激ち合ふ　　　　　　　　　　　河本好恵


　　　　　門灯のやうに置かれし黄菊かな　　　　　　　　　武藤けい子


　　　　　空き腹にデンキブランや今日の菊　　　　　　　　笹邉基子


　　　　　琵琶鳴らす指の白さよ菊日和　　　　　　　　　　上杉美保子


　　　　　菊の鉢並ぶ馬籠の深庇　　　　　　　　　　　　　山本悦子



　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　浜　菊



　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　磯　菊


　　　　　み仏のゆたかなる胸菊の花　　　　　　　　　　　福田蓼汀


　　　　　ふるさとに母は健やか菊咲けり　　　　　　　　　伊藤敬子


　　　　　うしろよりさし込む夕日菊花展　　　　　　　　　深見けん二


　　　　　あまたなる菊の一つに日が当る　　　　　　　　　林　翔


　　　　　われも加ふ波郷仰臥の胸の菊　　　　　　　　　　福永耕二



　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　段　菊

１０月 ２０日

　　　　　　　　　　　　　　　七五三・七五三（しめ）祝・帯解・千歳飴・袴著



　　　　　飴袋黒土擦つて七五三　　　　　　　　　　　沢木欣一


　　　　　袴著の男の子つまづく神の庭　　　　　　　　矢野愛乃


　　　　　児の足袋の爪先余る七五三　　　　　　　　　中山ユキ


　　　　　七五三小さき嫁後となりにけり　　　　　　　伊坂壽子


　　　　　唇に綿菓子つけて七五三　　　　　　　　　　奥山ひろ子


　　　　　祝詞聞く子らの真顔よ七五三　　　　　　　　神尾知代


　　　　　神域に太鼓響けり七五三　　　　　　　　　　加藤けい子


　　　　　祝着の子と祓はるる七五三　　　　　　　　　松永敏枝


　　　　　小さき手の小さき拍手七五三　　　　　　　　こころ



　　　　　　　　　　



　　　　　袴著や八幡宮の氏子だち　　　　　　　　　　　正岡子規 


　　　　　七五三の母子に名古屋城晴れて　　　　　　　　村山故郷


　　　　　帯解や雨の中打つ宮太鼓　　　　　　　　　　　石橋秀野


　　　　　神馬いま百歳となる七五三　　　　　　　　　　阿波野青畝


　　　　　畳店青き香に満ち七五三　　　　　　　　　　　中村草田男


　　　　　

１０月 １９日

　　　　　　　　　　　　　　新蕎麦・走り蕎麦




　　　　　芭蕉道あまた巡りて走り蕎麦　　　　　　　　　　都合ナルミ


　　　　　ねぶた絵を飾る山家や走り蕎麦　　　　　　　　　矢野孝子


　　　　　走り蕎麦酒一合にほろ酔へり　　　　　　　　　　鈴木みすず


　　　　　大食ひの番付表や走り蕎麦　　　　　　　　　　　森垣昭一


　　　　　一人居の友に土産のはしり蕎麦　　　　　　　　　塩坂恵子


　　　　　岡持で新蕎麦届く楽屋口　　　　　　　　　　　　野島秀子


　　　　　打ちくれし長寿祝ひの走り蕎麦　　　　　　　　　青木信子


　　　　　新蕎麦やそぞろ歩きの浅草寺　　　　　　　　　　武長脩行


　　　　　大津絵の鬼新蕎麦の湯気被る　　　　　　　　　　上田博子


　　　　　板きれの献立表や新蕎麦屋　　　　　　　　　　　二村美伽



　　　　　　　　　　



　　　　　新蕎麦に句に酒に論に責らるゝ　　　　　　　　　河東碧梧桐


　　　　　ふるさとの味かくれなし走り蕎麦　　　　　　　　細江大寒


　　　　　新蕎麦や朱塗の膳は剥げしまま　　　　　　　　　田中冬二


　　　　　能書きは要らぬ新蕎麦打たれけり　　　　　　　　石田郷子


　　　　　走り蕎麦銚子ふたつの長居なる　　　　　　　　　橋本榮治



　　　　　　　　　　


　　　　　

１０月 １８日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　秋時雨




　　　　　御像の鉄より黒し秋時雨　　　　　　　　　　　　沢木欣一


　　　　　秋時雨昨日に似たる昼過ぎに　　　　　　　　　　細見綾子


　　　　　秋時雨師の句碑となる石濡らす　　　　　　　　　栗田やすし


　　　　　モンローの小さき手形や秋時雨　　　　　　　　　奥山比呂美


　　　　　大津絵の泥の赤溶く秋しぐれ　　　　　　　　　　若山智子


　　　　　秋しぐれはや苔寂びの綾子句碑　　　　　　　　　近藤文子


　　　　　秋しぐれからゆきさんの発ちし浦　　　　　　　　倉田信子


　　　　　竹島へ渡る桟橋秋しぐれ　　　　　　　　　　　　渡辺協子


　　　　　信長の馬場の跡とや秋しぐれ　　　　　　　　　　橋本紀子


　　　　　病院の薄きスリッパ秋時雨　　　　　　　　　　　和久利しずみ


　　　　　剪定の音とぎれたり秋時雨　　　　　　　　　　　黒田昌子


　　　　　秋しぐれ兵の名多き無縁墓　　　　　　　　　　　山下　護



　　　　　　　　　　



　　　　　犬にのみ許す心や秋時雨　　　　　　　　　　　　草間時彦


　　　　　秋時雨女ばかりの客入り来　　　　　　　　　　　鈴木真砂女


　　　　　怒濤よりほかに音なし秋時雨　　　　　　　　　　中村汀女


　　　　　秋時雨金閣の金の鳳凰にも　　　　　　　　　　　村山故郷


　　　　　山雀がゐて鳴く温泉の秋時雨　　　　　　　　　　飯田龍太

１０月 １７日

　　　　　　　　　　　　　　　紫式部・実紫・白式部



　　　　　祇王祇女共に眠れり実むらさき　　　　　　　　　牧野一古


　　　　　みむらさき長寿坂てふ細き道　　　　　　　　　　武藤光晴


　　　　　父の忌が明けて色づく実むらさき　　　　　　　　小島千鶴


　　　　　実紫一茶の句碑の裾隠す　　　　　　　　　　　　奥山ひろ子


　　　　　ひとり来し禅寺の庭白式部　　　　　　　　　　　辻　桂子


　　　　　地に触れて色を深めし実紫　　　　　　　　　　　松本恵子


　　　　　味噌蔵の甘き香りや実むらさき　　　　　　　　　河合義和


　　　　　防人の道のほとりに実むらさき　　　　　　　　　森田とみ


　　　　　札所寺錆色きざす式部の実　　　　　　　　　　　垣内玲子


　　　　　実むらさき雨をはじきて艶めけり　　　　　　　　江口たけし


　　　　　実むらさき今も人住む武家屋敷　　　　　　　　　高平タミ



　　　　　　　　　　



　　　　　雨に色置きそめしより式部の実 　　　　　　　　　稲畑汀子


　　　　　白式部風の過ぎゆく墳一つ 　　　　　　　　　　　斎藤一骨


　　　　　越境は一歩で足りし式部の実　　　　　　　　　　 堀 無沙詩


　　　　　渡されし紫式部淋しき実　　　　　　　　　　　　 星野立子


　　　　　雨後いまだ雲のたゆたふ実むらさき 　　　　　　　能村登四郎


　　　　　倖あれと友が掌に置く実むらさき 　　　　　　　　石田あき子



　　　　　　　　　　

１０月 １６日

　　　　　　　　　　　　　　思草・きせる草・南蛮煙管・おらんだきせる



　　　　　おらんだきせるといふ花ありし絹の道　　　　　　細見綾子


　　　　　思草触（さわ）れば横にくび振れり　　　　　　　河原地英武


　　　　　きせる草伊良湖港の岬山に　　　　　　　　　　　夏目隆夫


　　　　　うす紅のひしめき合ひて思ひ草　　　　　　　　　福田邦子


　　　　　咲き残る南蛮煙管紅の濃し　　　　　　　　　　　上田博子


　　　　　南蛮ぎせる庭の芒に潜み咲く　　　　　　　　　　山口茂代



　　　　　　　　　　



　　　　　うつむきて誰を思ふや思草　　　　　　　　　　　鷹羽狩行


　　　　　異草にまぎれてかなし思草　　　　　　　　　　　富安風生


　　　　　鹿来てもなんばんぎせる瞳へざ　　　　　　　　　阿波野青畝


　　　　　なんばんぎせるまで風の道七曲り　　　　　　　　坂本宮尾


　　　　　横向いてゐるのが不思議思ひ草　　　　　　　　　後藤比奈夫


　　　　　この草のその名愛しき思草　　　　　　　　　　　辻田克巳

１０月 １５日

　　　　　　　　　　　　　そぞろ寒・すずろ寒・そぞろに寒し



　　　　　梁強きお助け小屋やそぞろ寒　　　　　　　　　栗田やすし


　　　　　岩肌を触れゆく靄やすずろ寒　　　　　　　　　中村修一郎


　　　　　顎つたふ嗽の水もそぞろ寒　　　　　　　　　　梅田 葵


　　　　　本堂に火消しのバケツそぞろ寒　　　　　　　　中山敏彦


　　　　　予科練の血文字の遺書やそぞろ寒　　　　　　　国枝洋子


　　　　　地下鉄で紅ひく少女すずろ寒　　　　　　　　　上杉和雄


　　　　　寺田屋の急階段やそぞろ寒　　　　　　　　　　武田稜子


　　　　　そぞろ寒ことりと手紙落つる音　　　　　　　　清水弓月


　　　　　大荒れの熊野灘見るそぞろ寒　　　　　　　　　谷口千賀子


　　　　　首塚に太き走り根そぞろ寒　　　　　　　　　　市原美幸


　　　　　そぞろ寒古寺に誅殺絵巻かな　　　　　　　　　辻江けい



　　　　　　　　　　



　　　　　沖つ浪見つつ髪梳くそぞろ寒　　　　　　　　　鈴木真砂女 


　　　　　そぞろ寒千手に目ある観世音　　　　　　　　　三橋敏雄


　　　　　そぞろ寒懺悔の椅子の油いろ　　　　　　　　　木村公子


　　　　　繕ひつつ使ふ身一つそぞろ寒　　　　　　　　　岡本 眸


　　　　　そぞろ寒鉛筆の尖ほそくほそく　　　　　　　　林　翔




・　　　　　

１０月 １４日 体育の日

　　　　　　　　　　　　　　運動会




　　　　　病む母の運動会を見て飽かず　　　　　　　　　　栗田やすし


　　　　　欅散る運動会は帽子取り　　　　　　　　　　　　細見綾子


　　　　　泣きながら走る園児や運動会　　　　　　　　　　久保麻季


　　　　　アンカーの校長転ぶ運動会　　　　　　　　　　　斉藤陽子


　　　　　ゴール過ぎまだ走る子や運動会　　　　　　　　　岩田啓子


　　　　　運動会チンドン屋来て賑はひぬ　　　　　　　　　猪狩和代　


　　　　　泣きながらバトン渡す子運動会　　　　　　　　　松本恵子


　　　　　運動会果てし校庭夕日満つ　　　　　　　　　　　村田和佳美




　　　　　　　　　　



　　　　　運動会少女の腿の百聖し　　　　　　　　　　　　秋元不死男


　　　　　赤白の二色動ける運動会　　　　　　　　　　　　右城暮石


　　　　　運動会甲賀も伊賀も花火鳴る　　　　　　　　　　百合山羽公


　　　　　梢ごし旅に見下ろす運動会　　　　　　　　　　　中村草田男


　　　　　運動会庭の平を天に向け　　　　　　　　　　　　山口誓子


　　　

１０月 １３日

　　　　　　　　　　　 　　秋の風・秋風・素風・金風


　　　　　　　　　　　　　台風１９号の影響で途轍もない秋風になりました
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　どうぞご注意ください




　　　　　秋風をきくみほとけのくすりゆび　　　　　　　　沢木欣一


　　　　　でで虫が桑で吹かるる秋の風　　　　　　　　　　細見綾子


　　　　　秋風や石あればみな風化仏　　　　　　　　　　　栗田やすし


　　　　　秋風やスーツの背に深き皺　　　　　　　　　　　河原地英武


　　　　　秋風や弁士塚まで寄席囃子　　　　　　　　　　　福田邦子


　　　　　金風を身にまとひゐる足湯かな　　　　　　　　　牧田　章


　　　　　秋風と通りぬけたり雷門　　　　　　　　　　　　倉田信子


　　　　　風羅念仏聴く草庵に秋の風　　　　　　　　　　　市原美幸


　　　　　打ち減りし魚板の穴へ秋の風　　　　　　　　　　加藤ノブ子


　　　　　秋風や減反の島牛放つ　　　　　　　　　　　　　平松公代


　　　　　烏賊干しに志摩の秋風やはらかし　　　　　　　　長江克江


　　　　　秋風や牧渡りゆく弥撒の鐘　　　　　　　　　　　青山美佐子



　　　　　　　　　　



　　　　　石山の石より白し秋の風　　　　　　　　　　　　松尾芭蕉


　　　　　秋風に牛をつなぎし黒き石　　　　　　　　　　　瀧澤伊代次


　　　　　大き荷の男結びに秋の風　　　　　　　　　　　　宇多喜代子


　　　　　秋風の越後へ隣る一茶の地　　　　　　　　　　　角川源義


　　　　　秋風に白湯つぎ白湯のゆくへ見る　　　　　　　　能村登四郎


　　　　　火の如き子の地団駄や秋風裡　　　　　　　　　　山本歩禅