「恐怖の大王が降りてくる」こともなく、20世紀の「世紀末」は、終わった。
20世紀は、惨劇と多くの戦争を繰り返してきた世紀として、過去を振り返り反省しながら、次の21世紀が、おだやかな時代になることを祈る人々が居た。
そんな、21世紀の夜明けだった。
2001年9月11日。
アメリカは、ニューヨーク、マンハッタンのツインタワー(世界貿易センター)に、2台の航空機が突っ込み、2つのビルが倒壊し、テロとしては未曾有の規模の惨劇が起きると同時に、21世紀は、また暗い時代の夜明けと見通しへと、人々の精神を突き落とした。
「これからは平和な世界がくるんだ」という志向性は、ここで停止した。

***
事件後の新聞各紙や週刊誌などには、ビルが炎上・倒壊する写真のみならず、血まみれでうずくまる市民やビルの上層階から飛び降りる人の写真などが大きく掲載された。
アメリカ合衆国では後者の写真をめぐって論争が起こった。
アメリカで最大の信者を持つ宗教であるキリスト教は自殺を禁じているからであった。
***
坂本龍一とデヴィッド・シルヴィアンの出会いと交流は、彼のセカンド・アルバム「B-2UNIT」の制作、及び、YMOのワールド・ツアー「FROM TOKIO TO TOKYO」があった1980年に始まる。
イギリスで初めて出会った2人は、JAPANの4枚目のアルバム「孤独な影(Gentlemen Take Polaroids)」のB面最後の曲、「Taking Islands In Africa」を共作する。
<1981年4月、「坂本龍一のサウンドストリート」の1回目の最初にかかった曲も、この曲だった。>
その後も、お互い惹かれあいながら、作品を作っていく。
1982年に、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」に俳優として出演し、かつ、制作したサウンド・トラック。
そのテーマ曲に、デヴィッド・シルヴィアンが歌詞を付けて「禁じられた色彩」を共作。
JAPANを自ら解散し、ソロとして再出発した後の、デヴィッド・シルヴィアンのファースト・アルバム「ブリリアント・トゥリーズ」(名盤)をはじめ、多くの作品に、坂本龍一は協力し、2人の交友関係は、どんどんと深くなっていく。
1992年の坂本龍一の「ハートビート」には、「胎内回帰」を共作。
・・・そして、2004年、この「ワールド・シティズン(世界市民)」。
かつて、矢野顕子は言っていた。
「坂本が作ったメロディーに、デヴィッドの歌が乗った瞬間に、とてつもなく、大きな化学変化を起こす」と。
もう、2人の間の絆の強さには、コトバすらも必要もなくなっているのではないか、と思える。
その凄みを、この「ワールド・シティズン(世界市民)」には感じられる。
***
共に、9月11日のテロに衝撃を覚え、深く考えざるをえなくなった2人が創ったこの曲には、深い深いスピリッツと、政治的なメッセージがこめられている。
エレクトロニカのサウンド面では、スケッチ・ショー=細野さん+幸宏も参加している。
【英詞】
What happened here?
The butterfly has lost its wings
The air’s too thick to breathe
And there’s something in the drinking water.
The sun comes up
The sun comes up and you’re alone
Your sense of purpose come undone
The traffic tails back to the maze on 101
And the news from the sky
Is looking better for today
In every single way
But not for you
World citizen
World citizen
It’s not safe
All the yellow birds are sleeping
Cos the air’s not fit for breathing
It’s not safe
Why can’t we be
Without beginning, without end?
Why can’t we be?
World citizen
World citizen
And if I stop
And talk with you awhile
I’m overwhelmed by the scale
Of everything you feel
The lonely inner state emergency
I want to feel
Until my heart can take no more
And there’s nothing in this world I wouldn’t give
I want to break
The indifference of the days
I want a conscience that will keep me wide awake
I won’t be disappointed
I won’t be disappointed
I won’t be.
I saw a face
It was a face I didn’t know
Her sadness told me everything about my own
Can’t let it be
When least expected there she is
Gone the time and space that separates us
And I’m not safe
I think I need a second skin
No, I’m not safe
World citizen
World citizen
I want to travel by night
Across the steppes and over seas
I want to understand the cost
Of everything that’s lost
I want to pronounce all their names correctly
World citizen
World citizen
I won’t be disappointed
I won’t be.
She doesn’t laugh
We’ve gone from comedy to commerce
And she doesn’t feel the ground she walks upon
I turn away
And I’m not sleeping well at night
And while I know this isn’t right
What can you do?
【日本語訳】
ここで何が起こったんだ?
蝶は羽根を失った
空気が濃すぎて息苦しい
飲み水には何かが入っている
陽は昇る
陽は昇るけれど、きみは独りぼっち
目的も見失い
流れのままに101号線の迷路へまぎれこむ
空から降り注ぐニュース
何もかも
今日は明るいものばかり
そう思えないのはきみだけさ
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
ここは安全じゃない
空気が悪くて
黄色い鳥(注)は総倒れ
ここは安全じゃない
ぼくらはなぜ存在できないの?
始まりや終わりなしでは
ぼくらはなぜ存在できないの?
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
もし立ち止まって
きみの話を少し聞いたら
きみが感じているすべての重みに
打ちのめされてしまう
孤独な心の緊急事態
感じたい
心がはちきれそうになるまで
この世でかなうものなら何でも与えてあげたいのに
破りたい
日常を覆う無関心を
覚醒しつづけられる良心がほしい
失望なんてするものか
失望なんてするものか
するものか
顔が見えた
知らない顔だった
彼女の悲しみは、ぼくの悲しみを丸ごと映す鏡
忘れられない顔
思いもかけないとき、現われる彼女
ぼくらを隔てる時間と空間は消えた
でも、ぼくは安全じゃない
皮膚がもう一枚ほしい
安全じゃないんだ
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
夜のあいだに旅したい
草原や海原を越えて・・・
消えてしまったあらゆる種の
損失を測り
その名をすべて正確に読み上げたい
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
失望なんてするものか
するものか
彼女は笑わない
舞台は喜劇(コメディ)から商売(コマース)へ変わったのさ
彼女はもう、歩いても地面を感じない
ぼくは目をそらす
寝苦しい夜
これじゃいけないとわかっているけれど
どうしたらいい?
失望なんてするものか
するものか
(注)かつて鉱山で一酸化炭素などの中毒を防ぐため、鉱夫たちが検知器がわりに鉱道へ連れて下りたカナリアのこと。
***
J-WAVEの15周年に発売された、このシングルCDのジャケットには、世界地図が描かれているが、
そこには、見事に、「アメリカ合衆国」だけが無い。
そのジャケットにも、深いメッセージが込められている。
20世紀は、惨劇と多くの戦争を繰り返してきた世紀として、過去を振り返り反省しながら、次の21世紀が、おだやかな時代になることを祈る人々が居た。
そんな、21世紀の夜明けだった。
2001年9月11日。
アメリカは、ニューヨーク、マンハッタンのツインタワー(世界貿易センター)に、2台の航空機が突っ込み、2つのビルが倒壊し、テロとしては未曾有の規模の惨劇が起きると同時に、21世紀は、また暗い時代の夜明けと見通しへと、人々の精神を突き落とした。
「これからは平和な世界がくるんだ」という志向性は、ここで停止した。

***
事件後の新聞各紙や週刊誌などには、ビルが炎上・倒壊する写真のみならず、血まみれでうずくまる市民やビルの上層階から飛び降りる人の写真などが大きく掲載された。
アメリカ合衆国では後者の写真をめぐって論争が起こった。
アメリカで最大の信者を持つ宗教であるキリスト教は自殺を禁じているからであった。
***
坂本龍一とデヴィッド・シルヴィアンの出会いと交流は、彼のセカンド・アルバム「B-2UNIT」の制作、及び、YMOのワールド・ツアー「FROM TOKIO TO TOKYO」があった1980年に始まる。
イギリスで初めて出会った2人は、JAPANの4枚目のアルバム「孤独な影(Gentlemen Take Polaroids)」のB面最後の曲、「Taking Islands In Africa」を共作する。
<1981年4月、「坂本龍一のサウンドストリート」の1回目の最初にかかった曲も、この曲だった。>
その後も、お互い惹かれあいながら、作品を作っていく。
1982年に、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」に俳優として出演し、かつ、制作したサウンド・トラック。
そのテーマ曲に、デヴィッド・シルヴィアンが歌詞を付けて「禁じられた色彩」を共作。
JAPANを自ら解散し、ソロとして再出発した後の、デヴィッド・シルヴィアンのファースト・アルバム「ブリリアント・トゥリーズ」(名盤)をはじめ、多くの作品に、坂本龍一は協力し、2人の交友関係は、どんどんと深くなっていく。
1992年の坂本龍一の「ハートビート」には、「胎内回帰」を共作。
・・・そして、2004年、この「ワールド・シティズン(世界市民)」。
かつて、矢野顕子は言っていた。
「坂本が作ったメロディーに、デヴィッドの歌が乗った瞬間に、とてつもなく、大きな化学変化を起こす」と。
もう、2人の間の絆の強さには、コトバすらも必要もなくなっているのではないか、と思える。
その凄みを、この「ワールド・シティズン(世界市民)」には感じられる。
***
共に、9月11日のテロに衝撃を覚え、深く考えざるをえなくなった2人が創ったこの曲には、深い深いスピリッツと、政治的なメッセージがこめられている。
エレクトロニカのサウンド面では、スケッチ・ショー=細野さん+幸宏も参加している。
【英詞】
What happened here?
The butterfly has lost its wings
The air’s too thick to breathe
And there’s something in the drinking water.
The sun comes up
The sun comes up and you’re alone
Your sense of purpose come undone
The traffic tails back to the maze on 101
And the news from the sky
Is looking better for today
In every single way
But not for you
World citizen
World citizen
It’s not safe
All the yellow birds are sleeping
Cos the air’s not fit for breathing
It’s not safe
Why can’t we be
Without beginning, without end?
Why can’t we be?
World citizen
World citizen
And if I stop
And talk with you awhile
I’m overwhelmed by the scale
Of everything you feel
The lonely inner state emergency
I want to feel
Until my heart can take no more
And there’s nothing in this world I wouldn’t give
I want to break
The indifference of the days
I want a conscience that will keep me wide awake
I won’t be disappointed
I won’t be disappointed
I won’t be.
I saw a face
It was a face I didn’t know
Her sadness told me everything about my own
Can’t let it be
When least expected there she is
Gone the time and space that separates us
And I’m not safe
I think I need a second skin
No, I’m not safe
World citizen
World citizen
I want to travel by night
Across the steppes and over seas
I want to understand the cost
Of everything that’s lost
I want to pronounce all their names correctly
World citizen
World citizen
I won’t be disappointed
I won’t be.
She doesn’t laugh
We’ve gone from comedy to commerce
And she doesn’t feel the ground she walks upon
I turn away
And I’m not sleeping well at night
And while I know this isn’t right
What can you do?
【日本語訳】
ここで何が起こったんだ?
蝶は羽根を失った
空気が濃すぎて息苦しい
飲み水には何かが入っている
陽は昇る
陽は昇るけれど、きみは独りぼっち
目的も見失い
流れのままに101号線の迷路へまぎれこむ
空から降り注ぐニュース
何もかも
今日は明るいものばかり
そう思えないのはきみだけさ
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
ここは安全じゃない
空気が悪くて
黄色い鳥(注)は総倒れ
ここは安全じゃない
ぼくらはなぜ存在できないの?
始まりや終わりなしでは
ぼくらはなぜ存在できないの?
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
もし立ち止まって
きみの話を少し聞いたら
きみが感じているすべての重みに
打ちのめされてしまう
孤独な心の緊急事態
感じたい
心がはちきれそうになるまで
この世でかなうものなら何でも与えてあげたいのに
破りたい
日常を覆う無関心を
覚醒しつづけられる良心がほしい
失望なんてするものか
失望なんてするものか
するものか
顔が見えた
知らない顔だった
彼女の悲しみは、ぼくの悲しみを丸ごと映す鏡
忘れられない顔
思いもかけないとき、現われる彼女
ぼくらを隔てる時間と空間は消えた
でも、ぼくは安全じゃない
皮膚がもう一枚ほしい
安全じゃないんだ
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
夜のあいだに旅したい
草原や海原を越えて・・・
消えてしまったあらゆる種の
損失を測り
その名をすべて正確に読み上げたい
ワールド・シティズン(世界市民)
ワールド・シティズン(世界市民)
失望なんてするものか
するものか
彼女は笑わない
舞台は喜劇(コメディ)から商売(コマース)へ変わったのさ
彼女はもう、歩いても地面を感じない
ぼくは目をそらす
寝苦しい夜
これじゃいけないとわかっているけれど
どうしたらいい?
失望なんてするものか
するものか
(注)かつて鉱山で一酸化炭素などの中毒を防ぐため、鉱夫たちが検知器がわりに鉱道へ連れて下りたカナリアのこと。
***
J-WAVEの15周年に発売された、このシングルCDのジャケットには、世界地図が描かれているが、
そこには、見事に、「アメリカ合衆国」だけが無い。
そのジャケットにも、深いメッセージが込められている。
