広域強盗事件の容疑者がフィリピンから日本に引き渡されたことで、フィリピンと日本の関係が改めて注目されている。フィリピンは地理的に日本に近く、それでいて法律は米国的で銃砲も自由に手に入るし、英語も通じる。
従って、昔から日本の犯罪者が潜伏するには都合がいい場所である。だが今回の引き渡しの背景には、従来の日本とフィリピンの関係とは次元を全く異にする地政学的な状況が展開している。それは台湾を巡る米中対立である。
昨年11月に米国のハリス副大統領がフィリピンを訪れ、マルコス大統領と会談した。
フィリピンには現在、米軍の拠点が5カ所あるが、これを倍増させることで、合意した。その費用は米国持ちであるからフィリピンは無償で米国から防衛力を獲得したわけだ。
米軍が拠点を倍増させる理由は、対岸にある台湾を防衛するためだ。米中合意で台湾に直接、米軍基地を置けないから隣接したフィリピンに拠点を設けて台湾防衛の一助とするのである。
これを放って置くわけにいかないのが中国だ。習近平主席はマルコスを北京に呼び寄せ、何と220億ドルの投資を約束した。明確な買収工作で、フィリピンが米国に傾くのを阻止する狙いである。
その甲斐あってか、2日にオースチン米国防長官がマルコスと会談すると、5カ所増やすはずの拠点が4か所に減っていた。「金をくれなきゃ、もっと減らすよ」と言いたげなマルコスの態度に、オースチンは浮かない表情だった。
金を出させるとしたら日本しかない。岸田政権は今回のマルコス訪日に合わせて年間2000億円の支援を検討していると言う。年間2000億円貰えるなら、容疑者4人引き渡すくらい、お手の物。
国際政治の現実は決して善意と道徳で成り立っているわけではない
(かじ・としき氏は軍事評論家)
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